幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『巨竹激奏~バリのジェゴグ・ムバルン』

『巨竹激奏~バリのジェゴグ・ムバルン』
Jegog of Negara
ワールド・ミュージック・ライブラリー 57


CD: キングレコード株式会社
KICC 5157 (1992年)
定価2,500円(税抜価格2,427円)

 

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1.ゴパラ(水牛飼いの少年) Gopala 8:44
2.タンギス・アリット(懐かしさ) Tangis Alit 30:03
3.タブ・ブランダ(オランダへの戦い) Tabuh Belanda 34:53

スアール・アグン=サンカルアグン村 対 プンダム村からのグループ
"Suar Agung" dari Desa Sankaragung VS Sekehe Jegog dari Desa Pendem
録音: 1990年12月26日、バリ島にて録音
Recorded: 26 December 1990 at the Sankaragung, Jembrana


Producer: Hoshikawa Kyoji
Engineer: Takanami Hatsuro
Assistant engineer: Naruoka Akira (SCI)
Photographer: Furuya Hitoshi
Special arrangement: I Ketut Suwentra
Cover Design: 美登英利
Cover Photo: バリ ジェゴグ(古屋均撮影)


帯文:

「魂を揺るがす重低音と強烈なビート。スアール・アグンとプンダムの
ふたつの巨竹オーケストラ=ジェゴグのバトルはまさに巨人の格闘!」


帯裏:

ジェゴグは世界最大の竹のオーケストラ。そのエネルギーが最大に発散されるのがふたつのジェゴグのバトル=ジェゴグ・ムバルン。スアール・アグンとプンダムによるムバルンはまさに巨人の格闘。現地(ヌガラ)以外では不可能な貴重な録音セッション。
(’90年11~12月現地録音)」


◆本CD解説(皆川厚一)より◆

ジェゴグはこのヌガラ地方にしか存在しない。その楽器の素材となる巨大な竹が他の地方では採れないからである。もっともこのジェゴグも長い間廃れていた音楽であったらしい。このCDで演奏しているグループ “スアル・アグン” のリーダー、イ・クトゥット・スウェントラ I Ketut Swentra の話によると、彼の父親の存命中に父親と彼がジェゴグの復興運動を始め、1984年にスウェントラが国立芸術アカデミーを卒業する時期を前後してジェゴグの人気がヌガラだけでなく全バリ的に高まってきた。」
「竹の音楽の魅力の大きなポイントは(中略)、叩いた瞬間の立上りの音の歪みが金属楽器のそれに比べてはるかに感覚的に許容できる程度のものであるということ、更にそれに続く竹筒の深く柔らかい響きが聴く者の心にやすらかな沈静と、明快な覚醒という一見相反する様な精神状態を矛盾なくもたらしてくれるという作用であろう。このような意味においては、ジェゴグの深い重低音の響きはすぐれて音楽療法的な効果を持っているといってよく、人工的な都会に生活する現代人にとって願ってもない大自然の響きの安らぎを与えてくれるものである。
 ジェゴグのもう一つの魅力はムバルン(或いはマバルン)という演奏形式であろう。ムバルンとは「対決する」という意味だ。これはゴン・クビャールなどでも行われるが、ジェゴグの場合はより激しく直接的である。ジェゴグのムバルンは、二つの異なるジェゴグのグループが合い並んで位置し、片方が演奏を始めしばらくして次第に音楽が盛り上がってくるころ、もう一方が突然相手の演奏に乱入して互いに相手の演奏をわざと壊すように音で邪魔をしながら戦うというものだ。」

「ゴパラ(水牛飼いの少年)」
「これは1980年代初頭に作られた踊りの曲で原曲はゴン・クビャールで演奏される。(中略)ここに収められているのは後にジェゴグの為にスウェントラが編曲をしたものである。伝統的なジェゴグの曲では本来太鼓や、シンバルやドラ類は用いないがここでは上のような理由で用いられている。」
「タンギス・アリット(懐かしさ)」
「曲名のタンギスとは「泣く」という意味であり、アリットは「小さな」という意味である。直訳すれば「小さな嘆き」とでもいうのだろうか。スウェントラから渡された覚書には日本語で「懐かしさ」と書かれていた。」
「この曲の前半はスアル・アグンの演奏である。そして最後の部分はムバルンになる。スアル・アグンに対抗するのはプンダム村からのグループである。」
「タブ・ブランダ(オランダへの戦い)」
「タブとはこの場合 “楽曲” という意味で用いられている。直訳すれば「オランダの曲」というわけである。インドネシアにとってオランダは旧宗主国であるから、当然独立の敵である。という訳でこの曲ハオランダの植民地支配に対するインドネシア独立の戦いを描こうとしたものであろう。
 この曲の演奏は先程のプンダム村のグループである。そして後半に入ると今度はスアル・アグンがムバルンに参加してくる。」

 

◆本CDについて&感想◆

ブックレットに日本語および英語解説、写真図版(モノクロ)5点、『バリ・華花の舞う島』(古屋均ほか著、平河出版社)広告、「ワールド・ミュージック・ライブラリー」CDリスト、地図2点、裏表紙に写真図版(カラー)1点。
本作は1999年に『バリのジェゴグ――巨竹激奏』(KICW-1020)として同内容のものが、また2008年に未発表音源CDを増補した二枚組『バリ/スアール・アグンのジェゴッグ』(KICW-85021/2)として再リリースされています。

速いパッセージの背後にきこえる低くくぐもったオルガンのようなゆったりしたフレーズの繰り返しはトレモロ奏法によるものでしょう、たんにパーカッシヴなだけでない包み込むような拡がりを感じさせます。
②と③は「ムバルン」ですが、それは②では最後の5分、③では15分くらいで、別のグループの演奏がかぶさってきますが、「格闘」というよりは、ひとつのフェーズが充分に展開されたあとに別のフェーズが重ね合わされて、ぶつかり合いながらも複雑なポリリズムポリフォニーによる豊饒な共生空間が開かれていく感じで、要はランダとバロンの終わりなき戦いと構造的には同じで、音の弁証法ですが、そういうことをテクノロジー抜きで生身でやっているのがすごいです。

★★★★★


Tabuh Belanda

youtu.be

 

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