幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『憑爛のテクテカン/バリ島クランビタン村の奉納劇チャロナラン』

『憑爛のテクテカン/バリ島クランビタン村の奉納劇チャロナラン』
TEKTEKAN
The Dance Drama “CALONARANG” of Krambitan Village
JVCワールド・サウンズ


CD: ビクター音楽産業株式会社 
VICG-5226 (1992年)
定価2,500円(税抜価格2,427円) 

 

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1. 魔女チャロナランの弟子レヤックたち Calonarang's apprentices 1:37
2.序のテクテカン Tektekan prologue 2:40
3.宮廷の従者たちの登場~物語のいわれ~ Appearance of court attendants - background to the plot - 3:09
4.大臣と従者たちの相談 Discussion between minister and attendants 3:18
5.二人のレヤックと大臣 Two Leyaks and minister 3:59
6.宰相の登場 Appearance of prime minister 2:14
7.チャロナランの娘ラトナ・メンガリと宰相 Ratona Mengari and prime minister 6:19
8.ラトナ・メンガリを救出する悪魔カリカ The witch Kalika rescues Ratona Mengari 2:22
9.チャロナランの化身ランダの登場 Appearance of Calonarang's incarnation Rangda 4:45
10.ランダの魔術にかけられたテクテカン Tektekan under Rangda's spell 3:53
11.宰相とランダの対決 Confrontation between prime minister and Rangda 3:39
12.宰相の化身聖獣バロンの登場 Appearance of the sacred Barong as an incarnation of the prime minister 7:29
13.善と悪とのおわりなき戦い Interminable battle between Good and Evil 4:11
14.集団神がかり Collective possession 7:14
15.神がかりのひとびとの声 Voices of the possessed 1:19


演奏: クランビタン村のテクテカン仲間 Tektekan Party of Krambitan Village
1991年1月 インドネシア共和国バリ州タバナン県、クランビタン村にて録音


企画・構成: 山城祥二
録音・解説・写真: 大橋力
写真: 大橋力、河合徳枝
制作ディレクター: 藤本草
マスタリング・エンジニア: 伊藤俊之
ジャケット・デザイン: 田中一光
ジャケット編集: 由井幸男


◆本CD「解説」(大橋力)より◆

「このディスクには(中略)、もう一つの貴重なドキュメントが収められています。それは、この奉納劇チャロナランの中で、何人かの村人たちが憑依し神がかり状態になって発する衝撃的な音声が記録されていることです。このCDの最後の十数秒間、テクテカンの強烈なサウンドが途絶えたあと、憑依状態にある人々の声が聴きとりやすく浮かびあがってきます。」
「テクテカンはバリ島の中でもクランビタン村にだけ伝わる竹のケチャです。数十人のケチャの軍勢が、竹筒を使って強烈な16ビートのリズムを刻みます。それをバリ島に古くから伝わる奉納劇チャロナランの音楽に使って、独自のものに仕立てあげたのです。」
「テクテカン(tektekan)は竹製打楽器を中心にした数十人から百人にも及ぶアンサンブルです。竹を一節切りだし、共鳴用の溝を刻みこんだものを一人が1本ずつもち、木のバチではげしく打ち鳴らします。ケチャと同じように、男たちがそれぞれ異なるいくつかのリズムパターンを叩きだし、それらがかみあわさって鋭い16ビートが機関銃のように打ちだされます。(中略)アンサンブルは、竹の他、木製のくりぬき太鼓「クンダン」、金属製の小さなシンバル「チェンチェン」、大型の「ゴング」、小さなゴング「タワタワ」と「クルナン」、竹のたて笛「スリン」によって構成されています。」
「チャロナラン(calonarang)は、村(デサ)毎に必ずある3種類の寺のうち、死者を祀った寺(プラ・ダレム)の創立記念日オダラン)の祭に、魔女ランダを鎮めるために必ずとりおこなわれる儀式性の強い奉納劇です。(中略)チャロナランとはバリ島で最もよく知られる悪霊の世界の主、魔女ランダの別名に他なりません。バリ島には善と悪とのバランスによって世界は成り立ち、その両者は常に相互補完的なものであるという発想があります。また、魔女ランダはある時は善にもなり、時には強く偉大な慈母として、人々に慕われる存在でもあります。恐れられながらも絶大な崇拝の対象になり、それはランダ信仰ともいうべき一つの体系に達しているのです。」
「クライマックスの聖獣バロンと魔女ランダとの戦いになる頃には、演者や時には観客の中から神がかりになる人々が次々に出現します。この劇自体がランダを鎮めるためのものですから、善を象徴するバロンは決してランダをうち負かすことはありません。戦いの決着がつかないまま、混沌とした状態で終末を迎えるのですが、その混沌をいやがうえにも増幅しているのが、村人たちの憑依(神がかり、ものつき)行動に他なりません。」
「憑依はバリ島の人々にだけ特異的な異常な現象とはいえません。むしろそれは人間が本来もっている自然性に即した行動パタンの一つです。現代の日本では、トランス体験は非常に特殊な、場合によっては反社会的な行為であるかのような印象が一般的かもしれません。しかし我国でも100年ほど前までは、宗教的行為や芸能などを通じて神がかりやものつきなど憑依によるトランスをごく身近に体験することができました。むしろ、西洋的な近代社会への移行に伴って、それを忘れてしまったというのが実態です。」


◆本CDについて&解説◆

ブックレットに日本語および英語解説、写真図版(モノクロ)3点、「表」2点、「JVCワールド・サウンズ(全60巻)御案内」(CDリスト)。

ドキュメンタルな野外録音ですが、最後の20分くらいがすごいです。
本CD収録の奉納劇でトランス状態に陥った人々は「僧侶によって聖水をかけられ、現実の世界にひき戻されます」と解説にありますが、バリ島に限らず、日本でも昔はトランス状態に陥る人がたくさんいたので、世間もそれに対処する方法を心得ていたのでよかったです。しかしながら、安心して戻ってこられるような現実がない我々現代人はいったいどうしたらよいのでしょうか。

★★★★★

 

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