幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

The Science Group  『...A Mere Coincidence...』

Cutler / Tickmayer / Drake 
The Science Group 
『...A Mere Coincidence...』

ザ・サイエンス・グループ 
偶然の一致 


CD: ReR Megacorp, UK 
Distributed in USA by Cuneiform 
Distributed in Japan by Locus Solus 
RER SCIENCE 1 (1999) 
Made in North America 

輸入・発売・販売元:ロクス・ソルス 
LSI 2039 (1999年) 
税抜価格¥2,600 

 


帯文: 

「正統派レコメンディッド・サウンドの現在形。現代科学の諸概念をテーマにしたクリス・カトラー、ステヴァン・ティックマイエル、ボブ・ドレイクのプロジェクト。」


帯裏文:

「「現代科学」の術語と諸概念を駆使したクリス・カトラー(ドラムス/エレクトロニクス)の詩的で思索的な歌詞、ユーゴの現代音楽作曲家ステヴァン・ティックマイエル(キーボード/サンプラー)の幾何学的で複雑なコンポジション、ボブ・ドレイク(ベース)のダイナミックでスリリングなサウンド・プロデュース。この3人にエイミー・ディナイオ(ヴォーカル)、フレッド・フリス(ギター)、クラウディオ・プンティン(クラリネット)を加えたスーパー・グループ。アート・ベアーズ、ニューズ・フロム・ベイブル、ドメスティック・ストーリーズに連なるハイ=テンションな正統派レコメンディッド・サウンドの現在形。」


1. Mnemonic 
記憶法(ニーモニック) 
ST: keyboards, samples. 
CC: drums, electronics. 
BD: bass, electric guitar. 
AD: voice. 
CP: clarinets. 

2. Aleph Zero 
濃度ゼロ 
ST: piano, violin 
CC: drums, electronics. 
BD: bass, percussion. 
AD: voice. 
CP: bass clarinet. 
FF: guitars. 

3. Engineering 
工学 
ST: electric guitar, double bass, sampling, sound design. 
BD: bass. 
AD: voice. 
FF: guitars. 
CP: clarinet 

4. Lost in Translation 
並進運動に見失われ 
ST: piano, violin 
CC: drums. 
BD: bass. 
AD: voice. 
FF: guitar. 
CP: bass clarinet 

5. Chimera 
キメラ 
ST: keyboards / samples, sound design. 
BD: bass, drums. 
AD: voice. 
FF: guitar. 

6. Parity 
パリティ 
ST: keyboards. 
CC: drums. 
BD: bass, vocals, drums, guitar. 
AD: vocal. 
FF: guitars. 

7. Love 
愛 
ST: keyboards / samples, sound design, electric guitar. 
CC: drums, electronics. 
BD: bass, vocals. 
AD: vocals. 
FF: guitars. 
CP: bass clarinet. 

8. Open or Closed? 
開かれているのか 閉ざされているのか?
ST: prepared piano, keyboards, samples. 
CC: drums. 
BD: bass, percussion, vocals. 
AD: vocals. 

9. Napoleon... 
…ナポレオン 
ST: el organ. 
CC: drums. 
BD: bass. 
FF: guitar. 
CP: bass clarinet. 

10. ..in.... 
…幽閉された… 
Shaun de Waal: voice. 
BD: drums. 
FF: guitar. 

11. ....Schroedinger's Box 
シュレディンガーの箱に… 
ST: keyboards / samples. 
BD: bass, drums, guitars, vocals. 
AD: bridge vox. 

12. Event Horizon 
私的な事象の地平線 
ST: keyboards / samples. 
BD: bass, drums, guitar, vocals. 
AD: vocals, 
FF: guitar. 
CP: bass clarinet. 

13. Lab Notes 
研究ノート 
ST: keyboards, samples, violin. 
FF: guitar. 
AD: voice. 
Shaun de Waal: voice. 

14. Scale Invarians 
尺度不変系 
ST: keyboards, samples, sound design. 
CC: drums, etc. 
BD: bass, vocals, percussion. 
AD: vocals. 
FF: guitars. 
CP: bass clarinet. 

15. There Must Be Something 
そこには必ず何かがある 
ST: keyboards, samples, sound design, Hungarian zither, piano strings. 
CC: drums &c. 
BD: bass, vocals. 
AD: vocals. 

Total Playing Time: 52:57 


Chris Cutler: drums, electronics 
Amy Denio: vocals 
Bob Drake: bass, vocals, guitar, drums 
Fred Frith: guitars 
Claudio Puntin: clarinet, bass clarinet 
Stevan Tickmayer: piano, keyboards, zither, violin, guitar, samples 


..A MERE COINCIDENCE.. 
all texts CHRIS CUTLER. 

All compositions 
STEVAN TICKMAYER except 
'....in....' 
composed by BOB DRAKE. 

Recorded, Mixed, Produced 
by BOB DRAKE. 

Thanks to SHAUN DE WAAL: 
Speaking Voice on '....in....' 
and 'Lab Notes' 

Made between May 1997 
and January 1999 
at STUDIO MIDI PYRENEES, 
Caudeval, France. 

Cover, booklet, CD: Artwork 
by EM Thomas. 

Typography & booklet design: 
Jon Crossland. 

CC would like additionally to 
own his debts to The New 
Scientist and George Steiner. 

ST would like to dedicate 
these compositions to the 
memory of Gerard Kranendonk. 


◆坂本理による解説より◆ 

「ヘンリー・カウ以降、パーマネントなバンドを率いることなくプロジェクトを立ち上げて自らの思弁音楽を提示して来たことについてクリス・カトラーはこう語っている。」
「「この新しい仕事のしかた――プロジェクトを始めて、古い友人と新しいコラボレーターを結び付ける――は非常に刺激的です。今は、似たような考えを持つ人たちのプールが実質的に存在していて、断続的に異なる組み合わせで仕事をしています。そして新しい人たちが次々とこのプールに加わり、新しい組み合わせが絶えず生まれています。とても生産的な状況です。」(『ユリイカ』誌1998年12月号)」
「今回新しいコラボレーターとして招かれたのは作曲家、ピアノ、ダブル・ベース奏者のステヴァン・ティックマイエルだ。(中略)彼は1963年にユーゴスラヴィアハンガリー少数民族の家庭に生まれた。オランダのハーグ王立音楽院でルイス・アンドリーセン、ディデリク・ヴァヘナールに師事。1986年に自らのクラシック・アンサンブル、ティックマイエル・フォルマティオを結成する。1991年にフランスに移住、1994年よりしばしばクリス・カトラーと共演。1997年には作曲家ジョルジ・クルタークと共演している。」
「アルバムの制作に当たって、カトラーはもうひとり重要な人物を呼び寄せた。それがボブ・ドレイクだった。(中略)1980年にコロラド州でシンキング・プレイグを結成し、ドラムスを担当。1990年代に入り、ロス・アンジェルスに移住し、5uu'sに加入。ここで初めてヴォーカリストとして、またマルチ・プレイヤーとしての実力を遺憾なく発揮し、(中略)その後、エイミー・ディナイオ率いるECヌーズのツアー・メンバーに起用され、1994年南フランスに移住。以来、レコメンディッド・レコーズの専属レコーディング・エンジニアとして数多くの作品を手懸ける。」
「「ステヴァンとボブと私がすべてのベーシック・トラックをフランスで録りおろしました。この後、フレッドを招き、ギターを加え、次にエイミーがやって来ました。ステヴァンの管楽器の作曲は極端に複雑で訓練された現代音楽の解釈者を要求していたので、クラウディオに依頼しました。彼とはフレッドのテンス・セレニティ・アンサンブル(Tense Serenity Ensemble)で既に共演したことがあり、どれだけ熟練しているかを知っていたんです。」(クリス・カトラーからの私信より)」
「フレッド・フリスについては今更説明の必要はあるまい。」
「エイミー・ディナイオはアメリカ、シアトル在住の女性マルチ・プレイヤー兼ヴォーカリストだ。フレッド・シャルナー(b)とのトーン・ドッグズや女性サックス奏者4人によるザ・ビリー・ティプトン・メモリアル・サクソフォン・カルテット等で活動。クリス・カトラー(d)、ヴェディ・ギーシ(g)とのトリオ、ECヌーズを結成し、『Vanishing Point』(94)を発表して大いに注目される。このバンドはその後カトラーが離れて、ペイル・ヌーズに改名している。」
「クラウディオ・プンティンはドイツで活躍するクラリネット奏者だ。」

「アルバムで採り上げられているテーマは「科学」だ。」
「「殆どのテキストは科学の様々な学問における最新の考え方に基づいています。宇宙論素粒子物理学、量子理論、数学、複雑系理論等々。残りは工学("engineering")と心理学("lab notes")です。私の技法と言うのは、『Winter Songs』や『Domestic Stories』等でも同じですが、テキストがそんな風に人間的、哲学的な問題に関する言及と等しいような説明的な言語を用いるということです。私はいつもあることについて書き記そうとしながら別のことに考えを巡らせ、言語の両義性と示唆とその並置を利用しようとしているんです。
 私はいつも科学の議論と慣習、つまりその方法や、厳密さ、視野に興味を持っていました。私にとっては今日科学には詩以上に、というか少なくとも同じくらいには詩的なものがあるように思えるほどで、想像力にとって科学にはどんな現代文学作品にも匹敵し得る概念があります。それに、もう間違いなく「科学」と「人文科学」の間の古臭い無意味な分離とはけりをつける時ですよね? 勿論、両者は異なった種類の知であり、異なった種類の問いかけでもありますが、世界を把握するためにはもっと徹底した認識論を可能な範囲で集結すべきでしょう?」(クリス・カトラーからの私信より)」
「イギリスの科学雑誌『New Scientist』誌のライターとして著名なマーカス・チョウンの記述を引用し、ポール・ディラックの「発見」に象徴させたアルバム・タイトルの「偶然の一致」は、まさしくアルバムの本当のテーマとなっている。言語の両義性に導かれた「偶然の一致」が多層に張り巡らされ、幾重にも緊迫した論理を重ねる。例えば、‟Love”についてカトラーは言う。」
「「あなたの言う通り、この歌はアトラクターとカオス理論についてのものですが、引力には様々な形態があり得、無秩序でない感情などあり得ません。このタイトルはテキストを違った風にも読むように示唆しているんです。」(クリス・カトラーからの私信より)」
「これがこのアルバムの重要な骨格だ。」

re. The Science Group

Osamu Sakamoto Interview

18 October 1999

 

◆本CDについて◆ 

輸入盤国内仕様。原盤ブックレット(全12頁)に歌詞&クレジット。別冊ブックレット(全16ページ)に坂本理による解説、歌詞日本語訳(訳:坂本理)、トラックリスト。

★★★★★ 

 

「Aleph Zero 
Plus any 
Finite number 
Equals 
Aleph Zero - 
A countable 
Infinity which 
Growing, 
Stays the 
Same. 

And doubled ? 
Still No change 
And times itself - 
so many times 
as Times itself ? 
Well still, 
No more 
No less 
Remains」

「濃度ゼロに
有限数を
加えると
濃度ゼロに
等しい――
可付番の
増加する無限数は
たかだか
無限に過ぎない。

2倍になれば?
それでも
変わりはない

回数それ自体は
どれだけ多くても
回数それ自体なのか?
それでも尚、
多かろうが
少なかろうが
そのままなのだ」

(訳:坂本理)