幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『バリ/グヌン・ジャティのスマル・プグリンガン』

『バリ/グヌン・ジャティのスマル・プグリンガン』
Gamêlan Semar Pegulingan of Gunung Jati
ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー 77


CD: キングレコード 
KICW 85108/9 (2008年) 2枚組
定価2,800円(税抜価格2,667円)

 

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Disc 1
1.タブ・ピサン TABUH PISAN 5:33
2.レゴン・クラトン「ラッサム王の物語」 LEGONG KERATON "LASEM" 42:22
 a) チョンドン~レゴン condong ~ legon
 b) バパン bapang
 c) プンガワ~プンゲチェ pengawak ~ pengecet
 d) プンギプ pengipu
 e) パンカット pangkat
 f) ガルーダ garuda
 g) プカード pekaad
3.ガンバン・クタ GAMBANG KUTA 3:55

Disc 2
1.タブ・ガリ Tabuh Gari 10:17
2.スカル・マス Sekar Mas 7:05
3.タンブール Tambur 6:00
4.アドラー Adrah 5:53
5.スカル・ゲンドット Sekar Gendot 8:42
6.ルジャン Rejang 8:33
7.タブ・ブバロン Tabuh Bebarong 6:08
8.プラン・ブバット Perang Bebat 12:47
9.カタ・チナ Kata Cina 2:05
10.タブ・ガリ(短縮版) Tabuh Gari (singkat) 1:11

スマル・プグリンガン、タガス「グヌン・ジャティ」
録音: 1990年11月30日、バリ島
ギアニャール県ウブド郡プリアタン村タガス東地区にて


Producer: Hoshikawa Kyoji
Engineer: Takanami Hatsuro
Assistant engineer: Naruoka Akira (SCI)
監修: 皆川厚一
Cover Design: mitografico
Cover Photo: レゴン・クラトンを踊る少女(古屋均撮影)


帯文:

「ビノーとは違い、怪しく鋭い夜の空気のような響きに満ちた
計り知れない生命力を持つスマル・プグリンガン・レゴン・クラトンが聴き所。」


帯裏:

「ビノーと並ぶプレゴンガン(5音階のスマル・プグリンガン)の名器を持つグヌン・ジャティ、第2期黄金期の演奏。宮廷舞踊の伴奏用として発達した、このガムランの魅力を最大限に発揮した『レゴン・ラッサム』。40分を超える大作を持つのはグヌン・ジャティだけ。ロットリング作品など名作集も聴き応え十分です。」
「★Disc 1 のみ1999年発売のKICW-1072 と同内容です。」


◆本CD解説(皆川厚一)より◆

「タガスのスマル・プグリンガンは厳密にはプレゴンガンと呼ばれるガムランの種類に属する。スマル・プグリンガンは7音音階を用いるのに対し、プレゴンガンは5音音階を用いる。両者とも、曲のレパートリーは、より古いガムラン・ガンブーから引き継いでいる。
 ガムラン・ガンブーは7音音階で、金属製の鍵板打楽器を用いない、竹笛中心のガムランである。それをガムラン・ゴン(ゴン・グデ)系の金属楽器に置き換えたのがスマル・プグリンガンである。スマル・プグリンガンは本来インストゥルメンタルの曲を演奏するが、プレゴンガンは宮廷舞踊のレゴン・クラトンを伴奏する為のガムランとして発達した。
 バリに現存するプレゴンガンで有名なものは、このタガス “グヌン・ジャティ” の他にデンパサール西部のビノーのグループがある。このグループの演奏は既にこのシリーズで発表されている「バリ/ビノーのスマル・プグリンガン」(KICW-85104/5)。(中略)ビノーの音はあくまで甘く柔らかい、絹のような感触の響きであり、一方タガスは怪しく鋭いバリの夜の空気そのもののような匂いに満ちた響きである。」

「グヌン・ジャティ歌舞団の原型は1929年に創立されていたとされる。当時はまだ「グヌン・ジャティ」の名称は無く、プリアタン Peliatan 村タガス Teges 地区の芸能集団の活動として開始された。」
「最初の海外公演は1976年に行われ、(中略)その後は主としてヨーロッパ諸国での公演が頻繁に行われたが、1986年に初来日している。」
「本録音は1990年11月にタガスの寺院の前庭にある野外劇場で行われた。」
「1970年代がグヌン・ジャティの第1期黄金時代であるとするならば、この録音はその第2期黄金時代を代表するものであるといえる。」

「タブ・ピサン」
「タブ・ピサンは純粋な器楽曲のジャンルに属し、主に演奏会の幕開けの曲として演奏される。」
「レゴン・クラトン “ラッサム王の物語”」
「レゴン・クラトンは、(中略)宮廷舞踊劇ガンブーと、バリ土着の宗教儀礼サンヒャン・ドゥダリが結び付いたものといわれている。ガンブーの物語のテキストとなっているパンジ物語は、パンジ王子を主人公とする英雄遍歴物語で、ラッサム王の物語もその中のエピソードのひとつである。
 ダハ国の王女ランケサリは、森の中で道に迷っているところをラッサム王に誘拐され石の宮殿に幽閉されてしまう。ラッサムはランケサリに求婚するが、ランケサリは頑としてこれを拒絶する。ラッサムは、それならばダハ国を責め滅ぼすと脅迫する。だがランケサリはラッサムこそ逆に討ち負かされるであろうと予言するのだった。ダハ国にはランケサリの兄で美丈夫のグヌンサリ王子がおり、しかもそれに味方する謎の遍歴の勇者パンジ王子がいたのだ。(中略)不吉な予感を覚えながら出陣したラッサムの頭上に一羽のカラスが飛来し、血を吐きながら行く手をさえぎった。これこそラッサムがパンジとの戦いで必ず斃れるであろうという凶兆であった。死を覚悟しつつも、ラッサムは戦場へと向かうのであった。」
「ガンバン・クタ」
「クタ出身の有名な作曲家イ・ワヤン・ロットリングの作品(中略)。ガンバンとはバリで最も古いガムランの形態の一種で、主に葬儀の時に用いられる。ロットリングはそのガンバンの曲のリズムを応用してこの曲を作曲した。」

「タブ・ガリ
「タブ・ガリは演奏会の最初によく演奏される器楽曲で、様々なガムランのジャンルに同名異曲がある。」
「スカル・マス」
「これも器楽曲で、スカル・マスは「金の花」という意味。」
「タンブール」
「この曲は20世紀中頃の様式で書かれている。」
アドラー
「前半は「ギラッ」gilak という8拍周期の繰り返しの部分で、それに続いて現れるややゆっくりとした部分は「ガンバン」Gambang という曲の旋律である。」
「スカル・ゲンドット」
「スカル・ゲンドットは前述のロットリングの作曲である。ただしタガス独自のアレンジが加えられている。」
「ルジャン」
「ルジャンとは祭礼の時に女性によって踊られる儀式舞踊の一種で、(中略)この曲は「ルジャン・デワ」Rejung Dewa という曲のタガス版アレンジである。」
「タブ・ブバロン」
「これはバリの獅子舞バロンの前奏曲として演奏される器楽曲である。」
「プラン・ブバット」
「この曲は明らかなゴング・クビャール Gong Kebyar 様式で作曲されている。」
「カタ・チナ」
「小規模な器楽曲。カタ・チナとは「中国の言葉」という意味である。」
「タブ・ガリ(短縮版)」
「これは1曲目のタブ・ガリの短縮版で、演奏会の最後に幕引きの曲として演奏されることが多い。」


◆本CDについて&感想◆

ブックレットに日本語および英語解説、写真図版(モノクロ)5点、「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」CDリスト。

旧「ワールド・ミュージック・ライブラリー」シリーズで『輝きのスマル・プグリンガン~グヌン・ジャティのレゴン・ラッサム』(KICC 5180、1994年)――1999年のシリーズでは『輝きのバリ・ガムラン~グヌン・ジャティのスマル・プグリンガン』(KICW 1072)――としてリリースされていたもの(本CDのディスク1)に、同時録音の未発表音源CDを増補した二枚組です。
「グヌン・ジャティ」の演奏は1986年の現地録音が「JVCワールド・サウンズ」にも入っていて(『耽美と陶酔のガムラン』)、これもたいへんすばらしいです。

ところで、メカニカルでスピード感のある金属楽器と、不安定でたゆたうようなスリン(笛)&ルバーブ(弦楽器)の、二つの異質の要素の共存が「スマル・プグリンガン」の魅力であると思いますが、「明らかなゴング・クビャール様式で作曲されている」という「プラン・ブバット」でも、後半部にスリンのソロをフィーチャーしたミニマルなパートが用意されていて、よいです。

★★★★★

 
Perang Bebat

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