幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『バートウィッスル: シークレット・シアター/悲劇/5つのディスタンス/ツェランの詩による3つの歌』  ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン

『バートウィッスル: シークレット・シアター/悲劇/5つのディスタンス/ツェランの詩による3つの歌』 
ピエール・ブーレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン 


CD: Deutsche Grammophon/ポリドール株式会社 
POCG-1878 (1995年) 
¥3,000(税込)(税抜価格¥2,913) 

 

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帯裏文: 

「《シークレット・シアター》は、バートウィッスルの探究した移動する音楽空間を使った、画期的な作品だった。この形式によって、彼は戦後の前衛派(ブーレーズ、ベリオ、カーター)との結びつきを強め、彼のスタイルの独自性をも打ち出したのだ。――中略――音楽には一箇所たりとも即興的な部分はなく、全体にわたって細密に計算されている。最後の部分では、執拗に繰り返されるカデンツァ的な断片に、まるで新たになにかが始まるかのような、引きのばされた音がそれにかぶさって、しめ括られる。
  アーノルド・ホィットール」


ハリソン・バートウィッスル
Harrison Birtwistle
(1934-    ) 


1-8. 悲劇 (20:37) 
Tragœdia 
1. Prologue  1:37 
2. Parados  2:15 
3. Episodion: Strophe I - Anapaest I  3:50 
4. Antistrophe I  1:33 
5. Stasimon  2:24 
6. Episodion: Strophe II - Anapaest II  3:50 
7. Antistrophe II  2:22 
8. Exodos  2:46 

9. 5つのディスタンス 13:47 
Five Distances 
5つの楽器のための 
for Five Instruments 

10-12. ツェランの詩による3つの歌 (13:32) 
Three Settings of Celan 
ソプラノと5つの楽器のための 
for Soprano and Five Instruments 
10.白と光 5:07 
White and Light 
11.夜 3:33 
Night 
12.テネブレ 4:52 
Tenebrae 

13.シークレット・シアター 27:47 
Secret Theatre 


クリスティーン・ウィットルジー(ソプラノ)[#10-12] 
Christine Whittlesey, soprano 

アンサンブル・アンテルコンタンポラン 
Ensemble InterContemporain 
指揮: ピエール・ブーレーズ 
Pierre Boulez 

録音: 1993年6月 パリ 
Recording: Paris, IRCAM-Studio/ESPRO, 6/1993 
Executive Producer: Roger Wright 
Recording Producer: Christian Gansch 
Tonmeister (Balance Engineers): Helmut Burk 
Recording Engineers: Hans-Rudolf Müller, Jürgen Bulgrin 
Editing: Ludger Böckenhoff, Rainer Hebborn 
Publisher: Universal Edition, London 
Cover Illustration: Paul Psorakis/ARTBANK 
Artist Photos: Lillian Birnbaum 
Art Direction: Hartmut Pfeiffer 


◆本CD解説(アーノルド・ホィットール)より◆ 

「フルートの引き延ばされた高音に、ホルン、ハープ、チェロの低音がアクセントをつけ、続いてホルンの旋律が、最初は単音を強調し、それにハープとチェロが活発で打楽器的な音型で対抗する。《悲劇》(1965)の冒頭部におけるバートウィッスルの技法は、固定したものに装飾をつけると、それがいかに不安定なものになり得るかを示すものである。「結び合わされた断片」(エリオット・カーターストラヴィンスキーの《兵士の物語》にたいする指摘である)という言葉が、心に浮かぶ。たしかにバートウィッスルは、ドラマティックな音楽の性質について、基本的に考え直したストラヴィンスキーに、大きな影響を受けている。」
「ここにはロマン派的な憧れはなく、バートウィッスルはこのタイトルが19世紀的な意味での「悲劇」を表すものではないとしている。つまり、これは「ヤギの踊りであり、作品はギリシャ悲劇の儀式的、形式的な面にかかわるものであり、ある特定の悲劇の内容を示唆するものではない」のだ。《悲劇》は、バートウィッスルの最初のオペラ《パンチとジュディ》にも引用されている。」

「《悲劇》から19年を置いて書かれた《シークレット・シアター》の中で、バートウィッスルは、機知と想像力に富んだ、初期の構成と形式の原則をさらに発展させている。作曲家は《悲劇》とともに《シークレット・シアター》を、「絶対音楽と劇場音楽のあいだの溝に橋をかけようとした作品である。あるドラマを描いているが、そのドラマは純粋に音楽的なものである」と語った。」
「そして「構成要素」は、ロバート・グレイヴズの詩『シークレット・シアター』の中の音楽にもとづいており、その詩の冒頭部の7行が、スコアに引用されている。

眠りを求める心から、1日の苦役が
納屋の床にころがる粗末な袋のように落ちるとき 
音楽に、自然の蜃気楼に、心を開け 
そして夜の比類なき色彩の洪水に 

いまは真夜中をすぎ、遠くで笛の音がする 
我らは思い思いに舞台へと上がり 
大胆にベルを鳴らし幕を引き、我らの愛を踊ろう」

「バートウィッスルの前衛的な傾向は、またパウル・ツェラン(1920-1970)の詩にたいする彼の興味にもうかがい知れる。彼は英訳されたその詩に音楽をつけ、ソプラノとクラリネット2、ヴィオラ、チェロ、コントラバスというアンサンブルのための作品に仕上げた。ツェランルーマニアユダヤ人で、第2次世界大戦中は強制収容所に入れられ、両親は殺害されるという悲惨な体験をもち、そのため詩にも強い内省的な、閉鎖的ではないが陰鬱な暗さがあり、それが形式にたいする感性とバランスを保っている。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全16頁)にトラックリスト&クレジット、アーノルド・ホィットールによる解説(訳: 木村博江)、歌詞(英訳: マイケル・ハンバーガー/訳: 木村博江)、「「4Dオーディオ・レコーディングとは」」、写真図版(モノクロ)2点。

パウル・ツェランの原詩はドイツ語ですが、歌詞は英訳によっています。バートウィッスルと同じイギリスの作曲家マイケル・ナイマンにも「ツェランによる6つの歌」(歌詞はドイツ語)があるので、聞き比べるとよいです。


Three Settings of Celan