幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『シャンソニエ・コルディフォルム〔ハート形のシャンソン集〕』  コンソート・オブ・ミュージック/指揮:アントニー・ルーリー

『シャンソニエ・コルディフォルム〔ハート形のシャンソン集〕』 
コンソート・オブ・ミュージック/指揮:アントニー・ルーリー 

Le Chansonnier Cordiforme 
Consort of Musicke / Rooley 


CD:ポリドール株式会社 
POCL-3170/2 (1993年) [3枚組] 
¥7,500(税込)(税抜価格¥7,282) 
Made in Japan 

 

スリーブケース&帯。


帯文:

「オワゾリール名盤選◎ルネサンス世俗歌曲の世界
ハート形の楽譜に遺された15世紀の「流行歌」の数々……
初期ルネサンスを彩った名曲が鮮やかに蘇る――」
レコード芸術・特選」


シャンソニエ・コルディフォルム 
〔ハート形のシャンソン集〕 
LE CHANSONNIER CORDIFORME 


CD 1 (POCL-3170) 

1.第1曲:いまはもう悲しくて ああ!と叫ぶばかり 2:47 
I. Hora gridar 'oimè' (ct/b/f/bl) 
2.第2曲:神様はよくご存知です(バラータ) 3:07 
II. Ben Io sa Dio (ballata) (co/f2/h) 
3.第3曲:黄金(こがね)のように美しく気高い聖母マリアよ(ロンドー)(ギヨーム・デュファイ作曲) 4:40 
III. Dona gentile (rondeau) (Guillaume Dufay) (ct/h/f1) 
4.第4曲:優しき奥方 どうか私を捨てないで下さい(ジョン・ベディンガム作曲) 2:32 
IV. Zentil madona (John Bedyngham) (s/h/l) 
5.第5曲:美わしい装いの清らかな泉よ 1:27 
V. Chiara fontana (t/b) 
6.第6曲:ああ さすらう光よ ああ きらめく星よ 2:09 
VI. O pelegrina luce (first setting) (ct/2f/h) 
7.第7曲:おお美しきバラよ、おお優しきわが心の君よ(ジョン・ベディンガムまたはジョン・ダンスタブル作曲) 4:31 
VII. O rosa bella (John Bedyngham or John Dunstable) (ct/2f/h) 
8.第8曲:清く、気高く、すべてを備えたお嬢様 2:12 
VIII. La gracia de voi (ct/t/fl) 
9.第9曲:私のだいじな真珠、おおやさしき恋人よ 2:14 
IX. Perla mia cara (ct/t/b) 
10.第10曲:死よ お慈悲を 2:53 
X. Morte mercè (ct/t/b) 
11.第11曲:いのちを終えてしまいたいの 0:47 
XI. Finir voglio ta mia vita (s/fl/bl/h) 
12.第12曲:ああ さすらう光よ ああ きらめく星よ 2:37 
XII. O pelegrina luce (second setting) (s/t/h/bl) 
13.第13曲:おお、恋をする哀れな男たちよ 3:03 
XIII. O meschin' inamorati 


CD 2 (POCL-3171) 

1.第14曲:悲しみに落された男のように(ロンドー) 4:46 
XIV. Comme ung homme desconforté (rondeau) (ct/h/bl/fl) 
2.第15曲:もし私が あなたのものとなるのがお気に召すなら(ロンドー) 5:50 
XV. S'il vous plaist que vostre je soye (rondeau) (Johannes Regis) (s/b/bl) 
3.第16曲:先日 ある朝のこと(バラード) 3:03 
XVI. L'aultre jour par ung matin (ballade) (co/b/l/f2) 
4.第17曲:私の銘は 愛神にきめた(ロンドー) 4:51 
XVII. J'ay pris amours (rondeau) (s/t/bl) 
5.第18曲:去年のある日 すれ違った時(ロンドー)(ヨハンネス・オケゲム作曲) 2:27 
XVIII. L'autre d'antan l'autrier passa (rondeau) (Johannes Ockeghem) (co/b/bl) 
6.第19曲:私の愛しい女(ひと)は あらゆるすぐれた才にたけ(ロンドー)(エーヌ・ファン・ギゼゲム作曲) 4:28 
XIX. De tous biens plaine (rondeau) (Hayne van Ghizeghem) (t/fl/l/bl) 
7.第20曲:私の喜びは 無いというのもおろかなこと(ベルジュレット)(アントワーヌ・ビュノワ作曲) 3:50 
XX. J'ay moins de bien (bergerette) (Antoine Busnoys) (t/fl/l/bl) 
8.第21曲:あなたの評判 そしてあなたの高い名声は(ロンドー)(ギヨーム・デュファイ作曲) 5:14 
XXI. Vostre bruit et vostre grant fame (rondeau) (Guillaume Dufay) (ct/b/fl) 
9.第22曲:望むのなら 金十万エキュ也を(ロンドー)(カロン作曲) 4:17 
XXII. Cent mille escus (rondeau) (Caron) 
10.第23曲:あなたを想い焦(こ)がれて 私は死にます(ロンドー)(ロバート・モートン作曲) 3:07 
XXIII. Le souvenir de vous me tue (rondeau) (Robert Morton) (co/h/l/bl) 
11.第24曲:私は 快楽に見放された男(ロンドー)(バルバンガン作曲) 4:19 
XXIV. L'omme bany de sa plaisance (rondeau) (Barbingant) (s/t/h/f2) 
12.第25曲:私は いま持っている以上のものをいつか持てるのだろうか(ロンドー)(ロバート・モートン作曲) 3:18 
XXV. N'aray je jamais mieulx (rondeau) (Robert Morton) (s/t/h/bl/f2) 
13.第26曲:有難いご褒美をいただいた僕(しもべ)として(ギヨーム・デュファイ作曲) 5:53 
XXVI. Le serviteur hault guerdonné (rondeau) (Guillaume Dufay) (ct/b/fl) 
14.第27曲:運命の女神よ そなたの虐(むご)い仕打ちで(ロンドー)(ヴァンスネ作曲) 5:49 
XXVII. Fortune, par ta cruaulte (rondeau) (Vincenet) (s/t/bl) 
15.第28曲:安らかに死ねる恵みなど あるのだろうか(ロンドー)(アントワーヌ・ビュノワ作曲) 3:52 
XXVIII. Est il mercy de quoy l'on peust finer? (rondeau) (Antoine Busnoys) (s/h/fl) 


CD 3 (POCL-3172) 

1.第29曲:悲しみにくれる女のように(ロンドー) 6:32 
XXIX. Comme femme desconfortee (rondeau) (co/2f) 
2.第30曲:姿が見られぬように ただひとりはなれて(ロンドー)(ウォルター・フライ作曲) 6:52 
XXX. Tout a par moy (rondeau) (Walter Frye) (co/fl/l/bl) 
3.第31曲:口には笑みを湛え 胸の中では泣いている 妾(わたし)(ベルジュレット)(ヨハンネス・オケゲム作曲) 4:37 
XXXI. Ma bouche rit (bergerette) (Johannes Ockeghem) (s/t/h/f2) 
4.第32曲:私のただひとつの悦び 私の心にしみる楽しみ(ロンドー)(ジョン・ベディンガム作曲) 4:22 
XXXII. Mon seul plaisir, ma doulce joye (rondeau) (John Bedyngham) (s/l/f2) 
5.第33曲:想い乱れて涙にくれ 口は嘆きの声を洩らす 1:42 
XXXIII. Ma bouche plaint (s/t/f2) 
6.第34曲:まこと恋する者たちを喜ばせる まことの愛の神よ(ロンドー) 3:58 
XXXIV. Vray dieu d'amours (rondeau) 
7.第35曲:ああ 私にはとても口に出す勇気がない 1:03 
XXXV. Hélas! je n'ay pas osé dire (s/ct/b/h/l/bl) 
8.第36曲:いま 私は恋を失ってしまった(ロンドー) 4:52 
XXXVI. Or ay je perdu (rondeau) (c/l/bl) 
9.第37曲:若い日の希望よ さようなら と私は言う(ロンドー) 4:46 
XXXVII. Adieu vous dy (rondeau) (ct/b/fl) 
10.第38曲:私は幸運に恵まれておりません ほんとうに(ベルジュレット) 4:20 
XXXVIII. Terriblement suis fortunee (bergerette) (s/2f) 
11.第39曲:力を尽してあなたに気に入られるようにしたいのです(ロンドー) 4:48 
XXXIX. De mon povoir vous veul complaire (rondeau) (co/b/bl) 
12.第40曲:ああ いつかもっと大きな喜びが持てるだろうか(ベルジュレット) 3:37 
XL. Hélas! n'aray je jamais mieulx (bergerette) (s/t/l/bl/f2) 
13.第41曲:訣れを告げる日のことを想えば(ベルジュレット) 3:13 
XLI. Quant du dire adieu (bergerette) (s/t/bl/f2) 
14.第42曲:あなたほどのお人を 私はまだ見たこともない(ロンドー)(バンショワまたはギヨーム・デュファイ作曲) 4:38 
XLII. Je ne veis onques la pareille (rondeau) (Binchois or Guillaume Dufay) (ct/t/b) 
15.第43曲:あの美しい女(ひと)のことを お知らせ下さい(ロンドー) 4:55 
XLIII. Faites moy sçavoir de la belle (rondeau) (co/2f) 


コンソート・オブ・ミュージック 
CONSORT OF MUSICKE 

エマ・カークビー(ソプラノ) 
EMMA KIRKBY (Soprano) (s) 
マーガレット・フィルポット(コントラルト) 
MARGARET PHILPOT (Contralto) (co) 
ジョン・ヨーク・スキナー(カウンター・テノール) 
JOHN YORK SKINNER (Counter tenor) (ct) 
ジョン・エルヴィス(テノール) 
JOHN ELWES (Tenor) (t) 
デイヴィッド・トーマス(バス) 
DAVID THOMAS (Bass) (b) 

ルイス・ジョーンズ(フルート) 
LEWIS JONES (Flute) (fl) 
フランシス・ケリー(ハープ) 
FRANCES KELLEY (Harp) (h) 
クリストファー・ペイジ(リュート) 
CHRISTOPHER PAGE (Lute) (l) 
アントニー・ルーリー(バス・リュート) 
ANTHONY ROOLEY (Bass Lute) (bl) 
トレヴァー・ジョーンズフィドル) 
TREVOR JONES (Fiddle) (f1) 
アリソン・クラム(フィドル) 
ALISON CRUM (Fiddle) (f2) 

ディレクター:アントニー・ルーリー 
directed by ANTHONY ROOLEY 

デイヴィッド・ファロウズ(エディション、プロジェクト・スーパーヴィジョン) 
DAVID FALLOWES (Edition and Project Supervision) 

Recording 
Producer: MORTEN WINDING 
Engineer: MARTIN HASKELL 
Location: DECCA STUDIOS, Hampstead 
Date: February 1979 

Cover: Zentil madona (opening) 


◆「このCDについて」(今谷和徳)より◆ 

「この3枚組のCDは、15世紀に書かれた多声の世俗歌曲を集めた写本『シャンソニエ・コルディフォルム』に含まれる作品を、すべて収録したものである。スリップ・ケースの写真でお判りのように、『シャンソニエ・コルディフォルム』というのは、美しく彩色された細密画を楽譜のまわりに配し、しかも全体をハートの形にするという凝った趣向によって作られた写本である。15世紀には、これと同じように美しい、多声の世俗歌曲を集めた写本が数多く作られたが、それらの写本の中に含まれる曲の大部分を占めているのは、フランス語によるシャンソンであるため、それらは普通〈シャンソニエ〉と呼ばれている。(中略)こうした15世紀のシャンソニエの中で、この《シャンソニエ・コルディフォルム》は、単にハート形をした珍しいシャンソニエとしてのみ価値があるのではなく、そこに含まれるレパートリーの面で、他のシャンソニエ以上にきわめて重要な存在なのである。
 この曲集は一口でいえば、1460年頃から1470年頃にかけての10年ほどを中心とした時期に作曲され、広い範囲にわたって人気をかち得た世俗歌曲をまとめた、いわば当時の‟ヒット・ソング”集なのである。ここには、当時活躍していた大作曲家たちの名前がほとんど見えるのだが、作曲家の名前が判っているのは、全体のおよそ3分の1ほどに過ぎない。しかも、ある作曲家の作品を集中的にとりあげることをせず、それぞれの作曲家の作品を平均して1、2曲ずつの割合で含めている。(中略)二十を越す写本によって伝えられている曲もあり、全体の3分の2ほどの曲は、この写本以外にも多数の写本の中に記されて、今日まで残されているわけで、いかに当時人気が高かった曲が集められているかが判る。残りの3分の1ほどは、この《シャンソニエ・コルディフォルム》によってしか伝えられていないが、(中略)それらの曲も当時はもっと広く知られていたことが、いくつかの資料から推定できるのである。つまり、この曲集を見るだけで、われわれは15世紀中葉過ぎの時期の世俗歌曲の状況を手に取るように把握できるということになる。」


◆デイヴィッド・ファロウズによる解説(今谷和徳訳)より◆

「このシャンソニエを閉じて机の上に置くと、赤いビロードのカヴァーのついた、幅の狭いハート形をした本であることが判る。開いた時には、二つのハート形が一つに結び合わさった形をしている。(中略)二つのハート形を合わせた形は、もちろん、この曲集に含まれるほとんどの歌曲の歌詞の特徴となっている愛の憧れを象徴化したものである。」


◆本CDについて◆ 

三方背スリーブケースに3枚組用ジュエルケース(24mm厚)とブックレット。ブックレット(76頁)にトラックリスト&クレジット、今谷和徳「このCDについて」、デイヴィッド・ファロウズ(今谷和徳・訳)「シャンソニエ・コルディフォルム〔ハート形のシャンソン集〕」「楽曲解説」、歌詞対訳(川村克己・細川哲士 共訳)、楽譜図版(モノクロ)3点、その他図版(モノクロ)1点、譜例10点、写真図版(モノクロ)7点。

オリジナルLPは1980年にL'Oiseau-Lyreより4枚組ボックスセットとしてリリースされました。本CDが世界初CD化で、その後2005年にタワレコ限定「Tower Records Vintage Collection No.7」廉価盤CDとして国内再発。一方欧米では2008年末にハート形写本のファクシミリ版が刊行されたのを受けて、2010年にようやくCD化されています(DECCA 480 1819/「first international release on CD」)。

「シャンソニエ・コルディフォルム」のCDには、2016年にNaxosからリリースされたアンサンブル・レオネスによる選集『Straight from the Heart』(「シャンソニエ・コルディフォルム」から17曲と、ヨハネス・ティンクトーリスによるインスト・アレンジ版2曲を収録)があって、それもわるくないですが、本CDのコンソート・オブ・ミュージックによる演奏はたいそう閑雅で、しかもモダンでよいです。

★★★★★ 


Hélas! n'aray je jamais mieulx 


「Hélas! n'aray je jamais mieulx? 
Seray je tousjours en tristesse? 
N'est il moyen que quelque adresse 
Departist le deul de mes yeulx. 

Est il dit que mon advanture 
 Presente et dure 
Me en tiegne la plus doloreuse? 

Faut il que tel meschef j'endure 
 Et vive et dure 
Paine griefve et langoreuse? 

De ces meschefs me durent tieulx. 
La mort depressera en presse 
Mon cuer qui de crier ne cesse 
Piteusement: "ouvrez les yeulx!" 

Hélas! n'aray je jamais mieulx? 
Seray je tousjours en tristesse? 
N'est il moyen que quelque adresse 
Departist le deul de mes yeulx?」


「ああ いつかもっと大きな喜びが持てるだろうか、
いつまでも 悲しさに閉ざされているのだろうか、
私の眼に宿る 悲哀の色を拭(ぬぐ)い去れる
何か手だてがあって うまくいくだろうか。

私のいまのつらい運命が
 この上なく苦しい
思いに 私をとじこめることになるのか。

このような不幸に 私は耐えながら
 生きて しかも忌わしく
身を虐(さいな)む苦しさに耐えなければならぬのか。

このような数かずの不幸が私を離れない。
死がたちまちに 私の心をうちのめすだろう、
心は惨めにも――眼を開いてよく見て――
と叫びつづけるだろう。

ああ いつかもっと大きな喜びが持てるだろうか、
いつまでも 悲しさに閉ざされているのだろうか、
私の眼に宿る 悲哀の色を拭(ぬぐ)い去れる
何か手だてがあって うまくいくだろうか。」


デイヴィッド・ファロウズによる楽曲解説より:

「このベルジェレットは、この写本以外にさらに一つの写本にだけ見られるものだが、この曲集の歌曲の中では最もみごとな作品のうちに数えられる。そのため、これはデュファイの作だとする見方さえある。ゆるやかだが簡潔なその構成は、確実にデュファイ作とされるいくつかのベルジュレットのそれと、大変よく似ているのである。遠回しで、しかも神秘的でさえある詩も、またデュファイの曲に見られる詩に特有のものである。しかし例外として第2節では、旋律線はずっと変則的になっているものの、様式とかリズムの点で突然変化しているわけではない。」