幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『ロンドンの街角と劇場で~エリザベス朝のバラッドと劇場音楽』  ザ・ミュージシャンズ・オブ・スワン・アリ

『ロンドンの街角と劇場で~エリザベス朝のバラッドと劇場音楽』 
ザ・ミュージシャンズ・オブ・スワン・アリ 

In the streets and Theatres of London 
Elizabethan Ballads and Theatre Music 
THE MUSICIANS OF SWANNE ALLEY 


CD: Erato/Warner Classics 
ワーナーミュージック・ジャパン 
シリーズ:Originale: Period Instrumental Series 
WPCS-16219 (2015年) 
定価:¥1,400(本体)+税 

 


帯文:

「エリザベス朝時代――街ではバラッドが、劇場ではシェイクスピアが流行り、
イギリス全体が活気に満ちていた。時代を映すバラッドの数々。」

「CD国内プレス 
日本語解説・歌詞対訳付」


1.作者不詳:ナツメグとジンジャー 1:29 
Anonymous: Nutmigs and Ginger [consort] 
2.作者不詳:マザー・ワトキンのエール 1:25 
Anonymous: Mother Watkins Ale [consort] 
3.エドマンド・キート:バロー・ファウストゥスの夢 1:24 
Edmund Kete: Barrow Faustus Dreame [consort] 
4.作者不詳:スティンゴ 1:57 
Anonymous: Stingo [violin and consort] 
5.作者不詳:パギントンのポンド 3:09 
Anonyumous: Paggington's Pound (Text by Ben Jonson) [voice and consort] 
6.作者不詳:すてきで優しい少年 1:37 
Anonymous: Bony Sweet boy [pandora solo] 
7.作者不詳:ウィルソンのワイルド 1:11 
Anonymous: Willsons Wilde [cittern and pandora] 
8.ロバート・ジョンソン:魅惑的な眠り 3:38 
Robert Johnson: Care charminge Sleepe [voice and lute] 
9.ジョン・ジョンソン:短いアルメイン 2:20 
John Johnson: Short Allmain [lute duet] 
10.ロバート・ジョンソン:立ち去れ、喜びよ 3:23 
Robert Johnson: Away delights [voice and lute] 
11.作者不詳:ロビンは緑の森に行ってしまった 2:51 
Anonymous: Robin is to the Greenwood gone [lute and viol] 
12.作者不詳(ジョン・ジョンソン?):パッサメッゾ・モデルノ 2:42 
Anonymous (John Johnson?): [Passamezzo Moderno] [lute duet] 
13.作者不詳(ジョン・ジョンソン?):緑のガーター 2:38 
Anonymous (John Johnson?): Green Garters [violin and consort] 
14.作者不詳:運命はわが敵 5:48 
Anonymous: Fortune my Foe [voice, pandora, lute] 
15.フィリッポ・アッツァイオロ:この道を通る者 2:45 
Fillippo Azzaiolo: Chi passa per 'sta strada [voices, lutes, violin] 
16.作者不詳:すてきで優しいロビン 2:57 
Anonymous: Bonny Sweet Robin [lyra-viol] 
17.作者不詳:ギリムのダンプ 1:53 
Anonymous: Guillims Dumpe [lyra-viol] 
18.作者不詳:おお死よ、わたしを揺って眠らせて 4:32 
Anonymous: O Deathe, rock me a sleepe [voice and lute] 
19.クレメント・ウッドコック:わがいとしのブラウニング 2:11 
Clement Woodcocke: Browning my dere [recorders] 
20.クレメント・ウッドコック:乗用馬 1:18 
Clement Woodcocke: Hackney [recorders] 
21.作者不詳:ウィロビー卿の帰郷 5:42 
Anonymous: My Lord Willoughbies Welcome Home [voice and consort] 
22.トマス・キャンピオン(?):もし1日が 2:43 
Thomas Campion (?): What if a Day [flute and lyra-viol] 
23.作者不詳(ジョン・ジョンソン?):グリーン・スリーヴス 4:37 
Anonymous (John Johnson?): Green Sleeves [consort] 
24.作者不詳:グリムストック 1:30 
Anonymous: Grimstock [consort] 


ザ・ミュージシャンズ・オブ・スワン・アリ 
The Musicians of Swanne Alley 
ライル・ノルドストロム、ポール・オデット(音楽監督) 
Lyle Nordstrom and Paul O'Dette, directors 

David Douglass: violin, recorder 
Lyle Nordstrom: pandora, lute, recorder 
Patricia Adams Nordtrom: cittern, recorder 
Paul O'Dette: lutes, cittern 
Christel Thielmann: viol, lyra-viol, recorder 
Emily Van Evera: soprano flute, recorders 

The consort consists of violin, flute or recorder, lute, bass viol, cittern and pandora. 


録音:1988年5月~6月 ハバーダッシャーズ・アスクス・スクール、ハートフォードシャイヤー、イギリス 

Produer: Martin Compton 
Balance Engineer: Anthony Howell 
Executive Producer: Simon Foster 
Recording: Haberdashers' Aske's School, Hertfordshire, May-June 1988 
Cover: detail from *A Fete at Bermondsey* by Joris Hoefnagel 
Booklet Back: Swanne Alley 
Design: Roger Hammond (cover); Mantis Studio, London 


「Originale」シリーズ・マスター制作:杉本一家(JVCマスタリングセンター) 


◆高久桂による解説より◆ 

「街中では耳なじみの旋律にのせて、当世最新の出来事について、また色恋や友情その他さまざまな主題について歌が歌われ、それがバラッドとして知られた。これはちょうど瓦版のように、歌詞と木版画とがセットになった一枚刷りとして売られたことからブロードサイド(大判の片面刷り)・バラッドと呼ばれる。多くの場合楽譜はついておらず、「~の旋律で」という指示のみがついている。(中略)バラッドは内容が低俗であるとしてピューリタンや上流階級の人々から攻撃の的にもなったが、そのように多方面から非難の的となったことが反面その流行を証しているともいえよう。」
「リラ・ヴァイオル独奏による[16]《すてきで優しいロビン》とパンドーラ独奏による[8]《すてきで優しい少年》、さらにリュートとヴァイオルの重奏で演奏される[11]《ロビンは緑の森に行ってしまった》は元々同じ旋律によるものであるが、まるで違った趣の曲となっている。この同じ旋律を用いてダウランドなど当代一流の作曲家も曲を書いており、この時代ほど大衆文化と芸術が相互に密接に結びついていた時代はないと言われる所以でもある。
 《すてきで優しいロビン》は広く知られ、シェイクスピアも『リア王』や『ハムレット』においてこのバラッドに言及している。この時代の演劇においては大規模な舞台装置がないことから、場面転換のためにも音楽が重要であり、実際に劇中でバラッドが歌われることも多かった。」
「バラッドの旋律はイングランドのものに限ったものではなく、[15]《この道を通る者》は1557年にフィリッポ・アッツァイオロによってイタリアで出版された曲集に含まれるものだが、1587年にイングランドで出版された『掌中の悦楽』の中に「キパシエの旋律」として言及されている。『掌中の悦楽』は当時最新の旋律にのせて歌うためのソネットを中心とした詩文集で、その中には現在に至るまで広く知られている《グリーン・スリーヴス》も含まれている。」
「旋律と主題とは常に結びついていたというわけでもなく、非常によく知られた[5]《パギントンのポンド》は16世紀末から18世紀のあいだに100近くもの異なったバラッドの旋律として用いられた。(中略)バラッドの同じ旋律がしばしば異なった名前を持つのは、よく知られた旋律に新しくつけられたバラッドが人気になると、もとの旋律がバラッドのタイトルで呼ばれるようになるなどしてゆくためでもあるのだ。」
「演奏している「ザ・ミュージシャンズ・オブ・スワン・アリ」は、リュート奏者ライル・ノルドストロムとポール・オデットの共同で1976年に設立された。名前は16世紀に実在したアンサンブルからとられている。メンバーは各人が歌と様々な楽器を受け持つという、芸達者ぶりをみせており、ヴァイオリン、フルート、シターン、パンドーラと低音ヴィオールなど、ユニークな楽器の組み合わせの伴奏によって歌われているのも特徴的。これらの曲は不完全な形であったり、紛失してしまっているが、ライル・ノルドストロムによって補筆、復元され現代に蘇らせている。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全24頁)にトラックリスト&クレジット、高久桂による解説(2015年9月)、歌詞(英語)&日本語訳(伊藤はるな)、モノクロ図版1点、裏表紙にカラー図版(アーティスト写真)1点。

#5、8、10、14、15、18、21は歌入りです。

★★★★★ 


Nuttmigs and Ginger


O Deathe, Rock Me a Sleepe


「O Deathe, rock me as sleepe, 
おお死よ、わたしを優しく揺らがせて眠らせてください、
Bringe me to quiet rest; 
わたしを静かな休息につかせてください。
Let passe my weary giltless ghost 
疲れてメッキのはがれたようなわたしの霊を 
Out of my carefull brest. 
わたしの大切な胸から運び出してください。
Tole on thow passinge bell, 
追悼の鐘を鳴らして、
Ringe out my dolefull knell, 
悲しげな響きをわたしのために流して、
Lett thy sound my deathe tell, 
その音がわたしの死を告げ知らせるように。
For I must dye, 
わたしは死ななくてはならない、
There is no remedye, 
救う方法はない、
For nowe I dye. 
今やわたしは死ぬのだ。

Farewell my pleasures past, 
さらば、わたしの幸せの過去よ、
Welcome my present pain! 
よろしく、わたしの現実の苦悩よ。
I feel my torment so increase 
わたしの苦悩があまりにも大きくなったことで、
That life cannot remain. 
生命さえ居残る余地もなくなってしまった。
Cease now then, passing bell, 
止めよう、今やもう、追悼の鐘よ、
Ring out my doleful knell, 
悲しげな響きをわたしのために流して、
For thou my death dost tell. 
わたしの死を告げてください。
Lord, pity thou my soul. 
主よ、わたしの魂を哀れんでください。
Death doth draw nigh; 
死は近くまで忍び寄って来た。
Sound dolefully, 
悲しげに響け、
For now I die. 
今やわたしは死ぬのだ。」