幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『Codex Chantilly: Airs de Cour du XIVe siècle』 Ensemble Organum/Marcel Pérès

『Codex Chantilly: Airs de Cour du XIVe siècle』
シャンティイ写本~14世紀フランス宮廷歌曲集 
Ensemble Organum/Marcel Pérès
マルセル・ペレ指揮 アンサンブル・オルガヌム 


CD: Harmonia Mundi France
Collection Fondation Total pour la musique
HMC 901252 (1987)
Made in W. Germany

発売元: 株式会社 ANF コーポレイション 
ANF-2102HMA (1990年)

 

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CODEX CHANTILLY
Airs de Cour du XIVe siècle
シャンティイ写本~14世紀フランス宮廷歌曲集

1. Se Galaas et le puissant Artus (CUNELIER) (ballade, fol. 38) 6:19
騎士ガラードやアーサー王が 
2. Dieux gart. (GUIDO) (rondeau, fol. 25) 8:05
神よお守り下さい、その歌を良く歌う者を 
3. Sans joie avoir (ANONYME) (ballade, fol. 23) 1:58
よろこびを持てなければ(器楽演奏) 
4. Or voit tout. (GUIDO) (ballade, fol. 25v) 5:09
いまからはすべてが行きあたりばったり 
5. Toute clerté. (ANONYME) (ballade, fol. 13) 2:47
明るいものはすべてが私にとっては暗い 
6. Tout par compas (BAUDE CORDIER) (rondeau - canon, fol. 12) 2:15
私はすべてコンパスで作られている 
7. Belle, bonne, sage (BAUDE CORDIER) (rondeau, fol. 11v) 4:28
美しく、やさしく、賢く、楽しく、上品な人よ 
8. En nul estat. (GOSCALCH) (ballade, fol. 39v) 4:44
どんな立場であれ 
9. La harpe de mellodie. (SENLECHES) (fol. 43v) 2:17
調べ妙なるハープが(器楽演奏) 
10. Fumeux fume par fumée. (SOLAGE) (rondeau, fol. 59) 5:06
煙ったい男が煙の中で煙らせている 
11. Armes, amours. (F. ANDRIEU) (double ballade, fol. 52) 5:59
マショーの死を悼んで 
12. Adieu vous di. (ANONYME) (fol. 47) 3:38
みなさんにはさよならを(器楽演奏) 

54'11


ENSEMBLE ORGANUM
アンサンブル・オルガヌム 
Gérard Lesne: haute-contre (1,2,4,6,7,8,11)
ジェラール・レーヌ(オート・コントル) 
Josep Benet: ténor (1,2,4,5,6,7,8,10,11)
ジョゼ・ベネ(テノール) 
Josep Cabré: baryton (1,2,4,5,6,8,10)
ジョゼ・カブレ(バリトン) 
François Fauché: basse (5,10,11)
フランソワ・フォーシェ(バス) 
Nanneke Schaap: vièle (2,3,7,9,11)
ナンネケ・シャープ(ヴィエール) 
Marcel Pérès: clavicythérium Emile Jobin (2,3,7,9,11,12)
マルセル・ペレ(クラヴィシテリウム) 
Dir. MARCEL PÉRÈS
マルセル・ペレ指揮 


Coproduction Fondation Total pour la musique et harmonia mundi
Enregistrement septembre 1986 
録音: 1986. 9/〈デジタル〉 
Prise de son Jean-François Pontefract
Illustration: Très riches heures du Duc de Berry, fête de mai (province de Limbourg, début XVe s.), Musée de Condé, Chantilly
Cliché Giraudon
Maquette Relations. Printed in W. Germany


◆本CD別冊解説(今谷和徳)より◆

「中世の終わり、14世紀末から15世紀初頭にかけての時代の音楽は、これまであまり重要視されてこなかったといってよい。それより前の時代にはギヨーム・ド・マショーという大家がいたし、それより後にはギヨーム・デュファイをはじめとする大作曲家が何人か登場するが、その中間にあたるこの時代には、いわば群小の作曲家たちしか活躍しなかったとされているからである。」
「この時期の音楽はいくつかの写本によって伝えられているが、そのうち最も重要なものは、現在北フランスのシャンティイにある〈シャンティイ写本 Chantilly, Musée Condé, 564〉であろう。この写本は、もともと14世紀の終わりにフォワ伯およびアラゴンの宮廷のために編纂された写本から筆写しなおしたものと考えられるが、一方では、もとの写本はアヴィニョンのために書かれたのではないかという説、さらに原写本などはなく、初めからイタリアで編纂されたものだという説などもある。いずれにしても、この写本は、14世紀末のアヴィニョンを中心とした南フランスと、スペインの北東部アラゴンの音楽状況を、最もよく示している資料なのである。
 この写本には、全部で112曲の多声楽曲が含まれているが、中世後期の独特の楽曲であった13曲のモテトゥスを除くと、残りはすべて、フランス語による多声の世俗シャンソンである。(中略)そこにみられる音楽には、いわば世紀末的な特徴を示すかのような複雑な技法が至るところで展開されている。たとえば、複雑なリズム、それによって引き起こされる多くのシンコペーションなどが頻繁に使用され、記譜法そのものを複雑にすることによって、楽譜の解読を故意に困難にさせようとする姿勢さえうかがえる。つまり、音楽の上での技巧的な遊びを様々な形で追及しているものが多いわけだが、これらはいわば、現実の世界の不安から逃避し、遊びの世界にのみ安らぎを求めようとした人々の姿を、そのまま反映したものとでもいえるかもしれない。このCDは、こうした興味深い〈シャンティイ写本〉の中から、12曲を選んで収録したものである。」


◆本CDについて◆ 

輸入盤に別冊解説書付。
ブックレット(全20頁)に解説(Ursula Günther/Marcel Pérès)(仏・英・独)、歌詞(フランス語原文のみ)、モノクロ図版(楽譜)1点。
別冊解説書(全16頁)に「解説」「演奏者について」(今谷和徳)、原詞対訳(細川哲士)。

これは、マショーからデュファイへの過渡期の、マニエリスム的綺想の音楽で、歌詞の内容が楽曲自体への自己言及的なコメントになっているものや(「いまからはすべてが行きあたりばったり/私はそうするしかない/記譜法が新しくなってしまった」)、言葉遊び的なもの(「煙ったい男が煙の中で煙らせている/煙のかかった思弁を。」)などがあって、たいへん興味深いです。

★★★★★


Toute clarté

youtu.be

 

「明るいものはすべて私にとっては暗い
美しいものはすべて私には醜い
そしてすべての喜こびは、悲しみだ。」


Fumeux fume par fumée

youtu.be

 

「煙ったい男が煙の中で煙らせている
煙のかかった思弁を。
他の男は自らの思いを煙らせるがいい。
煙ったい男が煙の中で煙らせている」

 

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