幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

坂本弘道  『零式』 

坂本弘道 
『零式』 

Sakamoto Hiromiti 
Zero shiki 


CD: Off Note 
ON-33 (1999年) 
価格2,800円(税抜) 
Manufactured by Off Note 
Distributed by Meta Company Limited 

 


帯文:

「「ループする衝動、幻惑のノスタルジー
異界のチェロリスト・坂本弘道、渾身の一撃」」


帯裏文:

坂本弘道
チェロ奏者。他にヴォイス、ノコギリ等を奏する。アコースティックは元より、チェロの可能性を開拓すべく、エフェクターを駆使し、叩く、こする、回す、果ては電動ドリルやグラインダーで火花を散らすパフォーマンスまで、過激かつ詩的な美しさに満ちたライヴは必見。インプロヴァイザーとしてソロや多くのミュージシャンとのセッションを精力的に行っている一方で、映画、演劇、美術、写真、舞踏、大道芸と他ジャンルとの多彩な交流で活動の場を広げている。」


「零式」坂本弘道 

1.真・月魚 9:32 
Ultima Tsukiuo (The Moonfish) 
2.蒸気歩行 3:40 
Steam Walker 
3.薔薇の速度 3:30 
Velocity of A Rose 
4.兆し… 6:26 
signs... 
5.夢の蹟 2:39 
Tracks of My Dreames 
6.影踏み 4:03 
Playing Shadow Tag 
7.空蝉 4:38 
Utsusemi (Empty Shell of Cicada) 
8.海馬は踊る 2:30 
The Kaiba Dances (Ammon's horn) 
9.嵐が丘・零式 8:47 
Wuthering heights / Zero shiki 
10.半分夏生まれた 4:47 
Half A Summer Has Been Delivered 
11.ドガ・改 3:23 
Degas, A Revised Version 
12.蝶と骨と虹と 6:36 
The Butterflies, The Bones, and The Rainbow 


全作曲、演奏 坂本弘道 
All music composed & performed by Sakamoto Hiromiti 


#Produced by 坂本弘道 
#Engineered by 小俣佳久 
#Recorded & Mixed at Toi Studio (Tokyo) & Home (Yokohama) 
#Mastered by 滝口博達 at JVC Mastering Center 
#Design 藤原邦久 
#Jaket art by 天野天街 with 水谷雄司 (Mac operater) 
#Photographs 福田寛、宮坂恵津子、小林アツシ、月又光子、坂本弘道 
#Illustration 坂本弘道 
#Notes 桜井大造 
#Translation 高野秀行、浅野敦則、藍淑人、李閏姫 
#Advicer 佐竹美智子 
#Exective Producer 神谷一義


◆「「零式」録音メモ」より◆

「2ヶ月前、僕はバイク事故で右の腕と指の骨を折って入院した。
2年間とっちらかっていた録音が、逆にチェロが弾けない状態になって
ある帰結点=「零式」にむかって動きはじめた。
アルバムのすべての曲は僕の身体とチェロを透過して作られているという意味において、
この作品はドキュメンタリーであり、「零式」とはそれでもなおループし続ける
僕自身の「さが」が生み出した一本のフィルムである。」


◆本CDについて◆ 

プラケース(白トレイ)。ブックレット(外三つ折り)に英文トラックリスト、演奏者紹介(帯裏文の英・仏・西・中・ハングル語訳)、カラー図版(表紙部分含む)1点、デッサン図版1点、モノクロ写真図版1点。別冊ブックレット(全12頁)に邦文トラックリスト&クレジット、桜井大造によるライナーノーツ、坂本弘道による「「零式」録音メモ」&楽曲コメント、モノクロ写真図版14点、イラスト図版1点。

パスカルズシカラムータといったバンドでの活動や、カトリーヌ・ジョニオー(元アクサク・マブール、ザ・ワーク、ザ・ハット・シューズ)やHaco(元アフター・ディナー、ホアヒオ)とのデュオ作、UAの「空の小屋」ツアーへの参加などでおなじみのアヴァンギャルド系チェロ奏者・坂本弘道のソロ作(1999年)です。

骨折と音楽というと、手首を骨折したオランダのフリージャズ・ベーシストのマールテン・アルテナがベースのネックにもギプスを巻いて、演奏者と楽器双方に「ハンディキャップ」を課した状態で録音した『Handicaps』(1973年)という作品が連想されますが、アルテナのアプローチが即物的なのに対して、坂本氏の本作は内省的です。柱時計の音や波音、機関車の音、沸騰する薬缶の音などがコラージュされていますが、それらの物音も根源的な記憶を呼び覚ますような形で使用されていて、骨折の原因となったバイク(今は亡き)のエンジン音も入っていますが(#8)、まるでアフリカの太鼓のようです。さまざまな外部の音と内部の音(心音など)が入り混じって、原初の夢(悪夢)を織り成しています。
印象としては、子どもの頃に病気で学校を休んで、枕元にいろいろながらくたを並べて一人遊びしたり、熱に浮かされてうわごとをいったり、妄想でさまざまな場所や時代にトリップしたり、そうした不安ではあるものの一種の至福の時間を追体験させてくれるような、そんな感じです。「アベ・マリア」ふうのラストの「蝶と骨と虹と」は「レクイエム」であると楽曲コメントにありますが、この曲の逆回転パーカッションループに身をゆだねつつ、病気の子どもである私は薄皮を剥ぐように回復し、やがて日常生活に戻るのか、それとも生という病から癒えてなつかしいイデア界=光の国へと帰っていくのか。
時間を逆行するセロ式機関車が描かれたスチームパンクというかレトロなジャケ絵がよいです。

★★★★★ 

 


Sakamoto Hiromichi Paris 16 mars 2011