イヴ・モンタン
『ジャック・プレヴェールを歌う』
Yves Montand
chante
Jacques Prévert
CD: Philips
発売:日本フォノグラム株式会社
販売:株式会社 新星堂
シリーズ:EGR 名盤復刻
EGR-1001
税込定価¥2,000/税抜価格¥1,942
Made in Japan
帯文:
「ジャック・プレヴェールの作詩にジョゼフ・コスマの作曲。パリ庶民がこよなく愛した最高のコンビの作品を、黄金期のモンタンが唄う。」
1.枯葉
Les feuilles mortes
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
2.ブロードウェイの靴みがき
Les cireurs de souliers de Broadway
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Henri Crolla
3.シャンソン
Chanson
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
4.私の家で
Dans ma maison
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
5.学校の帰りに
En sortant de l'école
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
6.誰かノックしている
On frappe
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
7.夜のパリ
Paris at night
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
8.こわれた鏡
Le miroir brisé
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
9.庭
Le jardin
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
10.誰か
Quelqu'un
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Christiane Verger
11.筆算紙
Page d'ecriture
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
12.バルバラの唄
Barbara
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
13.寓話
Fable
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
14.愛する子ら
Les enfants qui s'aiment
Paroles de Jacques Prévert. Musique de Joseph Kosma
唄) イヴ・モンタン
「※このディスクはアナログ録音されたものです。したがってマスター・テープそのものに雑音が混入している場合があります。ご了承下さい。」
「このディスクはアナログ録音されたものです。したがってテープ・ヒス・ノイズ、さらにマスターの老朽化により発生する歪み、エコー成分等のマスター・テープそのものに存在する雑音が入っている場合があります。ご了承下さい。
(1992. 10. 3)」
◆蘆原英了による解説より◆
「このレコードはごく新しいものだが、たいへんすぐれた高級なものである。われわれに馴染みの深いイヴ・モンタンが、すぐれた詩人ジャック・プレヴェールの詩を歌っている。(中略)そうしてその作曲にはジョゼフ・コスマがあたっている。コスマという名前を聞けば、すぐ‟枯葉”を思い浮べられるであろうが、‟枯葉”は実にプレヴェールとコスマのコンビの最大傑作である。コスマのほかに二曲だけ、別の作曲家が節づけしたものが、このレコードに入っている。」
「ジャック・プレヴェールは1900年、パリ郊外ヌーイ・シュール・セーヌに生れた、父親はブルトン出身、母親はオーヴェルニュ出身で、パリで育った。20才の頃から詩を書きはじめ、映画のシナリオを描いたり、絵を描いたりもした。」
「今度の大戦中、彼の詩は地下で、みんなに筆写されつつ、非常に広範囲にひろまった。それは戦争に反対であり、権力に反抗し、不平を爆発しているからである。」
「終戦後の1946年、彼の第一詩集‟パロール”が出版されると、待っていましたとばかり読者がとびつき、版を重ねても重ねても売りきれるという始末であった。現在では百万部以上でているらしいが、詩集がこんなに売れたという例も珍しい。
プレヴェールの詩は、それでいて低俗などというものとは、まったく縁がない。庶民的であり、庶民の共感をよびながら、しかも卑俗でないところが、すぐれている。わかりやすく、容易でありながら、突如、超現実の世界に舞いあがって、びっくりさせる。
プレヴェールの詩を最初に作曲したのは、クリスチャンヌ・ヴェルジュという女流作曲家だが、コスマが彼の詩に作曲しだしたのは1933年の頃からである。以来、コスマとプレヴェールのコンビは今日尚つづき、名コンビとして知られるようになったわけだが、この二人のコンビが決定的に成功したのは、何といっても‟枯葉”以来である。」
「ジョゼフ・コスマは1905年にブダペストに生れたハンガリー人であるが、故国の音楽学校を卆業して、33年にパリへやってきた。ハンガリーで映画音楽を書いていたが、パリへきても、すぐ映画音楽に職を求めようとした。そしてたまたま映画にも興味を示していたプレヴェールに撮影所で逢い、彼の作品のいくつかに作曲した。(中略)そして出来た唄は、マリアンヌ・オスワルドとかアニエス・キャプリたちが創唱した。」
「このレコードの唄は、主としてプレヴェールの処女詩集‟パロール”の中の詩に節づけしたもので、すべて1940年代の後半の作品ばかりである。」
◆本CDについて◆
ブックレット(二つ折り)内側はブランク。投げ込み1(16頁折り)にトラックリスト、蘆原英了による解説(「この解説はLPレコード発売当時の解説書より転載したものです。」)、歌詞(仏文)、写真図版(モノクロ)1点。投げ込み2(十字折り)に歌詞日本語訳(訳詞:鳥取絹子)。
オリジナルLPリリースは1962年(ステレオ)。主にジャズ・バンドの伴奏で歌っています。
★★★★★
Page d'ecriture
「Deux et deux quatre
2と2は4
quatre et quatre huit
4と4は8
huit et huit font seize...
8と8は16…
Répétez! dit le maître
はい、繰り返して! と先生
Deux et deux quatre
2と2は4
quatre et quatre huit
4と4は8
huit et huit font seize.
8と8は16
Mais voilà l'oiseau-lyre
ところがその時、琴鳥が
qui passe dans le ciel
空を飛んで行く
l'enfant le voit
子供がそれを見つけ
l'enfant l'entend
歌声を聞き
l'enfant l'appelle:
声をかける
Sauve-moi
僕を助けて
joue avec moi
一緒に遊ぼうよ
oiseau!
小鳥さん!
Alors l'oiseau descend
そこで鳥は下へ舞い降り
et joue avec l'enfant
子供と一緒に遊ぶ
Deux et deux quatre...
2と2は4…
Répétez! dit le maître
繰り返して! と先生
et l'enfant joue
しかし子供は遊びに夢中
l'oiseau joue avec lui...
鳥も子供と遊び…
Quatre et quatre huit
4と4は8
huit et huit font seize
8と8は16
et seize et seize qu'est-ce qu'ils font?
で、16と16はいくつ?
Ils ne font rien seize et seize
さぁわからない、16と16は
et surtout pas trente-deux
32でないことだけは確かだけど
de toute façon
とにかく
et ils s'en vont.
わけわからない
Et l'enfant a caché l'oiseau
子供は鳥を
dans son pupitre
机の中に隠したが
et tous les enfants
子供達全員
entendent sa chanson
鳥の歌を聞き
et tous les enfants
子供達全員
entendent la musique
その音楽を聞く
et huit et huit à leur tour s'en vont
8と8は、誰に聞いてもわからない
et quatre et quatre et deux et deux
4と4、2と2
à leur tour fichent le camp
誰に聞いても数字がどこかへ逃げていき
et un et un ne font ni une ni deux
1は、1でも2でもなく
un à un s'en vont également.
順番に、全員わからなくなる
Et l'oiseau-lyre joue
琴鳥は遊び
et l'enfant chante
子供は歌い
et le professeur crie:
教師が叫ぶ
Quand vous aurez fini de faire le pitre!
何時になったら悪ふざけをやめるのですか!
Mais tous les autres enfants
しかし他の子供達も全員
écoutent la musique
鳥の歌を聞いている
et les murs de la classe
そして教室の壁が
s'écroulent tranquillement.
静かに崩れ落ち
Et les vitres redeviennent sable
窓ガラスはもとの砂になり
l'encre redevient eau
インクはもとの水になり
les pupitres redeviennent arbres
机はもとの木になり
la craie redevient falaise
チョークはもとの断崖になり
le porte-plume redevient oiseau.
ペン軸はもとの鳥になる」
Quelqu'un
Barbara
「筆算紙(Page d'ecriture)」は学級崩壊の歌ですが、学級崩壊というとなにかよくないことのように思われるかもしれませんが、プレヴェールの詩では学校は子どもにとって鳥籠や動物園の檻のようなもので、自由を奪い、子どもを大人(社会人)に加工して禀質を歪めてしまう悪所なので、学級は崩壊すべきであり、学校でつめこまれた知識は忘れられるべきであり、インクは水に、机は木に、羽ペンは鳥に、子どもは教育される前の状態に戻るべきである、ということになります。
「誰か(Quelqu'un)」は、デュコン(Ducon)という名(du(~の)+con(ばか)で「うまれつきのばか」といったような意味)ゆえに人からばかにされて悲しんでいる男が、「紳士録」には「デュコン」という名前は載っていない、デュコンという名の人間は自分しかいない、ということを発見し、それはそれでかけがえのない自分の個性であると気づいて誇りをもつ、「これでいいのだ」、という歌です。
「バルバラ(Barbara)」は、第二次大戦後にブルターニュの港町ブレストを訪れた語り手が、戦争前のある日この町で見かけた幸福そうな恋人たち(男が女に「バルバラ」と呼びかけるのを語り手は耳にしました)のことを、ふと思い出し、あの恋人たちはその後どうなったのか(ブレストは「フランス海軍最大の軍港であり、第二次世界大戦中はフランスを占領したドイツの潜水艦基地となった。このため連合軍の空襲を受けて町は破壊され、戦後は1960年頃まで町の復興が続いた。」ウィキペディアより)を思いめぐらすという詩で、「Quelle connerie la guerre(戦争とはなんという愚行だろう)」という一行が詩の要になっています。「交通戦争」や「受験戦争」というのもありましたが、平和を標榜しつつ軍備を拡張するというのも、ばかげた行為(con-nerie)としかいいようがないです。
学校に馴染めないとか、うまれつき変わり者であるがゆえにいじめられるとかは自分がわるいのではなくて社会のあり方がまちがっているのだ、社会のほうがばか(con)なのだ、ということをプレヴェールはラディカルに歌っていて、それゆえに多数派によってつねに虐げられてきた変わり者たちがこぞってプレヴェールの詩集に「とびついた」、といってよいです。