幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

吉沢元治  『インランド・フィッシュ』

吉沢元治 
Motoharu Yoshizawa 
『インランド・フィッシュ』 
Inland Fish 


CD: P.J.L 
発売元: 有限会社ピー・エス・シー 
販売元: スリーディーシステム株式会社/株式会社プライエイド・レコーズ 
シリーズ: 70年代日本のフリージャズを聴く! 第一期 
MTCJ-5509 (2003年) 
定価¥2,100(税抜価格¥2,000)

 

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帯文: 

「「70年代日本のフリージャズを聴く!」第一期 Vol. 8 
24bit DIGITAL RE-MASTERING」
山頭火を愛した孤高のベーシスト、吉沢の入魂の1枚。一部でドラムの豊住芳三郎が共演。」


1.インランド・フィッシュ 14:47 
Inland Fish (M. Yoshizawa) 
2.窓 5:57 
Mado -Window- (M. Yoshizawa) 
3.フラグメント1 3:45 
Fragment 1 (M. Yoshizawa) 
4.コレスポンデンス 16:31 
Correspondence (M. Yoshizawa-Y. Toyozumi) 


Personnel: 
吉沢元治(b) 
Motoharu Yoshizawa, bass 
豊住芳三郎(perc) 
Sabu (Yoshisaburoh) Toyozumi: percussion (#4) 

録音: 1974年9月13日 於 新宿安田生命ホール 
「吉沢元治ベース・ソロ・リサイタル“インランド・フィッシュ”」より
エンジニア: 荒井邦夫 
イラストレーション・デザイン: 志賀恒夫 
制作: 稲岡邦弥+原田和男 
Recorded "Motoharu Yoshizawa Bass Solo Recital - Inland Fish" 
live at Yasuda Seimei Hall, Shinjuku, Tokyo, September 13, 1974 
Concert produced by Akira Aida & his Super Staff 
Recorded & mixed by Kunio Arai 
Illustrated & designed by Tsuneo Shiga (front) / Robin Art Studio & Yoshio Watanabe (liner) 
Liner photo by Yuhzoh Fujimoto 
Album produced by Kuniya Inaoka & Kazuo Harada 
Manufactured & distributed by TRIO RECORDS, Tokyo 

(P) 1974 ART UNION 

Serial re-issue in 2003 
Supervised by Kenny Inaoka (監修: 稲岡邦弥) 
Mastering Engineer: Seiji Kaneko (King Records Sekiguchidai Studios) 
Design: Takafumi Kitsuda


殿山泰司・清水俊彦・間章による対談より◆ 

「殿山 (中略)熱川なんかに行ってた時期があるのね。あれキャバレーなの。
間 キャバレーっていうか、温泉宿ですね。」
「間 (中略)ソロじゃなくて3人位で。(中略)その時は民謡から何からいろいろ演ってました。で、最近いろいろコンサートがあったり、デイヴ・バレルとのレコードも出たりして、地方の大学なんかでソロで演ってくれっていう話がくるらしいのね。たまたま、どこだったっけな、行ったらね、“弾き語り”だと思ってたらしいのね。向うは聴いたことなくて呼んだらしいんですね。客も皆ベース弾きながら歌もうたうと思ってる客ばかりで、「しょうがないから歌ってきたよ」っていってましたけどね(笑)。そういう客層でベース・ソロも最初やったらしいですね。「歌ってくれ、歌ってくれ」って酔っぱらっていうらしいですね。」
「清水 例のベース・ソロのレコードを出したバール・フィリップスの対談を読んでましたら、「僕は60年代まで主流のジャズを非常に上手く弾いた」というんですね。ところが「60年代になってから休んだ」というんですよ。というのは「もう他人の音楽を演る必要がなくなった」と。それで「あとは自分自身の音楽を演るしかない」と。そういうわけで彼は「再び15年前に戻った」というようなことをいってるんですね。そういう意味じゃ、吉沢さんというのは、持って生まれた自分自身の音楽を演奏するというようなかたちで生まれてきた典型的な人じゃないかという感じがするんですが…。」
「間 昔、69年頃ですが、どこかの喫茶店ですけど、上で平岡(正明)がハンガー・ストライキやっててね、下では吉沢と阿部薫のデュエットを演ってたらしいんです。で、平岡がハンガー・ストライキ止めて下へ降りてきたら、ちょうど吉沢さんがベース・ソロを演ってたらしいんですよね。あとで「読売新聞」か何かで平岡が「吉沢のソロを聴いて初めてブルースが判った」というようなことを書いているんですけど、これは非常に面白いと思うんです。吉沢さんて非常に日本的なものを持っているところがあるんですね。しかも、昭和6年ですか、8年かな、生れは。伊豆で育って敵機の来襲をよく見てて、進駐軍がきた時にアメリカ人が憎くて仕方がなかった。でもアメリカの文化みたいなジャズに魅かれていった矛盾を書いてましたね。自分がショックだった体験というのは、ある日、ソロでパッと埋没していった時に突然、「君が代」や「佐渡おけさ」とかそういうメロディがどんどんでてきたらしいんです。で、あとでテープ聴いて「これはどういうことなんだろう、ヤバイ」というんで、そこからソロの演り方を考え始めたらしいんですけどね。最近の彼の演奏を聴くと、それが、いろんな矛盾がコントロールされているというか、そういう良さがでていますね。」
「清水 吉沢さんは〈インランド・フィッシュ〉っていってますね。ミュージシャンだから、誰だって皆に聴いてもらいたいと思うだろうけどね。だけど自分で演っているうちにいつの間にか主流的な戦列から離れて、自分自身の道を歩いていたというミュージシャンて意外といると思うんですね。たとえば、スティーヴ・レイシーだって自分のグループでも演ってるけど、やっぱりそうだし。ポール・ブレイだってある意味じゃそうだし。何ていうかな孤独な道を進む人だから、それをいきなりグループを作ってやれっていうのは全然その人の気持を考えないこっちの身勝手な希望だけですけどね。だけど、彼はもうかなり内陸の方へどんどん遡っていったと、いや内海ですか、内海へ遡っていったと思うんですよね。日本のベーシストであれだけのものをベースでうち出せる人はちょっといないと思うし、そこまで行ったと思うんだ。それを続けることはいいけど、それ以外に今度はもう少し拡げていくような、別のいい方をすれば、自分がつくりあげたユニークなソノリティをグループのソノリティにするような試みをやってみてもいいんじゃないかな、という気がするわけです。」
「間 ソロを演ってるといろんな人が“もの”を書いておいてったりすることがあるらしいんですけど、それが千差万別で面白いんですね。ある人は「あなたのソロ聴いてると水上勉の小節を思い出した」とか、ある人は「非常にアバンギャルドの実験映画を観てるような気がする」と。そういう2つの要素が彼にはあると思いますね。」
「間 殿山さん、デイヴ・バレルと演った「ドリームス」はお聴きになりましたか。
殿山 まだ聴いてませんが。」
「清水 (中略)あれで感じるのは、吉沢さんのベースというのはある意味でベースをサックスみたいに使ってるんですね。あそこにいわゆる「叫び」みたいなものを感じるんだけど、それがだんだん昇華されて唄になっていく感じがあってその点がすごく魅力的だったなあ。」
「間 彼もニュージャズを演るまでは最も黒っぽいベースと評判だったんですね。で、そういうのを否定していって1つの道を見つけたというの面白いと思いますね。」
「殿山 ピアノも大変だろうけど、ベース・ソロっていうのは僕は大変だろうと思いますね。
清水 それはたしかに1番大変でしょうね。妙な言い方ですねど、普通、内部に遡れば遡るほど道がせばまってきて閉じ込められやすいものですが、逆に彼の場合はかえって気持が拡がってくるような感じがありますね。
間 朴も嬉しかったのは、スティーヴ・レイシーにレコード聴いてもらって、彼は自分から「このベーシストはスゴイ」っていって。「これは譜面に書いた音楽を演っているのか、即興なのか」っていうから「即興だ」っていったら「即興でこれだけやるのはスゴイ」っていってましたね。
清水 僕が驚いたのは、デイヴ・バレルとのデュオ聴いていて、バレルが嘘みたいに生き返ったなと感じたのと同時に、かえってバレルをも圧倒しちゃって、バレルがワキにまわっているようなところもあって、ヘェーと思いましたね。
間 面白いのは、リハーサルの時かなりモメたんですが、本番になると吉沢さん「コンチクショウ」という感じになって「アメリ進駐軍」て感じになって……それは非常にたのもしいと思いましたね。
清水 何か判るような気がするね。
間 僕、そういう意味でもいろんなレベルの矛盾をかかえていて、それを音楽の方で昇華しているというか、制御している人はあまりいないんじゃないかと思うんです。それはブローイングのテクニックを身につけるとか、際立たせていくというミュージシャンはかなりいますがね。そういう自分の中の矛盾を制御していくというか押え込んでいくっていうか、その中から自分の唄を発見しようというそういう人はあまりいないような気がしますね。
清水 だから、たまに「吉沢のベースはテクニックがない」とかなんとかきくことがあるんだけど、実はそうじゃなくて、彼の自分の考えを述べるためのテクニックはものすごい流暢なものがあると思うんですがね。」
「殿山 吉沢さん自身は今後どうやっていくっていってるんですか。やっぱり1人でやっていくっていってるの。
間 1人でやっていくっていってますね。ただ、1人でやっていくのは恐い時があるといってますね。それは、いみじくも清水さんが言われたように自己閉鎖的になって出口がなくなるのが恐いって、でもやっぱりそれに耐えていくしかやりようがないとね。以前はソロでずっと演っているとたまにグループで演ってるところにとびこんでジャム・セッションみたいなことやってないと気が落ち着かないときあったらしいんですが、最近はそんなこと必要なくなった、なんていってましたね。」
「間 話が前後しますが、この間ヨーロッパから帰ってきて吉沢さん聴いたんですけど、アルコで1つの音を40何回繰返したんですね。それで、あとで「あれはもう止めようか、次のフレーズに行こうか考えながら演ってるのか」ときいたら、「そうだ」というんですがね。「止めたい、止めたい」という気持と「続けよう、続けよう」という気持とで「地獄だった」といってましたが、その40何回同じアルコをきいて僕は非常に感動しましたね。その時、まさに吉沢の葛藤が見える思いがして、それがある時は唄に上昇して行ったりするんだなぁという気がしましたね。
殿山 吉沢が前に1度僕に「やっぱり金持になっちゃあ駄目だよなぁ」なんていってたけど、これは―僕はジャズはハングリー・ミュージックだなんて思ってないですけど―いろんなことに通じる言葉だと思ってね。そういうことがいえるようになった、成長した、と思って嬉しかったんですけどね。僕は吉沢がどういう生活しているか知らないけれど、常にそういうところに身を置いて音を創っていくことは大変いいことだと思ってるんですよ。ええ。
清水 そういうミュージシャンは他にもいると思うんですが、とにかくあれほどの腕をもっててああいう生き方しているってところに僕は非常に魅せられてしまうんです。

「間 いよいよガソリン代払えなくなったって、ベース運んでたバン売っちゃいましたよ。
清水 頑としてそういうものに対しては決して妥協しないであくまでも自分を守っていくっていうのは、また逆にいうと、ああいう生き方するしかないってことですよね。
それを甘受してやっていくってことが彼の素晴らしさですよね。針金細工で生活費かせいだり、時には地方を行脚して歩いたりっていうのはすごく魅力的だねえ。これ、やろうと思ってできることじゃないもんな。
間 僕なんか彼の生活って非常にうらやましいんですね。彼の家にいくと、いろんなおもちゃとかプラモデルとかガラクタが目の前に転がってて、1人の時はベースを見てたり練習したり、手を触れないでベースを見てて負ける時とか勝ってる時があるなんていう勝負を毎日してるなんていってましたけどね。」
「練習場所がないから、夏になると彼は家の近くの公園でベース弾くんですよね。そういう時に殿山さんとか、清水さんとか、植草さんなんか友達が来て聴いてくれるだけでいいんだなんていってましたけどね。蚊がどんどんきましてね、面白いですよ。」
「うらやましいと思うのは、都会の只中にいてああいう生活を、しかもドン・チェリーみたいにああいう場所を用意して逃げるというか確保するっていうんじゃなくて、東中野あたりのアパートにいて、しかもああいう生活をしている、それが彼の音楽性につながっている面ですね。
清水 たとえばドン・チェリーのような生き方も素晴らしいと思うけれども、むしろ今必要だというか、僕らに問題になるというのは都会の中でいかにそういうことをやりぬくかということでね、そういう意味じゃちょっと例がないんじゃないかな。
間 この間むこうへ行った時きいたんですけど、バール・フィリップスは最近世の中おかしくなっちゃったんでベースを捨てて田舎に引きこもっているらしいですね。
清水 またバール・フィリップスのことになるけど彼はこうもいってるんです。「私はコントラバスがそれ自身で唄うためにその楽器のあらゆる器楽的な可能性を探求する。で、もし私が50か60になってコントラバスで完全に自己を表現するに至ったら私はベースを捨てて百姓にでもなるんだ」って。」


◆本CDについて◆ 

紙ジャケ(厚紙・シングルジャケ)仕様。投げ込みライナー(十字折り・片面印刷)に〈LP用オリジナル・ライナー・ノーツ〉対談(殿山泰司・清水俊彦・間章)再録。

★★★★★ 


Inland Fish (1974)

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