『伊福部昭の芸術 7
幻 ― わんぱく王子の大蛇退治』
The Artistry of Akira Ifukube 7
GEN - Akira Ifukube Orchestral Works
CD: King Record Co., Ltd.
KICC 440 (2003年)
定価¥3,000(税抜価格¥2,857)
交響ファンタジー「ゴジラVSキングギドラ」(1991)
Symphonic Fantasy "GODZILLA VS KINGGHIDORA"
1.Ⅰ 前奏曲 Preludio 2:42
2.Ⅱ ディノザウルス Dinosaurs 2:43
3.Ⅲ ラゴス Lagos 1:44
4.Ⅳ エミー Emi 3:24
5.Ⅴ 行進曲 Marcia 3:02
7.Ⅶ ゴジラ Godzilla 3:38
交響組曲「わんぱく王子の大蛇(おろち)退治」(1963/2003)
Symphonic Suite "THE LITTLE PRINCE AND THE 8-HEADED DRAGON"
8.Ⅰ章 「前奏曲~イザナミの昇天」 6:16
9.Ⅱ章 「スサノオの旅立ち~火の国」 4:53
10.Ⅲ章 「アメノウズメの舞」 3:29
11.Ⅳ章 「終曲」 5:58
本名徹次 指揮/日本フィルハーモニー交響楽団
女声合唱:コールジューン(合唱指揮:甲田潤)
コントラルト:弓田真理子[8]、[12]
TETSUJI HONNA
Conducting the JAPAN PHILHARMONIC ORCHESTRA
CHOR JUNE (JUN KODA)
MARIKO YUMITA, Contralto [8], [12]
録音:2003年8月25-26日 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール[1]-[7]
2003年9月8-9日 大田区民ホール アプリコ 大ホール[8]-[12]
Recorded: 25-26 August 2003 Katsushika Symphony Hills, Mozart Hall [1]-[7]
8-9 September 2003 Aprico, Large Hall [8]-[12]
監修:伊福部昭
Supervisor: Akira Ifukube
プロデューサー:松下久昭
Director: Hisaaki Matsushita (King Records)
レコーディング・エンジニア:須賀孝男
Recording Engineer: Takao Suga (King Sekiguchidai Studio)
テクニカル・エンジニア:高橋邦明
Technical Engineer: Kuniaki Takahashi (King Sekiguchidai Studio)
マスタリング・エンジニア:金子清次
Mastering Engineer: Seiji Kaneko (King Sekiguchidai Studio)
アシスタント・エンジニア:西澤亜友/宮下真理子
Assistant Engineers: Ayu Nishizawa (SCI) / Mariko Miyashita (SCI)
アートワーク・マネジメント:山下淳一
Artwork Management: Junichi Yamashita (King Records)
デザイン:美登英利
Cover Design: Hidetoshi Mito (Mitografico)
ブックレット・本文レイアウト:アプローチ
Booklet Layout (Approach)
写真:岡本央
Photo: Sanaka Okamoto
共同企画:日本フィルハーモニー交響楽団
Co-Planning: JAPAN PHILHARMONIC ORCHESTRA
◆本CD「自作を語る」(伊福部昭)より◆
「交響ファンタジー『ゴジラVSキングギドラ』」
「実はこの曲のことは恥ずかしながら忘れておりました。(中略)で、これを一体いつやったのかと思ったら、私の喜寿の記念演奏会の折りだそうで、ああ、そういえば映画の封切りに合わせ、そういうものを作ったなあと。それで譜面を見たら、確かに自分で映画音楽用の元のスコアをいろいろ直してやっているのですね。喜寿の演奏会で、たった一回だけやって破棄するつもりではあったのですが……。しかし残ってしまったものは仕方ない。御希望があるならばと、恥をしのんで録音に応じさせて頂きました。」
「だいたい私は子供の頃から古代生物にはとても興味があるのですね。今でも娘に車椅子に乗せて貰って恐竜の展覧会に出かけたり、家では三葉虫の研究書を読んだりという暮らしですから。やっぱり結局、私自身がゴジラを好きなのでしょう。」
「1975年に『メカゴジラの逆襲』の音楽を担当してから、長いことゴジラとの付き合いが切れていた時期がありました。(中略)しかし1991年に『ゴジラVSキングギドラ』を「ゴジラ映画」としては16年ぶりにお引き受けすることになりました。(中略)で、作曲する段になって、新しくデザインされ直したキングギドラを見て、この怪獣には電子楽器をあてがってこの世ならざる感じを出すのがよいと考えたのですが、たまたまその頃、井上誠さんに会ってそのアイデアを話したら、現在の感覚では電子楽器がこの世なるものでオーケストラがこの世ならざるものだ、電子楽器でこの世ならざる雰囲気はもはや出ないと言われ、時代の変化を痛切に意識しました。(中略)オーケストラがこの世ならざるものなら、私が映画音楽にかかわる意味は昔よりむしろあるのかとも思いましたね。」
「交響組曲『わんぱく王子の大蛇退治』」
「1963年に作った東映の長編アニメーション映画のための音楽から纏めたものです。この素材を演奏会用に編作すべきであるというご意見はファンの皆さんからしばしば賜っておりましたし、レコード会社さんからもそんな要望を寄せて頂いたことがありました。それだけ気に入って頂けるとは作曲家冥利につきますが、これは映画音楽の中でも、またアニメ映画のためのものですから、生身の俳優さんの出てくる実写の映画よりも一段と画面の動きに密着して作曲されています。それを音楽だけ切り離してみても、訳が分からなくなるだけではないか。そんなことを思い、ずっと首を縦に振らずに来たのですが、この度、とうとう押し切られてしまいまして、それほど皆さんが望んでくださるならと、思い切ってやってみました。仕事にあたっては、私の東京音大での最後の弟子になる堀井智則さんの協力を得ました。
さて、『わんぱく王子の大蛇退治』の映画音楽を引き受けた経緯ですけれども、監督の芹川有吾さんが日本神話の素材なら伊福部が適任ではないかと目星をつけておられたようで、しかしアニメとなると仕事の質が違ってきて、手間もかかりますので、そんなことを果たして引き受けてくれるだろうかと、いきなり正式な依頼ということでなく、様子見をかねた打診のようなものが内々にあったと記憶しています。そのとき、私はディズニーのアニメ映画『ファンタジア』のアメリカでの初上映時の立派な分厚いプログラムを持っていたので、それを片手に、『ファンタジア』のことを喋ったと思います。私はあの映画を戦争中、ですから日本では『ファンタジア』がまだ正式に封切られていなかった頃、たまたま東京に出ていたときに東宝の掛下慶吉さんに誘われて観ているのです。というのは、日本軍が確かフィリピンでそのフィルムを接収してきまして、(中略)関係者向けの内々の上映会をやったのですね。そのときはもうびっくりしました。豪華で精密なものだなあと。私の好きなストラヴィンスキーの『春の祭典』も出てきましたし。(中略)とにかくそんな話を東映の方々にしたので、伊福部はアニメに興味があると判定されたようです。それで正式に依頼が来ました。
私は実はアニメが大好きというわけではなかったのですが、ただ実写の映画をやっていますと、幾ら音楽を書いても、仕上がってみれば、効果音や台詞ですっかり潰されていることがしばしばで、うんざりさせられてばかりでしたから、『わんぱく王子』については効果音もみな作曲家に任せて楽器でやるという話も最初からありましたし、腕のふるいがいがあるかとは思いました。」
「仕事としてはこれは文句なく手のかかるものでした。たとえば狸の頭に木の実がぶつかる際の音はどんな打楽器で作ろうかとか、この場面の風の音はウィンド・マシーンを濡らしてから回してみたら感じが出るだろうかとか、すべていちいち考えるのですから。
そうした中で、とりわけ印象に残るのは、アメノウズメの踊りの場面です。(中略)その踊りは神話に於いて日本の芸能の誕生を意味しているのですし、スタッフも特に力を入れたいとのことで、ならば音楽と完璧にあった舞踊場面を作るには、はじめに音楽があった方がいいと、芹川さん、作画の森康二さんと周到にプランを練り、私が舞踊譜といいますか、だいたいの振付と時間の割振りを考えて作曲し、先にそれを演奏・録音して、次にその音楽に合わせ、旗野恵美舞踊研究所というところからダンサーに来て踊って貰ってそれを撮影し、その生身のダンサーの動きを参考に作画してアニメを完成させるという、贅沢な作り方をさせて貰いました。」
◆本CD作品解説(片山杜秀)より◆
「交響ファンタジー『ゴジラVSキングギドラ』」
「80年代、伊福部もゴジラも足並み揃えてリヴァイヴァルのときを迎え、(中略)91年、ようやく16年振りに両者は邂逅する。その作品が『ゴジラVSキングギドラ』(監督・脚本/大森一樹(中略))である。
この映画の封切り日は1991年12月14日で、その年、伊福部は喜寿を迎えていた。ならば喜寿の祝賀演奏会を久々に伊福部が手掛けた「ゴジラ映画」の公開前夜祭を兼ねて行ったらと、それは12月13日夜に開催されることになり、(中略)そこで伊福部本人が纏めたのが同映画からの演奏会用組曲、交響ファンタジー『ゴジラVSキングギドラ』である。」
「交響ファンタジーは7曲より成り、オーケストレーションは元の映画音楽からかなり手をかけられて概ね厚めに改められ、曲によっては寸法もかなり変えられ、また『ゴジラVSキングギドラ』に使われておらぬ音楽までも入れ込まれている。」
「交響組曲『わんぱく王子の大蛇退治』」
「1950年代後半、東映は東宝の特撮映画に対抗すべく、長編アニメーション映画に力を入れはじめ、(中略)毎年1作のペースで着実に作品を生み出して、スタジオに高い技術を蓄積し、優れたスタッフを育てていった。」
「そして長編第6作として1963年に製作されたのが『わんぱく王子の大蛇退治』(監督/芹川有吾)である。これは日本神話に題材を採り、自由に改変したもの。わんぱく王子のスサノオが母イザナミのこの世を去ったを悲しみ、あの世までも旅して母を探そうとまず海に船出し、怪魚と闘い、地底の夜の国を訪れ、火の神を従え、その火の神からアメノトリフネを貰って、それに乗り、姉アマテラスの住むタカマガハラを訪ね、いろいろ騒動を巻き起こし、姉を怒らせ、アマテラスは岩戸に隠れ、天界は暗黒になるが、アメノウズメの陽気な踊りにつられて、アマテラスは岩戸をあけてしまい、世に光が戻り、とにかく天界の乱れの原因を作ったスサノオはタカマガハラを追放され、(中略)地上に舞い戻ると、そこはイズモの国で、スサノオはその地のクシナダヒメを助け、アメノハヤコマに乗って、(中略)ヤマタノオロチを(中略)倒すと、それまで暗闇だったイズモの国はパッと明るくなり、母の姿が天にあらわれ、この地こそ母の国であったかとスサノオが喜んで大団円という物語である。」
「出雲にほど近い因幡の古代豪族の裔にして、系図上はオオクニヌシからスサノオへと遡れる血筋で、なおかつ日本古代、原始のおおらかさに常に惹かれてきた伊福部が、しかも実写よりも音楽の比重が遥かに高いと相場の決まっているアニメーションによる、スサノオが主人公の映画に作曲するとなれば、これはもう水を得た魚だ。事実、この映画には伊福部の音の語法が総動員され、全編90分に対し75分もの内容濃密な音楽が付いている。楽器編成もオリジナルは箏や笙まで含む多彩なものだ。
今回、この音楽の組曲化に当たって、伊福部は堀井智則の協力のもと、コンサートでも容易に演奏可能なように特殊楽器をつとめて外し、寸法も半時間程度と定め、整理・編作を行った。編作といっても、この作品ではたとえば交響ファンタジー『ゴジラVSキングギドラ』と比べれば遥かに原曲が尊重されており、先述の如く特殊楽器を外したりした以外は、その響きはオリジナルに限りなく近いと考えて差し支えないだろう。」
◆本CDについて◆
ブックレット(全20頁)にトラックリスト&クレジット、「自作を語る」(2003年9月1日、於尾山台。/文責:片山杜秀)、「作曲家と作品について」(片山杜秀)、「アーティスト・プロフィール」、写真図版(モノクロ)6点。
★★★★☆
交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」
Ⅲ章 「アメノウズメの舞」