幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

あがた森魚  『タルホロジー』

あがた森魚 
『タルホロジー』 

Morio Agata 
Taruphology 


CD: ブリッジ BRIDGE Inc. 
EGDS26 (2007年) 
¥2,800(税込)/¥2,667(税抜) 

 

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[タルホロジー] あがた森魚 

1.東京節 4:11 
作詞 添田さつき/原曲 マーチング・スルー・ジョージア 
Tokyo Bushi 
Harry Hosono and Keiichi Suzuki [Guest Vocal] 
Makoto Kubota [Guitars, Bass and Back Vocal] 
Hugo Carranca [Drums] 
Gilsinho [Ilu] 
Isaar [Shekere] 
Masahiro Takekawa [Trumpet] 
Manabu Hiyama [Accordion] 
Emanuel Santana [Pife (Flute)] 
Tokyo Local Honk [Back Vocal] 

2.百合コレクション 5:34 
作詞・作曲 あがた森魚 
Yuli Collection 
Makoto Kubota [12str Guitar, Fender Rhodes, Bass, Beats and Effect] 
Hirohumi Tokutake [Additional 12str Guitar] 
Anne Weerapass [Back Vocal] 
Mohar [Surling] 
Yoichi Ikeda [Strings and Horn Arrangement] 

3.サブマリン 4:41 
作詞・作曲 あがた森魚 
Submarine 
Makoto Kubota [Bass, Rhodes, Back Vocal and Beats] 
Ken Matsuo [Oud and Duf] 
Masahiro Takekawa [Violin] 
Manabu Hiyama [Accordion] 
Kei Wada [Req] 

4.いとこ同志 4:36 
作詞 あがた森魚/作曲 光永巌 
Itoko Doshi 
Hilomitz Niimi [Guitar and Cavaquinho] 
Masami Hattori [Surdo, Pandeiro and Shekere] 
Manabu Hiyama [Accordion] 
Makoto Kubota [Beats] 
Keiichi Suzuki [Harmony Vocal] 

5.骨 4:57 
作詞 久住昌之/作曲 鈴木慶一 
Hone 
Makoto Kubota [12str. Guitars, Wurlizter, Bass and Back Vocals] 
Hugo Carranca and Gilsinho [Percussions] 
Lula Do Acordeon [Accordions] 
Masahiro Takekawa [Trumpet] 

6.白い翼 5:20 
日本語詞 あがた森魚/作詞・作曲 Humberto Teixeira & Luiz Gonzaga 
Asa Branca 
Silverio Pessoa [Guest Vocal] 
Andre Julião [Accordions] 
Juliano Holand [Guitar] 
Pubilius [Bandolin] 
Makoto Kubota [Bass and Back Vocal] 
Isaar [Triangle] 
Alessandra Leão [Agogo] 
Sidclei [Zabumba] 
Skunk Brothers [Back Vocal] 

7.Sexi Sexi 4:17 
作詞 あがた森魚/作曲 P.D. 
Sexi Sexi 
Ken Matsuo [Oud and Duf] 
Kyoko Oikawa [Violin] 
Manabu Hiyama [Aっ子řぢ音」
Mohar [Surling] 
Makoto Kubota [Bass, Rhodes, Back Vocal and Beats] 

8.Taruphology 1:29 
作曲 久保田麻琴 
Taruphology 
Richard Barbieri [Prophet 5] 
Masami Hattori [Surdo, Caixa, Agogo and Bells] 
Makoto Kubota [Beats & Electronics] 

9.雪ヶ谷日記 6:52 
詞 稲垣足穂「雪ヶ谷日記」より/作曲 あがた森魚 
Yukigaya Nikki 
Yoichi Ikeda [Guitars, Keyboards and Bass] 
Manabu Hiyama [Accordion] 
Makoto Kubota [Electronics] 

10.弥勒 5:06 
作詞・作曲 あがた森魚 
Miloku 
Jenny Chin [Piano and Str. Arrangement] 
Hilomitz Niimi [Nylon String Guitar] 
Anand [Sitar] 
Masahiro Kakekawa [Violin] 
Cordelia Wong [Cello] 
Epiphany Luong [Soprano Voice] 

11.午後4時のアメジスト 5:03 
作詞・作曲 あがた森魚 
Amethyst 
Yoichi Ikeda [Guitar, Bass and Beats] 
Hirohumi Tokutake [Fender String Bender Telecaster] 

12.あともう一回だけ 3:52 
作詞・作曲 ツジコノリコ 
Ato Mou 1kai Dake 
Makoto Kubota [Taylor T5 guitar, Keyboards, & Percssions] 
Masami Hattori [Surdo] 
Eleine Yeo [Oboe] 


All lead vocals by あがた森魚 
Produced and Engineered by 久保田麻琴 
Recorded in Yokohama, Recife, Olinda, Singapore and Kuala Lumpur 
Mastered by 久保田麻琴 & 長島義人 
Exective Producer 伊藤洋一(BRIDGE Inc.) 


◆本CD解説(久保田麻琴)より◆ 

「1…東京節」
「ブラジル北東部(中略)最強のリズム・セクションが鼓笛隊風の濃いシランダのリズムを叩き、鈴木慶一、ハリー(引用者注:細野晴臣)&マック(引用者注:久保田麻琴)、東京ローカル・ホンクがバック(引用者注:バック・ヴォーカル)を付けるなか、デビュー35年目の魚は浪々と泳ぐ。」

「2…百合コレクション」
「“ヴァージンVS”時代のレパートリー」「元々、沢田研二のために作曲された。」

「3…サブマリン」 
「テクノ/ニューウェーブ時代のアルバム、“乗物図鑑”にも収録された。ダブ・スタイルやアラビックな響きが、(中略)呪文のようなコーラスの絨毯に乗せてさらに遠い世界へと連れ去る。」

「4…いとこ同志
ダウンテンポなシランダ、アコーディオン、カバキーニョ、12弦やガットのギターが、サウダージ感いっぱいに、終わらない夏の情景と詩を描く。あがた森魚メトロファルス光永巌により、90年代に作詞作曲された。」

「5…骨」
「サンバ・ジ・ホーダと並び、ブラジル北東部の重要なルーツ・リズム、コーコ。」

「6…白い翼」
「ブラジルの裏国歌とも云うべき“Asa Branca”は、巨人ルイス・ゴンザーガによる大ヒット曲。今日のベルナンブーコ州を代表するアーティスト、シルベリオ・ペソアや東京のスカンク兄弟などのゲスト参加を得て、あがたは自作の日本語詩を披露する。」

「7…Sexi Sexi」
タラフ・ドゥ・ハイドゥークスなどの東欧系のジプシー楽団達が、(中略)必ず演奏する宴会ソング。」

「8…Taruphology 
9…雪ヶ谷日記 
10…弥勒
「タルホ組曲ともいうべき3曲。」

「11…午後4時のアメジスト
「2007年、冬の作品。」

「12…あともう一回だけ」
「フランス在住アーティスト、ツジコ・ノリコのRATN名義のアルバムに収録された佳曲。」

「そしてゴースト・トラックにはブラジルの若き鬼才、シコ・コヘイアからのプレゼント(引用者注:「東京節」のリミックス)が届いた。」


◆本CDについて◆ 

堅牢デジパック仕様。ブックレット(19頁)貼付。ブックレットにトラックリスト&クレジット、「あがた森魚 タルホロジー完成」(久保田麻琴)、「ある日、世界の果てから」(寺村摩耶子)、歌詞。

アコースティックとエレクトロニクス、エスノミュージックとシティポップが絶妙にブレンドされつつ、稲垣足穂ふうにいえば「その荒誕(こうたん)味とセルロイドアート的な儚(はかな)さ」に「ニルヴァーナがほのめいている」(「弥勒」)名盤であるなと思いました。

★★★★★ 


いとこ同志 


雪ヶ谷日記


「雪ヶ谷寮は、閑散な避暑ホテルとも取れるカッテージ風建物で
部屋数は約八十
明るい食堂や円形の湯ぶねのあることが判った 
スペイン瓦の赤屋根を前景にして、馬込村の丘々の横顔があり 
その手前を横切って時々おもちゃのような汽車が通過する 

 菊の花をちぎって まき散らしたような星 
 サーチライトは着物の井げたのようだ 
 星標機が旋回する 
 トウモロコシの葉っぱが翻って 
 菊の花をちぎって まき散らしたような星 

明方、洋服箪笥のある部屋で目を醒まして 
窓の外にべらぼうに大きな星を見た 
馭者(ぎょしゃ)座は、ちょうどその上方にあり 
右寄りにオリオンの蝶々がせり上がっている 

 菊の花をちぎって まき散らしたような星 
 サーチライトは着物の井げたのようだ 

夕方、屋上のヤグラに登って、半月のおもてに西洋婦人の横顔を探った 
天上界 
そしてここから一様に見渡すことのできる下界の樹々 
戦争などは歴史のうわっつらのサザナミだ 
何もかも昔のままで、しばしの悪夢を見ていたのだという気がする 
(八月十七日) 

 星標機が旋回する 
 トウモロコシの葉っぱが翻って 
 星標機が旋回する 

屋上のパノラマ風景 
馬込村の一郭、木立をまじえた起伏が 
ワーズワースという名を連想させる 
透明な空気中をカラスが三羽帰って行く 
更に西方を渡り鳥が過ぎて行った 
その下方に、真紅に縁取られた怪異な雲が突っ立っている 
進駐軍にそなえて、女の子と食糧があわててかくされつつある 
(八月十九日) 

中庭にそよぐトウモロコシの葉ずれ 
日々に人々が減って行く広い館の淋しい午後 
夕方の展望台で兄と幼い弟との対話―― 
弟「兄ちゃん、あの山と富士山と同じかい」
兄「くっついているけど、富士山の方が向うにあるんだぞ」 
弟「兄ちゃん、お月様は生きてるんかい」 
兄「知らないよ」 
弟「じゃ誰が廻しているの」 
兄「だれも廻してなんかいるもんか」 
弟「じゃなぜ動くの、雲も生きているんかい。よう、教えておくれよ」 
(八月二十日) 

天候回復 
風吹いて断雲しきりに東へ飛び、星標機が旋回する 
トウモロコシの葉が翻って、草々が光ながらなびいている 
空の青をここに移した露草の一点! 
郵便局の横で、女の子のノートらしい一片をひろった 
 「菊の花をちぎって まき散らしたような星 
 サーチライトは着物の井げたのようだ」 
と、そのノートに鉛筆で書いてあった 
(八月二十四日)」