幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

ピーター・レマー・クインテット 『ローカル・カラー』

ピーター・レマー・クインテット 『ローカル・カラー』 

Peter Lemer Quintet 
Local Colour 


CD: ESP-DISK'/ヴィーナスレコード株式会社 
販売元:(株)徳間ジャパンコミュニケーションズ 
シリーズ:ESP-DISK' New Jazz 名盤 Collection 
TKCZ-79151 (1993年) 
¥2,600(税抜価格¥2,524)
Manufactured by Venus Records, Inc. Tokyo, Japan 

 


帯文:

「ペーター・レマー ローカル・カラー 
本邦初登場」

「タイトルはイージーだが、中身はイギリス(ロンドン)のフリー・ジャズの胎動をとらえた極めて重要な作品。ピアニストであるレマーの音楽的なビジョンが先行している作品だが、豊かに走り回るレマーを、煽り続けるメンバーの一体感が、充実している。ザ・トリオなどを結成し、現在ではECMに印象的な作品を残しているジョン・サーマンの参加も見逃せないが、多方向へと触手を伸ばすポテンシャルは大きく買える。」


1.Ictus イクタス 5:51 
2.City シティ 7:38 
3.Frowville フロウヴィル 7:48 
4.In The Out イン・ジ・アウト 9:20 
5.Carmen カルメン 8:52 
6.Enahenado エナヘナド 2:50 


Peter Lemer - piano 
ピーター・レマー(p) 
Nisar Ahmad Khan - tenor sax 
ニサー・アーマッド・カーン(ts) 
John Surman - baritone and soprano sax 
ジョン・サーマン(bs, ss) 
Tony Reeves - bass 
トニー・リーブス(b) 
John Hiseman - drums 
ジョン・ハイズマン(ds) 


Recorded in London, England in 1966 
1966年 ロンドン録音


「※この度、歴史的価値の高いジャズの最大の遺産であるESP-DISK'のCD化にあたり現在考えうる最良の方法でリマスタリングを行いましたが、1960年代のオリジナル・マスター・テープの劣化の為ドロップ・アウトなどの部分が含まれていることもあります。御了承下さい。」


Local Colour / Peter Lemer Quintet 

 At the time of this recording, at least four new English groups were heading their own distinct ways, each full of the fun and joy that comes when releasing fresh musical energy. (Full, too, of all kinds of new and merciless hang-ups.) 
 This group lived for five months prior to my leaving London for New York. We played compositions by Paul and Carla Bley, myself, and open perfotmances. The written leads were the initial maps into the unexplored, the direction being toward the open, out, as in the post-titled City, and Enahenado (the Spanish for strange, translated for the same and hell of it). Nisar (George), John, Tony, John, myself intensely engaged in five way Colla Voce
 Feelings and ideas are never the property of  one individual or group. We take from one another and give, willingly, unwillingly, knowingly, unkowingly. Our paid and unpaid performances in club, concert, and in the album are a willing, knowing return for all that has been given us. 


Peter Lemer (Piano) 
Nisar Ahmad Khan (Tenor Sax) 
John Surman (Baritone Sax, Bass Clarinet, Soprano Sax) 
Tony Reeves (Bass) 
John Hiseman (Drums) 


Ictus by Carla Bley, all others by Peter Lemer 

Ictus (Carla Bley
City (Lemer) 
Flowville (Lemer) 

In the Out (Lemer) 
Carmen (Lemer) 
Enahenado (Lemer) 


Recorded in London, England in 1966 
engineer - Eddie Kramer 


◆北里義之による解説より◆

「特に’50~’60年代、イギリスのフリージャズ・シーンにはとても重要な時期に、労働組合の関係から、ロンドンでアフロ・アメリカンの公演ができないという事情があった。この時期に、軍楽隊に入隊していたジョン・スティーヴンス(ds)やポール・ラザフォード(tb)等、のちにスポンティーニアス・ミュージック・アンサンブル(以下SMEと略)を結成する面々が、駐屯地だったドイツのケルンで、マイルス・デイヴィス(tp)やジョン・コルトレーン(ts)等のライヴに接し、また当時ケルン大学で学んでいたアレックス・フォン・シュリッペンバッハ(p)やマンフレート・ショーフ(tp)らとセッションを重ねることができたのは、とても貴重な経験だったに違いない。またエヴァン・パーカー(ss)の場合は、’67年にイギリスを訪れたペーター・コーヴァルト(b)の仲介で、“バーデン・バーデン・フリージャズ・ミーティング”に参加したのが、大陸で活動するミュージシャンたちに人脈を広げる大きなきっかけとなっている。」
「1963年、軍隊を除隊したジョン・スティーヴンスは、ロンドンでプロとしての活動を始めたが、クール・ジャズばかり演奏させられるのに幻滅していた。その前年、(中略)ジョン・サーマンは、マイク・ウエストブルック(p)と連れ立って青年時代を過ごした町プライマウスからロンドンへと引っ越してきていた。(中略)そして’66年、ある年配の婦人が、自分の主宰していた劇場“リトル・シアター・クラブ”を、好意からスティーヴンスに開放してくれることとなり、(中略)演劇がはねてからの夜の時間を使って、若くて無名のグループが次々に演奏し、集まってくるミュージシャンたちのセッションが盛んに行われるようになったのである。デュオからビッグバンドまで、メンバーを固定しないダイナミックなSMEの活動がここから生れてくる。後年、自主レーベル“インカス”を設立してフリー・インプロヴィゼーションを主導するエヴァン・パーカー(ss)とディレク・ベイリー(g)が、SMEに参加して大きな成果を残してゆく一方、’64年に大学を卒業したサーマンは、ウエストブルックが結成したビッグバンドで演奏を始め、バンドは’67年に処女作『セレブレイション』(Deram SML-1013)をリリースする運びとなる。
 ピーター・レマーの『ローカル・カラー』は、こうしてイギリス各地からロンドンに若い音楽の才能が集まり始め、新しい即興音楽がようやく産声をあげつつあった’60年代半ばの転換期に録音された作品である。
 ピーター・レマーの経歴はあまりよく分っていない。アルバムのクインテットは、1966年に5ヶ月間ほど活動したもので、(中略)クインテットは、レマーがニューヨークへ旅立つとともに自然消滅した。」
「’69年までにはイギリスに戻っていて、ペピ・レマーやマギー・ニコルス等、複数の女性ヴォイスを加えるようになったSMEの『Olive』(Polydor 608008)や、’71年のライブ盤『“Live” Big Band And Quartet』(Vinyl VS-0015)に参加しているから、この時期にSMEと活動をともにしていた公算は大きい。」


◆本CDについて◆

ジュエルケース(透明トレイ)。ブックレット(全12頁)にトラックリスト&クレジット、「バーナード・ストゥルーマン・インタビュー・April.92」(トム・クラット/訳:高橋将人)、「ESP DISK STORY」(ジョン・リトワイラー/訳:高橋将人)、「ピーター・レマー・クインテット/ローカル・カラー」解説(北里義之)。インレイにLP裏ジャケを再現。

初期ブリティッシュ・ジャズのレア・アイテム。赤いズボンのレマーさんが芝生に寝転がるジャケ写真がいかにも英国ふうです。英国なので「Color」でなく「Colour」です。
本作はなんといっても、その後ブリティッシュ・ジャズ界で活躍することになるジョン・サーマンと、ジャズ・ロック/プログレッシヴ・ロック界で活躍することになるジョン・ハイズマンの参加が興味深いです。

レマーさんはその後ハイズマン夫人バーバラ・トンプソンのパラフェルネーリア(Paraphernalia)、フィル・ミラーのイン・カフーツ(In Cahoots)、
イカー・ガーヴィッツ・アーミー、マイク・オールドフィールド、ピエール・ムーランズ・ゴング、アンドリュー・ロイド・ウェバーの『キャッツ』などジャンルを超えて着実に活動、リーダー作もあるようですが、2018年2月にはサーマン、ハイズマン、リーヴスにアラン・スキッドモアを加えたクインテットで50年ぶりのリユニオン・ギグを行い、本作収録曲を再演していて、その様子はESPからCD『Son of Local Colour: Live at the Pizza Express, Soho』としてリリースされています。

★★★★★