幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

ムジカ・トランソニック ウィズ 灰野敬二 『臥床見神』

ムジカ・トランソニック ウィズ 灰野敬二
『臥床見神』 
Musica Transonic with Haino Keiji 
Incubation


CD: モダーン・ミュージック/PSFレコード 
PSFD-98 (1998年) 
¥2,800(税抜) 

 

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1. ΔΑΙMONIA 
2. ΠOIEŌ
3. INXYBATION - ταυτα 
4. INXYBATION - νορδεν 
5. INXYBATION - αγνοστοσ τηεοσ
6. ΓΕΛOIOΣ
7. TOΠOΣ


★MUSICA TRANSONIC★ 
南條麻人 (bass) 
Nanjo Asahito
川端一 (guitar) 
Kawabata Makoto
吉田達也 (drums) 
Yoshida Tatsuya

灰野敬二 (vocal, guitar) 
Haino Keiji 

Music by Musica Transonic, Haino Keiji
Recorded at Studio K・S 
Mixed by Kawabata Makoto
Mastered at La Musica Studio
Art directed by Kawabata Makoto & Sachiko
Produced by Nanjo Asahito


◆本CDについて◆ 

透明ジュエルケース。4頁ブックレット。収録時間32分19秒。

ムジカ・トランソニックはハイ・ライズの南條麻人、アシッド・マザーズ・テンプルの川端一、ルインズ/YBO²の吉田達也による即興ロックの「スーパーグループ」で、本作以前に『ムジカ・トランソニック登場』(1995年、PSFD-61)、『栄光のムジカ・トランソニック』(1996年、PSFD-76)、『ムジカ・トランソニックの世界』(1997年、PSFD-91)と、1960~70年代の洋楽LP邦題のパロディのようなタイトルのCDが三枚出ていて、全部ききましたが、第一印象は「音が割れまくっているな」でした(南條氏のバンドのCDはハイ・ライズを始めどれも音が割れていますが)。しかし本作は灰野氏がフィーチャーされているゆえか、音のひずみも抑えぎみで(南條氏のベースは歪みまくっていますが)、ききやすいです。
ギターが二本ですが、チョーキングやヴィヴラートを使ってややテクニカルな方(右チャンネル寄り)が川端氏でしょう。
灰野氏のヴォーカル(歌詞なしのヴォイス・パフォーマンス)はたいへんインテンシヴ(高濃度)ですばらしいです。
ムジカ・トランソニックの曲はなぜか全てタイトルがギリシア語ふうになっています。

★★★★★ 


Δαιμονια

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西郷信綱「夢殿」(『古代人と夢』所収)より: 

「incubation とは鳥が卵を抱いて孵化すること、巣ごもることで、夢を得んと聖所に忌みこもって眠ることをも、ギリシャ以来こう呼んでいる。」

ルフレッド・モーリー『魔術と占星術』(有田忠郎・浜文敏訳)より:  

「祭司たちは、神託を伝える者にあらかじめ長期間断食させたり、催眠薬あるいは麻酔薬を飲ませては、夢やまぼろしを誘っていたのである。
 そうしてみると、神託が長い間ほしいままにした信頼も、容易に納得される。その場合、当時のいわゆる incubation (神の宮に眠ること「臥床見神」の意)が行なわれていたのである。(中略)事実、奇蹟的な治癒が起こり、この信仰をゆるぎないものにした。そこで、アスクレピオス、イシス、セラピスなど、夢に現われて礼拝者たちに心を告げると言われていたあらゆる神々の寺院には、実際に霊地詣でが行なわれた。セラピスに伺いをたてるため、カノプスにある寺院を訪ねるひとびとは、睡眠中に神が現われるように、夜、寺院で眠った。(中略)「臥床見神」は、イシスの場合もやはり行なわれていた。エジプトやギリシアでは、この女神は、ティトリアから七十スタディオン離れたアスクレピオス・アルカゲトスの神殿近くの、彼女の至聖所に懇願に来る病人たちの夢の中に姿を現わすのだった。」