幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

ソアジグ  『ブルターニュの調べ』 

ソアジグ 
ブルターニュの調べ』 

Soazig 
Chant et Harpe Celtique 

European Traditional Collection 12 《ブルターニュ》 


CD: Seven Seas 
発売元:キングレコード株式会社 
シリーズ:ユーロ・トラッド・コレクション 
280E 52062 (1989年) 
税込定価¥2,800(税抜価格¥2,718) 
Made in Japan 

 

ブックレット表。シリーズで統一されたデザインになっています。

ブックレット裏。オリジナルLPジャケット。リバーシブルです。


帯文: 

ケルティック・ハープと歌との絶妙のコンビネーション。
硬質なクリスタルのような感性で貫かれた
ケルト・ミュージックの誇り。」
「オリジナルジャケット付|歌詞対訳付」


帯裏文:

「アラン・スティーベルに代表されるブルターニュは、常にケルティック・ミュージックの大きなポイントであった。女性シンガー&ハーパーのソアジグの宝石の煌めきのようなこのディスクこそ、ケルトの誇りである。」


1.AR SOUDARDED (Trad.) 3:20 
兵士達は赤い服を着ている 
2.KENAVO CILL AIRNE (Soazig KLINGER) 2:30 
さらば、キラルニー 
3.TRICOLORED RIBBON (Trad.) 0:52 
三色のリボン 
4.MARV PONTKALLEG (Trad.) 3:22 
ポンカレッグの死 
5.SUITE GAVOTTE (Trad.) 3:05 
ガヴォット組曲 
6.AL LABOUS MARV (Soazig KLINGER) 3:29 
死んだ鳥 
7.BREZHONEG (Soazig KLINGER) 3:22 
ブルターニュの言葉 
8.MISS MC DERMOTT (Trad.) 2:16 
ミス・マクデルモット 
9.LONELY BANNA STRAND (Trad.) 2:17 
ロンリー・バンナ・ストランド 
10.MARCHE DE BRIAN BORU (Trad.) 2:23 
ブライアン・ボルのマーチ 
11.UL LIZHER D'EUS PARIS (Soazig KLINGER) 3:15 
パリからの手紙 
12.PENNHEREZ KEROULAZ (Trad.) 2:02 
ケルーラの世継ぎ 
13.BREZHONEG (Soazig KLINGER) 1:33 
ブルターニュの言葉 


Enregistrement: D. SAMARCQ (Sysmo) 
Gravure: R. MICHEL (CBS
Photo: X 
Dessin et Maquette: S. BELTRANDO 
Réalisation: J. P. SMETS 
Production: CARAVAGE 
P 1980 


Licensed by CARRERE 

デザイン:美登英利/SSデザイン 
イラスト:木下恵介 


◆白石和良による解説より◆ 

「この地方の英名‟Brittany”(Small Britainの意味)が示す通り、5世紀に英国諸島から渡ってきたケルト人達の国、ブルターニュは言語もフランス語とは全く異なるブルターニュ語で、ウェールズ語やコンウォール地方の言葉に近い。(中略)文化も音楽も当然ながらフランスの他の部分とは全く異なるのだが、パリを中心とした言ってしまえば中央集権的なこの国の文化政策の為もあって、民族意識の高揚によって、それらが大手を振って復興してきたのはそう昔の事ではないのである。(中略)ここで注目したいのは、Jord Cochevelouなる楽器職人で、彼は、研究を重ねた後、1953年に、伝説的な楽器となっていたケルティック・ハープを復元したのである。彼の息子は、その音に魅了されて、生涯をブルターニュのフォーク・ミュージック~ケルト文化の復興に捧げる決意をする。――彼の息子こそが、アラン・スティベルAlan Stivellなのである。スティベルの音楽は70年代の始めにレコードで発売されたが、これがフランスの音楽地図の一部をひっくり返したと言っていい。(中略)そして数多くのフォロワーが出現した。しかし、ブルターニュの音楽はブルターニュ人の音楽であり、フランス人の音楽ではない。事実、このように宣言して、スティベルのバンドからギタリストのガブリエル・ヤクー(ブルターニュ人ではない)達が独立して自身のバンド マリコルヌMalicorneを74年に結成し、《フランスの》トラッド・フォークをリバイバルさせる。」
「スティベルの仕事は単にフォーク・リバイバルを目ざすにとどまらず、ケルト文化復権という戦略的な目標を持っていた。レパートリーもブルターニュのトラッド以外は、民族意識の自覚高揚を訴える自作曲であったり、他の地のケルト達への連帯を表明するようなアイルランドのトラッドであったりした。」
「さて、このアルバムの主人公ソアジグもスティベルの様に、ケルト連帯の明確な主張を持って曲を選び、歌っている。アイリッシュ・ハープなどより小型のケルティック・ハープの透明度の高い響き、そして彼女の可憐でありながら、しっとりと落ちついたヴォーカルはそれだけで勿論充分に魅力的である。けれどもこの愛らしい音楽の底にはきわめて強固な意志が潜んでいるのである。」

「●曲目紹介」
「[1]兵士達は赤い服を着ている=ブルターニュのトラッド。ソアジグは祖母から習ったというが、比較的知られた曲である。」
「[2]さらば、キラルニー=ソアジグの自作。アイルランドのキラルニーのフェスティバルに78年にブルターニュ代表として出場し、受賞した時の思い出を綴ったインストゥルメンタル。」
「[3]三色のリボン=アイルランドの革命の歌のひとつ。(中略)3色のリボンとは、南アイルランドを表わす緑、北アイルランドを示すオレンジ色、そして両者の結合を象徴する白である。」
「[4]ポンカレッグの死=ブルターニュのバラッド。ポンカレッグとは18世紀始めにブルターニュ独立のための反乱を起こした侯爵だが結局反乱は失敗しナントで処刑された。」
「[5]ガヴォット組曲=コルヌワイユ(ブルターニュ南西部の地方)のダンス曲をメドレーで演奏している。」
「[6]死んだ鳥=Amoco Cadizという場所で起こった大惨事を歌ったというソアジグの自作バラッド(引用者注:1978年3月、ブルターニュ沖でタンカー「アモコ・カディス号」が座礁原油が流出、海洋汚染によって多くの海鳥が死んだ事故。本作オリジナルLPジャケ絵参照)。」
「[7]ブルターニュの言葉=自作曲。この曲についてソアジグは「私のレパートリー中唯一のフランス語の歌だが、それなりの訳がある。この歌はブルターニュの青年達に自らの本当の言葉を発見させ、使わせようという目論見があるのだ。」と語っている(引用者注:ブルターニュではフランス語の使用が義務付けられてきた為、ブルターニュの地域語ブルトン語(ブレイス語)は消滅の危機にあります)。」
「[8]ミス・マクデルモット=アイルランドの伝説的なハープ奏者、Turlough O'Carolan (1670-1738)の曲。」
「[9]ロンリー・バンナ・ストランド=これも(中略)アイルランド革命の歌のひとつ。」
「[10]ブライアン・ボルのマーチ=アイルランドのトラッド。」
「[11]パリからの手紙=自作曲。仕事を求めてパリへ出たブレトンの女性が故郷の恋人へ綴った手紙という内容。一種の移民のバラッドか(引用者注:ソアジグによるコメント(仏文)には「Cette lettre est celle d'une exilée. Lettre nostalgique adressée à celui qui est resté au pays. Lettre d'amour à la Bretagne.(これは移民の手紙、故郷に残った人に宛てたノスタルジックな手紙であり、ブルターニュへのラブレターである)」とあります)。」
「[12]ケルーラの世継ぎ=ブルターニュのトラッド。ここでは歌は無いが、元々は、母親から意志に反した政略結婚を強いられて自殺したMariede Keroulazとういう女性の事(16世紀の実話)を歌ったバラッドである。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全16頁)に白石和良による解説、歌詞対訳(田中美紀・訳)、写真図版(モノクロ)1点、ブックレット裏表紙にオリジナルLPジャケット図版(カラー)。投げ込み(十字折り)に「オリジナルLPジャケットのバック・スリーブ」復刻と「European Traditional Collection」CDリスト(モノクロ図版15点)。インレイにトラックリスト。

オリジナルLPは1980年リリース。#1、3、4、6、7、9、11はケルティック・ハープ弾き語り(#3、9は英語、#7はフランス語、それ以外はブルトン語で歌っています)、#2、5、8、10、12、13はケルティック・ハープ独奏です。1978年にアイルランドのキラルニーのフェスティバルで一等賞になった時に演奏した曲が#6で、メロディはややグリーン・スリーヴスっぽいです。

ソアジグはその後、コーンウォールのミュージシャン、キト・ル・ナン・デイヴィ(Kyt Le Nen Davey)と結婚、1982年にはキトの家族バンド「ブッカ」(Buccaはコーンウォールの海の妖精の名前)のアルバム『An Tol An Pedn An Telynor(The Hole in the Harper's Head)』に裏方として参加、1989年にはキトと家族バンド「アナオ・アタオ」(Anao Atao)を結成して『Esoteric Stones』(1994年)と『Poll Lyfans (Frogpool)』(1998年)の2枚のCDをリリース(ソアジグはギター、パーカッション等を担当)、アナオ・アタオは1999年に来日しています。
コーンウォールブルターニュは古くから交流があったから、音楽やダンスも互いに影響しあっているんだ。――キト・ル・ナン・デイヴィ」
(「The OWL 2」所収インタビューより)

★★★★★

 

Ar Soudarded 


「Ar soudarded zo gwisket e ruz 
Ar veleion gwisket e du」

「兵士達は赤い服を着ている 
僧侶達は黒い服を着ている」

「Gwellan soudard oa en arme 
Oa ar soudard ar fur, e oe」

「軍隊一の兵士と言えば 
それは他でもないアル・フュール」

「Hen a fare d'e gamarad 
Gredan ket e varvin ervat」

「ある日彼は仲間に言いました 
僕は自分が良い死に方をするとは思えない」

「Ma varvan me e ti ma zad 
Intexit me er vourc'h Brijak」

「もしも僕が故郷の地で死んだら 
ブリジャックという小さな村に葬ってくれ」

「Ma varvan me kreiz ar brezel 
Interit me en douar santel」

「もしも僕が戦で死んだら 
祝別された土に埋めてくれ」

「Ar soudarded zo gwisket e ruz 
Ar veleion gwisket e du」

「兵士達は赤い服を着ている 
僧侶達は黒い服を着ている」