幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『ルベル/デトゥーシュ:四大元素 ― 炸裂するバロック音楽』  ホグウッド指揮エンシェント室内管弦楽団

『ルベル/デトゥーシュ:四大元素 ― 炸裂するバロック音楽』 
ホグウッド指揮エンシェント室内管弦楽団

REBEL & DESTOUCHES 
Les Eléments 
THE ACADEMY OF ANCIENT MUSIC 
CHRISTOPHHER HOGWOOD 


LP: L'Oiseau-Lyre 
発売元:ロンドンレコード株式会社 
L28C-1189 (1980年)
¥2,800 
Made in Japan 

「直輸入メタル原盤使用」

 


帯文:

「驚天動地……!!!! バロック音楽の通念を砕く不協和音の渦 
時代の先駆をなす、真の意味での隠れた名曲が今、甦る!」



ルベル(ジャン・フェリ)(1666―1747) 
バレエ音楽四大元素
JEAN-FÉRY REBEL: LES ÉLÉMENTS 
1) 第1曲 ― カオス(混沌) 6:35 
No. 1 - Le Cahos 
2) 第2曲 ― ルールⅠ〈地と水〉/第3曲 ― シャコンヌ〈火〉 4:56 
No. 2 - Loure I ("La terre et l'eau) / No. 3 - Chaconne ("La feu") 
3) 第4曲 ― さえずり〈大気〉 1:25 
No. 4 - Ramage ("L'air") 
4) 第5曲 ― ナイチンゲール(夜鳴き鶯) 1:31 
No. 5 - Rossignols 
5) 第6曲 ― ルールⅡ 1:54 
No. 6 - Loure II 
6) 第7曲 ― タンブランⅠ&Ⅱ 2:31 
No. 7 - Tambourins I & II 
7) 第8曲 ― シチリアーナ 1:27 
No. 8 - Sicilienne 
8) 第9曲 ― ロンドー〈愛の歌(エール)〉/第10曲 ― カプリス 4:04 
No. 9 - Rondeau ("Air pour l'amour") / No. 10 - Caprice 


デトゥーシュ(アンドレカルディナル)(1672―1749) 
バレエ音楽四大元素」 
ANDRÉ CARDINAL DESTOUCHES: LES ÉLÉMENTS 
1) 第1曲 ― 序曲 3:14 
No. 1 - Ouverture 
2) 第2曲 ― メヌエットⅠ&Ⅱ 3:07 
No. 2 - Menuet I & II 
3) 第3曲 ― マーチ&メヌエットⅠ 2:44 
No. 3 - Marche & Menuet I 
4) 第4曲 ― 時とそよ風の歌(エール)/第5曲 ― パスピエ 2:33 
No. 4 - Air pour les heures et les zephirs / No. 5 - Passepied 
5) 第6曲 ― エールⅠ〈海の女神ネーレーイス達の歌(エール)〉 1:31 
No. 6 - Air I pour les néréides 
6) 第7曲 ― エールⅡ 1:22 
No. 7 - Air II 
7) 第8曲 ― シャコンヌ 5:25 
No. 8 - Chaconne 


クリストファー・ホグウッド指揮 
エンシェント室内管弦楽団 
CHRISTOPHER HOGWOOD directing the 
ACADEMY OF ANCIENT MUSIC 
(on authentic instruments) 

Catherine Mackintosh / Monica Huggett / Christopher Hirons / John Holloway / Miles Golding / June Baines / Rachael Isserlis (First Violins) 
Simon Standage / Polly Waterfield / Roderick Skeaping / Michaela Comberti / Stuart Deeks / Kay Usher (Second Violins) 
Trevor Jones / Jan Schlapp / Colin Kitching (Violas) 
Anthony Pleeth / Richard Webb (Cellos) 
Peter McCarthy (Double Bass) 
Stanley King / Clare Shanks (Oboes) 
Hansjürg Lange / Jeremy Ward (Bassoons) 
William Prince / Roderick Shaw (Natural Horns) 
Stephen Preston (Piccolo) 
Nicholas McGegan (Flute) 
Charles Fulbrook (Timpani
Michael Laird (Natural Trumpet) 
Christopher Hogwood (Harpsichord) 


Recording 
Producer: PETER WADLAND 
Executive Producer: RAYMOND WARE 
Engineer: JOHN DUNKERLEY 
Location: ST. PAUL'S, London 
Date: June 1978 

Cover: Line & wash drawing from Bouquet's atelier 
Symbolic costume (Bibliothéque Nationale, Paris) 


◆美山良夫による解説より◆

「「四大元素」(Les Éléments)」――音楽作品の題名としては奇妙にさえ思われるこの言葉は、古代から自然界すべての最も根本的な構成要素、すなわち、地、水、火、大気の4つを示すものとして用いられてきた。」
「17世紀の終りから18世紀にかけては、自然界の現象、たとえば四季の移り変りを、従来からある音楽のジャンルや形式に当てはめる形で、いくつもの作品が書かれ、人気を集めた。美学者シャルル・バトゥーが、「芸術論」の中で、芸術は「美しい自然の模倣」であり、自然界には最も美しい模倣が構成されるような諸特徴が含まれているから、芸術家は観察によってこれを抽出しなくてはならないと説く時代に、この種の作品が多く生まれるようになるのは偶然の一致ではない。」
「このような思潮が育くまれて行く時代こそ、四季の変化を初め自然界をテーマにした諸作品が生まれる素地がそなわっていた、と考えることが可能なのではないだろうか。
 このレコードに収められた2つの「四大元素」と題された作品も、こうした素地から生まれた作品であり、(中略)このテーマによる音楽のフランスにおける最初の例が、デトゥーシュの作品であるという。」
「ジャン・フェリ・ルベル Jean-Féry Rebel は、1666年にパリで生まれ、1747年にやはりパリで世を去った音楽家で、(中略)8歳の時にはリュリや国王を驚かせるほどの楽才を、ヴァイオリンの演奏を通して示して見せたといわれている。」
「ルベルはその創作活動の最後の時代を、王立音楽アカデミーのバレエ団の能力と魅力をひきだすためのバレエ音楽のために捧げた。これらの合奏音楽は‟サンフォニー(symphonies)”と呼ばれている。」
「「四大元素」がパリで刊行されたのは1737年であり、楽譜には‟新しいサンフォニー”という副題が与えられ、また序文の中には、これが単にバレエのための音楽であるばかりでなく、演奏会用の音楽としてもうってつけであると述べ、その際は2つのヴァイオリン、2つのフルート、通奏低音で演奏できるという指示まで与えている。」
「楽譜の最初に置かれた序文は、この作品について作曲者自身が語った興味深いものである。その一部を紹介すると、「‟サンフォニー”導入部は、(前略)、四つの元素が、まだ不滅の法則によって自然の中にその位置を占める時よりも前の混沌(カオス)である。カオスの状態にある四元素をそれぞれ示すために、私は最も良いと思われる方法に従うことにした。バスは地をトレモロを用いて演奏される連続した音で表現し、旋律的に扱われるフルートは(中略)水の流れとそのつぶやきを模倣し、大気はピッコロで演奏されるトリルの持続で描かれる。最後に、生き生きとして燃え立つようなヴァイオリンが火を表わす。
 各元素の異なった性格はこのように認識され、その全体ないし部分において、分けられたり混合されている(後略)」。
 ルベルは、さらに言葉をついで、ハーモニー面での工夫等を説明しようとする。(中略)カオスは二短調によるアタックで始まるものである。(中略)このようなカオスの表現は、18世紀に前例を見ないものであり、J. ハイドンのオラトリオ「天地創造」のあまりに有名な導入部の先駆けといえるであろう。」
「さて、このカオスの表現の後には、洗練され、様式化された舞曲がつづく。オペラ=バレエの流行した時代に書かれたこの‟サンフォニー”が、その種の作品と根本的には同じスタイルの舞曲を連ねるのは、むしろ当然のことであった。」
「ルベルに先だって「四大元素」という名前の作品を書いたアンドレカルディナル・デトゥーシュ André Cardinal Destouches は、1672年にパリで生まれ、1749年に死んだ作曲家である。」
「「四大元素」もオペラ=バレエの1つであり、1721年12月22日にテュイルリー宮殿の中で初演された(王立音楽アカデミーにおける公開の初演は1725年)。(中略)この作品の原案は若い国王ルイ15世自身であり、国王はテュイルリー宮殿における初演の際、いくつかの舞曲を踊ったと伝えられている。」
「この作品には、ルベルのようなヴィジョンは見られないが、当時の記録によれば、舞台にはカオスの情景が作られ、その装置の前でオペラ=バレエが歌い、演じられたという。多分、ルベルは、この舞台を実際に見て、着想を得たのであろう。」


◆本LPについて◆ 

A式シングルジャケット。裏ジャケにトラックリスト&クレジット、高橋悠治によるライナーノーツ「混沌の世界、そしてその姿………………」。インサート(2頁)に美山良夫による楽曲解説、図版(モノクロ)4点、レコードリスト。

ルベルの「カオス」はストラヴィンスキーの「春の祭典」をちょっとだけ連想させます。「春の祭典」はスキャンダルを巻き起こしましたが、「四大元素」は音の遊びとして歓迎された、そんな頽廃と優美と逸楽のロココ時代でした。

★★★★★


ルベル「四大元素」より「カオス」