幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『中部ジャワ/ソロ、ススフナン王宮のガムラン』

『中部ジャワ/ソロ、ススフナン王宮のガムラン
Central Java: Court Music of Kraton Surakarta (Solo)
ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー 10


CD: キングレコード株式会社 
KICW 85016/8 (2008年) 3枚組 
定価¥3,500(税抜価格¥3,333)

 

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帯文: 

インドネシアの古い文化の源ソロのススフナン王家に伝わる
数々の王宮ガムランの名曲を収録した決定盤。」


帯裏文: 

「ジャワ文化の中心スロカルタ(ソロ)からススフナン王宮の宮廷ガムラン。なにより、これまで一般には公開されることのなかった秘曲「スリンピ・サンゴパティ」とジャワ舞踊の華「ブドヨ・ドロダセ」が、名器=キャイ・ロコノントで。絃や笛を排したグンデル・ボナンはガムラン金管アンサンブル。」
「★1999年発売の
KICW-1015、
1995年発売の
KICC-5193と
1998年発売の
KICC-5238と
同内容です。」


Disc 1 

1.スリンピ・サンゴパティ 61:14 
Srimpi Sangapati 

使用楽器: キャイ・スマルンギグル 
Gamêlan: Kyai Sêmarngingêl 
録音: 1992年6月8日、クラトン・スロカルト、ソロにて 
Recorded Jun. 8, 1992 at Kraton surakarta, Solo.


Disc 2

1.登場のパトゥタン~グンデン・クマナ: ドゥロダセ 16:45 
Pathêtan~Gêndhing Kêmanak: DURADASIH
2.曲間のパトゥタン~クタワン: キナンティ・ドゥロダセ~退場のパトゥタン 24:59 
Pathêtan~Kêtawang: KINANTHI DURADASIH~Pathêan 

使用楽器: キャイ・ロコノント 
Gamêlan: Kyai LOKANANTA 
録音: 1992年6月8日、クラトン・スロカルト、ソロにて 
Recorded Jun. 8, 1992 at Kraton Surakarta, Solo. 


Disc 3 

1.グンデン: ブルモロ 28:19 
Gêndhing: BRÊMARA, kêthuk 2 kêrêp, laras pelog, pathêt lima
2.グンデン: イモウィネンド(スレンドロ音階ヌム調) 27:13 
Gêndhing: IMAWINENDA, kêthuk 4 arang, laras slendro, pathêt nêm

使用楽器: キャイ・カドマニス/キャイ・マニスルンゴ 
Gamelan: Kyai Kadukmanis / Kyai Manisrengga 
録音: 1992年6月7日、クラトン・スラカルト、ソロにて 
Recorded Jun. 7, 1992 at Kraton Surakarta, Solo. 


グループ: パウィヤタン・クラトン・スロカルト 
Group: Pawiyatan Kraton Surakarta 
リーダー: G. R. A. クス・ムルティア 
Leader: G. R. A. Koes Murtiyah

Producer: Fukuda Minoru
Director: Hoshikawa Kyoji
Engineer: Takanami Hatsuro
Assistant engineer: Muto Masatoshi (SCI)
with special gratitude to I. S. K. S. Paku Buwana XII (Disc 3)

監修: 田村史 
Supervisor: Tamura Fumi 

Recorded by King Record Co., Japan. 

Cover Design: mitografico 
Cover Photo: ジャワ島中央部 剣(国立民族学博物館所蔵/富浦隆則撮影) 


◆本CD解説(田村史)より◆ 

「Disc 1」
「ここに収められているのは、クラトン・スロカルト・ハディニングラッ(スロカルト王家)に伝わる舞踊曲『スリンピ・サンゴパティ』の全曲録音である。」
中部ジャワ州のスロカルト(別名ソロ)市の東南部に位置するクラトン・スロカルト・ハディニングラッは、モジョパイト王国崩壊後のジャワに台頭するイスラム化した諸勢力を押さえ、17世紀前半ジャワを統一したマタラム王国の、正当な末裔である。しかし、1945年のインドネシア共和国成立以後は、政治的な実権を全く持たない。マタラムは、ジャワの他の王権がそうであったように、徹底した封建制や武力など「外の力」によるのでなく、王が持つとされる神秘的な「内の力」によっての、ゆるやかな民衆支配を目指した。「王の居所」を意味するクラトンは、政治の中心であるばかりでなく、王国のすべての人々と土地と動植物の平安を守る神秘的な力の源であり、超自然的な力との交流の場であることを意図して作られている。このような、王と王権に対する信仰を確立するために、神話・伝説・文学・演劇・音楽・舞踊・哲学・風俗習慣・礼儀作法、などから成る文化の複合体が作り上げられた。それらは、クラトンの内部に目にみえぬ力を充満させ、そこから溢れ出る力の及ぶ限りが、王国の領域であった。」

「Disc 2」
「このCDは、インドネシアのソロ市にあるクラトン・スロカルト・ハディニングラッに伝承されている、ブドヨと呼ばれる舞踊作品群の中から、最も美しい作品の一つである『ブドヨ・ドゥロダセ』の全曲を収めている。収録は(中略)クラトン所有のガムランの名器、キヤイ・ロコノント(スレンドロ音階に調律されている)を用いて行われた。この楽器セットは、キヤイ・スマル・ンギグル(ペロッグ音階に調律されている)と対をなすセットである。」
「ジャワ・マタラム王国が、その都をソロ村に移したのは、十八世紀半ばの1745年のことである。(中略)遷都以来、徐々に完成されていったクラトン・スロカルトの建物群は、古代ジャワの宇宙観と哲学とを受け継ぐものである。建物と広場がその心臓部を五層におおって、南北に広がる小さな宇宙を構成する。その小宇宙は、それを核にしてさらに大きな世界に拡大する。その境界は、南インド洋、西はムラピ火山、東はウラ火山、北はグロンド・ワホノの森であり、その地理的境界は同時に霊場であって、それぞれに異なった出自の精霊が住む。イメージの中でこの宇宙はさらに拡大し、銀河系の大宇宙と一体化する。クラトン・スロカルトの歴代の王たちはパク・ブウォノと名乗っているが、パクは軸、ブウォノは地球、の意である。」
「クラトンの心臓部では、そこに力を集め、また、それを五感に顕示するために、常にガムランが演奏され、群舞が踊られていた。その力は、全ての霊的エネルギーを一身に集める王の中に宿り、そこから照射されるものであると考えられていた。王が、行幸する時には、ガムラン演奏家と女性の踊り手が(軍隊ではなくて)太陽を巡る惑星のように付き従ったという。(中略)儀礼や芸能の遂行なしにはクラトンは存在しない、と人々は言う。
 私はかつて、当主のパク・ブウォノ十二世に尋ねたことがある。あなたにとって最も大切な仕事は何か、と。プドヨ・クタワン(イスラム年に一度行われる戴冠記念日の儀礼の中で踊られる、最も重要な舞踊)の踊られる一時間半、瞑想し全宇宙の調和を感じることだ、と彼は答えた。クラトンの中には、この儀礼が行われなくなった時がクラトンの終わりだ、と言う人は多い。もしそうなったら、地球をささえている軸が一つ外されたような揺らぎを、私たちも感じるのではないかと、ふと思ったりする。」

「Disc 3」
「このCDには、クラトン・スロカルト・ハディニングラッ(スロカルト王家)に伝承されている、グンデン・ボナンというスタイルのガムランの器楽曲が、二曲収められている。」
「グンデン・ボナンは、いつの間にか始まり、静かに静かに流れゆく。そして、終いには、最初の静けさからは本当に予想もつかないほどの大音響に、長い長い時間をかけて到達する。この、ゆったりとした、細かく時を刻みながら、それが悠久の時の流れに溶け込んでしまうような、気の遠くなるような静けさから轟く雷鳴まで、これ以上不可能なほどゆるやかな高まりと減衰。これが、ジャワのガムランの醍醐味である。」


◆本CDについて◆ 

ブックレットに Disc 1 解説(田村史)と英訳。Disc 2 解説(田村史)と歌詞(対訳、田村史)および解説英訳。Disc 3 解説(田村史)と英訳。写真図版(モノクロ)18点。「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」CDリスト。ブックレット裏表紙に写真図版(カラー)1点。

本作は旧「ワールド・ミュージック・ライブラリー」の『クラトンの伝説~ソロ・ススフナン王宮のガムラン』(KICC-5151、1992年、本CDディスク1/1999年の「ワールド・ミュージック・ライブラリー」では『ジャワのガムラン―王宮の伝説』と改題)と、同じく『クラトンの夢~ソロ・ススフナン王宮のガムランⅡ』(KICC-5193、1995年、本CDディスク2)、同じく『クラトンの煌めき~ソロのグンデン・ボナン』(KICC-5238、1998年、本CDディスク3)をまとめたものです(三枚組用透明ジュエルケース(24mm厚)入り)。

王宮のガムランとはいうものの、むしろ迷宮のガムランで、導きの糸のような歌声にさそわれて何処ともわからぬ回廊をさまよう恍惚感、そしてディスク3では歌も笛も絃もない、ガムラン幾何学模様の繰り返しのなかで迷子になる酩酊感。ジャワのガムランはたいへんすばらしいです。

★★★★★ 


Court Music of Kraton Surakarta

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Court Music Of Kraton Surakarta II

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Court Music of Kraton Surakarta Ⅲ

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