幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

YBO² 『アリエナシオン』 

YBO² 『アリエナシオン』 

YBO² 
ALIENATION 


CD: Trans Records/Super Fuji Discs 
Distributed by disk union 
FJSP242 (2015年) 
税抜価格¥2,300+税

 

 

帯文:

「YBO² ~ ALIENATION
1stアルバム「ALIENATION」+
1stシングル「DOGLAMAGLA」
北村昌士(ベース、ボーカル) 吉田達也(ドラム) K.K.NULL(ギター)
transrecordspresents 01 解説:掟ポルシェ


帯裏文:

「『ALIENATION』に通底するものは、錯乱を意味する現代思想用語由来のタイトル通り、「狂気」である。世に溢れる人の心を癒す歌の類いはここには微塵もなく、人の心を著しく喪失した人間または国家の状態を音楽に照射する。
(ライナーノーツより抜粋)」
「[ご注意]M7、8はオリジナル盤7インチレコードからマスターを制作しました。よってそれに起因するノイズ等がございます。ご了承下さい。」

 

ブックレットより北村昌士宣材写真。YOUさんかと思った。


transrecordspresents 01 
YBO² 
ALIENATION 

ALIENATION  TRANS-007 
1. AMERIKA 
2. 猟奇歌 
3. BOYS OF BEDLAM 
4. TO BE (帝国の逆襲) 
5. HEAVY WATERS 
6. URAL 

DOGLAMAGLA TRANS-005 
7. DOGLAMAGLA 
8. URAL 

ALL TRACKS, COMPOSED & DECOMPOSED BY YBO² 

KAZUYUKI K. NULL 
GUITAR, METALS, VOICE & REEDS 

TATSUYA YOSHIDA 
DRUMS, METALS, VOICE & PIANO 

MASASHI KITAMURA 
BASS, VOICE & MELLOTRON 

RECORDED AT MIB, DIG & CSV 
FEB & MARCH 1986. 
THANKS TO YUICHI KISHINO & CARL MASUNO (CSV


◆本CDについて◆

ジュエルケース(透明トレイ)。ブックレット(全8頁)にトラックリスト&クレジット、掟ポルシェによる解説(2015年10月15日)、モノクロ写真2点、カラー写真1点、ブックレット裏表紙にLP『ALIENATION』裏ジャケ画像。インレイにトラックリスト、シングル「DOGLAMAGLA」ジャケ画像、インレイ内側(トレイ部分)にシングル「DOGLAMAGLA」裏ジャケ画像。

掟ポルシェ氏の解説(これがすばらしいです)によると、オリジナルLPは1986年4月、トランス・レコードよりリリース、オリジナルEPは1986年1月リリース、「ALIENATIONの読みについては、フールズメイト’86年9月号のインタビュー中の北村自身による読みに準じ、「アリエナシオン」とさせていただいた。フランスを代表する現代思想家のミシェル・フーコーが「錯乱」の意味で使用した言葉の引用である。」とありますが、それはその通りではあるものの、それだと表記は「aliénation」になるはずです。それはそれとして、エイリアネイション「alienation」(疎外/狂気/エイリアン化)というワードはピーター・ハミル(ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター)の「Mirror Images」の歌詞にも出てきます(「And now I'm standing in the corner, / Looking at the room and the furniture / In cheap imitation of alienation and grief.」)。それもそれとして、オリジナルLPでは冒頭に26秒(クラウンの1989年CD再発では36秒)、小音量で「ミッキーマウス・マーチ」が流れ、それを暴力的に断ち切るように「AMERIKA」本編が始まっていたのですが、本CDではそれはカットされていて(2016年の『YBO² BOX』版も本CDを踏襲しています)いきなり始まってしまうのでたいへん残念です。
その、#1「AMERIKA」はタイトルはカフカの長篇小説『アメリカ(失踪者)』から取られていますが、歌詞はサイモン&ガーファンクルに依拠していて、トラッド曲「スカボロー・フェア」――S&Gのバージョンは厳密にいうとマーティン・カーシーのバージョン(1965年のアルバム『Martin Carthy』に収録)のカバーですが――をメインに、中間部では「アメリカ」(S&Gの1968年作『Bookends』収録曲、イエスプログレカバーしています)の歌詞が引用されています。ちなみにこの曲と、1986年のシングル「空が堕ちる」のカップリング曲「Warchild」(冒頭で「サウンド・オブ・サイレンス」の歌詞「Hello darkness」云々が引用されています)、それに北村による「Scarborough Fair」のカバー(YBO²以前の北村のバンドPhonogenixによるカバーが1984年のEP「Hymns for Savannah」に、北村/YUKOによる1987年のライヴ音源がYBO²名義のカセット『LIVE 3』に収録されています)、この三曲でYBO²「S&G三部作」になっているのではないでしょうか。
#2「猟奇歌」の歌詞は夢野久作(&西行)の短歌の引用ですが、8分の6拍子でたいへんかっこいいです。音楽的コラージュというかカットアップの手法が導入されています。ちなみにこの曲と、1984年のシングル曲「DOGLAMAGLA」(歌詞は「キチガイ地獄外道祭文」)と、1986年のシングル曲「空が堕ちる」(『ドグラ・マグラ』に登場する舞踏狂の少女の歌が引用されています)で「夢野久作三部作」です。
LPだとSIDE Bの1曲目だった#3「BOYS OF BEDLAM」はスティーライ・スパンの1971年のアルバム『Please to See the King』収録のトラッド曲のdecomposedバージョンです。歌詞はトマス・ダーフィ(Thomas D'Urfey)編『機知と笑い、憂鬱を追い払う薬(Wit and Mirth; or Pills to Purge Melancholy)』第4巻(1720年)収録の17世紀の作者不詳のバラッド「Mad Maudlin」(このバージョンの歌唱がキャサリン・ボットの1992年のアルバム『狂乱の歌』に収録されています)に基づいていますが、メロディはイギリスのフォーク歌手ニック・ジョーンズ(Nic Jones)が新たに付けたもので、ニックのグループ「ザ・ハリヤード(The Halliard)」のレパートリーだったのをスティーライが取り上げてレコード化しました。ハリヤードのバージョンは未レコード化でしたが、2005年レコーディングのCD『Broadside Songs』に収録されて日の目を見ました。YBO²のバージョンはこの曲のカバーとしては極北というべきで、イントロの荒涼としたメロトロン(メロディは14世紀イタリアの舞曲「トリスタンの嘆き」)もたいへんすばらしいです。YBO²以降も「Boys of Bedlam」のカバーは後を絶たず、目ぼしいところでは Old Blind Dogs が1992年に、Heidi Talbot が2008年にカバーしていますが(Heidi のアイリッシュ風バージョンなどは北村昌士が耳にしたら狂喜乱舞したかもしれないです)、疎外=エイリアン化(alienate)された狂人=異人(alien)たちの共同体を予見させる、ベドラムのトム(Tom o'Bedlam)と気違いモードリン(Mad Maudlin)の遠距離純愛は、公認のコミュニケーションシステムに適合できない現代のコミュ障の人々にこそむしろ共感されるのではないでしょうか。そうさ僕らはエイリアンズ。西欧近代の合理主義コンテクストにおいては気違い(mad)として蔑まれる人々も、見方を変えれば衣食住に拘泥することのない(「they all go bare and they live by the air and they want no drink nor money」)無差別・無分別の聖者(saint)たちであって、ベドラム・ボーイズを求めて旅するマッド・モードリンの英姿はあたかも「善知識」を訪ねて遍歴する華厳経善財童子を思わせます。ちなみにこの曲と1987年のLP『Kingdom of Familydream』収録の「Lovely on the Water」、1992年のCD『My Rest Place Live』収録の「When I Was Horseback」で「スティーライ三部作」です。
#4「TO BE (帝国の逆襲)」。「帝国の逆襲(Empire Strikes Back)」といえばスター・ウォーズ・エピソード5(1980年)ですが、「天孫降臨八紘一宇」「神国英霊」「Alien King」「敵前逃亡軍法会議」「絶体絶命七色仮面」とかいってるので政治の右傾化を憂えているのかもしれないですがよくわからないです。次作マキシシングル『太陽の皇子』の予告編かもしれないです。『Kingdom of Familydream』収録「Springfield」も同傾向の曲で、捨て曲かもしれないですが、北村昌士のオウムのおしゃべり的ワードセンスが存分に発揮されていて、なかなかに捨てがたいです。BORN TO BE WILD。
ディス・ヒート節炸裂の#5「HEAVY WATERS」(歌詞に「twilight furniture」というワードが出てきます)は掟ポルシェ氏の解説によれば「恐らく原子炉の減速材として使用される重水のことを指し示しているであろう」。
そしてシングル「DOGLAMAGLA」カップリング曲のアルバム・バージョンである#5「URAL」もディス・ヒートふうですが(「A New Kind of Water」とかです)、人類滅亡を間近にひかえたこれからの世代にこそ広く愛聴されるべき名曲でありまして、フィルムが途切れるようなラストのメロトロンの断末魔が、この世界のあっけない終末を予言しているのかもしれないです。
そしてボーナストラックとして1stシングル「DOGLAMAGLA」が収録されているのはありがたいです。松野一夫による雑誌「新青年」(昭和8年10月号)表紙絵に舌を描き足しただけのエログロナンセンスなまさに戸惑面喰(ドグラ・マグラ)なジャケ絵の掲載も嘉したいです。

ジャケといえば、本作のソー・キュートな山鼠(ヤマネ)と、シングル「空が堕ちる」の極楽鳥と、『pale skin pale face』のナナフシで「動物ジャケ三部作」です。ところでヤマネすなわちドーマウスといえば、そう、『不思議の国のアリス』の「気違いお茶会」(Mad tea-party)の気違いトリオの一員でした。

★★★★★


ALIENATION 


 

「VIKINI・HIROSHIMA・URAL・DEATH VALLEY.   
降りそそげ死の灰・神の愛  
最後の人が死んだ ひび割れ崩れ落ちる国よ  
ぼくの声がきこえるか 夜の影と星のかなた  
唇押し当てて血まみれの さけた世界にことばが落ちる  

Black dog crawls  
deadend street  
dreamless sweet sweet heart  
Take me into the darkest outside of you」 

(歌詞はSSEオフィシャルサイトより)