幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『マーラー:交響曲《大地の歌》』  ブーレーズ 

マーラー交響曲大地の歌》』 
ブーレーズ 

Mahler 
Das Lied von der Erde 
Pierre Boulez 
Wiener Philharmoniker 


CD: Deutsche Grammophon 
制作:ユニバーサル クラシックス&ジャズ 
発売元:ユニバーサル ミュージック株式会社 
販売元:ビクター エンタテインメント株式会社 
UCCG-1021 (2000年) 
定価¥2,548(税抜価格¥2,427) 
Made in Japan 

 


帯裏文: 

ブーレーズによるマーラー・シリーズも第7弾を迎え、マーラー音楽の本質を形成する〈厭世観〉と〈耽美性〉がみごとに調和した《大地の歌》の登場です。《大地の歌》はハンス・ベトゥゲの詩集《シナの笛》を題材に、マーラーの主要分野といえるリートと交響曲を結合させた傑作です。このアルバムではウィーン・フィルの精緻な演奏と、ブーレーズの精密な指揮とにより、明晰かつ緻密な響きの演奏を聴かせてくれます。さらに、ブーレーズはシャーデとウルマーナの両歌手を見事に牽引し、気迫と情熱を持った演奏が実現しました。2000年に75歳を迎えた巨匠、ブーレーズの全精力が注ぎ込まれた名盤の登場です。」


グスタフ・マーラー 
Gustav Mahler 
(1860-1911) 

大地の歌 
Das Lied von der Erde 
アルト、テノール独唱と大オーケストラのための交響曲 
Symphonie für eine Alt- und eine Tenorstimme und großes orchester. 
(歌詞:ハンス・ベトゥゲ『シナの笛』から)
(Text nach Hans Bethge "Die chinesische Flöte") 


1.I. 大地の哀愁を歌う酒の歌 8:30 
Das Trinklied vom Jammer der Erde 
Allegro pesante 
2.II. 秋に寂しき者 8:35 
Der Einsame im Herbst 
Etwas schleichend. Ermudet 
3.III. 青春について 3:02 
Von der Jugend 
Behaglich heiter 
4.IV. 美について 6:52 
Von der Schönheit 
Comodo Doleissimo 
5.V. 春に酔える者 4:35 
Der Trunkene im frühling 
Allegro 
6.VI. 告別 28:55 
Der Abschied 
Schwer 


ヴィオレッタ・ウルマーナ(メッゾ・ソプラノ) 
Violeta Urmana (Mezzo-soprano) 
ミヒャエル・シャーデ(テノール) 
Michael Schade (Tenor) 
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 
Wiener Philharmoniker 
指揮:ピエール・ブーレーズ 
Conducted by Pierre Boulez 

録音:1999年10月 ウィーン 


◆本CD解説(諸石幸生)より◆ 

「作曲に着手したのは1907年の夏頃からと推定されているが、妻アルマは1908年の夏の様子として、当時のマーラーを次のように回想している。
 「この夏の間中、マーラーは熱に浮かされたようにベトーゲ訳の中国詩をテクストにオーケストラ付き歌曲の作曲を進めました。それは進むにつれ規模を大きくしていきましたし、マーラーは個々の詩をつなぎあわせたり、間奏を加えるなど手を加えたため、作品は歌曲というよりも彼本来のフォルムである交響曲へと近づいていったのです。そして交響曲として作曲するという自覚が彼の中で明確になった時点から、作品は予想以上のテンポで完成に近づいたのでした。(中略)マーラーは自分の哀しみと苦悩のすべてをこの作品の中で表現しています。それが《大地の歌》なのです。もっとも、最初に考えられていたタイトルは『大地の嘆きの歌』というものでしたが」」


渡辺護による歌詞日本語訳より◆ 

「とこしえに天は青く、
ゆるぎなく地は在り、春に栄ゆれど、
人の命よ、いくばくぞ? 
百年に満たざる年月を
無常の現世(うつしよ)にうつつを抜かす!」

「生は暗し、死もまた暗し。」

「我いずこに行くとや? 我は山に行かん。
我が孤独なる心に憩いを与えん。

故郷を、我が住家を求めてさまよわん。
なれど遠国へは行かざるべし。
我が心は静かにして、その時の来るを待つ。

いとしきこの大地に春来りていずこにも花咲き、
緑新たなり! 遠き果てまで、いずこにも、とこしえに青き光! 
とこしえに…とこしえに…」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(本文12頁)にトラックリスト&クレジット、諸石幸生による解説、歌詞対訳(訳:渡辺護)。

「生は暗し、死もまた暗し。」(マーラー) 
「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、 死に死に死に死んで死の終わりに冥(くら)し。」(空海) 
「何から何まで真っ暗闇よ」(鶴田浩二) 

というわけで、この世(der Erde)が暗いのは分析的/客観的な事実なのでどうしようもないです。しかしこの世の外にはこの世とはちがって永遠(とこしえ)の青空(der Himmel=あの世)の世界が広がっているので、近視眼的にこの世だけ見て絶望するには及ばないです。それはそれとして、ブーレーズのいわゆる「分析的」な手法によってこそ、『大地の歌』の暗さも明るさも過不足なく表現され得るのではなかろうか。

★★★★★ 


Mahler: Das Lied von der Erde - Der Abschied