幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

ペンタングル 『ソロモンの封印』 

ペンタングル 『ソロモンの封印』 

THE PENTANGLE 
SOLOMON'S SEAL 


LP: Reprise Records 
発売元:ワーナー・パイオニア株式会社 
P-8272R 
¥2,300 
Made by Warner Pioneer Corporation, Japan, under license from Warner Bros. Records Inc., U.S.A. 
[33⅓ RPM/STEREO] 

 


帯文: 

「ブリティッシュ・フォークの最高峰。二人の驚異的ギタリストを中心に、トラディショナル音楽に現代の生命力を与える。
リプリーズ移籍第1弾最新アルバム」


SIDE 1 

1. サリーはのんき者 3:55 
Sally Free and Easy 
BERT: acoustic guitar and vocals 
JOHN: electric guitar 
DANNY: double bass 
TERRY: drums 
JACQUI: vocals 

2. チェリー・トゥリー・キャロル 2:57 
The Cherry Tree Carol 
BERT: acoustic guitar 
JOHN: acoustic guitar 
DANNY: double bass 
TERRY: drums 
JACQUI: vocals 

3. 雪 3:43 
The Snows 
BERT: acoustic guitar and vocals 
JOHN: sitar and recorder 
DANNY: double bass 
TERRY: drums 

4. 高地ドイツ 3:15 
High Germany 
BERT: acoutic guitar and banjo 
JOHN: electric guitar and recorder 
DANNY: double bass 
TERRY: drums 
JACQUI: vocals 

5. ハイウェイの人々 4:46 
People On The Highway 
BERT: acoutic guitar and vocals 
JOHN: electric guitar 
DANNY: double bass 
TERRY: drums and finger cymbals 
JACQUI: vocals 


SIDE 2 

1. ウィンズベリーのウィリー 6:50 
Willy O'Winsbury 
JOHN: acoutic guitar and recorder 
BERT: dulcimer 
DANNY: double bass 
JACQUI: vocals 

2. 愛は悲しみではなく 
No Love is Sorrow 
BERT: acoutic guitar and vocals 
JOHN: acoutic guitar 
DANNY: double bass 
TERRY: drums 
JACQUI: vocals 

3. ジャンプ・ベイビー・ジャンプ 3:10 
Jump Baby Jump 
BERT: acoutic guitar and vocals 
JOHN: electric guitar 
DANNY: double bass 
TERRY: drums 
JACQUI: vocals 

4. カーライルの貴婦人 4:41 
Lady of Carlisle 
JOHN: acoustic guitar, electric guitar and harmonica and vocal 
BERT: banjo 
DANNY: double bass 
TERRY: drums and vocals 
JACQUI: vocals 


RECORDED AT SOUND TECHNIQUES LONDON 
PRODUCED BY PENTANGLE AND JOHN WOOD 
ENGINEERED BY JOHN WOOD 
COVER DESIGNED BY CHRIS AYLIFFE 


◆三橋一夫による解説より◆

「ペンタングルがリプリーズに移籍して最初のアルバムができあがりました。かれらとしては通算6枚目のアルバムになります。」
「ペンタングルは、近代文明の捨子になった老人たちが伴奏楽器をもつゆとりもなく口ずさんでいた古い歌の数々を、アクースティック・ギターばかりでなくエレクトリック・ギターやシタールまで駆使して、まったく新しいいぶきを与えたイギリスのグループとして、ここ数年、人々の耳をそばだて、目を見はらせていました。」
「スティヴン・スティルスの歌のなかには、黒人囚人の歌のメロディを使っているものがあり、ニール・ヤングはしばしば海の孤独者である水夫の民謡のメロディをもとにサウンドを展開しています。キンクスもまた舟乗りの歌を借用しています。もはや文明は人間を殺す作用しかもたないのではないかと思われる現代に、原水爆やPCBをはじめどんな破壊力をもったものでも破壊しつくせない力を秘めている歌があることを、これらの例はものがたっています。その目を開かせてくれたのは、ペンタングル、フェアポート・コンヴェンション、スティールアイ・スパンなどの、イギリスの若いグループでした。
 懐古趣味の人には、これら新しいグループの音楽は、なんら民俗音楽ではなく聖堂を冒瀆するものと聞こえました。新しい世代を相手にしないでは商売ができない人たちは、古い素材が若者のあいだでよみがえっているという点でのみ高く評価しました。吉田拓郎の「イメージの詩」のことばを借りるならば、「古い舟を動かせるのは古い水夫じゃないだろう」ということに、まるっきり、気がつかないようでした。
 ペンタングルの背景にある音楽は、スコットランドならスコットランドだけという単一な音楽ではありません。日本でもひじょうに注目されるようになったバート・ジャンシュやジョン・レンボーンのギターをとりあげてみても、イングランドやスコットランドやアイルランドのトラディショナルだけでなく、アメリカのフォーク、カントリー、ブルースからクラシック・ギターにいたるまで、人類の音楽のエッセンスが備わっていることに気づかれるでしょう。そういった素材を駆使するだけのことなら、ほかにも人はいるでしょう。その華麗な素材に生命を与えているのはペンタングルの5人のメンバーの魂が実は、“NOW”に向って開かれているからにほかならないでしょう。」
「「アクースティック・ロック」に「エレクトリック・フォーク」ということばも使われることがあるほど、人類のもっとも人間的な音楽をよみがえらせたのはロックでした。(中略)ペンタングルの5角の星もソロモンの封印の6角形も、人類を支配してきたキリスト教のシンボルではなく、キリスト教に何千年かにわたって“敵”とみなされていた原始宗教ならびにその変型である魔法のシンボルでした。ペンタングルの音楽をつきつめていくならば、見たくないものは見ないという、死にたえた秩序にこだわる音楽ではなく、きびしくもまた楽しい“NOW”をきりひらく音楽の道を進んでいるといえるでしょう。」


◆本LPについて◆

A式シングル・ジャケット(テクスチャー)、裏ジャケにトラックリスト&クレジット。投げ込みライナー(4頁)にトラックリスト、三橋一夫による解説、歌詞(対訳:三橋一夫)。ちなみに、解説と対訳を担当している音楽評論家の三橋一夫は澁澤龍彦の小学校時代の同級生です。

オリジナルLPは1972年10月リリース。日本盤もほぼ同じ頃に出ていると思います。本LPは1980年代初頭に中古レコード店で購入しました。日本盤初回プレスは定価2,000円、本LPには「¥2,300」とあるのでたぶん1974年の再プレスです。いわゆるオイルショックで1974年以降物価が急上昇、LPの一般的な価格は1975年に2,500円になってその後しばらく定着しました。
本作は2025年にライヴやサウンド・トラック音源など未発表のものも含めて追加収録した2枚組デラックス版CDがCherry Redから出ていますが、実は私はアマゾンのアウトレットで「中古品 良い」「パッケージは破損します」というのがやや安く売られていたので、デジパックの外側に多少スレキズがあるくらいだろうと高をくくって注文してみたところ、スレキズのみならず角潰れ・破れ、内側のプラスチック製トレイの角の部分も粉々に砕けているという、見るも無残な状態のものが送られてきたので、さすがに返品しましたが、そのまえにちょっとだけ聴いてしまいました。ブックレットにもちょっとだけ目を通してしまいました。ジャッキー・マクシーの談話(当時の裏話)も掲載されていて興味深かったです。ジャッキーによるとペンタングルは「フォーク・ロック」ではなくて、ジャズのリズムに基いた実験的なバンドだった(「Pentangle was never a folk-rock band. We all liked to experiment. Having a jazz rhythm section was always what made Pentangle so different.」)ということですが、まさにその点こそがペンタングルの最大の魅力であり、またそれがペンタングルをトラッド・フォーク界の異端児にした要因でもあります。
各種CDリリースのリマスターについていうと、ワーナーがマスター・テープを紛失してしまったので、2003年のCastle盤はメンバーの家から見つかったオープン・リールを使用、2010年のユニバーサル盤は日本独自の盤起こし、2025年のCherry Red盤も状態の良いLPからの盤起こしです。Castle盤にもCherry Red盤にも歌詞は掲載されていませんが、ユニバーサル盤にはオリジナルLPの歌詞カードが再現されているので、どれか一枚というのであればユニバーサル盤がおすすめです。