幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『バルトーク:バレエ《かかし王子》/カンタータ・プロファーナ』  ブーレーズ=シカゴ交響楽団

バルトーク:バレエ《かかし王子》/カンタータ・プロファーナ』  
ブーレーズシカゴ交響楽団

Bartók: The Wooden Prince / Cantata Profana 
Chicago Symphony Orchestra / Boulez 

 

CD: Deutsche Grammophon/ポリドール株式会社 
POCG-1637 (1993年) 
¥3,000(税込)(税抜価格¥2,913) 
Made in Japan 

 


帯文: 

ピエール・ブーレーズ指揮によるバルトーク作品の第一弾。シカゴ交響楽団演奏のバレエ《かかし王子》と《カンタータ・プロファーナ》。バルトークの三十歳代前半におけるもっともすぐれた作品のひとつである《かかし王子》と、大規模な声楽曲《カンタータ・プロファーナ》を、ブーレーズは鮮烈な筆致で精緻に仕上げている。シカゴ交響楽団も原始主義的な激しいリズムをあざやかに描き、エネルギッシュでインパクトの強い演奏を聴かせてくれる。全体に強く引き締まった緊張感が特徴。」


ベラ・バルトーク 
BÉLA BARTÓK 
(1881-1945) 


カンタータ・プロファーナ 
Cantata profana Sz94 
――9匹の不思議な雄じか 
A kilenc csodaszarvas 

1.あるところに年老いた父がおりました 6:58 
"Volt egy öreg apó" 
Molto moderato - Allegro molto 
2.ああ、彼らの愛する父は 8:00 
"Hej, de az ö édes apjok" 
Andante 
3.あるところに年老いた父がおりました 3:06 
"Volt egy öreg apó" 
Moderato 

ジョン・アラー(テノール) 
John Aler, tenor 
ジョン・トムリンソン(バリトン) 
John Tomlinson, baritone 
シカゴ交響合唱団 
Chicago Symphony Chorus 
合唱指揮:マーガレット・ヒリス 
Chorus Master: Margaret Hillis 


バレエ《かかし王子》 作品13 
The Wooden Prince Sz60 (op.13) 
ベーラ・バラージュの台本による1幕のパントマイム・バレエ 
Ballet pantomime in one act by Béla Balázs 

4.前奏曲 5:13 
Introduction 
Molto moderato 
5.第1舞曲:王女の踊り 5:04 
First Dance: Dance of the Princess in the F折れst
Molto moderato 
6.第2舞曲:木々の踊り 5:27 
Second Dance: Dance of the Trees 
Assai moderato 
7.第3舞曲:小川の踊り 11:36 
Third Dance: Dance of the Waves 
Andante 
8.第4舞曲:王女とかかし王子の踊り 15:20 
Fourth Dance: Dance of the Princess with the Wooden Prince 
Allegro 
9.第5舞曲:王女は彼を(かかし王子)引き寄せ、強く引っ張り、彼と踊ろうとする 1:55 
Fifth Dance: The Princess pulls and tugs at Wooden Prince 
Meno mosso (subito) 
10.第6舞曲:王女は魅惑的な踊りで彼(本物の王子)の気を惹こうとする 1:38 
Sixth Dance: She tries to attract the real Prince with her seductive dancing 
11.第7舞曲:愕然として、王女は彼の後を追い掛けようとする。しかし森が彼女の行く手を妨げる 8:43 
Seventh Dance: Dismayed, the Princess attempts to hurry after the Prince, but the forest bars her way 
Moderato 


シカゴ交響楽団 
Chicago Symphony Orchestra 
指揮:ピエール・ブーレーズ 
Conductor: Pierre Boulez 

録音:1991年 シカゴ 


Recording: Chicago, Orchestra Hall, 12/1991 
Executive Producer: Alison Ames 
Recording Producer: Karl-August Naegler 
Balance Engineer: Rainer Maillard 
Editing: Oliver Rogalla 
Hungarian language coach (Cantata profana): Miklos Simon 
Recorded using B & W Loudspeakers 
Cover Illustration: Alfons Holtgreve 
Artist Photos: Robert M. Lightfoot III 
Illustrations: Collection Ferenc Bonis 


石田一志による解説より◆ 

「《かかし王子》の筋書き 
前奏曲:オーケストラの前奏曲の終わり頃に幕が上がると、一方は麓に小川が流れ、もう一方は森に囲まれた丘の上にふたつの小さなお城が見える。妖精が小川の流れる左手の丘の麓に立ち、王女は森の中に座っている。
第1舞曲〈王女の踊り〉:妖精は木の周りを戯れながら踊っている王女に近づく。第2のお城の門が開かれ、王子が戸口に現れる。(中略)妖精は王女に引き下がるように命じる。王女は(中略)それを拒否し、踊り続けるが妖精は王女を城に追い返してしまう。
間奏曲:旅に出ようとしていた王子は、王女がまさにお城に入ろうとするときに、彼女を見初める。(中略)王女の方は王子に気が付いていない。王女は小さい部屋に入り、糸車の前に座る。王子は彼女の城によじ登ろうと決意するが、彼が森に入るとすぐに妖精が森に魔法をかけてしまう。
第2舞曲〈木々の踊り〉:森が生きているように木々が揺れ動く。王子は恐ろしさに目を見張る。彼は森に入るが、苦労してやっと通り抜ける。」
「間奏曲:王子は今度は橋の方に向かう。しかし妖精はまた小川にも魔法をかける。
第3舞曲〈小川の踊り〉:小川は川底から浮かび上がり、橋を持ち上げる。王子は波を越えようと色々試みるが、失敗に終わる。がっかりして彼は道を引き返す。」
「間奏曲:王子は別の考えを思いつく。自分の杖にマントを着せて、石の上に立ち、王女の気を惹こうとしてかかしを振る。王女は(中略)それを見るがなんの関心も示さない。王子は、かかしに王冠をつけてみる。王女はそれを見て、さっきより心を動かされる。王子ははさみを出して、自分の黄金の巻き毛を切ってかかしにつける。王女はかかしの金髪に気付き、欲しくなる。そして小さなお城を出て、丘の麓までやってくる。かかしの後から王子が現れ、王女の方に腕を広げる。妖精が魔法をかけ、かかしに生命を与える。王女はかかしの王子に近付こうとするが、本物の王子が邪魔である。王女は彼をさけて、かかしの王子を手に入れる。
第4舞曲〈王女とかかし王子の踊り〉:王女とかかし王子は踊りながら扉の中に消える。王子は絶望感に駆られる。彼は地面に伏して眠ってしまう。妖精が(中略)現れ(中略)彼を慰める。妖精のことばですべてのものが生命を得て、王子に敬意を表して踊る。大きな花の萼から妖精は金髪の巻き毛を取り出し、王子の頭に付ける。別の花の萼からは王冠を取り出し彼の頭に載せ、また別の花の萼からマントを取り出して彼の肩にまとわせる。(中略)彼はどこから見ても完全な王子である。突然、王女とかかし王子が舞台のもう一方から登場する。」
「第5舞曲(中略):王女はかかし王子を引き寄せ、強く引っ張り、彼と踊ろうとする。しかし、かかし王子は倒れ壊れてしまう。それから王女は新しく華麗に着飾った輝くばかりの王子の視線を感じる。
第6舞曲(中略):王女は魅惑的な踊りで本物の王子の気を惹こうとする。王子は心を動かされるが、しかし軽蔑した身振りで立ち去る。
第7舞曲(中略):愕然として、王女は彼の後を追い掛けようとする。しかし森が彼女の行く手を妨げる。
後奏曲:絶望した王女は自分の王冠とマントを放り出し、とうとう髪まで切ってしまう。(中略)そこで王子が舞台の前方に出る。彼は嘆き悲しむ王女を見て、近付き彼女を抱き寄せる。彼がそうすると、変形されていたものが徐々に本来の姿、本来の場所へと戻る。幕がゆっくりと下りる。」

「《カンタータ・プロファーナ》」
「全曲は3つの部分からなるが第1部は叙事的な導入にあたる。9人の美しく逞しい息子をもつ男の話が始まる。やがて子供らは狩りに行き、鹿を求めて森に入り、見事な鹿の群れを追って次第に森の奥に進み、ついに魔法の橋を渡って鹿に変えられてしまう。」
「第2部が劇的な本体である。(中略)父親は森の中に入り、9頭の鹿が魔法の橋を渡るのをみてその後をつける。(中略)群れの統率者である長子の鹿(中略)が「撃たないで、さもないと彼らの角があなたを突き刺すだろう」と言う。父(中略)は「お母さんは待っている。夕食の準備はできている」と帰宅を促す。しかし鹿は悲しげに「角のある身では、我が家の戸口はくぐれない」と言い、野性の誘惑について歌う。」
「第3部は(中略)合唱によるこの古い物語の回顧である。(中略)なお、バルトークルーマニアの題材に基づくこのカンタータに続いて、チェコハンガリーの題材によるカンタータを3部作として完成し、ドナウ流域の3つの国の「兄弟愛」を表現する情熱をもっていたが、それは実現できなかった。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全16頁)に石田一志による解説、「カンタータ・プロファーナ」歌詞&対訳(横井雅子)、トラックリスト&クレジット、図版「《かかし王子》のコステューム・デザイン」(モノクロ)4点、写真図版(モノクロ)3点。

★★★★★ 


Cantata Profana - I. Molto moderato