幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『武満徹:ディスタンス/ユーカリプスⅠ・Ⅱ 他』  ホリガー/ニコレ 

武満徹:ディスタンス/ユーカリプスⅠ・Ⅱ 他』 
ホリガー/ニコレ 

Takemitsu: 
Distance / Voice / Stanza II / Eucalypts I, II 
Holliger / Nicolet / Basel Ensemble / Wyttenbach 


CD:Deutsche Grammophon 
制作:ユニバーサル クラシックス&ジャズ 
発売・販売元:ユニバーサル ミュージック合同会社 
シリーズ:スタンダード・コレクション 
UCCG-4705 (2010年) 
税込¥1,600(税抜¥1,524) 
Made in Japan 

 


帯裏文:

オーボエと笙が織り成す響きが印象的な《ディスタンス》、フルート奏者が肉声を発する《声》、独奏ハープとあらかじめ録音されたテープが融合する《スタンザⅡ》、常緑樹のユーカリに由来する《ユーカリプス》。武満徹が敬愛するスイスの3人の名演奏家、ニコレとホリガー夫妻への「個人的な贈り物」として作曲献呈し、彼ら3人がソロを務めた演奏を収録した貴重なアルバムです。1973年度レコード・アカデミー賞受賞番。」


武満徹 
TORU TAKEMITSU 
(1930-1996) 


1.ディスタンス(1972) 8:52 
Distance 
2.声[ヴォイス](1971) 6:41 
Voice 
3.スタンザⅡ(1971) 6:08 
Stanza II 
4.ユーカリプスⅠ(1970) 8:03 
Eucalypts I 
5.ユーカリプスⅡ(1970) 7:58 
Eucalypts II 


ハインツ・ホリガーオーボエ)([1][4][5]) 
Heinz Holliger, Oboe 
オーレル・ニコレ(フルート)([2][4][5]) 
Aurèle Nicolet, Flute 
ウルスラ・ホリガー(ハープ)([3][4][5]) 
Ursula Holliger, Harp 
多忠麿(笙)([1]) 
Tadamaro Ono, Sho 
バーゼル・アンサンブル([4]) 
Basel Ensemble 
指揮:ユルク・ヴィッテンバッハ([4]) 
Conductor: Jürg Wyttenbach 


録音:1973年6月、1972年3月 東京 

Recording: Tokyo, Polydor Studio No. 1, 6/1973 ([1]), 3/1972 ([2]-[5]) 
Recording Producer: Shosuke Akino 
Tonmeister (Balance Engineer): Nobuo Sugita 


◆本CDブックレットより◆ 

「私が敬愛してやまないスイスの3人の音楽家の協力によって、1枚のアルバムを作ることができたことをたいへんうれしく思う。
 ここに収められた作品のひとつひとつは、それぞれに、この3人の音楽家への私からの個人的な(パーソナル)贈物(ギフト)として作曲された。最近の私は、楽器(という媒体)と演奏という行為を、抽象的な置換可能なものとして想像(イメージ)することができなくなっている。このことはまた、音楽が実際に演奏される場所・空間についても言及しうることであって、持ち搬びのできる機能的にコンパクトにされた揮毫の累積として、音楽を私は作曲することはできない。音楽を演奏する具体的な肉体と、それが演奏される具体的な空間を除いて成立する音楽――現在の私にはそれは考えもつかないことだが――というものが、果たして真の普遍性を獲得するであろうか。
 私のこれらの作品が音楽としての生きた実相を得ているとすれば、それは、この3人の独奏者の力によるものである。」
武満徹

「ディスタンス――オーボエ、またはオーボエと笙のための――(1972)」
「1972年9月、ハインツ・ホリガーのために作曲された作品である。」
「「声(ヴォイス)――独奏フルート奏者のための――(1971)」
「1971年4月、オーレル・ニコレのために作曲された作品。ここでは楽器(フルート)は完全に演奏家の肉体の一部であり、楽器の音と奏者の発する肉声の間の区別はない。」
「スタンザⅡ――ハープとテープのための――(1971)」
ウルスラ・ホリガーのために作曲され、1971年10月パリで初演された。」
ユーカリプスⅠ――フルート、オーボエ、ハープと弦楽のための――(1970)
ユーカリプスⅡ――フルート、オーボエとハープのための――(1970)」
「《ユーカリプス》のⅠとⅡは、原理的にはたんにⅠがフルート、オーボエ、ハープのトリオⅡに弦楽合奏が加わったもの、というだけのことで、1970年秋、日本ロシュ株式会社の委嘱で作曲され、スイスの3人の演奏家と、指揮者のパウル・ザッハーに献呈されている。
 曲名はオーストラリアに多い常緑樹のユーカリに由来するものであり、作曲者はこの、同種でありながら多様な変種を持つ植物の名をかりて、「音」のさまざまな変容のさまを、創り出している。」
(武田明倫)


◆本CDについて◆ 

ブックレット(三つ折り)に武満徹によるコメント(1973年)、武田明倫による解説(1973年)、トラックリスト&クレジット。

オリジナルLPは1973年11月、『ミニアチュール第2集/武満徹の芸術』(MG 2411)としてリリースされました。

作曲者は三人の演奏家に、それぞれが訓練によって演奏法を習得した専門楽器と、「笙」、自分自身の「声(肉声)」、「テープ」という、異質なものとの出会いの場を提供していますが、それは〈音〉が他の〈音〉と出会うことによって〈音楽〉へと自己生成する原初の状態への意識的な回帰に他ならないです。それはたとえば木々の梢を吹き抜ける風の音であったり、言葉以前の詠嘆であったり、鳥の声であったり宇宙の発するノイズであったりです。

★★★★★ 


Distance