CD: ベル・アンティーク
Distributed by BELLE ANTIQUE
Manufactured by VICTOR ENTERTAINMENT, INC.
BELLE 95169/PRCD-5166 (1996年)
税込定価¥2,997(税抜¥2,910)
帯文:
「説教節の主題による見世物オペラ
一九七八年六月二十四日
紀伊国屋ホールにて
実況録音
構成=寺山修司
作曲=J・A・シーザー
演劇を超えて鮮烈な
問いかけを続けた実験集団
「天井棧敷」の’70年代
ミックスド・メディア作品、その頂点。
音楽がうねり、イメージが氾濫し、
故寺山修司とJ・A・シーザーが夢を現実を編む。」
説教節の主題による見世物オペラ
身毒丸
演劇実験室 天井桟敷 第二十六回公演
構成=寺山修司
作曲=J・A・シーザー
一九七八年六月二十四日紀伊国屋ホールにて実況録音
1.慈悲心鳥
2.撫子かくし
3.髪切虫
4.家族合わせ
5.地獄のオルフェ
6.藁人形の呪い
7.復讐鬼
8.阿梨樹墜つ
演奏
三十弦箏: 宮下伸
琵琶・語り: 半田綾子
ギター: 森岳史
ドラム: 大石恒夫
ベース: 竹村進二
フルート: 前田章二
チューバ: 石井弘二
ピアノ・シンセサイザー: 平岩嘉信
バイオリン: 室賀マリ
バイオリン: 大村和子
和太鼓: 小布施信夫
和太鼓: 後藤圭
ソプラノ・ソロ: 塩原昌代
テノール・ソロ: 金川明裕
ボーイソプラノ・ソロ: 石神祐一
ソプラノ: 高山敦子
ソプラノ: 古木洋子
ソプラノ: 茂木紀子
アルト: 高本裕子
アルト: 潮見純子
テノール: 最上哲宏
テノール: 竹下数雄
指揮・オルガン・パーカッション: J・A・シーザー
スタッフ
作曲: J・A・シーザー
台本: 寺山修司+岸田理生
共同演出: 寺山修司+J・A・シーザー
美術: 小竹信節
美粧: 蘭妖子+松原くに子
音響: 森崎偏陸
照明: 岸田理生
舞台監督: 浅井隆
舞監助手: 山崎陽一
小道具: 佐藤和則+増子千鶴
P・A: ファミリー・パート3
照明協力: ルミエール兄弟社
制作: 九條映子+小沢洋子
キャスト
継母(先生): 新高恵子
語り手(女学生): 蘭妖子
父: サルヴァドール・タリ
しんとく: 若松武
せんさく: 篠崎拘
見世物呼び込み男: 根本豊
柳田国男(生徒一)(黒衣): 福士恵二
生徒二(黒衣): 青山均
松葉杖の座長(生徒三)(黒衣): 平井元
間引女一(鬼子母): 矢口桃
間引女二(鬼子母): 末次章子
見世物空気男(侏儒少年): 市川正
一寸法師(福助): 日野利彦
女相撲(鬼子母): 蛭沢美季子
中学生: 藤本新吾
鬼子母(見世物碁盤娘): 中山孝子
帯娘(幻の母一): 太田律子
侏儒少女(幻の母二): 八鍬恵美子
ろくろ首(幻の母三): カトリーヌ
幻の母四: ロレナ
幻の母五: 飯沼薫
幻の母六: 額賀見知子
黒衣一: 水岡彰宏
黒衣二: 井口一夫
黒衣三: 川崎陽一
黒衣四: 菊地裕
娼婦: 塩原昌代
ジャケット
タブロー: 合田佐和子
写真: 小川隆之
デザイン・構成: 戸田ツトム+松田行正
スチール写真: 飯田安国
写真資料提供: 森田一朗・川原淳
「スタッフ・クレジット、解説、台本等は全て’78年のオリジナルLP時のライナーノーツより再録しています。」
「本録音は劇の一部をカットしていますが、これはオリジナルLP通りの収録ですのでご了承下さい。」
◆寺山修司による「解説」より◆
「説教節「しんとく丸」は、
私にとって少年時代から愛読書の一つであった。
「石童丸」「山椒太夫」ともどもに、
丁寧に筆写したり、和歌に作り直してみたこともある。
因果話は、日本文化の通時性をもっとも
特色づけるもので、米-農耕社会が
つくりだした母神と子神の転生譚は、
他の国の文化では決して見られない独自のものであろう。
今回の台本では「まゝ母に憎まれ、
父にも見捨てられた少年しんとく丸が、
母の仮面をつけて母に化け、
復讐をたくらむために帰ってくる」という
新しい解釈をつけ加えてみた。さらに、
因果譚の添えものとして見せ物小屋を配し、
紀伊国屋書店のホールに、
一つかみのほんものの土をまき散らしてみた。
語りものに於ては、節づけられる言葉が大切なので、
会話以外は全て七五調にしてみた。
もし、日本に、ミュージカルやオペラに
匹敵する新しい「音楽劇」の可能性があるとしたら、
このへんが一つの突破口ではないかというのが、
私とJ・A・シーザーの、共通した
意見だったのである。この試みは、
しばらくつづけてみたいと思っている。」
◆寺山修司による台本より◆
「しんとく アッ、柳田のおじさん。
柳田 よく覚へててくれたね。いかにも、わたしは柳田国男だ。
しんとく 今日は、ずい分おかしな恰好しているんですね。
柳田 (とってみせて)つけ髭だよ。-これは蔓だ。きのうは、こっちの鼻目鏡をかけていたからね。わたしは毎日変るんだ。
しんとく おとついは「少年倶楽部」のさし絵でした。たしか黒覆面をしてゐましたね。
柳田 そう。その前に逢ったときは、山高帽の空気男だった。その前は駅前キネマの映写技師、そして、その前は陸軍士官学校出入りの日の丸弁当の主人。またその前は、高度三千メートルの空からバラまかれたデパートの開店ビラを観察する物干台の天文学者だった。わたしは、もうずっと前からきみのまわりにいた。たゞ、きみがそのことに気がつかなかったのだ。
しんとく 今日はもう、電球売りじゃないんですね。
柳田 あれはやめたよ。電気の球は、じぶんが明るくなるだけで、家そのものを明るくするわけじゃない。しかも、電球の下を明るくすると、その分だけまはりが暗くなる。暗いところでは、いつも侏儒が畳をめくって田を打っている。農作不作、電気の悪魔だ。
しんとく (その手品使ひのやうな手つきに圧倒されてゐる)……………
柳田 それで今日から、これを売ることに方針を変へたのだ。(と、黒い円形のボール紙のやうなものを取りだす)
しんとく 何です、これは?
柳田 穴だ。
しんとく (驚ひて)穴?
柳田 さう、穴だ。これを、ぴったりと壁に貼りつけると、そこから壁の向ふへもぐっていける。これ一つで、世界中に出口ができる。ゴムのやうに、のびちゞみ自在、持ちはこび自由、こうして、小さくたゝんで、のぞき穴にすることも、床の上にひろげておいておとし穴にすることもできる。
しんとく 信じられない、穴を持ち歩くことができるなんて。
柳田 ホラ、かふやって、地面におくと、それでもう、下へ降りてゆくこともできるのだよ
しんとく おじさん!(思ひ切って)ぼくに、この穴をゆずっていたゞけませんか?
柳田 借してあげることならできる。だがゆずる訳にはいかない。これはまだ、発明の段階であって、未完成品なのだ。たとへば、この穴の蓋をどふするか、といふことも解決していない。
しんとく 借してくれることなら、できるのですね
柳田 一日だけなら、
しんとく ありがとう、おじさん!
と、穴を手にとり、地面におひて、
しんとく ほんとに、地下へ降りてゆくことができるのだろふか? 深さはどの位なのだろふ。梯子はついてるのだろふか。足をおひたとたんに、まっさかさまに落ちてゆくなんてことはないだろふな(と覗きこむ)やあ、まっくらだ。地下も天と同じやうに、銀河がキラキラ輝ひているぞ。
アレ、おじさんが消へた!(あたりを見まはして)よし、今のうちだ(と、穴へもぐりこむ。半分もぐったところで、)アーッ!」
「しんとく (中略)お母さん!もういちど、ぼくをにんしんしてください!」
「暗闇の中から、それぞれ思ひ思ひの意匠をこらしてあらはれてくる母、母、母、すべての登場人物、母に化身して、唇赤く、絶叫する裸の少年しんとくを包みこみ、抱きよせ、舌なめずりして、バラバラにして、食ってしまふ。鬼子母神の経文、巡礼の鈴の音。そして、すべては胎内の迷宮に限りなく墜ちてゆき、声だけが谺しあって消へてゆく。時合の鐘の音が一つ。ごうん!と響きわたり、暗転。」
◆本CDについて◆
ブックレット(全12頁)に寺山修司による「解説」、トラックリスト&クレジット、キャスト&演奏者紹介、「J・A・シーザー」(北川登園)、台本(抄)――以上オリジナルLPより再録/「J・A・シーザーとは」&「説教節のための見せ物オペラ「身毒丸」」(川辺敬祐、1995年)。
ピンク・フロイドの影響は当然あると思いますが、コーラスが入ってベースが唸り出すとマグマっぽくなります。J・A・シーザーはカール・オルフ(「カルミナ・ブラーナ」)の影響を受けていたということですが、マグマもオルフの影響を受けているので、オルフつながりでマグマっぽくなったのかもしれないです。いずれにせよプログレ名盤なので、本CDの後も何度か再発されて、4CD+1DVDの「PERFECT BOX」というのまで出ていますが、それはちょっと手が出なかったです。無念。
★★★★★
J.A. シーザー - 身毒丸