幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『Elliott Carter: Oboe Concerto / Penthode etc.』 Boulez 

Elliott Carter 

Oboe Concerto 
Esprit Rude / Esprit Doux 
A Mirror on which to Dwell 
Penthode 

Heinz Holliger 
Sophie Cherrier 
André Trouttet 
Phyllis Bryn-Julson 
Ensemble InterContemporain 
Pierre Boulez 

エリオット・カーター作品集 
ブーレーズ指揮 
アンサンブル・アンテルコンタンポラン 


CD: Erato Disques / Warner Classics UK 
Series: apex 
8573 89227 2 (2001) 
Made in Germany by Warner Music Manufacturing Europe 

(株)ワーナーミュージック・ジャパン 
apex collection 
WPCS 11280 (2002年) 
税抜¥1,000(税込価格¥1,050) 
直輸入盤/日本語解説・歌詞付 

 


帯文: 

アメリカ現代音楽界の重鎮カーターとブーレーズの強い絆。」


帯裏文: 

アメリカ現代音楽界の重鎮カーターの80歳の誕生日を祝ってパリの円形劇場で行われたコンサートに関連してなされた録音。主に1980年代の作品が収録されている。《エスプリ・リュド/エスプリ・ドゥ》は、ブーレーズの60歳誕生日祝賀のために作曲されており、また《パントード》はブーレーズにより委嘱初演された。」


エリオット・カーター 
Elliott CARTER (1908- ) 


1.オーボエ協奏曲 19:48 
Concerto for Oboe 

2.エスプリ・リュド/エスプリ・ドゥ――フルートとクラリネットのための 4:45 
Esprit Rude / Esprit Doux - for flute and clarinet 

見つめる鏡――ソプラノと室内オーケストラのための 
A Mirror on which to Dwell - Six poems by Elizabeth Bishop, for soprano and chamber orchestra 
3.アナフォラ(首句反復) 3:36 
Anaphora 
4.議論 2:19 
Argument 
5.鴫(しぎ) 2:18 
Sandpiper 
6.不眠症 2:56 
Insomnia 
7.国会図書館からの国会議事堂の眺め 2:59 
View of the Capitol from the Library of Congress 
8.息づかい 4:00 
O Breath 

9.パントード(五極真空管)――4つの楽器による5つのグループのための 19:20 
Penthode - for five groups of four instruments 


ハインツ・ホリガーオーボエ) [1] 
Heinz Holliger, oboe 
ソフィー・シェリエ(フルート) [2] 
Sophie Cherrier, flute 
アンドレ・トゥルーテ(クラリネット) [2] 
André Trouttet, clarinet 
フィリス・ブリン=ジュルソン(ソプラノ) [3]-[8] 
Phyllis Bryn-Julson, soprano 

アンサンブル・アンテルコンタンポラン 
Ensemble InterContemporain 
指揮:ピエール・ブーレーズ 
PIERRE BOULEZ 


録音:1988年12月 パリ 

Recorded at IRCAM, Espace de Projection, Paris, in December 1987 
Recording supervision: Elliott Carter 
Recording producer: Michel Garcin 
Recording engineers: Didier Arditti, Alain Jacquinot 


エリオット・カーターによるライナー・ノーツ(訳:田中成和)より◆ 

「ここに収録された(中略)演奏(中略)は、1988年12月19日にパリの円形劇場において私の80歳の誕生日を祝って企画された演奏会でのものである。」
「所載の楽曲はこれまでに出会った演奏家たちとの関連の下に成立している。オーボエ協奏曲(1986-87)は、(中略)ハインツ・ホリガーのために書いたもので、(中略)ハインツ・ホリガーも自ら大変な助力を与えてくれた。楽器そのものについての情報や他のオーボエ作品を演奏して聴かせてくれたことなど、貴重なアドヴァイスが得られた。(中略)1988年7月チューリッヒで、ハインツ・ホリガーとジョン・カーリュー指揮コレギウム・ムジクムにより初演された。」
「フルートとクラリネットのための《エスプリ・リュド/エスプリ・ドゥ》(1985)は南西ドイツ放送の企画で1985年3月31日にバーデン=バーデンで行われた「ピエール・ブーレーズ60歳記念演奏会」のための委嘱作品である。タイトルは古代ギリシャ語の発音を模したもので、母音ないしはRで始まり(引用者注:正確には「タイトルは母音ないしRで始まる古典ギリシャ語の発音に関するもので」)、「粗い息/滑らかな息」を意味する。粗い息(エスプリ・リュド)では最初の母音ないしRは、その前にHをつけて発音され(中略)る。(中略)ギリシャ語の60年を意味する‘hexekoston etos’では、最初の単語のイニシャルのイプシロン(引用者注:正確には「エプシロン」/ギリシャ文字「ἑ」)が粗い息を表わし、二番目のイプシロン(引用者注:正確には「エプシロン」/ギリシャ文字「ἐ」)が滑らかな息を表わしている。」
エリザベス・ビショップの詩には大いに感銘していた。想像力豊かな音節の用法や透明性のある言葉の緊密な結合が、そのまま歌声を感じさせるものであったからである。(中略)ほとんどいつでも二重の意味が組み込まれていて、(中略)実際に書き込まれた言葉とは正反対の意味あいになることも少なくない。」
「《見つめる鏡》(1975)というタイトル(引用者注:直訳すると「宿るための鏡」)は「不眠症(Insomnia)」という詩の一節を借用してつけたもので、詩の(引用者注:ビショップの詩集の)世界全般を言い当てている風に思われたのと、音楽は言葉を映し出す鏡であって欲しいと思っていること(引用者注:この音楽がビショップの言葉が宿る鏡となるよう望んでいること)、アメリカ合衆国の建国200年を記念して作品を委嘱してきたスペキュラム・ムジケ(音楽の鏡)、などが選択の理由である。初演はスーザン・デヴニー・ワイナーとスペキュラム・ムジケ、リチャード・フィッツの指揮により、1976年2月24日ニューヨークで行なわれた。」
「パントード(五極真空管)はアンサンブル・アンテルコンタンポランの委嘱で作曲され、同アンサンブルとその創設者のピエール・ブーレーズに捧げられた。(中略)連続的に展開する旋律線が演奏者から演奏者へ渡されていくというアイデアは、1964年にベルリンで、ダガー・ブラザースの演奏した北インドのドゥルパッド音楽を聴いた時に思いついたものである。1984年から85年にかけて作曲し、初演は1985年7月26日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールにおいて、ピエール・ブーレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポランの指揮で行なわれた。」


◆本CDについて◆ 

輸入盤国内仕様。透明ジュエルケース。英文ブックレット(全8頁)に作曲者紹介文&作曲者によるライナーノーツ、「A Mirro on Which to Dwell」歌詞、クレジット。インレイにトラックリスト&クレジット。別冊ブックレット(全8頁)にトラックリスト&クレジット、作曲者紹介文&ライナーノーツ日本語訳(訳:田中成和)、「アーティストについて」、歌詞日本語訳(訳:柿沼敏江)、「エイペクス・コレクション」(CDリスト)。

エリザベス・ビショップの詩「不眠症」はジョン・ダンふうの綺想詩で、全てがこの世界とは逆になっている鏡(や井戸)の中の逆さまの世界でなら、あなたは私を愛するだろう、というサゲが効いています(鏡はルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』を、井戸は『不思議の国のアリス』の三人姉妹が棲んでいた井戸を連想させます)。

★★★★★ 

 

O

 

A Mirror on Which to Dwell : IV Insomnia

 

「The moon in the bureau mirror looks out a million 
miles (and perhaps with pride, at herself, but she 
never, never smiles) far and away beyond sleep, or perhaps she's a daytime sleeper.」

「たんすの鏡に映った月 
百万マイル先を見渡す 
(そしてたぶん、自分にプライドを持って(引用者注:そしてたぶん自惚れながら、自分自身を見つめる)
 しかし、決して、決して微笑むことはない) 
睡眠を越えたずっとかなたに、あるいは 
たぶん月は昼の睡眠者」

「By the Universe desesrted, she'd tell it to go to hell, 
and she'd find a body of water, or a mirror, on which 
to dwell. So wrap up care in a cobweb and drop it 
down the well」

「寂しい宇宙の際で 
地獄へ行けと月は言い 
水たまりを見つけるだろう
あるいは見つめる鏡を 
(引用者注:荒れ果てた世界に愛想尽かしをして、月は、居場所となるような水面を、あるいは鏡面を見つけるだろう。)
だから、蜘蛛の巣に心配事は包み込み 
井戸から落してしまおう(引用者注:井戸に落とそう)」

「into that world inverted where left is always right, 
where the shadows are really the body, where we 
stay awake all night, where the heavens are shallow 
as the sea is now deep, and you love me.」

「逆さまの世界のなかに 
そこでは左はいつも右で 
影はいつも身体(引用者注:本体)で 
一晩中私たちは起きている 
天は海のように浅い 
今、海は深く、(引用者注:今や海は(天よりも)深く、天は浅い、そして)あなたは私を愛している」