幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『武満徹:マイ・ウェイ・オヴ・ライフ』 小澤&サイトウ・キネン

武満徹 
マイ・ウェイ・オヴ・ライフ 
セレモニアル、系図(英語版)、弦楽のためのレクイエム、エア

小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ
宮田まゆみ(笙)、小澤征良(語り)、オレル・ニコレ(フルート)、他


TORU TAKEMITSU 
REQUIEM 
FAMILY TREE 
MY WAY OF LIFE 

SAITO KINEN ORCHESTRA 
SEIJI OZAWA 


CD: Philips / Digital Classics 
発売・販売:ポリグラム株式会社 
PHCP-11035 (1997年) 
定価¥3,059(税抜価格¥2,913)
Made in Japan 

 


帯裏文:

サイトウ・キネン・フェスティバル松本がはじまった年である1992年、フェスティバルのオープニングに際して、武満徹に委嘱された作品《セレモニアル》に、昨1996年のフェスティバルで録音された《マイ・ウェイ・オヴ・ライフ》、1995年のフェスティバルでは日本語のナレーションで演奏された作品のナレーションを小澤征爾の愛娘である征良がつとめた英語版の《系図》ほか2曲を収録しました。武満作品の多彩な魅力が凝縮されたアルバムです。」


武満徹(1930‐1996) 
Toru Takemitsu 

1.セレモニアル(オーケストラと笙のための) 8:52 
Ceremonial for Orchestra with Sho 

系図若い人たちのための音楽詩―(英語版) 
(語りとオーケストラのための) 
Family Tree - Musical Verses for Young People (English Version) 
for Narrator and Orchestra 
(詩:谷川俊太郎 Poems: Shuntaro Tanikawa)
2.むかしむかし Once upon a time 5:42 
3.おじいちゃん Grandpa 2:30 
4.おばあちゃん Grandma 2:30 
5.おとうさん Dad 2:45 
6.おかあさん Mom 3:25 
7.とおく A Distant Place 5:32 

マイ・ウェイ・オヴ・ライフ―マイケル・ヴァイナーの追憶に―
バリトン混声合唱、オーケストラのための)
My Way of Life - In Memory of Michael Vyner - 
for Baritone, Mixed Chorus and Orchestra 
(詩:田村隆一 Poems: Ryuichi Tamura)
8.生活作法ということを聞いて I was once asked 5:10 
9.見る人が見たら To a discerning eye 4:26 
10.人には、人の生活様式があり A human being has its own way of life 4:30
11.時が過ぎるのではない It is not time that passes on 2:56 

12.弦楽のためのレクイエム 7:38 
Requiem for String for String Orchestra 

13.エア(フルートのための) 6:07 
Air for Flute 


宮田まゆみ(笙)(1) 
MAYUMI MIYATA, sho 
小澤征良(語り)、御喜美江(アコーディオン)(2-7)
SEIRA OZAWA, narrator / MIE MIKI, accordion 
ドワイン・クロフト(バリトン)(8-11) 
DWAYNE CROFT, baritone 
オレル・ニコレ(フルート)(13) 
AURÈLE NICOLET, flute 
東京オペラ・シンガーズ(8-11)
TOKYO OPERA SINGERS 

サイトウ・キネン・オーケストラ 
SAITO KINEN ORCHESTRA 

指揮:小澤征爾 
Conducted by SEIJI OZAWA 


録音:1992年9月 長野県松本文化会館(1:ライヴ)、1995年5月 長野県松本文化会館&1997年4月 ボストン(3-7)、1996年9月 長野県松本文化会館(8-11)、1991年9月 オランダ、ナイメヘン(12)、1996年4月 オランダ、ユトレヒト、マリア・ミノール(13)

Artists and repertoire production: Clive Bennett, Wouter Hoekstra 
Recording producer: Wilhelm Hellweg 
Balance engineers: Onno Scholtze, Everett Porter 
Recording engineers: Roger de Schot, Suenori Fukui, Everett Porter 
Tape editors: Jean van Vugt, Everett Porter 


Total playing-time  62:26 


◆解説より◆

「セレモニアル」
「1992年9月に催される、サイトウ・キネン・フェスティバル松本のオープニング作品として構想され、笙による序奏 prelude と後奏 pastlude をもつ、オーケストラのための小典礼楽である。
 なお、私の雅楽曲「秋庭歌」の旋律が素材の一部として用いられている。」
武満徹

系図若い人たちのための音楽詩―(1992)」
「題名が示すように、この曲の主題は家族(ファミリィ)というものです。ズービン・メータさんから「子供のための音楽を書くことに興味はないか」と問われて、その時は考えもしなかったことでしたが、この騒々しさだけが支配的で、殆ど人工の音に浸っている日常生活を送っている、殊に若いひとたちのために、なにか、おだやかで、肌理(きめ)こまかな、単純(シンプル)な音楽が書いてみたくなったのです。そして、その時、すぐ頭に浮かんだのが家族というテーマでした。」
「テキストは谷川俊太郎さんが書かれた『はだか』という詩集の中から、詩人の許諾をえて択んだ六篇の詩を、すべて少女の一人称として、私が再構成しました。」
「人類がこの地上に生まれて、5万年とも6万年ともいわれています。この《Family Tree》はいうなれば、5万、いや6万年の15歳の少女の、永い旅の話でもあります。」
「私のこの音楽では、詩のこころを生かすことに専一して、専門的なこだわりなど捨てて作曲しました。結果としては、たいへん調性的(トーナル)な響きのものになりました。しかし私は、単なる郷愁(ノスタルジー)で調性(トナリティ)を択んだのではなく、調性というものを、この世界の音楽大家族の核にあたるものだと信じているからそれを用いることに躊躇しませんでした。そこから多くの個性的な響きが、個性的な音楽言語が生まれています。そして、それらは互いに敵対するものではないはずです。《Family Tree》で私が意図したのは、この作品を聴いて下さる方や、特に若いひとが、人間社会の核になるべき家族の中から、外の世界と自由に対話することが可能な、真の自己というものの存在について少しでも考えてもらえたら、ということでした。そして、それを可能にするものは愛でしかないと思います。」
武満徹

「‟My Way of Life”は、詩人田村隆一の短いエッセイに想を得て作曲された。」
武満徹、1990年)

「弦楽のためのレクイエム(1957)」
「強いていえば、この作品は単一主題による自由な3部形式で、速度の配置は、Lent―Modèrè―Lent となっています。しかし、これらの速度の境界はきわめて曖昧なもので、主題は波紋のように拡がるゆるやかな振幅の内部(うち)に在り、たちあらわれる痙攣的な形態、あるいは Tempo Modèrè は水泡のように突然あらわれて、たえずゆるやかな振幅に合流しようとします。」
「この作品では、〈拍(ビート)〉に対する観念が西欧のそれとはまったく異なっています。言うなれば、One by One のリズムの上に曲は構成されています。はじめもおわりもさだかでない、人間とこの世界をつらぬいている音の河の流れの或る部分を、偶然にとり出したものだといったら、この作品の性格を端的にあかしたことになります。
 僕は、この「レクイエム」という題を、「メディテーション」としてもよかったのです。瞑想という言葉が神への排他的な専心を意味するように、一物に専念したい僕の気持が、この題を択んだのです。」
武満徹

「エア(1995)」
武満徹によれば「エア」とは、‟アリア”の意味でもあり、‟空気”の意味でもあるという。」


◆歌詞より◆

「むかしむかし」より:

「Once upon a time I used to be.」
「むかしむかしわたしがいた」

「It rained snakes in my dreams 
and I was born and died, over and over again. 
Once upon a time, somewhere, I used to be. 
Now I am here.」
「そしてゆめのなかではへびのあめがふり
わたしはうまれたりしんだりした
むかしむかしどこかにわたしがいた
いまここにわたしはいる」

「とおく」より:

「The smell of the sea comes in from somewhere, 
but I'm sure I can go farther than the sea.」
「どこからかうみのにおいがしてくる
でもわたしはきっとうみよりももっととおくへいける」

「私の生活作法」より:

「A human being has its own way of life, 
which is usually referred to as "his or her style". 
Now let me give you some tips on my way of life. 
Sleep soundly. 
Go on long walks. 
Daydream. (Let's subside gracefully into senility.)」
「人には、人の生活様式があり、
その様式をスタイルと呼ぶ。
では、私の生活作法をお教えしよう。
よくねむること
よく歩くこと
ぼんやりしていること(みんないっしょに美しくぼけましょう)」

「"It is not time that passes on 
But ourselves. We pass on". 
So 
I once wrote. 
I have seen many pass on. 
I too 
Will pass on some day.」
「「時が過ぎるのではない
人が過ぎるのだ」

ぼくは書いたことがあったっけ
その過ぎてゆく人を何人も見た
ぼくも
やがては過ぎて行くだろう」


◆本CDについて◆

ブックレット(全20頁)にトラックリスト&クレジット、解説(無記名)、「profile 武満徹 TORU TAKEMITSU」(無記名)、歌詞(英語&日本語)。

本CDは(「弦楽のためのレクイエム」を除いて)最晩年の1990年代の作品から構成されています。「系図」はアコーディオンも入ってフレンチっぽいです。

★★★★☆


Family Tree - Musical Verses for Young People - A Distant Place