Cran
『Black Black Black』
クラン
ブラック・ブラック・ブラック
CD: Claddagh Records Ltd., Ireland
CC63CD (1998)
Presented by
SSE Communications
SSE7228CD (1999年)
¥2,700(税抜価格)
帯文:
「SSE Celtic, Folky & Contemporary Selection」
「アイルランドから――最も古くて近しい未来の音楽」
1. Abbey Reel / The West Clare Reel [Reels]
Kevin Glackin - Fiddle
Seán Corcoran - Bouzouki
Triona Ní Dhomhnaill - Clavinet, Harmonium
Desi Wilkinson - Flute, Bamboo Flute, Lilting
Ronan Browne - Uilleann Pipes, Flute
2. Staimpí [Song]
Seán Corcoran - Bouzouki, Vocal
Desi Wilkinson - Bamboo Flutes, Clarinet, Vocal
Ronan Browne - Bansari, Vocal
Conan Doyle - Bass
Shel Talmy - Tambourine
Triona Ní Dhomhnaill - Clavinet
3. Farewell to Nigg [Air]
Desi Wilkinson - Flute
Ronan Browne - Uilleann Pipes
Michael Holohan - Strings
4. The Dunmore Lasses / The Dublin Reel [Reels]
Ronan Browne - Bansari
Desi Wilkinson - Bamboo Flute
5. Coleraine Town [Song]
Seán Corcoran - Bouzouki, Vocal
Desi Wilkinson - Flute
Ronan Browne - Uilleann Pipes, Flutes
Michael Holohan - Strings
6. Brendan Tonra's Jig / The Banks of Lough Gowna [Jigs]
Ronan Browne - Uilleann Pipes
Desi Wilkinson - Flute
Seán Corcoran - Bouzouki
Triona Ni Dhomhnaill - Clavinet, Harmonium
7. Black Black Black [Air]
is the Colour of My True Love's Hair
Ronan Browne - Uilleann Pipes & Regulator overdub
Desi Wilkinson - Flute
ANÚNA - Vocal Accompaniment
8. Willie Taylor [Song]
Desi Wilkinson - Vocal
Seán Corcoran - Vocal
Ronan Browne - Vocal
9. The Return from Fingal / Cathal McConnell's Slip Jig / Tom Busby's Jig
Ronan Browne - Uilleann Pipes [March / Jigs]
Desi Wilkinson - Flutes
Sean Corcoran - Bouzouki
Triona Ni Dhomhnaill - Harmonium, Clavinet
10. Seacht Suáilcí na Maighdine Muire [Song]
Seán Corcoran - Vocal
Triona Ní Dhomhnaill - Harmonium
Desi Wilkinson - Vocal
Ronan Browne - Vocal, Whistles, Harmonium
11. The Humours of Ballyloughlin / Liz Kelly's Delight / The Kerry Jig / Hardiman The Fiddler [Jigs]
Kevin Glackin - Fiddle
Desi Wilkinson - Flute
Ronan Browne - Uilleann Pipes
Seán Corcoran - Bouzouki
Triona Ní Dhomhnaill - Clavinet
Produced: Shel Talmy and CRAN
Engineered: Joe Baldridge
Recorded: Windmill Lane, Dublin
Tracks 2, 4, 5, 9-11 Mixed: Shel Talmy, Joe Bladridge and CRAN at Windmill Lane
Tracks 1, 3, 6-8 Mixed: Ciarán Byrne and CRAN at Westland Studios
Assistant engineers: Ciarán Cahill, Conan Doyle and Francis Murphy
Mastered: Robyn Robbins at Mid Atlantic Digital
Cover & band photography: Shane McCarthy
Design and art direction: Ikonics
Track 3: composed Duncan Johnstone, arranged CRAN
Tracks 1 and 11: traditional arrangements CRAN and Kevin Glackin
All other tracks: all other tracks traditional arrangements CRAN
CRAN:
Ronan Browne: Uilleann Pipes, Flute, Whistles, Vocal
Seán Corcoran: Bouzouki, Vocal
Desi Wilkinson: Flute, Whistles, Vocal
Guest Musicians:
Kevin Glackin: Fiddle
Triona Ni Dhomhnaill: Clavinet and harmonium
ANÚNA: Vocal on 'Black Black Black'
Shel Talmy: Tambourine on 'Staimpí'
Michael Holohan: Strings on tracks 3 and 5
◆本CDインサート日本語解説(北村昌士)より◆
「アイリッシュ・ミュージックの歴史に新たな一章を加えた最強のライヴ・バンドCRAN
CRANの音楽からは、いつも謎の氷解する感覚がリンクしていて、それまで闇のなかに没して静かに沈黙していた空間に、突如光が差しのべられたような開放感にとらわれる。そこには、ヨーロッパ音楽に潜在するアジア的な諸要素という以上の濃密さと素朴なまでの自然さで、わたしたちのルーツ文化ともなじみの深そうな、ユーラシアを連続的に貫く音楽文化の可逆性のようなものがくっきりとしていたからだろう。だからこそ、だれもが傑作と断じてはばからないCD『ブラック・ブラック・ブラック』、たとえばそのまるで雅楽のような響きのシンボリックなタイトルトラックや、教会では歌われることのなかったゲール古語の聖歌などを聴くたびに、濃密な土俗的な既視感(デ・ジャ・ヴ)をともなった音楽感情や、普遍的としかいいようのない豊潤な心的世界の広がり、そして新たな自己発見にも似た明るみの感じを意識することが可能だった。中近東やアジアの民族音楽を学べば学ぶほど、ケルトの伝統音楽とそれらとの間には、差異よりもさらに多くの共通点があることに驚きつつ感動したことを、CRANの中心人物でヴォーカルとブズーキ担当のショーン・コーコランは「The OWL 2」のインタヴューで語っている。その驚きの瞬間がとらえた音楽の秘密と、CRANのあの多少漠然とした音楽的外観や、ともすればケルト的美学の範疇をも逸脱しそうなスケールの大きさは無関係ではないだろう。世界の伝統音楽が地域、民族などに属することをやめ、むしろ非ワールド的なアピアランスをともないつつ、リアルな創造的強度をたたえた表現へと回帰するのもさほど遠い先の話ではなく、その時には、このシンプルかつボーダーレスな力の形質というテーマが否応なく浮上するだろう。
伝説的な1stアルバム『THE CROOKED STAIR』からかなり長いインターヴァルを経てリリースされたセカンド・アルバム『ブラック・ブラック・ブラック』が、アイルランドおよびヨーロッパをはじめとする世界各国で爆発的ヒットとなったのは98年。このアルバムにはキーボードで元ボシーバンド、現ナイトノイズのトリーナ・ニ・ドーネルや「リヴァーダンス」のサントラでも話題のヴォーカル・グループ、アヌーナがゲスト参加していることでも注目を集めたが、真に人々を驚愕させたのは、何といってもそのとびぬけた内容のすばらしさにあったのはいうまでもない。新加入のメンバー、パイプ奏者のロナン・ブラウンは、オリジナル「リヴァーダンス」初演時のパイパーをつとめたほか、シニード・オコナーやU2、ドナル・ラニーといった、アイリッシュのトップ・アーティストのツアーやレコーディングに参加し、他方では話題のアフロ・ケルト・サウンドシステムでもプレイしている名うてのミュージシャン。ソロとしてクラダーからのオムニバス「ドローンズ&シャンティーズVOL.2」に最年少のパイパーとしてフィーチャーされるなど、アイルランドでの演奏家としての評価は、若手のうちでは1、2をあらそう。一方フルートとフィドル、パイプなどを担当するオリジナルメンバーのデシ・ウィルキンソンは、フランスのブルターニュで長年にわたる音楽活動などのキャリアから、むしろ大陸のケルト的伝統音楽のエキスパートといえる深い知識と演奏技術を習得していた。クランの音楽的な独自性と孤高性の背景には、まちがいなくそんなウィルキンソンのアイリッシュ一辺倒でない柔軟なセンスが不可欠だったと推量できる。演奏面ではとりわけフルートが絶品。ただしそれは同じく達人、たとえば精巧なマシンのごときマット・モロイの王道を往く上手さとデシのそれとはたぶんまったく違っていて、しかもそこには、ちょうどチーフテンズとCRANがまったく違うバンドであるのと同じ次元の本質的なことが隠れているように思える。CRANにおける彼のメロディアスでコントラストの強い演奏は、ソロイスト/リード楽器でありながら、それがまた同時にアンサンブルの核ともなりうるという見事なアレンジと、その危うさや緊張、絶妙のハーモニーとリズムなどがひとつになって化成する、あの全体的響奏音によって最高の瞬間をつくり出そうとするバンドの意志やダイナミズムと分離して語ることはできない。」
「CRANを知ることで、ケルトのみならず伝統音楽というものの理解の仕方、というかアプローチやスタンスのおき方のようなものが、多少なりとも揺れ動いてくれれば最高だ。共同体とかことばとか、やっかいなことは後にしても、表現の古態を突き詰めれば突き詰めるほど、より広くて多元的なところにじわじわと抜け出てゆくような音楽をつくりだすCRANの不思議な持ち味と説得力の大元には、単に一つのバンドの個性という以上の刺戟にみちた創造的エッセンスを感じるためだ。そこには表現/パフォーマンスの未来、といってもコンピュータやサンプリングなどと関係した、ごくありふれた未来の音楽実像に行き着くのとはまるで異質なアップグレード過程としての音楽の未来がイメージできそうに思う。(中略)頑固そうに見えるが実はけっこうさばけていたりして、なんてそうかと思うと一転…厳しさや反骨精神がユーモアや優しさと絶妙に同居している。つまり実にアイルランド的なかっこよさにあふれたバンド、まずはそれがCRANであるといえそうだ。
(99年9月 ディフェランス/北村昌士
クラン来日公演に関するコメントから)」
◆本CDについて◆
日本語帯・解説付輸入盤。原盤三つ折りブックレットにトラックリスト&クレジット。日本語ライナー(二つ折り/片面印刷)に北村昌士による解説。歌詞は掲載されていません。
本作のタイトルトラックであるアパラチア民謡(ルーツはスコットランド)「Black Is the Colour of My True Love's Hair」は、
ジョン・ジェイコブ・ナイルズによるスタンダード・ヴァージョン
https://youtu.be/h_yA5l9Vghg
カウンターテナーのアルフレッド・デラーによる古楽ヴァージョン
https://youtu.be/-nG6_ylKrp4
キャシー・バーベリアンが歌うベリオの現代音楽ヴァージョン
https://youtu.be/vePDOaKhxek
ニーナ・シモンによるスピリチュアル・ヴァージョン
https://youtu.be/wQDRhece54c
ジョーン・バエズによる反戦フォーク・ヴァージョン
https://youtu.be/JxeMh6HTWTA
パティ・ウォーターズによるフリージャズ・ヴァージョン
https://youtu.be/v-X0tvKXQoY
ナース・ウィズ・ウーンドによるエクスペリメンタル・ヴァージョン
https://youtu.be/sM4oDjyUNsw
など、さまざまなアレンジがなされていますが、CRANによるヴァージョンは、日本語解説の北村昌士が「The Owl 2」のインタビューで雅楽の篳篥や韓国のピリとの類似性を指摘しているイーリアン・パイプスの音色が、ギリシア正教の典礼やチベット仏教の声明を連想させるアヌーナの合唱と相俟って、違和感と郷愁が同時に襲ってくるような、個性を突き詰めていったら根源的な普遍性に到達してしまったような凄みがあります。
★★★★★
Black Black Black
Willie Taylor