幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

コーマス 『ファースト・アタランス』

コーマス 
ファースト・アタランス

Comus 
First Utterance 


CD: Dawn/Teichiku Records Co., Ltd. 
シリーズ:ブリティッシュプログレ・クラシックス 
22DN-69 (1989年) 
税込定価2,266円(税抜価格2,200円)

 

 

帯文:

「アコースティックなサウンドに乗せて展開する
コーマスの狂気の世界。世界初CD化!!」


帯裏文:

ジョン・ミルトンの仮面劇からグループ名を取ったコーマスは、1971年にデビューした6人組のグループです。デビュー・アルバムの本作では、彼らの特徴である特異な女性ヴォーカルをフィーチャーし、ヴァイオリン、ヴィオラ、フルート、オーボエ、ギターなどが用いられた、アコースティック・アンダーグラウンドとでも言うべき狂気の世界が展開されています。」


1.ダイアナ 
DIANA (Pearson) 
2.ヘラルド 
THE HERALD (Goring/Hellaby/Wootton) 
3.ドリップ・ドリップ 
DRIP DRIP (Wootton) 
4.コーマス賛歌 
SONG TO COMUS (Wootton) 
5.バイト 
THE BITE (Wootton) 
6.ビトゥン 
BITTEN (Hellaby/Pearson) 
7.プリズナー 
THE PRISONER (Wootton) 


Produced by Barry Murray 
STEREO 
Manufactured in Japan by arrangement with Precision Records And Tapes Limited, England 


◆Chihiro S.による解説より◆

「コーマスが語られる時、『狂気のアコースティック・グループ』という表現がされてきた。(中略)バンドが音楽的にも詩の面でも『狂気』を強く意識していたのは事実だろう。(アルバム最後のナンバー「プリズナー」は精神病院入院患者の話だ)
 本作「ファースト・アタランス」におけるコーマスのメンバーは以下の通り。
 ロジャー・ウットン (ac-g, lead vo)
 ボビー・ワトソン (vo, perc
 アンディ・ヘラバイ (fender bass, slide bass, vo)
 グレン・ゴーリング (6 string ac & el-g, 12 string ac & el-g, slide g, hand drums, vo)
 コリン・ピアソン (violin, viola)
 ロブ・ヤング (fl, oboe, hand drums)」
「コーマスは’69年に結成された。当初はウットンとゴーリングによるデュオだったと言うが、’70年に入ってこの6人組になる。このニューロティックなサウンド裏目に出たのか、わずかな期間のクラブ回りの後、’72年に一時解散する。一般的に言えば、アコースティック・バンドにリスナーが望むのは、リラックス出来る耳当りの良いナンバーだったりする訳で、コーマスの存在はその対極に位置したと言えよう。
 しかし、’73年の後半になって、ウットン、ヘラビィ、ワトソンの3人はキース・ヘール(kbd)、ゴードン・コクスン(ds)を加え、グループを再編する。そして’74年になると、ヘンリー・カウのリンゼイ・クーパー(Bassoon)、ゴングのディディエ・マルエブ(sax)、エスペラントのティム・クレーマー(cello)を加え、2nd “To Keep From Crying” をヴァージン・レーベルより発表している。実はこの2ndにわずかに先行してロジャー・ウットンはスラップ・ハッピーのヴァージンからの1stにバッキング・ボーカルで参加している。」
「ところでポップ・センスさえ感じさせる2ndを発表したコーマスだが、翌’75年にはすでに活動を停止していたようだ。キーボードのキース・ヘイルは’80年頃に、ティム・ブレイクの後釜としてホークウインドに加入、その後ジンジャー・ベイカーと共に脱退している。その他のメンバーの消息は不明である。」
「詩の内容で特筆すべきは3曲目、「ドリップ・ドリップ」だ。(中略)相手にしてくれない彼女を殺し、埋める前に最後の交わりを行なおうとする男の話だ。
 「お前のたるんだ口唇から、ぽとぽと滴る/お前の身体に流れ落ちる赤い液体は/柔らかな胸に光り、お前の奥深い泉のようだ――」
 これを猟奇的と考えるか、官能的と取るかは議論が別れるだろう。国内で言えば江戸川乱歩夢野久作、フランスのマルキ・ド・サドと言った名が容易に思い出せよう。又、近年のヘビィ・メタル/スラッシュ・メタルの中にはこういった題材を好む連中も多い。しかし、アコースティック・グループで、こういったテーマを取り上げたチームは他に類を見ない。(中略)狂った祈りにも似たイントロから一転しての鋭いヴォーカル・スタイルに、ピーター・ハミルを思い出す方も多いかもしれない。」


◆本CDについて◆

ブックレット(全16頁)にトラックリスト、Chihiro S.による解説、歌詞、オリジナルLPジャケ&中ジャケ&インサート画像(カラー)。このシリーズはインレイ・カードが元から付いていなくて、透明ジュエルケースにCDが(レーベル面が外から見えるように)裏返しに入れてあるという仕様でした。

オリジナルLPは英Dawnレーベルより1971年にリリースされました。

そういうわけで、日本では2作とも1980年代に国内盤CDがリリースされていたコーマスですが、欧米ではスウェーデンデス・メタル・バンドのオーペス(Opeth)が1998年作『My Arms, Your Hearse』のアルバム・タイトルに本作収録曲「Drip Drip」の歌詞を引用するなどして再評価が進み、2005年には1stと2ndにシングル曲その他を加えた2枚組CD『Song to Comus (The Complete Collection)』が出、2008年にはRoger Wootton、Glenn Goring、Bobbie Watson、Colin Pearson、Andy Hellabyのオリジナル・メンバーにJon Seagroatt(フルート)を加えて再結成、スウェーデンでライヴを行い、1st収録曲を中心にヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「毛皮のヴィーナス」も演奏した様子が『East of Sweden: Live at the Melloboat Festival 2008』としてリリースされ(2011年)、2012年には新曲3曲+1972年未発表ライヴ音源を収めたミニ・アルバム『Out of the Coma』が出て、さらにWootton、Goring、Watson、SeagroattにDylan Bates(ヴァイオリン)とRay Bailey(ベース)を加えたメンバーで来日公演、その様子は『Live in Japan 2012』としてCaptain TripからCD+DVDでリリースされています。

音的にはスパイロジャイラ(Spirogyra)の『St. Radigunds』(1971年)や、解説の斎藤千尋さんも指摘されているピーター・ハミル『The Silent Corner and the Empty Stage』(1974年)あたりに近いです。


Drip Drip