幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

Peter Hammill 『The Fall of the House of Usher』 

Sarah-Jane Morris - Andy Bell 
- Peter Hammill - 
Lene Lovich - Herbert Grönemeyer 

THE FALL 
OF THE 
HOUSE 
OF 
USHER 

An Opera by PETER HAMMILL 
Libretto by CHRIS JUDGE SMITH from the tale by Edgar Allen Poe 


CD: Some Bizzare 
SBZ-CD 007 (1991) 
Manufactured in the UK 

 


THE FALL OF THE HOUSE OF USHER 
An Opera by PETER HAMMILL 
Libretto by CHRIS JUDGE SMITH 
From the tale by Edgar Allen Poe 


ACT I (The road to the House of Usher
1. "An unenviable role" [The Chorus]  2:27 
2. "That must be the House" [Montresor]  4:52 

ACT II (Within the House of Usher
3. "Architecture" [The Voices of the House]  3:35 
4. "The Sleeper" [Usher]  3:22 
5. "One thing at a time" [Usher / Montresor]  2:50 
6. "I shun the light" [Usher]  3:38 
7. "Leave this House" [Usher / Montresor / Chorus / House]  5:15 

ACT III (Immediately following) 
8. "Dreaming" [Madeline]  3:45 
9. "A chronic catalepsy" [Usher / Montresor]  3:15 
10. "The Herbalist" [Herbalist / Montresor]  3:43 
11. "The evil that is done" [Montresor / Chorus / House]  3:07 

ACT IV (The following Morning) 
12. "Five years ago" [Madeline / Montresor]  3:27 
13. "It's over now" [Madeline / Motresor]  3:44 
14. "An influence" [Usher / Montresor]  3:20 
15. "No rot" [Usher / Montresor / House]  2:04 

ACT V (Dawn the next day) 
16. "She is dead" [Chorus / Usher / Montresor / Herbalist]  6:04 

ACT VI (Three days later) 
17. "Beating of the heart" [Chorus / Usher / Montresor / House]  5:13 
18. "The Haunted Palace" [Usher / Montresor]  4:20 
19. "I dared not speak" [Usher]  1:45 
20. "She comes towards the door" [Usher / Montresor / Chorus / Madeline / House]  2:29 
21. "The Fall" [House]  3:07 

TOTAL RUNNING TIME  76:47 


The Characters: 
The CHORUS: Sarah-Jane Morris 
MONTRESOR: Andy Bell 
RODERICK USHER: Peter Hammill 
MADELINE USHER: Lene Lovich 
The HERBALIST: Herbert Grönemeyer 
The VOICES of the HOUSE: Peter Hammill 

Performed, arranged and recorded by Peter Hammill at Sofa Sound and Terra Incognita 

Except: Parts of Ms. Lovich's performance recorded at H.O.M.E. Studios by Les Chappell, Mr Grönemeyer's performance recorded at Outside Studios by Christoph Matlok. 

Artwork and Sleeve Design by Ridout 


◆本CDについて◆

ピーター・ハミルによるオペラ『アッシャー家の崩壊』(原作:エドガー・アラン・ポー/脚本:クリス・ジャッジ・スミス)。

ジュエルケース(黒トレイ)。ブックレット(全32頁)に歌詞、クレジット。インレイにトラックリスト。

ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターのデビュー以前のオリジナル・メンバーだったクリス・ジャッジ・スミス(脚本)の協力のもと、ピーター・ハミルが『アッシャー家の崩壊』に着手したのは1973年、それから18年後の1991年にリリースされた本作は(録音は1989~90年)、ゲスト歌手4人の他はハミルによるヴォーカル&キーボードの多重録音と打ち込みドラムによる音作りになっていて、「オペラ」というよりはオペラのためのデモテープといった感じです。本作からさらに8年後の1999年にリリースされた改訂版では、ドラムパートを削除して、新たにエレキギターの多重録音を全面的に導入することによってオーケストラ効果を出していて、ハミル自身の歌パートも新たに録音し直されています。
コロス(狂言回し)役のサラ=ジェーン・モリスはイギリスの歌手で、ブロンスキ・ビートのジミー・ソマーヴィルが1985年に結成したシンセ・ポップ・デュオ、コミュナーズ(The Communards)のヒット・シングル「Don't Leave Me This Way」にゲスト参加していました。ロデリックの友人モントレゾール役のアンディ・ベルは、デペッシュ・モードのヴィンス・クラークが1985年に結成したシンセ・ポップ・バンド「イレイジャー(Erasure)」のヴォーカル。ロデリックの妹マデリン役のリーナ・ラヴィッチは、ニナ・ハーゲンと並ぶニューウェーヴのエキセントリック歌姫、本作の後にもクリス・ジャッジ・スミスのアルバム『オルフェアス(Orfeas)』(2010年)にオルフェウスの妻エウリュディケ役で参加しています。医者(ハーバリスト)役のヘルベルト・グレーネマイヤーは、「ドイツでもっとも人気のある歌手の一人であり、1984年以来発表したすべてのアルバムがドイツのヒットチャート1位を獲得している。また俳優としても『U・ボート』などの映画に出演している」(ウィキペディアより)。

ポーの原作小説では語り手であるロデリックの友人の名前は明記されていませんが、本作では「モントレゾール」になっています。モントレゾールというのはポーの小説「アモンティリャードの酒樽」の主人公の名ですが、そこではモントレゾールは自宅に招いたフォルトゥナートを復讐のために地下墓所に生き埋めにします。「アッシャー家」ではロデリック・アッシャーが妹マデリンを地下墓所に生き埋めにしますが、その後ロデリックも崩壊する家と運命を共にし、友人はロデリックを見捨てて逃げ出します。

ところで、「アッシャー家」のオペラ化といえば思い浮かぶのはドビュッシー(未完)です。「ポーはロデリック・アッシャーの精神崩壊を家の倒壊と重ね合わせたが、ドビュッシーは次第に自分自身をロデリック・アッシャーと重ね合わせるようになっていった」(ロバート・オーリッジ)。ハミルの「アッシャー家」でも、ロデリックと「家」のパートをハミル自身が担当していて、ロデリックは「家は私だ(The House is I.)」と歌っています。フランスの精神科医がコロナ期の外出禁止中に「壁に向かって話しかけるのは正常だが、壁が返事し出したら統合失調症の徴候だ」とコメントしたということですが、本作では家が歌っています。ロデリックは「私は気違いではない(You may think that I am mad, but it is not so.」と主張してはいますが。しかしながら、「狂気が果たして最も崇高な知性でないものかどうか、輝かしいものの多くが、深遠なもののいっさいが、実は病める思考から、月並みな知性を犠牲にして高められた精神の状態から生じるものでないかどうか、その問題はいまだ未解決なのである」(ポー「エレオノーラ」富士川義之訳より)。

ACT III「The Herbalist」はロックンロール、ACT V 「She is dead」はハバネラのリズムです。

★★★★☆

 


Peter Hammill - Usher Suite