キース・ティペット
『ユー・アー・ヒア・アイ・アム・ゼア』
The Keith Tippett Group
You Are Here... I Am There
LP: ポリドールレコード/ポリドール株式会社
ロック・コレクターズ・シリーズ第2集
23MM 0196 (1982年)
¥2,300
Manufactured by Polydor K.K., Japan KA 8209
帯文:
「キング・クリムゾンへの参加で広く知られるイギリスのジャズ・ピアニスト、キース・ティペットの初リーダー作。」
「《国内盤初登場》」
「マスター・テープの状態が良くない為
お聞き苦しい箇所がありますが御了承下さい。」
Side 1
1.昨年のような今晩 9:09
This evening was like last year (To Sarah)
2.アイ・ウィッシュ・ゼア・ウォズ・ア・ノーホエア 14:08
I wish there was a nowhere
Side 2
1.サンキュー・フォー・ザ・スマイル 2:03
Thank you for the smile (To Wendy and Roger)
2.7月の午後 4:14
Three minutes from an afternoon in July (To Nick)
3.バッテリー・ポイントからのながめ 2:02
View from Battery Point (To John and Pete)
4.ヴァイオレンス 4:03
Violence
5.ステイトリー・ダンス・フォー・ミス・プリム 6:51
Stately dance for Miss Primm
6.昨年のような今晩(ショート・ヴァージョン) 4:11
This evening was like last year - Short version
Personnel:
Mark Charig: Cornet
Elton Dean: Alto Sax
Nick Evans: Trombone
Jeff Clyne: Bass and Electric Bass
Alan Jackson: Drums and Glockenspiel
Keith Tippett: Piano and Electric Piano
Giorgio Gomelsky: Bells
All numbers written and arranged by Keith Tippett
Engineer: Eddie Offord
Producer: Giorgio Gomelsky
Photography: Steve Hiett
◆北村昌士による解説より◆
「昨年の暮、再編成されたキング・クリムゾンを率いて日本の土を踏んだロバート・フリップが、記者会見の席上非常に印象的な発言をした。それは「クリムゾンに参加したミュージシャンの中であなたが最も重要と考えている人は誰ですか」という意味の質問に答えてであったが、その時フリップは何の躊躇も見せることなく、例の落ち着き払った口調でこう言ったのだ。「キース・ティペットとジェイミー・ミューアです」
1969年から74年までの約5年間、イギリスの伝説的なロック・グループ、キング・クリムゾンに参加したミュージシャンは述べ18人を数える。アルバム1枚の発表、あるいはコンサート・ツァー1回を消化するたびに、メンバーの脱退、解散、オーディションが相次いだ。この異常なまでのめまぐるしく大規模な人々の変動のなかにあって、唯一のオリジナル・メンバー、ロバート・フリップは、そうした出来事を至極オーガニックで必然的なグループの発展的成長と考えていた。そしてその発展の過程において、音楽的に決定的役割を果たした人物としてキース・ティペットとジェイミー・ミューアの名を挙げているのである。ロバート・フリップ、キース・ティペット、ジェイミー・ミューア………この3人のミュージシャンは、それぞれ音楽的資質、形態、理念こそ異なるが、70年代のブリティッシュ・ミュージック・シーンを考える時、とりわけ重要な、また孤高の存在としてあまねく知られている。いわゆる天才と言い切ってしまうこともこの3人に限っては別に誇張気味の形容ではない。大きな時代の流れと、個人の限りない創造力が、ある特定の音楽ジャンルを越えてひとつの音楽として結実した、それが70年代におけるキング・クリムゾン・ミュージックだったのであろう。
多くの人々がそうであるように、70年代の初頭、当時ブリティッシュ・ジャズというものに余り慣れ親しんでいなかった私が、最初にキース・ティペットの名前とそのプレイを耳にしたのも、確かキング・クリムゾンにおいてであったように思う。たぶん、‟Cat Food”あたりが初めてのキース・ティペットとの出会いだったに違いない。このビートルズ・ナンバー(特にジョン・レノンの作風に通じる)を粉々に解体して、より高度な音楽理論に基づいて再び組み立て直したような小品におけるキース・ティペットのピアノ・プレイには非常な衝撃を蒙った。目の眩むようなアブストラクトなジャズ・ノートを駆使しながらも、その生き生きとしたラディカルさが音楽自体の構造的な次元で見事に一体化した、まさに構築美と破壊美の入り乱れた奇妙な音楽体験には目のさめるような鮮烈さと、今もはっきり覚えているが、大へんに恐ろしい感じがした。
それ以降、キース・ティペットのピアノは私の音楽観の中で特異な位置を占めるようになったことはいうまでもない。もちろん当時彼が、ブリティッシュ・ジャズ・シーンにおいて誰もが認める若手No.1プレイヤーであったことなどついぞ知る由もなかったが……。」
「ところでキース・ティペット・グループはその活動期間中に2枚のアルバムを発表している。最初の1枚は今あなたが手にしている本アルバム『You Are Here…I am There』、そしてもう片方が前述した『Dedicated To You, But You weren’t Listening』である。どちらの作品も、当時のキース・ティペットの力量ばかりでなく、英国のジャズ・シーンとロック・シーンがどれだけの高いエネルギーを持ち、相互の創造的な交流がその後のシーンの発展に大きな力を発揮しているかを端的に教えてくれる実にダイナミックなアルバムである。とりわけ本作は原盤著作権を所有するマーマレイド・レーベルの倒産からリリースが大幅に遅れ(70年10月)、また発売枚数が極端に少なかったことから今では殆んど入手不能のコレクターズ・レコードと化してしまい、久しく一般には耳にすることの出来なかったといういわくつきの貴重盤の1枚で、そんなことからもたぶん今回の再発を喜んでいるのは決して日本のファンばかりではないだろうと思われる。
おそらく我国で最もブリティッシュ・ジャズに精通する人物のひとりであろう指田英二氏は、このアルバムについてこう書いている。「アメリカ・ジャズの影響とアングロ・アヴァンギャルド色に集約されるブリティッシュ・ジャズにあっては珍しく、反面単一和音の固執や不整重奏が用いられ、近代/現代クラシックの影響も強く打出しており、英国の土壌が育んだ新ジャズの香りが濃い」(フールズ・メイト20号)
これは当時のジャズ・シーンから輩出された諸作品と本アルバムとの質的な差異について言及した箇所であるが、確かに1面1曲目の‟This Evening”における指田氏の言う「伝承メロディーによる牧歌風ののどかさ」や2)1‟Thank You For The Smile”におけるビートルズの‟ヘイ・ジュード”のメロディーの挿入される部分など、あるいは全体の構成やアンサンブルをトータルに貫く各パートの感情的な関係にしても、どこか気品と格調を感じさせるヨーロッパ的な色彩がある。また指田氏は‟This Evening”が、キング・クリムゾンの『Island』における1曲‟Formentera Lady”の音楽的原型であることを断言してはばからないが、のみならずクリムゾンの音楽に内在する雄大な空間の拡がり、繊細かつダイナミックなリズム・パターンやアンサンブルとソロの関係など、このアルバムの方法論とオーバーラップする箇所のことのほか多いことには氏のみならず、これを耳にした誰もが率直に驚かざるを得ないだろう。」
「ここに参加したミュージシャンたちがこの後の70年代のジャズ・ロック・シーンの先導的な役割を果たしていることを考えるならば、この作品はあくまでその出発点にあたるものだろう。しかしそれでも、このアルバムの若竹のようにすらりと伸びた初々しく鮮烈な音楽は、今も私たちを魅了してやまないのである。ややもすると、それは時と共に輝きを一層増してゆくような、そんな性質の音楽なのかもしれない。」
◆本LPについて◆
E式シングルジャケット。裏ジャケにChristopher Birdによる英文ライナーノーツ。インサート(片面印刷)にトラックリスト、北村昌士による解説(82年6月)。
本LPは出たときに購入して長いあいだ愛聴していましたが、今はレコードを再生できる環境が整っていないのでYouTubeで久しぶりにきいてみました。今はCDなど購入しなくてもすきなだけYouTubeで音楽をきける世の中になったのでありがたいです。それはそれとして久しぶりにきいた本作はやはり名盤だったのでCDで再購入したくなりました。というか今思い出したのですがこれと『Septober Energy』は’90年代初頭に出回った盤起こしのブートレッグCDで持っています。
★★★★★