幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『Janequin: Le Chant des Oyseaulx』  Ensemble Clément Janequin 

『Janequin: Le Chant des Oyseaulx』 
Ensemble Clément Janequin 

鳥の歌
ジャヌカンシャンソン集 
クレマン・ジャヌカン・アンサンブル 


CD: harmonia mundi france 
HMC 901099 (1983) 
Made in W. Germany 

発売元:株式会社 ANFコーポレイション 
ANF-2090HMA (1990年) 
税込定価¥3,090(税抜価格¥3,000) 

 


CLÉMENT JANEQUIN (v. 1485-1558) 
Le Chant des Oyseaulx 

1. Le Chant des Oyseaulx  5:20 
鳥の歌 
2. Toutes les nuictz  2:00 
夜ごと夜ごとに 
3. J'atens le temps  1:45 
のぞみはゆるぎなく 
4. Il estoit une fillette  1:10 
その昔、娘っ子が 
5. Las on peult juger [1. Chanson de Janequin / 2. Transcription pour luth de Guillaume Morlaye]  2:10 
悲しいかな それははっきりしたもの/ギョーム・モルレイ編曲 悲しいかな それははっきりしたもの(リュート編曲)
6. Ung jour Colin  0:50 
ある日 コランは 
7. O doulx regard, o parler  2:57 
ああ、甘い眼差しよ 
8. Le chant de l'alouette  2:36 
ひばりの歌 
9. Quand contremont verras  1:35 
もしも ロアールが上流に 
10. Hellas mon Dieu ton ire  2:32 
ああ、わが神よ 
11. Ma peine n'est pas grande  1:18 
私の苦しみは深くない 
12. O mal d'aymer  2:38 
ああ、愛の苦しみよ 
13. Herbes et fleurs  1:31 
草よ、花よ 
14. L'aveuglé Dieu (A. de Rippe d'après Janequin)  2:36 
盲目になった神は(A. ド・リップによるリュート編曲) 
15. A ce joly moys de may  1:20 
この美しい五月 
16. Assouvy suis  1:56 
満たされつつも 
17. Quelqu'un me disoit l'aultre jour  2:20 
ある日、あの人が私に言うに 
18. M'y levay ung matin  1:10 
ある朝 目覚めた私 
19. M'Amye a eu de Dieu  1:38 
私の愛しいひとは、神の贈り物を授かっている 
20. Le chant du rossignol  1:55 
うぐいすの歌 


ENSEMBLE CLÉMENT JANEQUIN 
クレマン・ジャヌカン・アンサンブル 
Dominique Visse, contre-ténor 
ドミニク・ヴィス(C-T) 
Michel Laplénie, ténor 
ミッシェル・ラプレニー(T) 
Philippe Cantor, baryton 
フィリップ・カントール(Br) 
Antoine Sicot, basse 
アントワーヌ・シコ(Bs) 
Claude Debôves, luth Charles Besnaïnou 
クロード・ドゥボーヴ(lute) 


Une coproduction harmonia mundi - Radio France 
Enregistrement juillet 1982 au Studio 106 / Maison de Radio France 
Prise de son Claude Armand 
Direction de l'enregistrement Michel Bernard 
Illustration: R. Savery, Oiseaux (détail) 
Maquette Relations - Imprimé en RFA 

録音:1982.7/ステレオ 


◆小林緑による日本語解説より◆ 

「「……夜鳴きうぐいすのように夜も眠らず、一日中歌い続ける独特な習性の鳥を、私たちはほかに全然知らない。森や灌木が葉むらにおおわれているなかで、昼夜を分かたず歌い続けるのはなんとも気の長いことであろうに。だが、この野性の小さな鳥の喉から発せられる、かくのごとき歌声を聞いて感動しないという人間がいるものだろうか? しかもこの鳥たちには、こうした完璧な音楽を作り上げる秘訣を教える先生なぞいないのだ……。時には高い声を飾りたて、半音高くしたりまた低くしたり、16分音符の連続のように細かく動かし、休みを所々に入れて寸断する。かと思えばゆっくりと歌を引き伸ばし、一旦止めてはまた始め、まるで震えているかのように声を急に小さくしたり、単旋聖歌を思わせるかのように2分音符で重々しく歌ったり、音を低めてから突然、ファルセットを使っているかのように高い声を響かせてみたりする。またある時はさまざまに声色を変えて、他の鳥の声かと思わせたいかのように歌う……。こうしてみれば、歌の芸においてはこの鳥たちのほうが、人間のそれより勝っていることはどうしても認めざるを得まい……。」
 上の一文はこのアルバム原盤の解説(Jean Pierre Ouvrard)に引用されている博物学者ブロン(Pierre Belon、1517~1564)の筆になるうぐいすの‟鳥類学”的記述の抜萃である。(中略)16世紀にはユマニスム〔人文主義〕すなわちあくまで人為的な音楽と並んで、上記の引用のように、うぐいすの例に代表される鳥の歌など、自然の模倣、描写が愛好されていたわけであるが、そうした時代の動きはジャヌカンの音楽的生涯に要約されている。
 1485年頃パリの南西シャテルローの生まれと推定されるジャヌカンの初期の足跡は不明な点が多い。しかし、1520年代にボルドー近在で僧職に就くかたわら、28年には早くも「鳥の歌」や「マリニャーノの戦い」、「狩」、「パリの叫び声」など代表的な描写的シャンソンをパリの楽譜印刷業者アテニアンから出版させている。」
「自作シャンソンに基づくミサ曲やモテト、詩編歌曲、さらには宗教的シャンソンなども残したジャヌカンの本領は、しかしあくまで、およそ250に上る世俗シャンソンにある。とりわけ、先に引用した鳥の声や戦争、人々のしゃべり声などを模倣して描いたシャンソンは作曲者の在世当時から大成功を博し、ル・ジュヌやゴンベールといったほぼ同時代の作曲家が声部数や組み立て方を変えて編曲を試みているし、スペインではしばしば器楽用に作り変えられたりもした。かの《韻律音楽 musique mesurée》を提唱してユマニスムの立場から音楽に熱心に関与した詩人バイフが、1559年に、「鳥の歌、女たちのおしゃべりを模しては非の打ち所なく、まさに神がかり」と逝ってまもない作曲家に寄せた弔辞のソネのなかで彼を讃えている。」


◆本CDについて◆ 

輸入盤国内仕様。ブックレット(36頁)にトラックリスト&クレジット、Jean-Pierre Ouvrardによる解説(仏・英・独)、歌詞(仏語)と英・独訳。インレイにトラックリスト&クレジット。「別冊解説書」に小林緑による「解説」、トラックリスト&クレジット、仏語歌詞&対訳(小林緑)。

★★★★★ 


Le Chant des Oyseaulx


Quand contremont verras


「Quand contremont verras retourner Loyre, 
Et ses poyssons en l'air prendre pasture, 
Les corbeaux blancz laissantz noyre vesture, 
Alors de toy n'auray plus de mémoire.」

「ロアール河が上流に遡って流れ、
魚たちが野原の草を食み、
からすが黒衣を脱いで白くなるものならば、
私もあなたのことは全て忘れよう。」
(小林緑 訳)