幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

ピーター・ブレグヴァド&アンディ・パートリッジ  『オルフェウス』

ピーター・ブレグヴァド&アンディ・パートリッジ 
オルフェウス』 

Peter Blegvad & Andy Partridge 
Orpheus 
The Lowdown 


CD: 株式会社ポニー キャニオン 
PCCY-01676 (2003年) 
定価¥2,548(税抜価格¥2,427) 

 


帯文:

XTCのアンディ・パートリッジと、SLAPP HAPPYのピーター・ブレグヴァドによる、
音楽とポエトリー・リーディングとアートワークのコラボレーション・アルバム。」
「日本盤のみ、アンディとピーターによる序文(+対訳)収録。」


1. Savannah 
サヴァンナ 
2. Brown-Out On Olympus 
オリンポスの夕暮れ 
3. The Blimp Poet 
気球の詩人 
4. Night Of The Comet 
彗星の夕べ 
5. Necessary Shadows [George Steiner] 
ネセサリー・シャドウズ 
6. Galveston 
ガルヴェストン 
7. Beetle 
ビートル 
8. Heartcall 
ハートコール 
9. Noun Verbs 
名動詞 
10. Eurydice [after RILKE] 
エウリディーケ 
11. Divine Blood 
神血 
12. Steel Bed 
鉄のベッド 


Voices and instruments by Peter Blegvad. 
Instruments and voices by Andy Partridge. 
Recorded between 1990 and 2003 in the shed, Swindon. 
Words by Peter Blegvad. 
Recorded and mixed by Andy Partridge. 
Extra musical assistance: Drums on tracks 2, 6, 11 and 12 by Ralph Salmins. 
recorded by Haydn Bendall at Abbey Road Studios, London. 
Choral voices on track 10 by Erica Wexler. 
Disc mastered by Ian Cooper at Metropolis Mastering, London. 
Sleeve and book art by Peter Blegvad and Andy Partridge. 
Layout by Andrew Swainson. 
Portrait photo by Steve Somerset. 


◆本CDについて◆ 

やや厚めのジュエルケース(12mm厚)入り。ブックレット(全32頁)にトラックリスト&クレジット、歌詞(その他)、Peter Blegvadによるイラスト(モノクロ)12点、写真図版(モノクロ)1点。投げ込み(巻き三つ折りクロス二つ折り)にトラックリスト、ピーター・ブレグヴァドとアンディ・パートリッジによる序文(英語原文と日本語訳)、歌詞日本語訳(染谷和美)。

UKオリジナル盤は縦長デジパック仕様でリリースされました(Ape House/APECD 005)。日本盤はブレグヴァド&パートリッジのメッセージ(序文)が付いていて有難いですが、日本語訳はよくわからないので、ピーター・ブレグヴァドの分を原文から意訳しておきます。

「『オルフェウス』は基本的に怪談(a ghost story)なので、暗がりで聴かれるべきだ。

リスナーが
・愛と喪失を体験している。
・詩人か音楽家か芸術家である。
・親しい人と死別するか、何らかの欠落感を抱いている。
・死んでいるか、あるいはまだ生まれていない。
・ユーモア感覚を失っていない。
のであれば、主人公に自分を重ね合わせることが容易になるだろう。

リスナーがこの作品の元になっているギリシャの伝説に馴染みがないとしたら? ヴァレリーのいうように「無知は測り知れない価値をもつ宝物で、どんな些細な無知でさえ手離すべきではないのに、人々はそれを浪費して憚らない」。リスナーがオルフェウスについて何も知らなければ、作者が思いもよらなかった鑑賞法が可能になるわけで、それは一つの特権として尊重しなくてはならない。とはいえ、無知を浪費するのを好むリスナーのために、この伝説のあらすじを述べておくのも悪くないだろう。

オルフェウスはアポロとカリオペの子で、その言葉と音楽によって野獣を手なずけ、木々をも揺るがし、石をも溶かす名高い歌手であった。花嫁エウリディケが殺害されると、エウリディケを生き返らせるべくオルフェウスは地獄へと降りて行った。その歌によって説き伏せられた冥界の王と王女はエウリディケを連れて帰ることを許す。ただし地上に戻るまでの間、エウリディケの存在を目で確認しようとしてはならない、エウリディケは自分についてきているのだとひたすら信じなければならない、という条件で。しかし帰りの長い坂道でオルフェウスは疑心暗鬼に駆られる。耳を澄ましても気配がない。もしや騙されたのでは? 辛抱できずに振り返って目にしたのは彼の方に手を差し伸べながら地獄に吸い込まれていくエウリディケの姿であった。地獄からひとり戻ったオルフェウスは、悲しみに打ちひしがれ、失ったものを嘆きつつ荒野をうろつくのであった。最後にはディオニュソスの女性信奉者マイナスたちによって体をバラバラに引き裂かれ、その頭は竪琴に乗せられ河に流され海に達し、いまだに歌っている。

オルフェウス』には11年かかった。アンディとの共同作業の時間があまり取れなかったからで、作業自体は楽しくスムーズなものだった。バラバラにされたオルフェウスの体のように、この作品も断片の寄せ集めであるが、創作物としての統一性は保っているといっていいだろう。それは神話そのものがもつ力ゆえであり、エズラ・パウンドがいうように、神話や伝説というのは「つねに新鮮なニュース(news that stays news)」なのである。」

ところでアンディ・パートリッジによると本作は「耳のための映画(a kind of film for the ears)」ですが、ブックレットには、

「IT'S A STORY IN WHICH HEARING IS THE HERO 
AND VISION IS THE VILLAIN. 
HENCE ITS APPEAL TO THOSE 
WHO RATE THE EAR 
HIGHER THAN THE EYE.

IF ONLY HE HADN'T OF LOOKED. 
IF ONLY HE'D A LISTENED.

(この物語では聴覚が主人公で
視覚は悪役だ。
それゆえ目よりも
耳を高く評価する人向きだ。

オルフェウスも聴くだけにして、
視たりしなければよかったのだ。)」

とあります。

★★★★☆


Steel Bed