幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

マッチング・モウル  『そっくりモグラ』

マッチング・モウル 
『そっくりモグラ』 
Matching Mole 


CD: Epic / Sony Records 
シリーズ:Epic Nice Price Line ¥1,800 
ESCA 5425 (1991年) 
Manufactured by Sony Music Entertainment (Japan) Inc 
税込定価¥1,800(税抜価格¥1,748) 

 


帯文:

ソフト・マシーンから進化。ロバート・ワイアットが71年に結成したプログレッシヴなグループのデビュー盤。」
「1972年作品」


1.オー・キャロライン 5:04 
O CAROLINE 
2.インスタント・プシィ 3:01 
INSTANT PUSSY 
3.サインド・カーテン 3:35 
SIGNED CURTAIN 
4.パート・オブ・ザ・ダンス 8:40 
PART OF THE DANCE 
5.インスタント・キッテン 4:57 
INSTANT KITTEN 
6.ヒューへ捧ぐ、でも聞いていなかった 5:03 
DEDICATED TO HUGH, BUT YOU WEREN'T LISTENING 
7.ビア・アズ・イン・ブレインディア 4:38 
BEER AS IN BRAINDEER 
8.イミディエイト・カーテン 4:54 
IMMEDIATE CURTAIN 


◆本CD解説(赤岩和美)より◆ 

ソフト・マシーンを脱退したワイアットが結成したバンド、マッチング・モウルのデビュー作。
 ワイアットはソフト・マシーン在籍中に発表したソロ・アルバム『The End Of An Ear』(CBS64189/’70年10月)のレコーディングに参加していたデイヴ・シンクレアとバンド結成の構想を持ち、そのために音楽的な不自由さを感じ始めていたソフト・マシーンを脱退し、マッチング・モウル設立に着手した。
 シンクレアは、ワイアットも在籍していたワイルド・フラワーズの後期のメンバー(ワイアットとは同時在籍はしていない)で、のちにワイルド・フラワーズのメンバーが中心となって結成されたキャラヴァンでも活動していた。」
「フィル・ミラーは、60年代後半のブルース・ブームの頃にデリヴァリーのギタリストとして活動しており、その時のメンバーにはロイ・バビングトン(b、のちソフト・マシーン)、ロル・コックスヒル(sax、のちケヴィン・エアーズのホール・ワールド)、ピプ・パイル(ds、のちゴング~ハットフィールド&ザ・ノース)、スティーヴ・ミラー(kbd、のちキャラヴァン)、キャロル・グライムス(vo、ソロ)などがいた。
 ビル・マコーミックは、フィル・マンザネラ(g、のちロキシー・ミュージック)やチャールズ・ヘイワード(ds、のちディス・ヒート)らとクワイエット・サンというバンドを組んでいた若手ベーシストであった。
 そして、本作ではゲスト・スーパー・スターとしてクレジットされているデイヴ・マックレエはオーストラリア出身のベテラン・ジャズ・キーボード奏者で、バディ・リッチのグループなどで演奏していた。マッチング・モウルの次作では、脱退したシンクレアに代わって正式メンバーとして加入している。」
「マッチング・モウルはこの後に2作目の『Little Red Record』を発表し一時解散、その後ワイアットとマコーミックは、ゲイリー・ウインド(sax)とフランシス・モンクマン(kbd、元カーヴド・エアー)を加えて新生マッチング・モウルのリハーサルを始めるが、’73年6月にワイアットがパーティーの席上、酒に酔い階段から落下、脊椎を痛め下半身不随となり、グループの構想は宙に浮いてしまった。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全12頁)にトラックリスト、赤岩和美による解説、「O CAROLINE」歌詞および対訳(訳:Kuni Takeuchi)。ブックレット裏表紙にオリジナルLP裏ジャケ。

メロトロン(ワイアット)とピアノ(シンクレア)が印象的な#1「O Caroline」ですが、その他の使用楽器はオルガンとメトロノーム(?)だけで、「Dave is on piano and I may play on a drum」とはいうものの、ドラムは叩いていないです。
歌モノ#1&3のつなぎ的な「Instant Pussy」はソロ作『The End of an Ear』の延長上にある声による即興がフィーチャーされています。
#3「Signed Curtain」では鬱による失語症状態が進行して、もはや曲の現状を説明するのがやっとです(「This is the first verse, and this is the chorus, o, perhaps it's a bridge, o, just another part of the song that I'm singing, etc.」)。
メランコリックなインスト#4はその後のハットフィールド&ノースやクワイエット・サンの布石となる重要曲です。
シュルレアリスティックなテープ逆回転と即興ヴォイスで始まる#5は、後半キャラヴァンっぽいオルガンをフィーチャーしたインストですが、終結部はメロトロン・アンサンブルです。
ソフト・マシーン『Volume 2』収録曲(Hugh Hopper作「Dedicated to You, But You Weren't Listening」)をもじったタイトルの#6「Dedicated to Hugh」、#7「Beer as in Braindeer」、#8「Immediate Curtain」は切れ目なしに続くフリー・インプロヴィゼーションで、特にハイテンションな#7と、重篤鬱状態を表徴するかのような#8のメロトロンの洪水は圧巻です。

1960年代のイギリスというのは1980年代の日本に似ていて、変わり者が積極奇異的に変わったことをして、それが積極的に評価されるという、そういう時代でした。ピンク・フロイドシド・バレットや、ソフト・マシーンロバート・ワイアットは、そういう時代を象徴するような存在ですが、反動というのは必ずあるもので、時代が移り、1970年代になってソフト・マシーンが当初のヒッピー的な自由さを失い、テクニカルなインスト志向を示し始めると、ワイアットは自分がバンドにとって必要とされていない存在なのではないかと思い悩み、脱退してからもかつての「夢のバンド」から一人だけ取り残され疎外される悪夢に魘されるほどで、そうしたソフト・マシーンへの未練と後悔はトラウマとなっていて、そのことは心機一転のはずの新バンドのネーミングが「ソフト・マシーン」をもじった「マッチング・モール」(バンド名の由来となったウィリアム・バロウズの小説『The Soft Machine』の仏訳タイトルが「La Machine molle」で、それを更に英語で語呂合わせして「Matching Mole(似た者モグラ)」としたもの)だったりすることからも窺われます。そしてそれはバンドに限ったことではなくて、かつてのガールフレンド、たとえば本作収録曲「O Caroline」の主人公、キャロライン・クーン(Caroline Coon)に対してもまた然りです。
Marcus O'Dairによるワイアット伝『Different Every Time』によると、社会活動家だったキャロライン(のちメロディ・メーカーにパンクの記事を書くようになり、クラッシュのマネージャーをしたり、ストラングラーズの「London Lady」のモデルになったりしています)の活動の一環としてのショーへの出演を契機に仲良くなったものの、重篤鬱状態とアルコール依存に陥って、自殺傾向があったワイアットは、キャロラインの目の前で手首を切って病院に運ばれ、関係は終焉したとのことです。キャロラインは自由恋愛主義だったので、歌詞にあるような「man and wife」の関係は望むべくもなかったようです。
同書によると、「O Caroline」誕生のいきさつは、キャラヴァンをやめてポルトガルに滞在していたデイヴ・シンクレアがワイアットからの電報でイギリスに呼び戻され、シンクレア宅を訪ねて来たワイアットに新しく作った曲を演奏して聞かせていると、そのうちの一曲を気に入ったワイアットが歌詞を付けて歌いたいと言い出して、その後スタジオでシンクレアがピアノとオルガンのパートを入れて帰ったあとでワイアットが一晩かかってメロトロンとヴォーカルのパートを入れて完成させたということです。

★★★★★ 


Part Of The Dance