幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

タージ・マハル旅行団  『一九七二年七月十五日』

タージ・マハル旅行団 
『一九七二年七月十五日』 
The Taj-Mahal Travelers 
July 15, 1972 


CD: Marketed by SHOWBOAT/sky station Inc. 
Special Products A Service of Sony Music Entertainment(Japan)Inc. 
SWAX-501 STEREO(TDCD 90621) (2002年)
¥2,800(税抜)

 

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帯文(再発LPのものと同文): 

「集団即興演奏というユニークな立場から、グローバル・ミュージック(地球音楽)を目指す!
タージ・マハル旅行団 一九七二年七月十五日 
――東京・赤坂草月会館ホール実況録音――
あらゆる音楽が混沌とする今、ひとつの方向を示唆するように、深く静かな、しかし鋭いくさびを打ちこむ。」


JULY 15, 1972 

Side A 
THE TAJ-MAHAL TRAVELERS BETWEEN 6:20~6:46 P.M. 

Side B 
THE TAJ-MAHAL TRAVELERS BETWEEN 7:03~7:15 P.M. 
THE TAJ-MAHAL TRAVELERS BETWEEN 7:50~8:05 P.M. 


THE TAJ-MAHAL TRAVELERS 
Takehisa Kosugi 
electronic violin, radio oschillators & voice 
Ryo Koike 
electronic contrabass, suntool, harmonica & sheat iron 
Yukio Tsuchiya 
vibraphon, suntool 
Michihiro Kimura 
electronic guiter & percussion 
Seiji Nagai 
electronic trumpet, harmonica & castanet 
Tokio Hasegawa 
vocal 
Kinji Hayashi 
electronic engineer 
Go Hamada 
producer

THIS ALBUM WAS RECORDED LIVE. 
(Recorded at SOHGETSU HALL Tokyo, July 1972) 

Recording engineers: Tomoo Suzuki & Yūichi Maejima 
Director: Shigemitsu Ichihashi 
Assistant directers: Hideto Isoda & Kohichi Yosida 
Cover illustration: Hideo Yamashita 
Album design: Yoshiaki Kohyama 

ターjい・マハル旅行団
小杉武久―エレキ・バイオリン、発信器、声/小池龍―エレキ・ベース、サンツール、ハーモニカ、鉄板/土屋幸雄―ビブラフォン、サンツール/木村道弘―エレキ・ギター、パーカッション/永井清治―エレキ・トランペット、ハーモニカ、カスタネット/長谷川時夫―ボーカル/林勤嗣―エンジニア/浜田郷―プロデューサー 

録音日:1972年7月15日 
録音場所:東京・赤坂 草月会館ホール 
ミキサー:鈴木智雄、前島裕一 
ディレクター:市橋茂満 
カバー・イラスト:山下秀男 
アルバム・デザイン:幸山義昭 


additional credits 
Digitally remastered by 阿部允泰 at SONY MUSIC STUDIOS TOKYO 
監修:田口史人 


一柳慧によるオリジナル解説より◆ 

「「タージ・マハル旅行団は、現代音楽からも、ジャズからも、ロックからも等距離なところに座標軸をもつ、新しいタイプの即興演奏グループである。」ということを言った人がいたが、それほどこの旅行団は今日の音楽界にあって、特異な存在になっている。タージ・マハル旅行団が結成されたのは1969年であるが、最初から計画的に組織されたり、華々しく結成式をあげたりというのではなく、徐々にかたちをなしてきたといったほうが正確であろう。
私が最初に彼らの演奏をきいたのは、新宿のニュー・ジャズ・ホール、ピット・インであった。当時、音楽におけるアンダーグラウンドの拠点であったニュー・ジャズ・ホールは、その名のとおり、ニュー・ジャズや、フリー・ジャズなどをおこなう前衛ミュージシャンたちが、毎日のように長時間演奏をおこなっており、少数ながら熱心なファンを獲得していた。タージ・マハル旅行団はジャズ・グループではないが、アンダーグラウンド的性格が、ニュー・ジャズ・ホールのイメージにあっていたためか、かなりの頻度で演奏をおこなっていたように記憶している。彼らの姿勢は、演奏するというよりも、むしろ音を出す行為をおこないながら、音楽を肉体化し、音楽を生活化してしまっているといえる。彼らは妙に構えたり、深刻ぶったりすることはなく、常にビールとコーラなどを側において飲みながら自由に演奏をおこなっていた。その音楽は作品のような形式ばったところはなく、ゆっくりとしたパターンがくりかえし演奏されるうちに、徐々に変質してゆくといった、息の長いものであった。
タージ・マハル旅行団が、通常のグループと異なるいくつかの特徴をあげてみると、まずひとつは、7人のメンバーひとりひとりが、音楽的に独立した存在であることだ。つまり7人が、ひとつのアンサンブルを形成し、ひとつの統合されたイメージの音楽をつくりだすのではなく、7人がそれぞれの立場から、自分の持ち味を出しきって、7様に音楽とかかわりあうのである。それゆえ、タージ・マハル旅行団にはリーダーはいない。メンバーひとりひとりが対等な存在として、それぞれの責任において音楽をおこなうのである。
タージ・マハル旅行団のもうひとつの特徴は、メンバーの過半数が音楽家出身ではないことである。音楽家は、わずかに小杉武久と土屋幸雄だけである。だが小杉も本来の演奏家ではない。小杉は芸大出の作曲家であり、タージ・マハル旅行団のまえは、イベント作家として数多くの作品をつくり、自作自演をおこなっていた。小杉が、このレコードできかれるようなエレクトリック・バイオリンに専念しだしたのは、タージ・マハル旅行団結成の直前である。土屋幸雄だけは、いくつかの音楽ジャンルで演奏家として活躍していた。土屋は、かってロックの名ドラマーであったし、ピアニストとしても現代音楽でかなりの力量をもっている人だが、最近は小杉ともども、インドや中近東の音楽に傾斜し、その研究に余念がないようだ。」
「あとのメンバーは音楽には素人であるが、既存の音楽のパターンなどにとらわれることがない、この素人っぽさから発祥した独特の音の選択性が、またこのグループのひとつの魅力になっている。それは、彼らはテクニックで勝負することができないために、彼ら独自の音楽性を非常に大事にしているからである。」
高橋悠治は、タージ・マハル旅行団は、音楽に肉体の回復を目ざすというよりも、その独特なエレクトロニクス・システムのつかい方によって、肉体の異化という神秘的な体験をおこなうグループであり、それが楽器しかつかえない通常の即興演奏家にくらべた場合、単にパターン化した名人芸を披露したり、楽器に従属する存在に陥ってしまわない支えになっている。という意味のことを述べているが、たしかに、タージ・マハル旅行団の音には、どこかできいたような音は、全くでてこないと言ってよい。ヨーロッパ的音体系の上にのっとった現代音楽的な音型とか、ロック的なビートとか、邦楽的な間(ま)と持続とかというような、ともすれば即興グループにとって逃げ込む場になりやすい既存の音形態は、タージ・マハル旅行団には無縁なもののようだ。
ジャズとロック、クラシックとロック、現代音楽と伝統音楽、現代音楽とジャズ、電子音楽とロック、ロックとインド音楽民族音楽とロックなど、異なった音楽ジャンルどおしの異種交配が盛んな今日にあっても、タージ・マハル旅行団は他の音楽には見向きもせず、かたくなに自己の音だけを追求してやまないグループだといえるだろう。
タージ・マハル旅行団は、またその演奏時間の長さにおいても特徴的である。彼らの音楽には、小品とか作品というものはない。彼らは一度演奏を始めたら、最低2時間はぶっ通しで演奏する。」
「このレコードの制作にあたっても、まずレコードをつくるということが、タージ・マハル旅行団の姿勢としてふさわしいかどうかというところから始まり、実際にレコードの制作が決まったあとでも、こんどは1枚にするか、それとも3枚組にするかということで、だいぶ議論が沸騰したらしい。1枚では、彼らの息の長い演奏をコミュニケートすることができないのではないか、ということだったらしいが、レコードの場合、1面をかけおえたらどうしても中断されるということで、結局1枚にすることにおちついたようである。」
「現代音楽からも、ロックからも、ジャズからも、そしてつけ加えさせてもらえば、伝統音楽からも等距離なところに座標軸をもつといわれたタージ・マハル旅行団、だがこのような分析的な堅苦しい定義は、このグループには必要ないようだ。そのなにものにもとらわれない、いつ始まるともなくきこえだし、またいつ終るともなく消えてゆく音は、音楽界などという小さな世界とは無縁なところで、永遠の旅をつづけてやまない。」


◆東瀬戸悟によるCD解説より◆ 

「'69年結成時、既に30歳を過ぎた小杉と共に、グループ内の年長組(中略)だった小池龍はネオ・ダダ的な現代美術畑の出身。土屋幸雄は一柳慧人脈の現代音楽。永井清治、長谷川時夫の二人はフリー・ジャズ。木村道弘はポップ・アート的なグラフィック・デザイナー。そしてエレクトロニクス・エンジニアの林勤嗣と、異なった出自を持つ7人が集まり、各自の指向性と差異をそのまま反映しながら、現代音楽、電子音楽フリー・ジャズ、ロック、民族音楽等の様々な要素が融合された極めてユニークな即興演奏によるサウンド・スタイルが生み出された。結成直後からほぼ毎週ライヴを繰り返し、ロック/ジャズ系のイヴェントにも積極的に参加。(中略)'71年10月には「インドのタージ・マハル寺院に24時間滞在して帰って来る」という途轍もなく遊戯性に満ちたコンセプトの下、林以外の6人が渡欧。スウェーデンを皮切りに、中古で買ったミニ・バスを運転しながら、ヨーロッパ各地を演奏して周り、中近東を抜け、最終的に小杉、小池、土屋の3人がタージ・マハルへと到着。10ヶ月間に渡った一大ピクニックを終え、'72年5月帰国する。その帰国記念と英ICESへの参加資金カンパを兼ねて、同年7月15日に草月会館ホールでライヴ録音されたのが本作である。
 「旅には時間と空間の両方の意味があって、それがグループの音楽性にも密接に繋がっていたんです。音楽は時間の流れを強調するけれど、僕達の場合、空間がそれと同時に大切だった。旅することによって場所性なり空間性が変化し、その影響を受けて演奏者の意識とか音が変質してゆくことが重要だった。」と小杉は語る。」
「本作オリジナル・アナログ盤は、ソニーの4チャンネル・ステレオSQ方式でプレスされていたが、これはソニー側の意向であって、グループ側に、4チャンネルである必然性やコンセプトは全くなかったと言う。(中略)尚、'75年に出た再プレス盤では、通常の2チャンネル・ステレオ仕様に変更されている。当時、ソニー社内での制作は映画音楽、ドキュメンタリー物の部門で扱われ、'75年の小杉ソロ「キャッチ・ウェーヴ」はクラシック部門の制作だった。」
「最後に、今回のCD化に際して小杉から聞いた話を記しておこう。」
「「タージ・マハル宮殿というのは、世界中から色んな人が集まる観光地なわけです。私はインド音楽がとても好きですけど、この名前を選んだ理由にインド的な思想性は全くなくて、本来は遊びとか観光に重きを置いたもっとポップなイメージがあったんですよ。だから、あの場所に行って、24時間滞在して帰って来るなんてナンセンスなアイデアも生まれた。この名前に決定する前には“熱海トラヴェラーズ”とか“熱海観光団”という案も実際あってね。でも、熱海じゃ何か歌謡曲みたいだし、語呂も良くないっていうんで、タージ・マハルにしちゃった。(中略)今にして思えば、ちょっと格好良すぎたなあ…………。やっぱり熱海にしておけば良かった(笑)。」」


◆本CDについて◆ 

紙ジャケ(厚紙)仕様。オリジナルLPはCBSソニーから1972年にリリース(SOLM-1)され、1975年再発(SOCM 95)。どちらもシングルジャケでしたが本CDでは見開きジャケになっていて、中ジャケにはオリジナル盤の紙インナースリーブ(内袋)のデザインが転用されています(写真図版、一柳慧による解説、日本語クレジット)。CDオビは再発盤のデザインを再現しています。投げ込みライナーに東瀬戸悟による解説、「タージ・マハル旅行団」「メンバー略歴」「タージ・マハル旅行団 活動歴」、「additional credits」、写真図版(モノクロ)1点。

無心にハーモニカを吹いていたらさっきまで鳥が鳴いていた空に不穏な影がさして空襲警報があってB29がきて、放心状態、そんなイメージが浮かんでしまいましたが、自分で体験したわけでもないそんな日本人の集合的無意識の記憶を引き出してしまうものが、この演奏自体にあるような気がします。

★★★★☆ 


The Taj-Mahal Travelers – live July 15 (1972)

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