『シューベルト:歌曲集《美しき水車小屋の娘》』
フィッシャー=ディースカウ(br)、ムーア(pf)
DIETRICH FISCHER-DIESKAU
Schubert: Die schöne Müllerin
GERALD MOORE
CD: Deutsche Grammophon
発売:ポリドール株式会社
POCG-1131 (1990年)
税込定価¥2,500(税抜価格¥2,427)
Made in Japan
帯裏文:
「不世出の名バリトン=F・ディースカウ。彼はオペラ、リート、その他声楽作品において歌唱可能な作品すべてに完璧なテクニックを駆使し、的確ですばらしい表現と強い説得力を持った歌唱を実現させた。今世紀最大のバリトン。《美しき水車小屋の娘》は《冬の旅》と並びシューベルトのみならず歌曲集中の最高傑作ということが出来ます。全曲を通して流れる小川の描写、気分の統一も巧みに構成されており、F・ディースカウによる洗練された表現が魅力です。」
フランツ・シューベルト
FRANZ SCHUBERT (1797-1828)
歌曲集《美しき水車小屋の娘》 D795
Die Schöne Müllerin D795
ヴィルヘルム・ミュラーの詩による歌曲
Liederzyklus nach Gedichten von Wilhelm Müller
1.さすらい 2:31
Das Wandern
2.どこへ? 2:24
Wohin?
3.止まれ! 1:34
Halt!
4.小川に寄せる感謝の言葉 2:19
Danksagung an den Bach
5.仕事を終えた宵の集いで 2:36
Am Feierabend
6.知りたがる男 4:20
Der Neugierige
7.いらだち 2:47
Ungeduld
8.朝の挨拶 4:25
Morgengru
9.水車職人の花 3:18
Des Müllers Blumen
10.涙の雨 4:10
Tränenregen
11.僕のものだ! 2:18
Mein!
12.休息 4:26
Pause
13.緑色のリュートのリボンを手に 1:59
Mit dem grünen Lautenbande
14.狩人 1:12
Der Jäger
15.嫉妬と誇り 1:32
Eifersucht und Stolz
16.好きな色 3:50
Die liebe Farbe
17.邪悪な色 1:59
Die böse Farbe
18.枯れた花 3:37
Trockne Blumen
19.水車職人と小川 3:42
Der Müller und der Bach
20.小川の子守歌 6:21
Des Baches Wiegenlied
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
Dietrich Fischer-Dieskau, Bariton
ジェラルド・ムーア(ピアノ)
Gerald Moore, Piano
プロデューサー:Dr. エレン・ヒックマン
ディレクター:ライナー・ブロック
レコーディング・エンジニア:ハンス=ペーター・シュヴァイクマン
データ:1971年、1972年 ベルリン、Ufaスタジオ
解説書表紙:水彩画「野原」、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ画
◆石井不二雄による解説より◆
「主人公の青年は水車を用いて村人たちのために製粉をする職人であり、これまで修業してきた親方のもとを離れ、遍歴の旅に出たところである。遍歴は中世以来ヨーロッパのギルド制度の中で職人が一人前の親方になるために欠かせないひとつの過程で、ある親方に奉公して技術を身につけた職人が独立して自営するためには、旅に出て方々の土地でいろいろな親方の門を叩き、更に腕を磨くことが義務付けられていたのである。」
「物語の進行もほとんどすべて主人公の心の動きを通して、いわば独白による心理劇として語られる。(中略)主人公の孤独な心のつねに忠実な話相手となっているのは小川なのである。嬉しい時も悲しい時も、楽しい時も苦しい時も若者はつねに小川に語りかけ、小川も彼を慰め元気づける。そしてこの小川のせせらぎをシューベルトは終始ピアノの16分音符の細かい音の動きで表現し、その一貫した音楽的イメージによって歌曲集全体に抒情的な統一性を与えている。そしてはかない人間の運命を超越して永遠に流れつづける小川の単調なせせらぎを背景に、シューベルトは出来る限り劇的な表現は抑制し、もっぱら抒情的に忠実に青年のひたむきな心情の流れを追って音楽を作ったのである。」
◆本CDについて◆
ジュエルケース(黒トレイ)。インレイにカラー写真(フィッシャー=ディースカウ)1点。ブックレット(全28頁)にトラックリスト&クレジット、「作曲家と演奏家」(フィッシャー=ディースカウの言葉より)、解説(石井不二雄)、フィッシャー=ディースカウについて、歌詞(ドイツ語)&対訳(石井不二雄)、モノクロ図版(ヴィルヘルム・ミュラー)1点、裏表紙にモノクロ写真(フィッシャー=ディースカウ)1点。
1985年にフィッシャー=ディースカウの還暦を記念して企画された、ジャケットにフィッシャー=ディースカウ自筆の水彩画をあしらったCDシリーズの再発盤です。
女の人にふられたからといって入水自殺してしまう主人公の心境はわかるようでよくわからないですが、主人公はいずれ親方になって社会に定住しなければならない遍歴の徒弟なので、世に容れられずに入水した屈原のように、人間社会から拒絶されたような気になって世を儚んでしまったのでしょう。根っからの放浪者であれば心機一転、自然を友として生きていくところです。とはいうものの、川底の青い水晶の小部屋(das blauen kristallenen Kämmerlein)で眠る、というイメージは、ロマン主義的な母胎回帰願望と鉱物愛好とが相俟ってたいへん魅力的です。歌とピアノはまさに阿吽の呼吸ですばらしいです。
★★★★★
小川の子守歌 Des Baches Wiegenlied
Gute Ruh', gute Ruh'!
Tu' die Augen zu!
Wandrer, du müder, du bist dzu Haus.
Die Treu' ist hier,
Sollst liegen bei mir,
Bis das Meer will trinken die Bächlein aus.
Will betten dich kühl,
Auf weichem Pfühl,
In dem blauen kristallenen Kämmerlein.
Heran, heran,
Was wiegen kann,
Woget und wieget den Knaben mir ein.
Wenn ein Jagdhorn schallt
Aus dem grünen Wald,
Will ich sausen und brausen wohl um dich her.
Blickt nicht herein,
Blaue Blümelein!
Ihr macht meinem Schläfer die Träume so schwer.
Hinweg, hinweg
Von dem Mühlensteg,
Böses Mägdelein, daß ihn dein Schatten nicht weckt!
Wirf mir herein
Dein Tüchlein fein,
Daß ich die Augen ihm halte bedeckt!
Gute Nacht, gute Nacht!
Bis alles wacht,
Schlaf' aus deine Freude, schlaf' aus dein Lied!
Der Vollmond steigt,
Der Nebel weicht,
Und der Himmel da oben, wie ist er so weit!
石井不二雄による訳:
「安らかに、安らかに!
目を閉じて!
旅人よ、疲れた旅人よ、家に帰ったのだよ。
誠実がここにある、
私のところにいさせてあげよう、
海が小川を飲みつくす時まで。
おまえを冷く寝かせてあげよう、
柔かいしとねの上に、
青い透き通った小部屋の中に。
おいで、おいで、
揺らぐ波よ、
波立ち揺らしてこの子を眠らせておくれ。
狩の角笛の響きが
緑の森から聞えてきたら、
おまえをせせらぎとざわめきの音で囲おう。
中を覗かないでおくれ、
青い小さな花よ!
おまえたちは眠るこの子の夢をつらくする。
離れなさい、離れなさい、
水車場の橋から、
悪い少女よ、この子をおまえの影が起さないように!
おまえのきれいなハンカチを
投げ込んでおくれ、
この子の目を固く縛ってやるために!
おやすみ、おやすみ!
すべてが目覚める審判の時まで、
眠っておまえの喜びを、苦しみを忘れなさい!
満月が昇り、
霧が晴れると、
上に拡がる空の、何と広々としていること!」