幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

デレク・ベイリー  『ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー』

デレク・ベイリー 
『ザ・ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニー』 
The Music Improvisation Company 


CD: ECM 
制作:ユニバーサル クラシックス&ジャズ 
発売元:ユニバーサル ミュージック株式会社 
販売元:ビクター エンタテインメント株式会社 
シリーズ: The...music HARDCORE JAZZ 
UCCU-9019 (2003年) 
定価¥2,300(税抜価格¥2,190) 

 

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帯文: 

インプロヴィゼーションのみを演奏する孤高のギタリスト、D・ベイリーの登場を世界に告げた歴史的作品。ベイリーが後に本格稼働させるカンパニーの痕跡がすでにある。
後にキング・クリムゾンに加入するジェイミー・ミューアの参加も話題。70年作品。」
「世界初CD化」
「初回プレス完全限定盤」
「24-Bit / 96kHz 
デジタル・リマスタリング


1.サード・ストリーム・ブーガルー 2:35 
THIRD STREAM BOOGALOO 
2.ドラゴン・パス 10:21 
DRAGON PATH 
3.パッケージド・イール 6:39 
PACKAGED EEL 
4.無題 No. 1 7:01 
UNTITLED NO. I 
5.無題 No. 2 7:28 
UNTITLED NO. II 
6.タック 3:04 
TUCK 
7.ウォルフガング・ヴァン・ガングバング 6:54 
WOLFGANG VAN GANGBANG 


Written by Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davis, Jamie Muir, Christine Jeffrey 

(P) 1970 ECM Records GmbH 


〈パーソネル〉 
デレク・ベイリー(g) 
エヴァン・パーカー(ss) 
ヒュー・デイヴィス(electro) 
ジェイミー・ミューア(per) 
クリスティン・ジェフリー(vo on [1], [5]) 

1970年8月25日~27日、ロンドン、
マーサム・スタジオにて録音 


RECORDED ON AUGUST 25TH, 26TH, 27TH 1970 AT THE MERSTHAM STUDIOS, LONDON 
ENGINEER: JENNY THOR 
PHOTO: WERNER BETHSOLD 
COVERDESIGN: B & B WOJIRSCH 
PRODUCED BY MANFRED EICHER 


◆本CD解説(佐々木敦)より◆ 

「商業的なセッション・ギタリストから、産声を上げたばかりだった即興演奏の世界へと身を投じたベイリーは、トニー・オクスレー、ギャヴィン・ブライアーズとのジョゼフ・ホルブルックを経て、ジョン・スティーヴンスのスポンティニアス・ミュージック・アンサンブルや、トニー・オクスレー・クインテット、ハン・ベニンクとミシャ・メンゲルベルクを中心とするオランダのICP(インスタント・コンポーザーズ・プール)、ポール・ラザフォード(トロンボーン)、バリー・ガイ(ベース)とのイスクラ1903などに参加しつつ、このミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニーでも旺盛な活動を行っていた。」

「デイヴィスの参加について、ベイリーは自著の中で、次のように語っている。

 グループにライヴ・エレクトロニクスが加わっていたのは、マテリアルの上も音の上でも、イディオマティック・インプロヴィゼーションからできるだけ遠くへいくためだった。スタイルのない、縛られることのない演奏の場を、さらに探求しようとしていたわけだ。
――『インプロヴィゼーション 即興演奏の彼方へ』
デレク・ベイリー/竹田賢一・木幡和枝 他訳(工作舎

 「イディオマティック・インプロヴィゼーション」とは、何らかの「イディオム(=語彙)」を形成してしまうような即興演奏のことであり、あらゆる制約から解き放たれた、完全に自由な即興であるべきものが、演奏者のテクニックや音にかかわる記憶(身体的なものも含む)や相互的なコミュニケーションの積み重ねなどによって、いつのまにか、なんらかの予めのフレームを持ってしまうことを意味している。」

「ヒュー・デイヴィスは、(中略)ほとんど唯一、記憶に残っているというダラムでのコンサートで、エヴァン・パーカーがソプラノ・サックスでハイ・ピッチの循環奏法を始め、暗黙にデイヴィスの介入を求めてきたのに対して、敢えてそれを無視して、パーカーが諦めて吹くのを辞めそうになった所を見計らいライヴ・エレクトロニクスの音を入れ、パーカーの意図とリズムを故意に崩した、というエピソードを語っている。これについて、ベイリーはこう述べる。

 ここでヒュー・デイヴィースがいっているのはフリー・インプロヴィゼーションにまつわる一面であり、裏切りあいとでも名づけられる面である。このような特徴をまったくうけいれたがらない即興演奏家もいるし、逆にそれに一所懸命の者もいる。だがMICにおいては、この特徴がきわめて大きかった。
(前掲書)

 このような、創造的な「裏切りあい」という要素は、ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニーの演奏の、いや、フリー・インプロヴィゼーションという音楽形態における、ひとつの核心ともいうべきものである。それはもちろん、単なる文字どおりの意味での「裏切り」の相互応酬とは根本的に異なっている。相手の予想や期待を裏切るためには、それを深く知っていなければならないし、そうした行為によって必然的に導き出される、その後の(相手にとっては)意想外の展開についても、一定の予測を持っていなければならない。そして何よりも、そうした自らの「裏切り」も、相手もしくは、それ以外の演奏者によって、ことごとく裏切られ、覆されていくことになるのだ。
 もちろん、こうした試みは、演奏者同志の、強固な信頼関係と共通認識があって、はじめて成立するものである。ミュージック・インプロヴィゼーション・カンパニーには、それがあった。だが逆に言えば、クリエイティヴな「裏切りあい」を可能にするような、コミュニケーションの母胎そのものにも、回避すべき「イディオマティック・インプロヴィゼーション」を形成してしまう契機は潜んでいる。このグループとしての活動が、程なくして停止することになったのは、したがって理論的な帰結であったと考えるべきだろう。」


◆本CDについて◆ 

LPは1970年にECMよりリリースされました(ECM 1005 ST)。

紙ジャケット(A式シングルジャケ)仕様。投げ込みライナーにトラックリスト&クレジット、今井正弘「見失った音を求めて」(「the...music HARDCORE JAZZ」シリーズについて)、佐々木敦による解説。

ECMからは1971年にデレク・ベイリーデイヴ・ホランドのデュオ『Improvisations for Cello and Guitar』(ECM 1013 ST)もリリースされています。

★★★★★