幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

富樫雅彦  『スピリチュアル・ネイチャー』

富樫雅彦 
Masahiko Togashi 
『スピリチュアル・ネイチャー』 
Spiritual Nature 


CD: ユニバーサル・クラシックス&ジャズ 
発売元: ユニバーサル・ミュージック株式会社 
販売元: ビクターエンタテインメント株式会社 
シリーズ: JAZZ THE BEST 
UCCU-5164 (2003年) 
定価¥1,995(税抜価格¥1,900) 

 

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帯文: 

「天才パーカッション奏者富樫雅彦
美しく深遠なる音世界。
スイングジャーナル主催ジャズ・ディスク大賞
〈金賞〉〈日本ジャズ賞〉〈録音賞〉受賞」
ルビジウム・クロック・カッティングによるハイ・クオリティ・サウンド
書き下ろしエッセー付 
日本語解説付」


帯裏文: 

「単なるフリー・ジャズの枠を超えて、天才パーカッショニスト富樫雅彦が到達した、まさしく富樫ワールドとしか呼びようのない独自の音世界。日本人ならではの間(ま)と音色そのものの美しさを徹底的に追求したアプローチは、富樫雅彦の傑作というだけでない、日本ジャズ界の金字塔的作品といえる。」


1.ビギニング 4:04 
The Beginning 
2.ムーヴィング 13:46 
Moving 
3.オン・ザ・フットパス(畦道にて) 4:58 
On the Footpath 
4.スピリチュアル・ネイチャー 22:43 
Spiritual Nature 
5.エピローグ 1:15 
Epilogue  

All composed by Masahiko Togashi 


〈パーソネル〉 
富樫雅彦 Masahiko Togashi (per, chelesta)
渡辺貞夫 Sadao Watanabe (fl, ss, as) 
鈴木重男 Shigeo Suzuki (fl, as) 
中川昌三 Masami Nakagawa (fl) 
佐藤允彦 Masahiko Satoh (p, marimba, glockenspiel) 
翠川敬基 Keiki Midorikawa (b, cello) 
池田芳夫 Yoshio Ikeda (b) 
中山正治 Shoji Nakayama (per) 
豊住芳三郎 Yoshisaburoh Toyozumi (per) 
田中昇 Noboru Tanaka (per) 

1975年4月9日、
東京、新宿厚生年金会館小ホール(ライヴ) 
#5のみ4月29日、
東京、ビクター・スタジオにて録音 
Recorded April 9, 1975, live at Kohseinenkin-Kaikan, Tokyo 
5: Recorded April 29, 1975, at Victor Studio, Tokyo 

Produce: Toshinari Koinuma 
Album produce direction: Yasohachi Itoh, Kiyoshi Itoh, Yukio Morisaki 
Record engineering: Yoshihiro Suzuki 
Album art direction: Johsuke Kubo 
Album design: Mitsuo Hosokawa 
Cover photograph: Kohichi Inakoshi 
Liner notes: Toshihiko Shimizu 
Advertisement: Junichi Kamekura 
Concert produced and managed by Ai Music Co., Ltd. 

(P) 1975 
EAST WIND MUSIC 


◆本CDブックレット所収の清水俊彦によるオリジナルLP解説より◆ 

「ところで、今日の演劇や音楽の状況は、意識の根底を揺り動かす《沈黙の世界》と《言葉の世界》、または《音の世界》とのぶつかり合いといったところまできている。その場合、西欧の芸術家たちは、意識を超えようとすると、単なるハプニングとか即興性のようなもの、つまりは生の肉体のようなところへ還ってしまう傾向がある。これに対して、たとえば能の世阿弥は、ずっと昔にすでに、意識を徹底的に鍛えることによって意識を忘れるという、意識から自由になるもう一つの方法があることを明らかにしたが、この点で富樫はまた、世阿弥に通じるものをもっている。しばしば能の《間》にたとえられる彼の素晴らしいビートも、そうした根源的な衝動から生まれてくるのではないだろうか。言いかえれば、それは、沈黙の世界を生命の身ぶりで揺り動かすことにほかならないが、そうすることによって自然と本質的な合一をなし遂げるとき、彼の創造する音楽は、彼自身ばかりでなく、自然をも照し出すことになるのだ。
 自然であることを、そして自然そのものをこよなく愛する富樫が、年に何回かは必ず人里離れた山へ出かけてゆき、静寂な自然の中で、風のそよぎや木の葉のざわめきや鳥のさえずり、さらには石の発する無言の語りかけにまで耳を傾け、それらと内心の対話を交わしながら、ついには五感を通して音楽が伝わってくるのを経験するというのも、以上のことと無関係ではないだろう。
 こうしたタイプのミュージシャンに、「ミュー」のドン・チェリー、「森と動物園」のスティーヴ・レイシー、「ジョージア・フォーンの午後」のマリオン・ブラウンなどがいるが、富樫が来日したドンやスティーヴと意気投合したのも当然の成り行きと考えられる。」
「このアルバムは、今年(1975年)の4月9日に東京の厚生年金会館小ホールで行われた、彼のコンサートの実況録音の一部を編集したものである(但し、「エピローグ」だけはスタジオ録音である)。」
「マリオン・ブラウンは「ジョージア・フォーンの午後」で、《交換可能な演奏》のために彼が考え出したシステムとしての《ステーション》を設定したが、ここでの富樫は、オーケストラを3つのセクションに分け、それぞれの機能に適した独特の配置を試みている。すなわち、彼自身と、影のように彼につき添う3人のパーカッショニスト(豊住芳三郎、中山正治、田中昇)と、基本的なリズムを維持する池田芳夫(b)から成るセクションを中央に置き、向って左側には、自分とより密接な対話を行ったり、演奏にハード・エッジを与える役割を果したりする佐藤允彦(p, marimba, glockenspiel)と翠川敬基(cello, b)を、右側には、メロディを受け持つ渡辺貞夫(fl, ss, as)、鈴木重男(fl, as)、中川昌三(fl, bfl)のリード・セクションを配している。」
「この組曲は5曲から成っているが、ほとんど切れ目なしに演奏されている。沈黙と空間的な広がりを強調した「ザ・ビギニング」は、生物が動き出すまえの一日のはじまりである。富樫自身の説明によれば、サックスは風、ベースは大地の鼓動、パーカッションは過去から未来へ向かって語りかける石、金属楽器は露のきらめきを表わすというが、それらのメロディや音には、日本人なら誰もが胸の奥にしまっているあの懐かしい響きがある。(中略)「ムーヴィング」は、生物が活動しはじめる時間である。(中略)「畦道にて」では、ウォーキング・ベースの執拗な反覆や、ベルスをはじめとするリトル・インストルメンツの奏でるリズムを掻いくぐるようにして、富樫がめざましいリズム感覚を生かしたパーカッション・ソロをくり広げる。」
「富樫が自分の音楽のエッセンスのすべてを再組織し、音楽的な飛躍のうちに強烈な精神性を披瀝した「スピリチュアル・ネイチャー」は、この組曲のクライマックスをなしている。(中略)アルバムの最後を飾る「エピローグ」では、富樫のチェレスタ、佐藤のピアノ、翠川のチェロが、「スピリチュアル・ネイチャー」のメロディをゆるやかに、たとえようもなく美しく奏でる。それは、この組曲のとどろき渡るような経験について、深く考えさせる次元へとぼくらを導くような、自然の平和とやすらぎにみちみちている。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全12頁)に土倉明による〈書き下ろしエッセー〉と清水俊彦によるオリジナルLP解説(転載)。

★★★★☆ 


Spiritual Nature (LP) 

youtu.be

 

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