幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『武満徹:ガーデン・レイン、悲歌 他』  ゼルキン(pf) カヴァフィアン(vn) 他

武満徹:ガーデン・レイン、悲歌 他』 
ゼルキン(pf) カヴァフィアン(vn) 他 

Takemitsu: Garden Rain / Le Son Calligraphié / Hika / Folios 
Wakasugi / Kavafian / Serkin / Shomura, etc. 


CD:Deutsche Grammophon/ポリドール株式会社 
POCG-3360 (1994年) 
¥2,200(税込)(税抜価格¥2,136) 
Made in Japan 

 


1.ガーデン・レイン(1974) 7:44 
Garden Rain 

2.ソン・カリグラフィⅠ(1958) 3:14 
Le Son Calligraphié I 
3.ソン・カリグラフィⅡ(1958) 3:53 
Le Son Calligraphié II 
4.ソン・カリグラフィⅢ(1960) 2:25 
Le Son Calligraphié III 

5.悲歌[ヒカ](1966) 5:37 
Hika 

フォリオス(1974) 
Folios 
6.Ⅰ 3:18 
7.Ⅱ 3:38 
8.Ⅲ 4:25 


フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル([1]) 
Philip Jones Brass Ensemble 

小林健次、平尾真理、梅津南美子、十川みゆき(ヴァイオリン)([2][3][4]) 
Kenji Kobayashi, Mari Hirao, Namiko Umezu, Miyuki Togawa, Violins 
江戸純子、田中あや(ヴィオラ)([2][3][4])
Junko Edo, Aya Tanaka, Violas 
高橋忠男、工藤昭義(チェロ)([2][3][4]) 
Tadao Takahashi, Akiyoshi Kudo, Violoncellos 
指揮:若杉弘([2][3][4]) 
Conductor: Hiroshi Wakasugi 

アイダ・カヴァフィアン(ヴァイオリン)([5]) 
Ida Kavafian, Violin 
ピーター・ゼルキン(ピアノ)([5]) 
Peter Serkin, Piano 

荘村清志(ギター)([6][7][8]) 
Kiyoshi Shomura 


録音:1974年7月、11月、12月、1975年9月 東京 

Recording: Tokyo, Polydor Studio No. 1, 
11/1974 ([1]), 12/1974 ([2]-[4]), 9/1975 ([5]), 7/1974 ([6]-[8]) 
Recording Producer: Shosuke Akino 
Tonmeister (Balance Engineer): Nobuo Sugita 


武満徹によるコメントより◆ 

「調性(トナリティ)をおそれ、それを拒むことによって、いかに多くの音楽が、今日、不毛であることか。また、旋律への意志を放棄し、曖昧な響きに依存する、明確な言語としての音を喪(うしな)った音楽が、いかに現実性(リアリティ)をかちえないものであるか。作曲家は反省しなければならない。
 変革は、個人の内部を見きわめることからはじまる。それは、過去を、未来に向かって役立つ過去を、科学的に択びとることである。(中略)明確な意識と、強靭な意志とによって、それはなされなければならない。」


◆武田明倫による楽曲解説より◆ 

「ブラス・アンサンブルのための《ガーデン・レイン》」
「この曲名はスーザン・モリソンという11歳のオーストラリアの少女の同名の詩からの借用であるという。楽譜の冒頭に記入されたその詩は、つぎのような大意を持っている。」
「時間は生命(いのち)の木(こ)の葉で
わたしはその園丁…… 
時間が順々に散っていく、ゆっくりと」
「ブラス・アンサンブルの最弱奏という、おそらく誰も想いもしなかった新しいこの音楽の世界では、聴き手はあらゆる音の姿の細部を聴きとることを求められるし、それが可能なのだ。」
「《ガーデン・レイン》は1974年7月、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのために東京で作曲され、彼らに献呈されている。」

「8つの弦楽器のための《ソン・カリグラフィ》」
「8つの弦楽器とはヴァイオリン4、ヴィオラ2、チェロ2であるが、これらはいずれの曲でも、ふた組の弦楽四重奏の編成にグループ分けされ、左右に位置する。(中略)作曲者は作品について、つぎのように述べている。
 「このタイトルの作品は、すべて一種の‟モノクロミスム”ですが、音楽の空間的な拡がりは、筆法の勢いが獲得するのだと考えています。いい方はよくないかもしれないですが、これは私の日記の数行のようなものです。全く自由な音楽です」」
「「ソン」は「音」、「カリグラフィ」は「習字」、いやむしろ「書」だったが。(中略)彼は「書」に見る「モノクローム」の世界におけるデリケートな表現を、弦楽器だけという、モノクローム編成で試みた。その意味では前出の金管モノクロームによる《ガーデン・レイン》に通じるものがある。」
「第1番は1958年に作曲され、20世紀音楽研究所主催・軽井沢現代音楽祭の作曲コンクール出品作品として同年8月に初演され、第1位を獲得したうえ、フランス大使賞他の賞を受けた。」
 第2番も同じく1958年の11月に作曲され、ラモー室内楽団の「現代音楽を聴く会」で初演された。」
 第3番は1960年4月の作品である。この曲は同年同月の草月ホールにおける「武満徹個展」で初演された。」

「ヴァイオリンとピアノのための《悲歌(ヒカ)》」
「武満のピアノ曲に、3つの小品からなる《遮られない休息》という作品がある。《悲歌(ヒカ)》は、この第3曲〈愛のうた〉(1959)の構成素材をそのまま素材として1960年に作曲された。」

「ギターのための《フォリオス》」
「作曲者はつぎのように述べている。
 「タイトルのフォリオの意味は、英語で、ふたつ折りの紙を指し、それぞれ2ページに書かれた独立した小品という程度の意味合いで使われている。そして3曲のフォリオはどのような順序で奏されても良く、組み合わせは演奏者にゆだねられる。
 フォリオⅠは、旋律の透明な遠近法 
 Ⅱは3+4を基本においた雨の音楽 
 Ⅲは悼歌、《マタイ受難曲》よりの引用が聴かれる」
 作曲者のことばにある第Ⅱ曲の「3+4」とはリズム構造のことであり、また、第Ⅲ曲での引用はバッハの《マタイ受難曲》のコラール〈われを知りたまえ、わが護り手よ〉の冒頭である。《フォリオス》は1974年の1月から5月にかけてギタリスト荘村清志のために作曲され、このギタリストに献呈されている。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(三つ折り)にトラックリスト&クレジット、武満徹によるコメント(1977年)、武田明倫による楽曲解説(1977年)。

オリジナルLPは1977年3月に『ミニアチュール 第5集/武満徹の芸術』(MG 1047)としてリリースされました。

現代音楽が「調性」と「旋律」を警戒するのは、それらが集団的(ファシズム的)心性と結びくとどうなるかを熟知しているゆえですが、武満徹はそれらを「個人」の「自由」の観点から「意識」的・「意志」的に断片化することによって回復しています。

★★★★★ 


Garden Rain