幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『黄金の雨~グヌン・サリのゴン・クビヤール』

『黄金の雨~グヌン・サリのゴン・クビヤール』
Golden Rain / Gong Kebyar of Gunung Sari, Bali
ワールド・ミュージック・ライブラリー 95

 

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CD: キングレコード株式会社 KICC 5195 (1995年)
定価2,500円(税込)(税抜価格2,427円)


1.スカル・ジュプン Sekar Djepun 8:33
2.ウジャン・マス Ujan Mas 5:48
3.カピ・ラジャ Kapi Raja 3:25
4.ペンデット Pendet 6:51
5.バリス Baris 8:31
6.オレッグ・タムリリンガン Oleg Tamulilingan 13:16
7.トゥルナ・ジャヤ Teruna Jaya 10:25
8.ガンバン・スリン Gambang Suling 7:34

ガムラン・ゴン・クビヤール〈グヌン・サリ〉、プリアタン
録音: 1990年12月6日、バリ島プリアタン村にて


Producer: Hoshikawa Kyoji
Engineer: Takanami Hatsuro
Assistant Engineer: Naruoka Akira (SCI)
監修: 皆川厚一
Cover Design: 美登英利
Cover Photo: グヌン・サリ舞踊(撮影: 古屋均)

 

帯文:

「一九三一年パリで世界デビューした老舗グループによる、
ゴン・クビヤールの教科書。」


帯裏:

「1931年遠くパリの地で響きわたったガムラン。世界に初めてバリのガムランを知らしめた最古のクビヤール=グヌン・サリ。「日本の花」=スカル・ジュフン、「黄金の雨」=ウジャン・マス、ペンデット、バリス、そしてクビヤール舞踊の最高峰トゥルナ・ジャヤにオレッグ。いずれ劣らぬ名曲揃い。グヌン・サリ寺院から発掘されたチェン・チェンのかけらを溶かし込んだ伝説のガムランを使っての録音。これぞゴン・クビヤールの教科書。
(’90年12月6日現地録音)」


◆本CD解説(皆川厚一)より◆

「グヌン・サリはプリアタン村で活動するゴン・クビャールの老舗楽団である。」
「彼らの目的は、村の共同体の一部としてのガムラン楽団から脱却し、当時バリには無かった新しい音楽組織を作って、自由で独創的な芸術活動を展開することであった。その結果遂に1931年、フランスのパリ植民地博覧会にバリから最初の海外公演グループとして遠征することになる。」
「帰国後、メンバーの一人がグヌン・サリ寺院の庭で草取りをしていると、鎌の先がカチリと何か固いものに打ち当たった。掘って見るとそれは何とガムランに使うシンバルの一種チェン=チェン ceng-ceng のかけらであった。これを吉兆と看たメンバーは当時新調中だったグループの楽器にそのかけらを溶かして混ぜた。その結果完成した楽器はこの上も無く素晴らしい音色を発するゴン・クビャールの名器となったといわれる。」

「スカル・ジュプン Sekar Djepun: スカルは花、ジュプンはジャパン、つまり日本のことだ。直訳すれば「日本の花」ということになるが、実際スカル・ジュプンとはブルメリアの一種で花弁がやや細く、わずかに黄味を帯びている種類を指す。(中略)バリでは自然の生き物と音楽は同じジャンルの存在である。作曲者はグヌン・サリのリーダー、イ・ワヤン・ガンドラ」
「ウジャン・マス Ujan Mas: ウジャンは雨、マスは黄金。「黄金の雨」というのがこの曲のタイトルだ。同名の曲が中部ジャワのガムランにも存在するが、音楽的に共通点は無い。(中略)バリのウジャン・マスはイ・ワヤン・ガンドラによって1950年代に作曲されたクビャール・スタイルの創作である。」
「カピ・ラジャ Kapi Raja: カピは猿、ラジャとは王の意味。つまり「猿の王様」という曲であるが、これはラーマーヤナ物語に登場するスグリワ Sugriwa に付けられた称号で、(中略)ガンドラ氏の説明によればこの曲はイ・グデ・マニック I Gede Manik の作であるという。マニックはクビャール舞踊の最高峰トゥルナ・ジャヤの作者としても有名であるが、マニックは振り付け師であり、実際の音楽的なアレンジは彼のパートナーであった(中略)パン・ワンドレス Pan Wandres によるといわれる。」
「ペンデット Pendet: ペンデットとは本来寺院の祭礼において神々や祖霊の降臨を歓迎するための儀礼舞踊のことである。今日では演奏会の最初にお客を歓迎する意味で踊られる舞踊としても踊られる。」
「バリス Baris: バリスもペンデット同様、儀礼を起源とする舞踊で本来は複数の踊り手が様々な武器を携え、隊列を組んで踊る模擬戦闘舞踊である。」
「オレッグ・タムリリンガン Oleg Tamulilingan: これは1930年代に(中略)イ・ニョマン・マリオ I Nyoman Maria によって創作されたクビャール舞踊の代表曲である。描いている内容な、蜜蜂の雄と雌による愛の戯れの様であるといわれる。(中略)その後この踊りが全バリで流行し始めると各地で、少しずつアレンジが変更され各地方によって、あるいは踊り手個人によって独自のスタイルが確立された。これはバリの芸能が模倣と改良に基づいているという典型的な例であり、それによってオリジナルの権威が脅かされる事は少しも無く、頻繁に模倣される事をむしろ名誉とする健全な価値観の現れでもある。」
「トゥルナ・ジャヤ Teruna Jaya: トゥルナは「若者」、ジャヤは「勝利」の意味である。この舞踊は前述のイ・グデ・マニックによって1950年代に完成されたといわれる。マニックはバリの北部シンガラジャの出身であり、この地方には以前からクビャール・レゴン Kebyar Legong と呼ばれる舞踊が存在した。それを改良し「トゥルナ・ジャヤ」の名のもとに完成したのがマニックであるといわれる。」
「ガンバン・スリン Gambang Suling: 元曲は中部ジャワ、スマラン Semarang 出身のナルトサブド Nartosabda が作曲した同名曲で、イ・ワヤン・ガンドラがゴン・クビャール用に編曲したものである。」


◆本CDについて&感想◆

ブックレットに日本語および英語解説、写真図版(モノクロ)5点、「ワールド・ミュージック・ライブラリー」CDリスト。

かつて「民族音楽」は「異国情緒(エキゾチズム)」や「海外旅行」と心情的にセットになっていたので、旧「ワールド・ミュージック・ライブラリー」でも「砂漠のアラベスク~アラビアの音楽」とか「遊牧の詩~中央アジアウズベクの音楽」とか、旅情をそそる雰囲気的なタイトルが付けられていました。しかしながら、2008年の「ザ・​ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」では、そうした雰囲気的なタイトルは外されて、たとえば本作も『バリ/グヌンサリのゴン・クビャール』と学術的にわかりやすいものになっています(1999年のシリーズでは『栄光のバリ・ガムラン~グヌン・サリのゴン・クビヤール』でした)。ちなみに2008年と1999年のシリーズでは、タイトルとジャケット・デザインのフォーマットは変更されても、ワンポイントの写真図版は基本的に旧シリーズのと同じものを使用していましたが、2008年シリーズでは本作はなぜか同じダンサーの人の別アングルの写真と差し替えられています。

本CDはタイトル通り、全体的にきらびやかな感じで、低音はあまり強調されていません。テクニカルな若手グループによくあるような極端な強弱の変化も少ないので聞きやすいです。

ところで、本CD収録曲は前回紹介した「JVCワールド・サウンズ」シリーズのティルタ・サリ『絢爛と超絶のガムラン』(1990年10月録音)と演奏曲目が五曲ほど重複しているので、ゴン・クビャールのスタイル比較のサンプルとして聞き比べてみるとよいです。

★★★★★

 

 

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