『Splendor da ciel: Rediscovered Music from a Florentine Trecento Manuscript』
La Morra
Corina Marti & Michał Gondko (dir.)
フィレンツェ、見出された中世音楽
~14世紀、羊皮紙写本の下から浮かび上がる音楽~
ラ・モルラ(古楽器使用)
コリーナ・マルティ&ミハウ・ゴントコ(ディレクター)
CD: Ramée / Outhere Music
RAM 1803 (2018)
Made in Austria
輸入・販売:ナクソス・ジャパン株式会社
NYCX-10024
¥2,700+税
1. Donna s'io ò errato [Piero Mazzuoli (1386-1430)] 4:20
ご婦人、わたしの迷いは(ピエロ・マッツオーリ)
2. Douls m'est amer [Anonymous] 2:11
わたしにとって、苦しみは甘味〔器楽〕(作曲者不詳)
3. Soiez liez [Anonymous] 4:07
幸せでいなさい、楽しくしていなさい(作曲者不詳)
4. Dopo ch'i' so [Giovanni Mazzuoli (c.1350-1426)] 2:50
そう知ってからは〔器楽〕(ジョヴァンニ・マッツオーリ)
5. Poc' hanno di mirar [Paolo da Firenze (1355-1436)] 3:30
ほとんど見えはしないのだ(パオロ・ダ・フィレンツェ)
6. A' piè del monte [Giovanni Mazzuoli] 2:31
山のふもとに泉が(ジョヴァンニ・マッツオーリ)
7. Lasso dolente [Piero Mazzuoli] 7:31
あな痛ましきかな(ピエロ・マッツオーリ)
8. Dicovi per certanca [Antonio Zacara da Teramo (c.1360-1416)] 3:18
これだけは申し上げられよう(アントニオ・ザカラ・ダ・テラモ)
9. Sotto l'imperio [Jacopo da Bologna (fl.1340-60)] 3:12
力ある君主のもとでは〔楽器〕(ヤーコポ・ダ・ボローニャ)
10. Splendor da ciel [Giovanni Mazzuoli] 6:08
天上の輝きが、リーザという麗しき花を(ジョヴァンニ・マッツオーリ)
11. Le souvenir de vous dame [Anonymous] 1:57
あなたを思い出しては、ご婦人よ〔器楽〕(作曲者不詳)
12. A Febo Damn'e [Piero Mazzuoli] 5:02
太陽神がみたダフネでさえ(ピエロ・マッツオーリ)
13. Ihesu salvator / Quo vulneratus [Hubertus de Salinis (fl.1390-1420)] 1:36
現世の救世主イエスは/いかなる罪で傷を負い(フベルトゥス・デ・サリニス)
14. Si nichil actuleris / In pretio pretium [Hubertus de Salinis] 2:03
あなたは何も残さなかったのか/高価なものほど讃えられる(フベルトゥス・デ・サリニス)
15. O tu, cara sciença mia, Musica [Giovanni da Cascia (fl.1340-50)] 5:27
おお音楽よ、我がいとおしき技芸よ(ジョヴァンニ・ダ・カシア)
16. Uom ch'osa di veder [Paolo da Firenze] 2:43
その男、至高の美をまのあたりにしようと(パオロ・ダ・フィレンツェ)
17. Amor mi stringe assai [Paolo da Firenze] 5:16
恋は、わたしを充分に縛りつけてきた(パウロ・ダ・フィレンツェ)
TOTAL 63:41
La Morra
artistic direction: Corina Marti & Michał Gondko
ラ・モルラ
総指揮:コリーナ・マルティ、ミハウ・ゴントコ
Anna Miklashevich: voice [1,6,13,15,17]
アンナ・ミクラシェヴィチ:ソプラノ
Doron Schleifer: voice [3,5,7,8,10,12,13,14,16,17]
ドロン・シュライファー:カウンターテナー
Roman Melish: voice [1,6,7,12,14,15,16,17]
ロマン・メリッシュ:カウンターテナー
Ivo Haun de Oliveira: voice [5,7,10,12,14,17]
イーヴォ・ハウン・デ・オリヴェイラ:テノール
Corina Marti: clavicimbalum, organetto, recorders [1,2,4,5,7,9,11,16,17]
コリーナ・マルティ:クラヴィシンバルム、オルガネット、各種リコーダー
Michał Gondko: lute [2,3,7,9,11,16,17]
ミハウ・ゴントコ:リュート
Natalie Carducci: fiddle [1,3,4,7,8,9,13,16,17]
ナタリー・カルドゥッチ:中世フィドル
Recorded in March 2018 at the church of St. Leodegar, Möhlin, Switzerland
録音:2018年3月、メーリン(スイス)、聖レオデガル教会
Artistic direction, recording & mastering: Rainer Arndt
ロクオン・マスタリング・監修:ライナー・アルント
Editing: Michał Gondko, Rainer Arndt
編集:ミハウ・ゴントコ、ライナー・アルント
Production: Rainer Arndt / Outhere
Graphic concept: (C) Laurence Drevard
Design & layout: Rainer Arndt (digipak), Andreas Janke (booklet)
デザイン:ロランス・ドルヴァール、ライナー・アルント、アンドレアス・ヤンケ
Cover: Squarcialupi Codex, Florence, c.1410-15
ジャケット:スクワルチャルーピ写本(フィレンツェ、1410~15年頃)
All music recorded on this CD is contained in the *San Lorenzo Palimpsest*: Florence, Archivio del Capitolo di San Lorenzo, MS 2211.
Musical materials for this recording were prepared by Michał Gondko.
◆アンドレアス・ヤンケ&ジョン・ナーダスによる解説(訳:白沢達生)より◆
「14世紀のフィレンツェでは、たいへん美しく仕上げられた手書きの楽譜が数多く作られたのですが、(中略)そこで見つかる音楽の多くはフィレンツェで作成されましたが、同時にイタリアの他の地域からもたらされた曲もありました。また西方教会大分裂(1378~1418)の時代をへて、アルプス以北のイタリアではない地域からもたらされた曲も含まれていました。
そうしたさまざまな楽曲をまとめて記した手書きの楽譜として、とくに世俗向けの音楽を集めたものの決定版というべきものが、今日『スクワチャルーピ写本』と呼ばれている曲集です。およそ1410~15年頃にできたと考えられているこの曲集、曲のまとめ方においても曲集の規模においても桁外れでありながら、注目すべきはその選曲基準でしょう――というのも、これを編纂した人々は、フィレンツェで活躍していた古今の作曲家たちの作品をひとわたり網羅している一方で、フランス語の歌詞をもつ歌は周到に斥けているのです。」
「『スクワチャルーピ写本』という充実した曲集は、フィレンツェが音楽と文学の両面において、14世紀を通じてすばらしい発展をみせたユニークな場所だったからこそ生まれ得たわけですが、これと同じことは同時代に編まれた、もうひとつ別の写本にもあてはまります――このアルバムで重点的に紹介されている『サン・ロレンツォ上書写本』です。この写本は、(中略)フィレンツェや他の地域で活躍した作曲家たちの、これまで全く知られていなかった音楽作品がいくつも含まれていた点で、大いに注目に値するものです。
このアルバムのジャケットに掲げられている写真は『スクワチャルーピ写本』の一部で、ジョヴァンニ・マッツオーリ(1350/61頃~1426)というフィレンツェの作曲家の歌を記すために用意されていたページが開かれた状態で撮影されています。しかしこのページは結局、(中略)作曲家の肖像がひとつ描かれたきりで、楽譜の部分は空白のまま残されました。それで結局、マッツオーリという人が生前書き残した音楽についてはまったく謎のままだったのですが、近年になって彼の業績がとつぜん明らかになったのは、ほかでもない、この『サン・ロレンツォ上書写本』の存在が明るみになったおかげでした。」
「フィレンツェのサン・ロレンツォ教会で1980年代に見つかったこの上書き写本は、近年の中世音楽研究でもきわめつけの、最も予想外な大発見だったと言ってよいのではないでしょうか。」
「当の写本には(中略)「1504年の資産目録 Campione de' Beni del 1504」と書き添えられ、1504年前後の、教会が運用していた土地の取得と貸与の記録が記されています。この写本の興味深い点はなんといっても、そこに束ねられている111枚の羊皮紙のすべてにおいて、書き直される前に記されていた記述の痕跡が視認できる点でしょう。それは15世紀の後半まで、土地の登記簿としてではなく、中世後期の多声音楽を集めた、手ごろな大きさの楽譜集になっていたのです。しかし15世紀も末頃になって、楽譜帳になっていた手稿譜の束はいったん装丁を解かれ、各ページから楽譜と詩句がきれいに擦り落とされたあと、(中略)再び束ねられて再装丁され、土地管理用の台帳として生まれ変わったのでした。」
「ハンブルク大学の手写本文化研究センターは、(中略)2013年6月、(中略)高解像度で多重スペクトル撮影ができるカメラを持参し、たっぷり2週間をかけて写本全体を撮影しました。(中略)こうして撮影された画像を、天文学の領域で使われていた技術(中略)を応用した高度なソフトで解析すると、かつてそこに書かれていた内容(楽譜)とそれを上書きした記述(土地台帳の情報)とを峻別して判読できるようにした大量のデータができあがりました。(中略)これによってかつて記載されていた楽譜の部分がより読みやすくなり、楽譜とは関係のない上書きされた記載内容と峻別して判読できるようになったのです。
こうして、(中略)これまでの簡素なアプローチ手法では判読できなかった、結果的に破棄され消失したものとみなされてきた音楽や歌詞が、(中略)驚くほど読みやすく復活したのです。」
「『サン・ロレンツォ上書写本』には、全部で200以上もの歌の楽譜が記載されていました――そのなかには、14世紀にとくに広く知られていたヤーコポ・ダ・ボローニャ(1340~1360頃活躍)やアポロ・ダ・フィレンツェ(1355~1436)、アントニオ・ザカラ・ダ・テラーモ(1360頃~1416)といった作曲家たちの作品も含まれていますが、今回の録音でとくに注目してみたのは、これまで全く作品の楽譜が残っていないと思われていたジョヴァンニ・マッツオーリとその息子ピエロ・マッツオーリの音楽です。」
◆本CDについて◆
輸入盤国内仕様。デジパックにブックレット(全43頁)貼付。ブックレットにトラックリスト&クレジット、Andreas Janke & John Nádas「Music Culture in Late Medieval Florence(英文)」「Musikkultur im spätmittelalterlichen Florenz(独文)」「La Culture musicale à Florence à la fin du Moyen Âge(仏文)」、演奏者紹介(独文&仏文)、歌詞(原文&英訳)、カラー図版7点、CDリスト(モノクロ図版6点)。投げ込み(二つ折りクロス巻き三つ折り×2)にトラックリスト&クレジット、アンドレアス・ヤンケ&ジョン・ナーダス「解題――中世後期のフィレンツェにおける音楽文化」(訳:白沢達生)、演奏者紹介、歌詞日本語訳(訳詩:白川達生)。
なんといっても古楽は新しく作詞作曲するわけにはいかないので、こうした発見によってレパートリーが増えるのはありがたいです。そのうち月面で5万年前のポリフォニー曲集の楽譜が発見されるかもしれないです。
ラ・モルラによる歌唱&演奏はたいへん端正です。
★★★★★
Lasso dolente
「Lasso dolente! O mea gentil figura,
あな痛ましきかな! おお、わが愛おしき顔よ
L'animo altero ti fa troppo dura.
誇り高き心ばえ、ゆえにあまりに険しき様子。
La tua virtù è pregio di gran fama,
汝が美徳には大いなる栄誉がふさわしく
Mi fa d'amor languire,
わたしは恋しさで倒れんばなり
Pensando sempre a tuoi dolçi senbianti.
思いはつのるばかり、汝の甘やかなる姿が心から消えぬがゆえ。」
(訳詩:白川達生)