アン・ブリッグス
『シング・ア・ソング・フォー・ユー』
Anne Briggs
Sing A Song For You
CD: Fledg'ling Records, England
FLED 3008 (1996)
輸入・配給元: Vivid Sound Corporation
VSCD-1377 (I) (1997年)
¥2,500(税抜)
直輸入盤・解説付
帯文:
「英国トラディショナル・フォークの分野で最も大きな影響力を持っていた伝説的女性シンガー、アン・ブリッグスの幻のサード・アルバム(73年録音)」
1. Hills Of Greenmor [trad arr Anne Briggs] 3:10
2. Sing A Song For You [Anne Briggs] 4:20
3. Sovay [trad adpt A L Lloyd] 3:10
4. I Thought I Saw You Again [Anne Briggs] 3:36
5. Summer's In [Anne Briggs] 5:12
6. Travelling's Easy [Anne Briggs] 4:33
7. The Bonambuie [trad arr Anne Briggs] 4:24
8. Tongue In Cheek [Anne Briggs] 3:54
9. Bird In The Bush [trad adpt A L Lloyd] 3:12
10. Sullivan's John [trad arr Anne Briggs] 4:08
Ann Briggs: vocals, bouzouki, guitar
Barry Dransfield: violin
RAGGED ROBIN:
Steve Ashley: vocals, harmonica, whistle
Richard Byers: vocals, guitar, mandolin
Brian Diprose: bass guitar
John Thompson: drums
Produced by Terry Brown for Jo Lustig Ltd
Engineered by Gerry Kitchingham
Recorded at R G Jones Studios, London, March 1973
Mastered for CD by Denis Blackham at Country Masters
◆本CD解説(白石和良)より◆
「アンの録音は、しかし決して多くはない。幾つかのオムニバスを除けば自己名義のソロ・アルバムは、僅かに2作が発表されていただけだった。因みに彼女のこれまで発表されている録音は次の通りである。
(1) V.A.: EDINBURGH FOLK FESTIVAL 1963 VOL. 1 (LP, 英DECCA LK4546, ’63)=アンは“SHE MOVED THROUGH THE FAIR”の1曲のみ。因みに(3)と本盤は実際はフォーク・フェスのライヴではなくスタジオ録音で、アンの他にレイ&アーチー・フィッシャーなどが参加している。
(2) V.A.: THE IRON MUSE (LP, 英TOPIC 12T86, ’63)=産業労働者に係わるトラッド・ソングを集めたロイド制作の歴史的な企画アルバムでアンは3曲のみ。」
「(3) V.A.: EDINBURGH FOLK FESTIVAL 1963 VOL. 2 (LP, 英DECCA LK4563, ’64)=“LET NO MAN STEAL YOUR THYME”の1曲のみ。
(4) ANNE BRIGGS: THE HAZARDS OF LOVE (EP, 英TOPIC TOP94, ’64)=自己名義の最初の盤。4曲収録。
(5) A. L. LLOYD, ANNE BRIGGS & FRANKIE ARMSTRONG: THE BIRD IN THE BUSH (LP, 英TOPIC 12T135, ’66)=トラディショナル・エロティック・ソング集でアンは4曲。
(6) ANNE BRIGGS (LP, 英TOPIC 12T207 ’71)=ファースト・アルバム。
(7) ANNE BRIGGS: THE TIME HAS COME (LP, 英CBS 64612, ’71)=セカンド・アルバム。」
「(8) V.A.: ACOUSTIC ROUTES (CD, 英DEMON/CODE90 NINETY7, '93)=同名のBBC番組(中略)を元に制作された企画盤でアンはバート・ヤンシュとのデュエットで1曲。」
「…以上が全てである。しかし、彼女の70年代初頭の突然の引退の直前に、スティーヴ・アーシュレー達の協力の元に3作目のソロ・アルバムが吹き込まれながら、様々な事由により発表されなかったという話が伝わっていた。(中略)そして四半世紀を経た今、(中略)そのアルバムが完全な形で蘇ったのである。」
◆本CDについて◆
透明ジュエルケース。インレイにトラックリストとカラー写真図版1点、トレイ部分(インレイ内側)にモノクロ写真図版1点。ブックレット(全8頁)にアン・ブリッグスによるライナーノーツと楽曲解説(英文)、ラル&ノーマ・ウォータソンによるコメント(英文)、トラックリスト&クレジット、モノクロ写真図版(「Ragged Robin at Little Bealings, 1973」)1点。投げ込みに白石和良による解説、「参考歌詞」(「The Hills of Greenmore」「Sovay」「The Bird in the Bush」英語のみ)。
バート・ヤンシュによると、アン・ブリッグスはとにかくワイルドで(「The thing about Anne was she was wild.」、当時のフォーク界にとってパンク的な存在だった(「she was more akin to a punk than to anything that had gone before.」)ということですが(Colin Harper『Dazzling Stranger: Bert Jansch and the British Folk and Blues Revival』)、女神ディアーナのように引き連れていた猟犬クレアが死んで、娘が生まれたことで心境の変化があったのか、出産後に撮られた本作のジャケ写では珍しく笑顔で穏やかな感じです。パンクということでいえばパティ・スミスは娘が生まれて『ドリーム・オブ・ライフ』で復帰しましたが、アン・ブリッグスは娘は無事に生まれたものの、本作はいわば流産して、そのまま引退してしまいました。
1996年になってようやく日の目をみた本作(1973年録音)は、バンド「ラギッド・ロビン(Ragged Robin)」との共演で、ややサンディ・デニーの路線に近いです。サンディといえば楽曲「The Pond and the Stream」で、自らを一つの場所に留まる池(pond)に、アンを留まることなく流れ続ける川(stream)にたとえて、自由気ままに放浪生活を送るアンを羨んでいましたが、そのサンディにバンド(フェアポート・コンヴェンション)に留まるように忠告した(Mick Houghton『I've Always Kept a Unicorn: The Biography of Sandy Denny』)というアン自身は、基本的に孤立無援の人なので、バンド活動は向いていなかったようです(「they were tolerant of my inability to know what key I was playing or singing in, or even what chords I was paying [if any] ! No wonder I was never asked to join a band.」本CDブックレット所収のアン・ブリッグスによるライナーノーツより)。
タイトル曲「Sing a Song for You」の「You」は生まれてくる娘のことで、当時の環境問題や政治情勢に対する危惧から将来を案じ、自然への信頼を失わないよう呼びかけています(因みに#4「 I Thought I Saw You Again」の「You」は死んだ愛犬クレア(Clea)のことです)。
トラッド曲中心だったファースト、自作曲中心だったセカンドに続くはずだった本作は、トラッド曲と自作曲が半々で、バランスがよいですが、バランスがよいとか安定した音楽活動とかはアン・ブリッグスにはふさわしくないです。当時本作をリリースしていたら音楽活動も軌道に乗っていたかもしれないですが、予定調和的な成功と安定を惜し気もなく捨てて、やめる時にはきっぱりやめる、それもまたパンク的いさぎよさではないでしょうか。
★★★★★