『悪魔の歌 マショーとデュファイのはざまで……中世世俗歌曲集』
Ce Diabolic Chant
ロンドン中世アンサンブル/ピーター&ティモシー・デイヴィス
Medieval Ensemble of London
Peter & Timothy Davies
CD: ポリドール株式会社
オワゾリール名盤選
POCL-3121 (1993年)
¥2,500(税込)(税抜価格¥2,427)
帯文:
「マショーとデュファイをつなぐ中世の知られざる歌曲集」
悪魔の歌
CE DIABOLIC CHANT
マショーとデュファイのはざまで……
中世世俗歌曲集
1.シュゼ: ローマの貴人(あてびと) プロフィリアスは (3声のバラード) 2:14
SUZOY: Prophilias (Ballade)
2.シュゼ: 私の姿は、たとえてみれば枯木 (4声のバラード) 1:28
SUZOY: A l'arbre sec (Ballade)
3.シュゼ: ピュタゴラス、ユバル、オルペウスは (3声のバラード) 3:27
SUZOY: Pictagoras, Jabol et Orpheüs (Ballade)
4.サンレーシュ: 幾度も私はあきれてしまう (3声のバラード) 3:44
SENLECHES: Je me merveil (Ballade)
5.サンレーシュ: このうららかな 美わしい季節(とき)に (3声のヴィルレー) 2:12
SENLECHES: En ce gracieux tamps (Virelai)
6.サンレーシュ: ここを逃がれて行こう (3声のバラード) 3:09
SENLECHES: Fuions de ci (Ballade)
7.グイド: 神よ守らせたまえ この歌をよく歌う者を (3声のロンドー) 7:33
GUIDO: Dieux gart (Rondeau)
8.グイド: さてこそすべては もうなりゆきまかせ (3声のバラード) 3:01
GUIDO: Or voit tout (Ballade)
9.サンレーシュ: 旋律ゆたかな ハープを (3声のヴィルレー) 3:35
SENLECHES: La harpe de melodie (Virelai)
10.サンレーシュ: 待っていれば 希望が慰めてくれる (3声のバラード) 3:42
SENLECHES: En attendant esperance (Ballade)
11.サンレーシュ: 私をただながめ みつめているあの人は (3声のヴィルレー) 3:18
SENLECHES: Tel me voit (Virelai)
12.オリヴィエ: たとえれば 私の心は痛ましい殉教者としてここに眠る (3声のバラード) 1:57
OLIVIER: Si con cy gist (Ballade)
13.ガリオ: 運を天にまかせ 危険と知りつつ跳び込んだので (3声のバラード) 2:02
GALIOT: Le sault perilleux (Ballade)
14.ガリオ: とろけるような日々を 待ち望めば (3声のロンドー) 7:25
GALIOT: En atendant d'avoir (Rondeau)
15.作者不詳: 川にかこまれたアルビオンで (3声のバラード) 2:52
Anon.: En Albion (Ballade)
16.作者不詳: 私はもう すべての力を失ってしまったが (3声のロンドー) 9:03
Anon.: Se j'ay perdu (Rondeau)
ロンドン中世アンサンブル
Medieval Ensemble of London
マーガレット・フィルポット(アルト)
Margaret Philpot (Alto)
ロジャーズ・カヴィ・クランプ(テノール)
Rogers Covey-Crump (Tenor)
ポール・エリオット(テノール)
Paul Elliott (Tenor)
マイケル・ジョージ(バリトン)
Michael George (Baritone)
ジョフリー・ショー(バリトン)
Geoffrey Shaw (Baritone)
ロバート・クーパー(レベック&フィドル)
Robert Cooper (Rebec & Fiddle)
ピーター・デイヴィス(ドゥセーヌ&ハープ)
Peter Davies (Douçaine & Harp)
ティモシー・デイヴィス(ギターン&リュート)
Timothy Davies (Gittern & Lute)
ディレクター: ピーター・デイヴィス&ティモシー・デイヴィス
directed by Peter Davis & Timothy Davies
Recording
Producer: Peter Wadland
Engineer: John Pellowe
Location: Kingsway Hall, London
Date: January 1982
Cover: Orpheus, Eurydice & Fiends, 15th century
◆本CD解説(今谷和徳)より◆
「中世からルネサンス初頭にかけての音楽史を見渡した時、私たちはそこに二人の巨匠の名を見出だす。14世紀の大家ギヨーム・ド・マショーと、15世紀の巨星ギヨーム・デュファイとである。この二人の間をつなぐ時代、つまり14世紀末から15世紀初頭にかけての時代、フランスにはあまり重要な音楽家は見当たらないといってよい。しかし、だからといって、この時期の音楽が不毛であったわけではない。この世紀の変わり目の時代、南フランスを中心に注目すべき音楽が展開されていた。それはマショーの音楽を継承しながら独自の様式を作りあげ、デュファイの時代へとつなげるものであった。そこには世紀末特有のマンネリズムの傾向が見られるが、それはまさにこの時代の精神を反映した、文化の一つの所産であった。このディスクは、この時代の音楽の中から、何人かの作曲家の作品を集めたものである。」
「この時期の音楽を伝える最も重要な資料は、15世紀の初頭にイタリアで筆写された『シャンティイ写本』である。(中略)この他、当時の音楽資料としては15世紀初頭にイタリアで書かれた『モデナ写本』、14世紀末にヴェネツィアで書かれたと思われ、現在はパリの国立図書館にある『レーナ写本』などがある。
これらの写本に含まれる作品のうち、大部分はフランス語による多声の世俗シャンソンであり、中でも最も割合が多いのは、マショーによって歌曲定型として定着した形の一つ、バラードである。さらに歌曲定型のヴィルレーと、ロンドーが数曲ある。声部数は3声のものが大多数で、4声曲もいくつか見える。そこに見られる音楽には、世紀末的な特徴を示すかのような複雑な技巧が、至るところで展開されている。たとえば複雑なリズム、それによって引き起こされる多くのシンコペーションなどが頻繁に使用され、記譜法そのものを複雑にすることによって、楽譜の解読を故意に困難にさせようとする姿勢さえ窺える。遊びも、ここまでくればみごとな芸術といってよいが、逆に技巧過多に陥り過ぎて、音楽の本当の喜びからはずれてしまっているものも多々見られる。いってみれば、現実の世界の不安から逃避し、遊びの世界にのみ安らぎを求めようとした人々の姿を、そのまま反映したものということになるかも知れない。」
◆本CDについて◆
ブックレット(全24頁)に今谷和徳による解説と「演奏者について」、「楽曲解説/歌詞対訳」(訳・訳注:川村克己・細川哲士/楽曲解説:今谷和徳)、写真図版(モノクロ)1点。
マンロウ指揮ロンドン古楽コンソート『宮廷の愛』は、「ギヨーム・ド・マショーの時代からギヨーム・デュファイの時代までの、フランス世俗音楽の集成」(マンロウ『宮廷の愛』解説より)でしたが、本CDはそこから「残念なことに(中略)割愛」(同前)されてしまったジャコブ・サンレーシュの作品を中心に、マショーからデュファイへの過渡期に残された技巧的・遊戯的な歌曲を取り上げています。
1983年にリリースされたLPのCD化です。
★★★★★
Anon.: Se j'ay perdu (Rondeau)
本CD「楽曲解説/歌詞対訳」より:
「私はもう すべての力を失ってしまったが、
それは私の過ちでも 落(おち)度でもない。
この悪魔の歌の せいなのだ。
この国に 流行(はや)り始めた歌の。」
「3声のロンドー。このディスクに収められた曲の中では、これは最も技巧をこらした作品といえよう。拍子が何度も変化するばかりでなく、複雑なリズムによる音型をあちこちに散りばめた手法は、歌詞に歌われたとおり、まさに〈悪魔の歌〉とするにふさわしいものである。」
「〈悪魔の歌〉とは、アルス・アンティクアが神の三位一体に基づいて三分割を主とし、それを「完全な」と呼んでいたのに対し、アルス・ノヴァのとり入れた二分割は、「不完全な」ものであり、いってみれば〈悪魔の歌〉にもたとえられるのだろう。また、この時代に流行った歌が、あまりにも技巧をこらしたものであるところから、悪魔の仕業のような歌という意味もこめているのでもあろう。そして作者自身が、そのような歌を作ったことに対する自己弁護をしているといえようか。」
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