幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

ドリス・ヘンダーソン&ジョン・レンボーン  『ゼア・ユー・ゴー』

ドリス・ヘンダーソン&ジョン・レンボーン 
『ゼア・ユー・ゴー』 

Dorris Henderson and John Renbourn 
There You Go 


CD: Big Beat Records / Ace Records 
Series: Folk Roots Classics 
CDWIKD 186 (1999) 
Made in the United Kingdom 

発売元: MSI 
MSIF 3628 (1999年) 
¥2,700(税抜) 

 

f:id:nekonomorinekotaro:20211120142055p:plain


帯文: 

「トラッド・ファンの間で永い間、憧れと羨望の的になっていたジョン・レンボーンの幻のファースト・レコーディング作品、ボーナス・トラックまで付いて復刻!」


There You Go (tracks 1-17) - Columbia LP SX 6001 

1. Sally Free and Easy (Cyril Tawney) 
サリー・フリー・アンド・イージー 
2. Single Girl 
シングル・ガール 
3. Ribbon Bow 
リボン・ボウ 
4. Cotton Eyed Joe 
コットン・アイド・ジョー 
5. Mr Tambourine Man (Bob Dylan
ミスター・タンブリン・マン 
6. Mist on the Mountain 
ミスト・オン・ザ・マウンテン 
7. The Lag's Song (Ewan MacColl) 
ラグズ・ソング 
8. American Jail Song 
アメリカン・ジェイル・ソング 
9. The Water Is Wide 
ウォーター・イズ・ワイド 
10. Something Lonesome (John Renbourn) 
サムシング・ロンサム 
11. Song aka Song [Falling Star] (John Renbourn, John Donne) 
ソング(フォーリング・スター) 
12. Winter Is Gone 
ウィンター・イズ・ゴーン 
13. Strange Lullaby (John Renbourn, Judith Piepe) 
ストレンジ・ララバイ 
14. You'll Need Somebody on Your Bond (Willie Johnson) 
ユール・ニード・サムボディ・オン・ユア・ボンド 
15. One Morning in May 
ワン・モーニング・イン・メイ 
16. Darling Corey aka A Banjo Tune 
バンジョー・チューン 
17. Going to Memphis 
ゴーイング・トゥ・メンフィス 
18. Hangman 
ハングマン 
19. Leaves That Are Green (Paul Simon
木の葉は緑 

All titles Trad Arr Doris Henderson, John Renbourn, except where noted 

CD cover remix and layout by Jools at Advance Graphics 
Front cover photograph by Brian Shuel, Collections 
Transferred from original analogue master tapes 
Mastered by Duncan Cowell at Sound Mastering Ltd 

The copyright in these sound recording are owned by Dorris Henderson and John Renbourn and are licensed to Ace Records Ltd 


「This 1965 debut album for both performers is a long-lost gem of the first British folk boom and has become a much sought-after collector's item in the ensuing years. The even rarer 45 is added for this release.」


◆本CD解説(白石和良)より◆ 

「本作(原盤: 英COLUMBIA SX6001)は、良く知られているジョンのソロ・デビュー・アルバム『JOHN RENBOURN』(英TRANSATLANTIC TRA135, ’65録音, ’66発表)に先立って1965年に発表されたものだが(録音自体はTRA135の方が少し先らしい)、(中略)これまで一度も再発された事が無く、英国フォークの幻の名盤の代表格として知られて来たものである。更に本CDには(中略)シングル盤(英COLUMBIA DB7567)の収録曲まで追加されているのだ。」

「ドリス・ヘンダーソンは米国フロリダの生まれでLAで育った。(中略)彼女は(中略)LAのトルバドール等の有名クラブに出演して名声を得ていくが、1965年にあるきっかけから一大決心をしてロンドンに移住する。(中略)やがてラウンドハウス(ソーホーのクラブ)でジョンと出会った。(中略)二人はデュオを組むようになり、本作を制作するに到る。(中略)「英国の聴衆は米国人よりも私の歌いたい歌に対して寛容だった。彼らは私に黒人の歌だけを歌う様に強要しなかった。」と彼女は言う。(中略)実際後に彼女はフェアポートのトレーバー・ルーカス達の結成したフォーク・ロック・バンド、エクレクションに参加して、シングル盤「PLEASE」を録音したり、ワイト島ポップ・フェスにも出演しているのである。(中略)ドリスは66年にセカンド・アルバムを制作している。そのアルバム『WATCH THE STARS』(英FONTANA TL 5385)は彼女の個人名義になっているが、実際にはほぼ全曲でジョンがギターを弾く事実上の二人のデュオ作品であり、内容も本作に劣らず充実している。」


◆本CDについて◆ 

輸入盤に日本語解説(投げ込み)付。ブックレット(全8頁)にJohn Crosbyによる解説(英文)、写真図版(モノクロ)3点。ブックレット裏表紙にLP裏ジャケ(Dave Moranによるライナーノーツとドリス&ジョンによる楽曲コメントを含む)が縮小再現されています。投げ込みにトラックリスト、白石和良による解説、英語歌詞(transcribed by Gwenna Jo-Anne Humphreys)と訳詞(小山景子)。

#1「Sally Free and Easy」はシリル・タウニーが1958年に作った歌で、自身の録音は1970年のLP『In Port』に収録。ディヴィー・グレアム(『Folk, Blues & Beyond』1964年)、トゥリーズ(『On the Shore』1970年)等カバー・ヴァージョンも多く、ジョン・レンボーンも後にペンタングルで(『Solomon's Seal』1972年)再カバーしています。
#2「Single Girl」(I Wish I was a Single Girl Again)はブルースっぽいですが、アパラチアのフォークソングです。
#3「Ribbon Bow」(If I Had A Ribbon Bow)はヒューイー・プリンス/ルー・シンガーによる曲で、マキシン・サリヴァンによる録音(1936年)もありますが、
ここではオデッタのヴァージョン(1956年)が元になっていると思います。マキシン・サリヴァン、オデッタ、ドリス・ヘンダーソンという系譜が浮かび上がってきます。因みに1968年にはフェアポート・コンヴェンション(ヴォーカルはジュディ・ダイブル)がこの曲でデビューしています。
#4「Cotton Eyed Joe」はアメリカのフォーク・ソングで、ここではニーナ・シモンのヴァージョン(1959年)が元になっていると思います。マキシン・サリヴァン、オデッタ、ニーナ・シモン、ドリス・ヘンダーソンという系譜です。
#5「Mr Tambourine Man」のボブ・ディランは#19「Leaves That Are Green」のポール・サイモン同様、1960年代の英国フォーク・リヴァイヴァルに少なからず影響を与えていて、1965年のディランの英国ツアーのドキュメント「Don't Look Back」にはちょっとだけですがジョン・レンボーンとドリス・ヘンダーソンの姿も見えます。
#6「Mist on the Mountain」の詞はアメリカの作家・詩人ペン・ウォーレン(Robert Penn Warren)の小説『The Cave』から取られたと原盤のコメントにはあります。#11「Song」はイギリス形而上派の詩人ジョン・ダンの詩に曲を付けたもので、ジョン・レンボーンは自身の1st(1965年)でみずから歌っています。#12「Winter Is Gone」も同じくジョンの1stにソロ・ヴァージョンが収録されています。
#18の「Hangman」はチャイルド・バラッド#95「The Maid Freed from the Gallows」(絞首刑を免れた娘)のヴァリエーションですが、ヴァージョンによって主人公は男だったり、最後は救われなかったりします。今まさに絞首刑になろうとしている主人公が、親兄弟や恋人が自分を救うためにお金を持って来てくれるのを待っているのですが、キングストン・トリオやピーター・ポール&マリーのヴァージョン(「Hangman」)では親兄弟には見放されるものの恋人に救われ、レッドベリー(「The Gallis Pole」)、オデッタ(「Gallows Pole」)、レッド・ツェッペリン(「Gallows Pole」)のヴァージョンでは兄弟(姉妹)がお金を持って来てくれるものの、死刑執行人は主人公を絞首刑にしてしまいます。前者は「愛は死より強し」、後者は「権力悪」です。ここではキングストン・トリオのヴァージョン(1961年)が元になっているようです。