ヘンリー・カウ
アンレスト
Henry Cow
Unrest
LP: Virgin
発売元:ビクター音楽産業株式会社
第3期ヴァージン・オリジナル・シリーズ ①
VIP-4096 (1981年)
¥2,000 [完全予約限定盤]
[STEREO 33 1/3]
Made in Japan by Victor Musical Industries, Inc. Licensed by Virgin Records Ltd., England ℗81Ⓚ

帯文:
「あらゆる音楽概念の創造的結合を志向したヘンリー・カウが74年に発表した歴史的名盤。
〝存在の不安〟をテーマにしたこの作品は、ユーロ・プログレッシヴ・ロックの原点といえよう。」
アンレスト
ヘンリー・カウ
UNRESST/HENRY COW
SIDE 1
1.ビターン・ストーム・オーヴァー・ウルム
BITTERN STORM OVER ULM
2.ハーフ・アスリープ・ハーフ・アウェイク
HALF ASLEEP; HALF AWAKE
3.ルインズ
RUINS
SIDE 2
1.ソレム・ミュージック
SOLEMN MUSIC
2.リンガフォニー
LINGUAPHONIE
3.アポン・エンターリング・ザ・ホテル・アドロン
UPON ENTERING THE HOTEL ADLON
4.アーケーズ
ARCADES
5.デルージ
DELUGE
Produced by Henry Cow
Timing:
Side 1 ①2:15 ②7:59 ③12:05
Side 2 ①②6:39 ③3:00 ④⑤7:21
HENRY COW
UNREST
I
Bittern Storm over Ulm (Frith 2.44)
Half asleep; Half awake (Greaves 7.39)
Ruins (Frith 12.00)
II
Solemn Music (Frith 1.09)
Linguaphonie (H. Cow 5.58)
Upon entering the Hotel Adlon (H. Cow 2.56)
Arcades (H. Cow 1.50)
Deluge (H. Cow 5.52)
Tim Hodgkinson: organ, alto sax, clarinet, piano.
Fred Frith: stereo guitar, violin, xylophone, piano.
John Greaves: bass, piano, voice
Chris Cutler: drums.
Lindsay Cooper: bassoon, oboe, recorder, voice.
Recording engineers: Phil Becque with Andy Morris;
parts of Ruins by Mike Oldfield.
Mixing engineers: Side 1, Phil Becque: Side 2, Henry Cow.
Certain vocals and engineering assistance by Charles Fletcher.
All the sounds were made with the instruments listed above; however, in parts of Ruins and Linguaphonie, the bassoon, alto, voice and drums were recorded at half or double speed.
Cover paintings and inside photograph by Ray Smith.
Cover paintings photographed by Anne Lamberty.
Bittern Storm over Ulm acknowledges its debt to O. Rasputin's 'Got to Hurry' by the Yardbirds.
For many things other than the record we would like to thank Charles Fletcher, Jack Balchin, D.J. Perry, Ray Smith, Lol Coxhill, Henk Weltevreden and Geoff Leigh.
Recorded at the Manor Feb./Mar. 1974.
Produced by Cow and dedicated to Robert Wyatt and Uli Trepte.
◆クリス・カトラーによる「「アンレスト」に関するノート」(訳:永山敬子)より◆
「『アンレスト』は、1974年の凍りつくような寒い冬、オックスフォードのマナー・スタジオで録音された。当時、私たちは比較的成功を収めたことで、それに関わる問題やプレッシャーも少なくなかったが、とくにこの時はオランダ・ツアーの直後だったために心身とも、へとへとだった。ファウストとのツアーを終え、ロンドンでシェークスピア劇『テンペスト』の音楽を担当し、相当量のコンサートを消化しながら録音に入ったわけだ。
私たちのコンサートは、つねに “特別なイベント” にするための新しい曲をつくったり、周到な準備をして臨まなくてはならず、ひとつひとつ、ユニークで違った結果をつくり出すための努力を惜しまなかった。しかし、それでもある時、毎晩のように似たようなことをやっている自分に気がついた。自分自身であることを妨害し、バランスを壊している私たちを発見したのだ。過剰なビジネスに対する反省から、とても落ち着かない日々が続いていた。
オランダから帰ると、ジョフ・レイが脱退した。後任は探さず、4人でやってゆくことに決めたが、結果的にリンゼイ・クーパーに参加を依頼することになった。彼女は、自らの自主性、強靭さ、テクニックをもって多くの珍しい楽器を演奏する。それに対等のパートナーとしての女の子の参加は以前からの希望でもあったので、皆とても発奮した。新しいラインアップ用の曲が次々と作曲され、1日12時間以上のリハーサルを、メンバーのひとりの家の裏にある冷蔵用倉庫で行った。でも、私たちはひどく貧しく、部屋の暖房もお金のもらえる職もなく、またリンゼイは、レコーディングに入る4日前に4本の歯を抜かねばならず、といった苦しいことや辛いこともいっぱいあった。
レコーディングはサイド1から開始された。こちらは、完全に作曲された曲を演奏することに決めてあった。しかし、テクニック的な問題からスムーズにはいかず、録音中にまで練習するというあり様だった。(中略)でもこの時は「最上のものを引き出せるだろう」という確信が胸の内にはあった。
サイド2に関しては、冒険はうまくいった。それは、スタジオにいて、その進行と同時に曲をつくってゆく試みだった。全体的な構想に基づき、インプロヴァイゼーションやコンポジション、さらにテープ・ワーク(編集、速度変更、テープループetc)を混ぜ合わせて音楽を発展させるという、意識的な試みがサイド2での主たる方法だ。たとえば、「リンガフォニー」では即興演奏のいくつかのテープが、注意深く一貫性の構築をめざしてつなぎ合わされている。そしてそれを再び聴きディスカッションする。音楽の《内容》を見つけようとしたのだ。私たちが引き出せるはずのメッセージと意味を。(中略)我々がインプロヴァイズし、基本となる素材をつくる際、最も過敏になるべきことは、自分たちが何を《言い得る》のかを見つけ出すことだ。それはとても暗い雰囲気で進められ、進行につれて精神の中ではすべてがまとまっていったが、自分たちの《真実》に従うための道の苦しさもいやというほど味わった。
「アポン・エンターリング・ザ・ホテル・アドロン」では、大戦前のドイツ・ナチ “ハイソサエティ” の溜まり場へ入っていった。殺人者が通りを闊歩するように、踊り、シャンペンを飲みほし、戦争を飽くことのない亡霊をたてまつる絶望的な怪物たちがいる。
「アーケーズ」では、しばし夜の冷気の中に踏み込んだ。雨が降り、シュッと音を立てる黄色いランプ、街が濡れてキラキラ光っている。一晩中、悪夢が眠りの中にちらついた。それでもそれは何か平和の前兆に思えた。
「デルージ」は、50秒間のドラム、ギター、ベースをワン・サイクルのループにし、16トラックで4分間録音した。ギターとサキソフォンをダビングし、サイド1の「ルインズ」の最後のメロディーを半分のスピードでリフレインした。そしてハーモニーと、妥協できないほど静かで悲しげなメロディーを見つけ、ぎくっとするようなリズムの奇妙さを加えた。最後のパートはジョンによって書かれた。音の世界は死んでいる。どしゃぶり、雷、破壊、荒涼がオーケストラの音の中に沈んでゆく。
小さな希望、それでも希望だ。この作品は私たちにとって大変重要な意味をもった。1日17時間に及ぶ作業は苦痛以外の何物でもなかったが、我々――このバラバラで短気で、うつろいやすく、半日たっても何も生めない集合体――は、軋轢(あつれき)とストレスに満たされながらも、自分たちが実存的な時代の精神と真実への努力に近づいたと思っている。
私たちはハッピーにはなれず、スタジオから不安な気持ちで出た。気分はまったく晴れなかった。しかし、後になって多くの人々が何を感じたかを知り、自分たちの疎外感や不満が、音楽によって客観化され得たことに満足した。
ヘンリー・カウは、仕事の上で面と向かってはコミュニケイトし得ないものを相互的にコミュニケイトしてきた。また、自己破壊的エネルギーを美化し、そしてある程度まで、その行為に対する恐れを克服してきた。――あるいは、自分たち自身の絶望を何かクリエイティヴなものに変えた。私は願っている。これらの努力がいまだに有益であらんことを。」
◆北村昌士による解説より◆
「ヘンリー・カウが、1974年に発表したセカンド・アルバム『アンレスト』、これは、現在までカウによってリリースされた全作品の中でも、とりわけその比類ないインストルメンタル・プレイを、パフォーマンスの主軸に置いていた、いわゆる《第一期》と呼ばれた時期の最高傑作として名高いアルバムである。」
「『アンレスト』は、1曲目のフレッド・フリスのギターをフィーチャーした「ビターン・ストーム・オーヴァー・ウルム」より幕を開ける。ヤードバーズの曲「Got To Hurry」のフォルムを借用した旨が内ジャケットに記されているが、複合リズムを用いたバックのアンサンブルの反復と、巧みにスケールを変化させて非ロック的なアドリブを展開するフリスのコンビネーションは絶妙である。続くベーシスト、ジョン・グリーヴスの曲「ハーフ・アスリープ・ハーフ・アウェイク」は、フリーなビート展開の上を、女性木管奏者リンゼイ・クーパーの素晴らしいソロが駆け抜ける中間部に、カウの本領が発揮されている。そして1面の最終曲「ルインズ」は、このアルバム中最大の構成力を持った大作だ。リズムの概念を粉々に破壊し、随所にトーン・クラスターや12音技法、ノイズなどの意識的なメタ・エレメンツを組み込み、さらにオーボエ&バスーンとフリスのヴァイオリンのオーガニックな即興が、ヨーロッパ近代文化の死を情景的に暗示してゆくというメタフィジカルな試みは、このアルバムのテーマとリアルに呼応して壮大な空間を築き上げている。2面に移ると、その方法論はさらに激化した形で提示される。ほとんどは非コンポジションを基調にした、メンバーの自由なインプロヴァイゼーションによって展開されていて、クリス・カトラーのアナーキーなパーカッション・ワーク、リンゼイ・クーパーのアーティスティックで室内楽的な木管の音色、フレッド・フリスの恐るべきヴォルテイジを秘めた表情豊かなギター、フリー・ジャズの色濃いティム・ホジキンソンのホーンとサティのようなピアノが、素晴らしい密度で一体化した創造的ダイナミズムに溢れた演奏を繰り広げている。まるでマーラーかシェーンベルクを想わせる、重厚でやるせない弦の響きが怒濤のように押し寄せるクライマックスに、ロバート・ワイアットのごときふりしぼるような唱法を聴かせるジョン・グリーヴスも、パターンにとらわれないセンシティヴでダイナミックなベースを披露してくれている。リズムとかビートとかという考え方では理解できない、いうなればある特殊な時間概念に統括された、西欧的なるものと非西欧的なるものの融合と対立、さらには音楽の形式をめぐってさまざまに階層化し分断されていた精神の系譜、そうした数知れぬ物的・社会的・生物的な要素と状況を、洗練された感性のもとで再組織化し、ポジティヴなエナジーへと変換しようとするヘンリー・カウの意志は、このアルバムでも見事なまでに昇華され尽しているといえるだろう。」
◆本LPについて◆
A式見開きジャケット、中ジャケにトラックリスト&クレジット。投げ込みライナー(片面印刷)にトラックリスト、クリス・カトラー「「アンレスト」に関するノート」(1981年1月/訳:永山敬子)、北村昌士による解説「不安(unrest)と実在のはざま」(1981年1月/「Special Thanks To Chris Cutler For His "Unrest Note"」)。緑レーベル。
本LPの帯には「完全予約限定盤」とありますが、私は1982年1月5日に阿佐ヶ谷のレコード店で見かけて購入しました。店名は度忘れしてしまいましたが、小さな店舗ながら棚にはキングレコードの「ユーロピアン・ロック・コレクション」がずらりと並び、プログレの輸入盤も充実していて今思うとたいへんありがたい奇特なお店でした。