幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『ブルガリアン ヴォイス』

ブルガリアン ヴォイス』 
Le Mystère des Voix Bulgares 
Remastered by Seigen Ono, 2001 


CD: WOOD RECORDS
WS-0025 (2001年) 
¥1,980(税別) 

 

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帯文: 

「「まさにタイトル通り『声の不思議』、異文化のぶつかり合いから、普通では考えつかないような和音が生まれたのだ。衝撃の出会いから20年近く経っても、いまだに聴くたびに鳥肌が立ちます。」 ピーター・バラカン


帯裏文: 

「(中村とうよう氏 本文解説より) 
 ぼくは、ニンゲンには、ブルガリアの声の神秘を知る人と知らない人、この二種類があるように思えてならない。この神秘をいったん味わうと、音楽に対する感性がガラリと一変してしまうからである。(中略)これを聞くときには、難しいことなど考えず、ほんとに心を解き放って、ユッタリとした気分で、不可思議な声のひびきに身をゆだねるがいい。そうすれば、20世紀文明の垢が洗い落とされて、心が軽くなる。」
「(オノセイゲン氏 本文解説より) 
 そこには音楽の大切な要素である「気」が存在する。「気」は音が出る前から音に重なり、さらに音が終わってからも、そこに存在したり消えたりする。人間が「いい音」だと感じるのは、音符から発せられた音と共に「美しい響き」と「気」がある時である。」


ブルガリアン ヴォイス 
Les Mystère Des VOIX BULGARES
Remastered by SEIGEN ONO, 2001 

1.夜の集会 5:11 
KALIMANKOU DENKOU (The Evening Gathering)
Traditional / arr. Krasimir Kyurkdjiyski
solo: Yanka Roupkina

2.恋歌(トドラは夢みる) 3:41 
POLEGNALA E TODORA (Love Chant)
Traditional / arr. Phillip Koutev

3.義賊ハイドゥク 2:40 
STRATI NA ANGELAKI DOUMASCHE (Haiduk Chant)
Traditional / arr. Alexander Yossieov

4.ロドペの恋歌 2:31 
MESSETSCHINKO LIO GREÏLIVKO (Love Chant from The Rhodopes)
Traditional / arr. Krasimir Kyurkdjiyski

5.婚礼 1:30 
SVATBA (The Wedding)
Traditional / arr. Christo Todorov

6.ピレンツェの唄(小鳥は歌をうたっている) 2:22 
PILENTZE PEE (Pilentze Chant)
Traditional / arr. Krasimir Kyurkdjiyski

7.トラキアの収穫歌Ⅰ(小麦の穂が寝ているふりをする) 2:03 
POLEGNALA E PSCHENITZA (Harvest Chant From Thrace)
Traditional / arr. Stefan Kunev

8:舞歌(イワン、聞いて下さい) 1:35 
BREÏ YVANE (Dancing Song)
Traditional / arr. Ivane Naumov

9.ショプスコの詩(独り者のおじいさん) 2:53 
ERGHEN DIADO (Song Of Schopsko)
Traditional / arr. Peter Eiondev
with 'Tapan' and Spoons

10.子羊(小羊が鳴いている) 4:32 
SABLEYALO MI AGOTZE (The Bleating Lamb)
Traditional / arr. Krasimir Kyurkdjiyski
solo: Kalinka Vatcheva

11.ディアフォニック 1:29 
SCHOPSKA PESEN (Diaphonic Chant)
Traditional / arr. Nikolai Kaufmann

12.トラキアの平原から 2:48 
PRÏTOURÏTZE PLANINATA (Chant From Thracian Plain)
Traditional / arr. Philip Koutev
With Orchestra

13.トラキアの収穫歌Ⅱ(スタシカ、聞いて下さい) 3:21 
MIR STANKE LE (Harvest Chant From Thrace)
Traditional / arr. Kosta Kolev
solo: Stefka Sabotinova


Licensed From Disques Cellier

「※歴史的録音のため、一部にお聴き苦しい箇所が御座います。ご了承ください。」


◆本CDブックレットより◆ 

「私が初めてブルガリアを訪れたのは1950年5月のことですから、もう半世紀も前のことになります。その後数十年に渡り、私はブルガリア固有の歌唱法という驚くべき声の芸術に魅了され、その稀有な美をナグラ・レコーダーに収めようと、オルフェウスをも生んだ、この音楽的資源に富んだ国を幾度も訪れました。
 初めてブルガリアの地を訪れてから25年が経過した1975年、ようやく十分な資金を得た(引用者注:「being rich enough」=十分な音源(音楽的資源)を集めた)と考えた私は、西洋人の耳には未だに神秘的に聴こえる、この例えようもなく美しい歌曲を集めた、私にとって初めてのレコードを制作し、『Les Mystère Des Vois Bulgares (ブルガリアの声の神秘)』と名付けました。
 解説書に、私は以下のように述べました。「人間の声は、話す時よりも、歌う時の方が雄弁だ。」そしてこう締め括りました、「究極の美、美の極致」と。
 このレコードは世界的成功を収め、ワシントン・ポスト紙から「地球上で最も美しい音楽」という評をいただきました。」
(2001年 マルセル・セリエ)


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全12頁)にマルセル・セリエによる序文(英文と邦訳)、「聞く者の音楽感覚を転換させるブルガリアの声の神秘」(中村とうよう/1987年の日本盤CDライナーに加筆)、オノ・セイゲンによる跋文。個々の楽曲の解説とか歌詞の内容紹介とかはないです。

ブルガリアン・ヴォイス』は1986年に4ADからディストリビュートされて日本盤も出て、まさにデッド・カン・ダンスやコクトー・ツインズの原点だったわけですが、翌1987年にはデヴィッド・シルヴィアンの『シークレッツ・オブ・ザ・ビーハイヴ』(「オルフェウス」という曲も収録されています)が出て、そのジャケットデザインは4AD版『ブルガリアン・ヴォイス』のデザインを担当した「23 Envelope」によるものでした(本CDのジャケットデザインは1975年のオリジナルのものを使用しています)。
マルセル・セリエの序文にも「オルフェウス」が出て来ましたが、ウィキペディアの「オルフェウスの死」(絵画)という項目を引用すると、
オルフェウスは激怒したトラキアの女性たちによって襲撃され、彼女らにピッチフォークやトーチやその他の武器で攻撃されている。彼を攻撃している間、彼女らは高い声で歌い、オルフェウスの詩を沈黙させるために音楽を演奏して、彼女らの目的を完遂させようとしている。」

オルフェウスの死 - Wikipedia

そうなると、ただたんに「美しい」だの「ヒーリング」だのといっていられなくなって、ブルガリアの女声合唱にみられる不協和音や鋭い嘲るような発声など、攻撃的な要素も、男性原理的な近代ヨーロッパの古典音楽(オルフェウス)を「沈黙させる」ための女性原理=古ヨーロッパ/ユーラシアの声だとすれば、それはまさに「ミステール(秘儀)」としかいいようがないです。
そしてもしかしたら大地母神キュベレーによって「去勢(断首)」されることこそが父性原理的に堕落した西欧文明(河合隼雄ふうにいえば「母なるもの」アグラオニケに背いて「アニマ」エウリディケを選んだオルフェウス)にとって最大の「ヒーリング」なのかもしれないです。

★★★★★ 


erghen diado

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