『シェーンベルク: 浄められた夜 作品4 / ベルク: 抒情組曲/ヴァイオリン協奏曲「ある天使の想い出に」』
ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)/ピエール・ブレーズ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック/ロンドン交響楽団
CD: Sony Records/Sony Music Entertainment (Japan) Inc.
シリーズ: Best Classics 100
SRCR 9208 (1993年)
¥2,000(税込)/税抜価格¥1,942
インレイ文:
「現代音楽の礎を築いた新ウィーン楽派の作曲家、シェーンベルクと彼の弟子ベルクの代表作を、鬼才ブレーズの名演で味わえる現代音楽入門に最適なアルバム。ここに収録された3つの作品は、いずれも後期ロマン派の残香を湛えた親しみやすい音楽ばかり。奇蹟的といわれるほどシャープな耳の持ち主であるブレーズの精妙そのものの表現が素晴らしく、今日、指揮者としても活躍するズーカーマンが若い頃独奏したベルクのヴァイオリン協奏曲も、この作品のベストを競う名演。」
シェーンベルク (1874-1951)
Schoenberg
浄められた夜 作品4* 28:54
Verklärte Nacht Op.4
1. Grave
2. Molto rallentando
3. Pesante
4. Adagio
5. Adagio
ベルク (1885-1935)
Berg
抒情組曲*
Three Movements from the "Lyric Suite"
6.第1楽章 アンダンテ・アモローソ 5:37
I. Andante amoroso
7.第2楽章 アレグロ・ミステリオーソ; トリオ・エスタティコ 3:30
II. Allegro misterioso; Trio estatico
8.第3楽章 アダージョ・アパッショナータ 5:56
III. Adagio appassionata
ベルク
Berg
ヴァイオリン協奏曲「ある天使の想い出に」**
Concerto for Violin and Orchestra ("To the Memory of an Angel")
9.第1楽章 アンダンテ―アレグレット 11:35
I. Andante - Allegretto
10.第2楽章 アレグローアダージョ 15:24
II. Allegro - Adagio
Total time 71:29
ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)**
Pinchas Zukerman, Violin
ニューヨーク・フィルハーモニック*
New York Philharmonic
ロンドン交響楽団**
London Symphony Orchestra
ピエール・ブレーズ指揮
Pierre Boulez, Conductor
Producers: Andrew Kazdin*, Steven Epstein**
Recording:
September 24, 1973, Manhattan Center, New York City (#1-5)
March 4 & December 21, 1974, Manhattan Center, New York City (#6-8)
November 21, 1984, EMI Studio No.1, Abbey Road, London (#9,10)
◆本CD「作品解説」(長木千鶴子)より◆
「弦楽合奏版の「浄められた夜」は、弦楽六重奏曲として1899年に作曲されたものにシェーンベルク自身が手を加え、1943年に完成した。「浄められた夜」という標題は、ドイツの詩人リヒャルト・デーメル(1863-1920)の詩集《女と世界》(1896年)の冒頭を飾る官能的な詩のタイトルに依る。詩の大意は次のようである。「月の光が降り注ぐなか、冬の林を2人は歩んでいる。女は語り始める。自分は身籠もっているが、それは母となる喜びのために見も知らぬ男に身を委ねたのであり、一時はそれを祝福さえしたが、今、愛する人を前にその復讐を受けることになった、と。たゆたう光の中、男はその子供を自分の子として生んでほしいと答える。月明かりの夜空に、2人の愛は浄められていく。」」
「1925年、「ヴォツェック」からの断章がツェムリンスキーの指揮によりプラハで演奏された際、ベルクはマーラー未亡人のアルマ・マーラー=ヴェルフェルを介してフックス・ロベッティン一家との知己を得た。この翌年に弦楽四重奏のための「抒情組曲」は完成し、ツェムリンスキーに献呈されたが、実のところ、この作品はこの一家の夫人ハンナへの許されぬ愛を綴ったものであることが、1976年のベルクの未亡人ヘレーネの死後に明らかになった。無調と十二音技法で書かれた6つの楽章から成るこの弦楽四重奏曲には、音名象徴(ハンナ・フックスの頭文字を表わすh音とf音、アルバン・ベルクのa音とb音)や数象徴(2人の運命の数、〔10〕と〔23〕)が全体の音構成や小節数、メトロノーム表示などに緻密に織り込まれている上、〈トリスタン〉の前奏曲の引用を含む第6楽章には本来、ボードレールの詩《奈落よりわれは叫びぬ》による歌詞が添えられていたのである。」
「弦楽オーケストラ版は、弦楽四重奏版のなかの3つの楽章(第2、3、4楽章)を1928年に作曲者自身が編曲したもの。弦楽オーケストラ版の第2楽章は、中央に「恍惚のトリオ」を置くスケルツォ形式であり、無調によるトリオに対して、両端のスケルツォ主部は十二音技法、しかもトリオを挟んでシンメトリーの関係で書かれている。外枠にあたる第1楽章と第3楽章は再び無調で書かれ、しかも中央のアレグロ楽章に対して緩やかなテンポであるから、作品全体もシンメトリーを呈しており、この形式を彼がいかに好んでいたかが窺われる。第3楽章にはツェムリンスキーの「抒情交響曲」(1923年)の中から、「おまえは私のもの」というバリトン独唱部分の音楽が引用されている。(中略)この引用もハンナを想定したものであることは言うまでもない(中略)。」
「1935年2月、十二音技法による大作オペラ「ルル」の仕上げに取りかかっていたベルクは、アメリカのヴァイオリン奏者ルイス・クラスナーからヴァイオリン協奏曲の依頼を受けた。(中略)ベルクを駆り立てたのは、アルマ・マーラー=ヴェルフェルが建築家ヴァルター・グロピウスとの間にもうけた19歳になる娘マノンの死であった。このマノンへのレクイエムとして書かれた協奏曲は、8月中に一息に完成されたが、皮肉なことに、ベルク自身のレクイエムにもなってしまうのである。
このように副題中の「ある天使」がマノンの代名詞であることは疑いないが、しかし、この曲に秘められた女性が彼女だけではなかったことが近年判明した。1人はハンナ・フックスで、(中略)音名や数の象徴が彼女の名を想起させる。もう1人は、かつて18歳のベルクの子供を生んだ使用人マリー・ショイフルである。この協奏曲にはケルンテン民謡が引用されているが、そのケルンテンこそマリーの故郷であった。」
◆本CDについて◆
ブックレット(全12頁)にトラックリスト&クレジット、「作品紹介」「演奏家紹介」(長木千鶴子)、写真図版(モノクロ)1点。
1977年にリリースされたLP(シェーンベルク「浄められた夜」&ベルク「抒情組曲」を収録、CBS Masterworks)に、1986年にリリースされたLP(ベルク「ヴァイオリン協奏曲」「3つの管弦楽曲」を収録、CBS Masterworks)から「ヴァイオリン協奏曲」を追加収録して1989年にCD化した廉価盤(Best Classics 100)の再発です。
★★★★★
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