幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

高柳昌行とニュー・ディレクションズ  『インディペンデンス』 

高柳昌行とニュー・ディレクションズ 
Masayuki Takayanagi & New DIrections 
『インディペンデンス』 
Independence 
tread on sure ground 


CD: Tiliqua Records 
発売元: テイチクエンターテインメント株式会社 
販売元: TILIQUA RECORDS 
Tiliqua Records Archival Series 
TILAR-5008 (2007年) 
¥3,000(税込) 

 

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帯文: 

「1969年録音、高柳昌行の初リーダー作にして問題作! 日本を代表するフリージャズ作品が復刻」


帯裏文: 

高柳昌行(g)、吉沢元治(b)、豊住芳三郎(ds)からなるジャズ・グループ「ニューディレクション」。過去のジャズの枠を超え、前衛やフリージャズさえも凌駕して紡がれていく音の記憶がまた、ここに蘇生した。
 1969年9月18日、夜の6時半から約6時間をかけてテイチク会館スタジオにて録音されたこの即興演奏には、弓やバターナイフ、フィードバックを駆使した高柳のギター、ベースだけでなくチェロやパーカッションなども自由に操る吉沢、そしてパワフルでスケールの大きい豊住のドラム、さらに空間の空白を埋めるべくオーヴァーダビングされた鳥のさえずりなどのコラージュなどがひしめき合っている。
 ボーナストラックには1970年2月2日に同じくテイチク会館スタジオで録音された「集団投射」を追加収録。時代は移ろえど決して色褪せることなど無く、さらに研ぎすまされた音魂を我々の耳に突きつけてくるこの名盤をぜひ耳にして欲しい。」


INDEPENDENCE 
tread on sure ground 

Composed and Arranged by Masayuki Takayanagi 
Played by Masayuki Takayanagi and New Directions 


1. 銀河系 The Galactic System (Masayuki Takayanagi) 
2. 病気のおばさん Sick...Sick...Sickness...My Aunt (Masayuki Takayanagi) 
3. 習作第3番アップ・アンド・ダウン Study No.3 Up and Down (Masayuki Takayanagi) 
4. スペインの牧童の笛 Herdsman's Pipe of Spain (Masayuki Takayanagi) 
5. 夜の沼 Deepnight......Swamp (Masayuki Takayanagi) 
6. ピラニア Piranha (Masayuki Takayanagi) 

- Bonus Track - 
7. 集団投射 (from "Guitar Workshop" February, 1970)


高柳昌行(g) 
吉沢元治(b, cello, percussion, folk-pipe) 
豊住芳三郎(dr, percussion) 
佐藤敏夫(Time Conduct) 

テイチク会館第1スタジオにて録音 
ミキサー: 伊豫部富治 
ジャケット・デザイン: 矢吹伸彦 

Jacket Design Preparation & Art Direction: 猫猫商会 
Liner Notes: Alan Cummings 
Licensed from Teichiku Records Co., Ltd. Japan 
This edition was produced and arranged by Tiliqua Records, Copyright 2007 
Digitally remastered from the original mastertapes 


発売元: テイチクエンターテインメント株式会社 
販売元: TILIQUA RECORDS 


◆悠雅彦によるオリジナル・ライナーノーツより◆ 

高柳昌行昭和7年12月22日生まれ。わが国のジャズの歩みとともに成長してきた1人でもある。理論と音楽性を厳しく追求する人で、このアルバムでもそれが如実に物語っていると言えよう。
 昨年までの沈黙を破って、今年(引用者注: 1969年)は早々富樫雅彦と双頭グループを率い、夏には富樫の4重奏団に加わってレコーディング「ウィ・ナウ・クリエイト」に参加し、そのあと吉沢、豊住らをさそって「ニュー・ディレクションズ」を結成し、多くの時間を費やして練習にうちこんだあとの9月18日、テイチクが意欲を結集したレコーディングに臨んだのであった。」
「録音は、前記の夜6時半から約6時間かけて、テイチク会館内のスタジオでとり行なわれた。(中略)ぼくは最後まで現場に参加し、彼らの話と演奏を入念に聞き、議論のやりとりをしながらこの草稿を完成した。以下はそれを短かくまとめあげたものである。」
「悠 今回演奏した曲には印象的な題名がつけられていますが……? 
高柳 特に意味はないんです。ただぼくの考えていたイメージが、アルバムを通して流れるというか、浮かびあがるようにはなっている。
悠 そうすると全曲聴いてみて、最初からフリーな即興演奏が始まったと感じられる曲もあるんですが、テーマがあるということですね。
高柳 どの曲にもテーマはあります。ただそれは音符として表現されているものの、その場の状況や、各自の解釈によって大きな広がりを見せることになります。つまりぼくらが演奏する場合は音群を遮断しているバー・ラインが自然必要なくなってくるのです。
悠 それに色々な小道具が用意されていますが。
高柳 それらはイメージを鮮烈にするために是非必要です。例えば、ぼくの場合だとバター・ナイフやベースの弓を使いますが、こうしてパターンの退屈なくり返しや変化の停滞を避けるんです。
吉沢 ぼくの場合だと、チェロのピッチカートとガット・ギターの音色が酷似しているので苦労する。サウンドの点では、心を揺り動かせるトーンの出るものなら何でも使います。それは地方の家の戸口にぶらさがっていた魔よけの像とか、金属製の棒とか、笛やドラなどさまざまです。
豊住 ぼくもサウンドの変化にとても気を使うようにしています。
悠 そのことは、例えば一曲目の〈銀河系〉を聴いただけで良くわかります。色々な試みによって、サウンドのテクスチュアが刻々と変化しています。変化が多いということは、一度空間にはじきだされた音が、古い音として時間の新しさにのりこえられていくということでしょうか。
高柳 そう、時間の前進性です。ぼくらは一か所に止まっていることなんかとても出来ません。
悠 これにオーバー・ダビングを施した理由は? 
高柳 空間の空白部分を埋めるという目的と、それに、かみちぎり、ひきちぎるような感じを出したかったからです。
悠 この曲の始めと終わりの余韻をとる様に、ミキサーに注文したのは? 
高柳 これは、ぼく自身の音楽を考える上での基本的事柄です。つまり音が始まった瞬間に始まり、終わったその時点が終わりというのではなく、その前後にはえんえんと流れる音の世界があるということなんです。」
「悠 〈習作第3番・アップ・アンド・ダウン〉にはどんな狙いが? 
高柳 これはテーマの音の配列が上がったり下がったりしています。それによって音の集合した興奮状態が導かれ、盛りあげられというふうな設定になっています。
悠 ここでは吉沢君のチェロがすばらしいですね。
高柳 うん。彼ほど、演奏に入ったとたんに激しく厳しい情感の盛りあがりというか、音の緊張した状態を引きだせる人はほかにいないでしょう。彼はその点が素晴らしい。
悠 そのことは、B面(1)の〈スペインの牧童の笛〉における、彼のチェロのボーイングにも言えますね。彼のトレモロが異様な美しさと興奮を作りあげている。ぼくは〈ピラニア〉とともに最高のトラックだと思いました。また鳥の囀りを入れたテープ効果がイマジネーションの融発に大いに役立っています。
吉沢 演奏が高潮してくると自分のサウンドが聴きとれない。その点が一番辛かったなあ! 
悠 最後の〈ピラニア〉について。 
高柳 テーマは、ミラシレミの音列からなっており、各アドリブはこれに従います。ズタズタに切り裂かれたサウンドを出現させるため、ここでも2重録音をしました。そして笛やベルなどあらゆる音色を利用しています。
悠 前後2回にわたって現われるギターのリフには何かの意味とか、テーマとの関連性があるのですか? 
高柳 もちろんありますが、これはぼく自身のあらゆる不条理に対する反抗姿勢だと、感性的に受けとって下さい。それからこの部分では豊住のドラムがとてもいい。彼はまたとないスケールの大きいドラマーです。ぼくがさっき彼に注意したのは、同じパターンが続くと、こういう音楽は特に退屈になるからなんです。
悠 ところで、こうした前衛ジャズをジャズと認めない人もいます。
高柳 それは構いません。ぼくはこの18年、スイング、バップ、モードなどにあらゆるジャズをやってきた。けれど今や和声の範囲内でジャズをやることに耐えられないんです。例えばフィード・バックやカズーなども、長い過程の一つの試みだと思っているし、ジャズを既成概念で捉えたくないのです。だから通常のジャズではないと言われてもいい。この時点で我々の音楽であれば良いわけです。
豊住 ぼくなども、音楽学校で習ったことが邪魔になるときがある。理論からは音楽は生まれません。
吉沢 ぼくはあらゆる方法に通じたい。それを選びだし、エモーショナルなサウンドを創造する。それがミュージシャンの責任なのだと思う。」


◆本CDについて◆ 

紙ジャケ(厚紙)仕様。オリジナルLPはシングルジャケでしたが、本CDでは見開きジャケになっていて、中ジャケにはLP裏ジャケのメンバー写真をアレンジしたものと、再発クレジットが掲載されています。ブックレットにAlan Cummingsによる解説(英文)。

オリジナルLPはUnion Records/テイチク株式会社より1970年にリリース(UPS-2010-J)され、1991年にボーナストラック(V.A. 『guitar workshop』Union Records/テイチク、UPS-2015-J、1970年、より「集団投射」)を追加してCD化(テイチク/TECP-18772)されています。

#1,6がエレキ、#2~5はアコギで、#2,5はアコギソロの小品です。#7では吉沢が歌って(?)います。
「退屈」や「停滞」を避けるためにいろいろやったと本人は言っていますが、それゆえに、逆にやや停滞を感じさせるアルバムになっています。

★★★★☆ 

 

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