幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『耽美と陶酔のガムラン/バリ島プリアタン村タガス〝マンダラ・ジャティ〟のスマルプグリガン』

『耽美と陶酔のガムラン/バリ島プリアタン村タガス〝マンダラ・ジャティ〟のスマルプグリガン』
GAMELAN SEMARPEGULINGAN [II]
"Mandala Jati" Ensemble of Peliatan Village
JVCワールド・サウンズ


CD: ビクター音楽産業株式会社 
VICG-5025 (1990年)
定価2,500円(税抜価格2,427円)

 

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1. スカール・マス Sekar Mas 6:35
2.スカール・ゲンドツ Sekar Gendot 7:54
3.レゴン・ラッサム Legong Lasem 28:04
4.ガンバン・クタ Gambang Kuta 3:30


演奏: マンダラ・ジャティ
1986年8月 インドネシア共和国バリ州プリアタン村タガスにて録音


企画・構成: 山城祥二
録音・解説: 大橋力
写真: 大橋力、河合徳枝
制作ディレクター: 藤本草
録音エンジニア: 伊藤俊之
ジャケット・デザイン: 田中一光
ジャケット編集: 由井幸男


◆本CD「解説」(大橋力)より◆

「このディスクは、本シリーズで既に発売の『幻視と瞑想のガムラン/バリ島プリアタン村ティルタ・サリのスマルプグリガン』に続く、バリ島ガムラン音楽の第二弾です。ガムランの形式としては、前回と同じく〝スマルプグリガン〟ですが、その味わいは第一弾とは対象的なものです。
 バリ島のガムランのもうひとつの代表的形式である「炸裂するゴング」といわれる〝ゴン・クビャール〟に対して、スマルプグリガンは、ずっと繊細で甘美な音色を持っています。(中略)ゴン・クビャールが今どの村にも伝えられ、祭礼や儀式で奏されているのに比べると、スマルプグリガンは現在、数もごく少なく、非常に貴重なものになってしまいました。」
「今回は、そのスマルプグリガンの中でも、バリ島随一の誉れ高い古典的銘器をご紹介します。
 演奏グループは、前回と同じ芸能の村プリアタンに所在する、タガス・カンギナンという集落のグループ〝マンダラ・ジャティ〟です。実は、前回紹介したグループ〝ティルタ・サリ〟のスマルプグリガンは、(中略)今回お聴きいただく銘器をコピーしてつくられたものです。」
「タガス・カンギナンに所在する今回の楽器は、古くから、バリ島中の音楽家に最高の銘器として知られていました。その歴史の詳細はわかりませんが、16世紀以降のバリ島の王国時代からのもので、(中略)久しい間プリアタンの王家が所有していたものでした。その王家が、(中略)〝ティルタ・サリ〟の創設者・リーダー、アナッ・アグン・グデ・マンダラ翁が当主だった、あのプリアタンの北の王宮(プリ・カレラン)です。(中略)翁はかつて〝ゴン・クビャール〟のグループを育てていた時代に、その時使われていなかった自分のスマルプグリガンの銘器をタガスに貸したのです。」

「今回の収録場所は、タガスの寺院の前の野外劇場で、ここでのガムランの音は、周りの森林にこだまし、ブレンドされてその夢幻の響きを完成しています。また、虫の声や木々のざわめきなど、タガスの夜の環境音がそのまま音場の背景になっています。」

「スカール・マス
(Sekar Mas)」
「スカールは〝花〟、マスは〝金〟の意味です。いわば〝黄金の花〟とでもいう、古典的な名曲で、舞踊を伴わず音楽だけで演じられるものです。(中略)トロンポンとからんで、ルバーブが旋律に独特の味わいを添えています。哀愁に満ち、人の心を捉え、何か懐かしいものへと向かわせる、この音色は、スマルプグリガンならではの耽美な雰囲気を醸し出すのに大いに効果を挙げています。」
「スカール・ゲンドッ
(Sekar Gendot)」
「これも舞踊なしのかたちの古典的名曲です。」
「レゴン・ラッサム
(Legong Lasem)」
「レゴンとは、宮廷舞踊の一種で、そろいの衣装をまとった踊り子、あるいはその踊りの総称です。(中略)本シリーズの〝ティルタ・サリ〟の収録版にも同じ曲が入っていますが〝マンダラ・ジャティ〟のものは少しアレンジが異なり、ひと味違うデリケートな味わいを持っています。(中略)今回もテイルタ・サリと同様にフルバージョンで収録しました。」
「ガンバン・クタ
(Gambang Kuta)」
「ガンバンとは古くからバリ島に伝わっている木琴を中心としたアンサンブル、ガムラン・ガンバンからきています。(中略)この曲はそのガンバンの典型的メロディーをメースにして創られたものです。(中略)なおこの曲だけは、1985年1月に収録したものです。」


◆本CDについて&感想◆

ブックレットに日本語および英語解説、写真図版(モノクロ)3点、「図」4点、「JVCワールド・サウンズ」CDリスト。

元は「CD エスニック・サスンド・シリーズ 11」(VDP-1207、1987年)としてリリースされたものが「JVCワールド・サウンド」に編入されました。元版および本CDでは演奏グループ名が「マンダラ・ジャティ」(Mandala Jati)になっていますが、同じ型番(VICG-5025)の後のプレス及び同シリーズの廉価盤(VICG-60352、2000年)ではグループ名が「グヌン・ジャティ」(Gunung Jati)に変更されています(収録内容は同一です)。
「グヌン・ジャティ」はキングレコードの「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」シリーズにも二枚組で入っていて(『バリ/グヌン・ジャティのスマル・プグリンガン』)、本CD収録の四曲もやや長めのヴァージョンで再演されています。
個人的には最初に購入したガムランCDが本作だったので(LPは何枚か持っていましたが)、本作はその後のガムラン聴取人生(?)における試金石となっているといっても過言ではないです。
それはそれとして、虫のすだく音ではじまる本作は、演奏自体も虫の声のようなナチュラルなもので、音の強弱の付け方もゴン・クビャールのようなテクニカルなこれ見よがしでなく、風に運ばれてくるような感じでよいです。速いパートでも背後にゆったりとした時間の流れを感じさせるので、きいていて疲れないです。それはつまりジャケット写真にも映し出されているゆたかな夜の闇のひろがりの存在でありまして、この夜の世界の存在がスマルプグリガン(スマル・プグリンガン)の魅力なのではないでしょうか。

★★★★★

 

 

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