幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

カルメン・マキ  『ペルソナ 仮面』

カルメン・マキ 
『ペルソナ 仮面』 


CD: ZIPANGU PRODUCTS Co., Ltd. 
ZIP-0030 (2009年) 
税込価格¥2,940(本体価格¥2,800) 

 

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帯文: 

「ペ仮ルソ面ナ 

カルメン・マキ 
太田惠資(ヴァイオリン) 
黒田京子(ピアノ) 
ゲスト 吉見征樹(タブラ) 佐藤芳明(アコーディオン

「ペルソナ 仮面」を剥ぐ!! 
瞬きひとつで10年が過ぎ、
瞬き四つで川のように流れて道ができた。
1969年、17歳の少女が「時には母のない子のように」で鮮烈デヴューした。
40周年の今、原点に立ち返り新たに旅立つ。」


1.にぎわい(作詞:浅川マキ/作曲:かまやつひろし) 3:40 
2.北の海(詩:中原中也)――人魚(作詞:カルメン・マキ/作曲:春日博文) 11:33 
3.真夜中の花(詩:カルメン・マキ)――ふしあわせという名の猫(作詞:寺山修司/作曲:山木幸三郎) 6:23 
4.LOVESONGを唄う前に(作詞:加治木剛/作曲:春日博文) 6:45 
5.戦争は知らない(作詞:寺山修司/作曲:加藤ヒロシ) 5:00 
6.海の詩学(詩:寺山修司) 3:39 
7.街角(作詞:加治木剛/作曲:春日博文) 3:42 
8.ペルソナ(作詞:高橋睦郎/作曲:和田誠) 4:52 
9.友だち――てっぺん 8:26 
10.ジェルソミーナ 4:59 


Carmen Maki: Vocal, Poem Reading 
Keisuke Ohta: Violin, Electric Violin, Voice (M-5) 
Kyoko Kuroda: piano 

Guest 
Masaki Yoshimi: Tabla (M2,6,9) 
Yoshiaki Sato: Accordion (M-7,9,10) 

Engineered & Mixed by Sujeong Noh for Genonsha co., ltd. 
Recorded & Mixed at Studio 246, Tokyo 
Mastered by Tohru Kotetsu for JVC Mastering Center, Kanagawa 
Piano Technician: Hideo Tsuji 

Produced by Yutaka Ohki for BIGTORY 
Sound PRoduced by keisuke Ohta 
Execitive Producer: Yoshiaki Yokota for ZIPANGU Products co., ltd. 

Design: yamasin (g) 
Photo: Yohta Kataoka 
Painting on the wall: Kazuhiro Nishiwaki (sakana

Special Thanks to: Shuji Terayama, Kyoko Kujo, Maki Asakawa, Mutsuro Takahashi, Makoto Wada, Shintaro Machino (lete), LADY JANE 

This album is dedicated in loving memory to my uncle, Hideo Ito (1939-2009) 


◆本CDについて◆ 

紙ジャケ(厚紙・見開き)仕様。中ジャケにクレジット、ブックレット(全16頁)にトラックリスト、歌詞、写真図版(モノクロ)11点。

デビューから40年の音楽活動、さらにはこれまでの人生を回顧するような内容で、ブックレットには幼い頃の写真、天井桟敷館でのスナップ、テーブルに並べられた自身のLP、シングル、寺山修司の著書を前にした現在(当時)の姿(顔は写っていません)などが掲載されています。
カルメン・マキが浅川マキをカバーする(「にぎわい」「ふしあわせという名の猫」)というだけで感慨深いものがありますが、二人ともデビューに寺山修司がからんでいて、本作でも寺山作詞の歌(「ふしあわせという名の猫」「戦争は知らない」)や寺山の詩「海の詩学」「友だち」(『ふしあわせという名の猫』――新書館「For Ladies 31」1972年――所収、ブックレット裏表紙の写真でテーブルの上にあるのが同書で、カルメン・マキは同書のオーディオブック版――2008年、ことのは出版――でも朗読を担当しています)が取り上げられていて(デビューシングル「時には母のない子のように」は外されていますが、1969年のファースト『真夜中詩集』収録曲「戦争は知らない」は父のない子の歌です)、朗読は本CDには全部で四篇収録されていて、寺山の二篇と、中原中也「北の海」、自作の「真夜中の花」で、「友だち」ではアヴァンギャルドな展開もみられます。
カルメン・マキ&OZのギタリスト春日博文作曲の「人魚」(春日博文プロデュースの1996年作『Unison』収録曲)「LOVESONGを唄う前に」「街角」(マキOZ『Ⅲ』収録曲)、カルメン・マキ&サラマンドラのギタリスト鬼怒無月との共作「てっぺん」、詩人の高橋睦郎イラストレーターの和田誠の共作曲「ペルソナ」(1970年のセカンド『アダムとイヴ』収録曲)、人づきあいが苦手な大道芸人ザンパノがジェルソミーナの死によって初めて愛の意味を知るフェリーニの『道』のテーマ曲「ジェルソミーナ」(1993年作『ムーン・ソングス』でも取り上げられていました)。こうしてみてくると、「父」、中原中也寺山修司をはじめとして、浅川マキふうにいうと「幻の男たち」の影がさしていますが、そういえばジャケ写真の壁の絵(sakanaの西脇一弘の作品)は、どことなく『天井桟敷の人々』のジャン=ルイ・バローを彷彿とさせます。
本CDのタイトル曲「ペルソナ」の主人公(少女)もそうですが、ザンパノも中原中也も、生まれつき人づきあいが出来ない、今で言えば高機能自閉症者で、そうした人間が周囲との違和感に苦しみ、人間関係に悩み、あえて孤独に生きることを選んだり(「ペルソナ」)、「きらわれもの同士」が「愛」抜きで「人生の悪口」を言い合いつつ共生したり(「友だち」)しながら、『100万回生きたねこ』のように、「何度でも死んで 何度でも生き返り」(『カルメン・マキ&サラマンドラ』「変わらないもの」より)、ついに、「誰も行ったことのない場所」で「あなたとわたし ひとつになる」(「てっぺん」より)、すなわち自即他・他即自の主客未分の境地に至る、そういうことだと思います。
それはそれとして、本作は、たまにタブラやケチャが入ったりしますが、伴奏もピアノとヴァイオリンのみで落ち着いていて(とはいうものの、二人ともアヴァンギャルド音楽界の大物なので、うっかりしているとじわじわと毒がまわってきます)、カルメン・マキの声(と世界観)を堪能できる名盤だと思いました。

★★★★★ 


北の海/人魚

youtu.be

真夜中の花/ふしあわせという名の猫

youtu.be

 

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