幻の猫たち 改訂版

まぼろしの猫を慕いて

『シェーンベルク: 浄夜/管弦楽のための変奏曲』  ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ヘルベルト・フォン・カラヤン

シェーンベルク浄夜管弦楽のための変奏曲』 
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ヘルベルト・フォン・カラヤン 
Arnold Schoenberg 
Verklärte Nacht - Variationen für Orchester 
Berliner Philharmoniker - Herbert von Karajan 


CD: ポリドール株式会社 
F35G 50296/415 326-2  
¥3,500

 

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アルノルト・シェーンベルク
Arnold Shoenberg 
(1874-1951) 


浄夜 作品4 
Verklärte Nacht op.4 (1899) 
弦楽合奏版、1943年 
リヒャルト・デーメルの詩集『女と世界』より 
Nach dem Gedicht von Richard Dehmel 
Revidierte Fassung fur Streichorchester (1943) 
1.Grave 6:34 
2.Molto rallentando (Takt 100) 5:51 
3.Pesante (T. 201) 2:24 
4.Adagio (T. 229) 10:23 
5.Adagio (T. 370) 4:33 


管弦楽のための変奏曲 作品31 
Variationen für Orchester op.31 (1926-28) 
6.Introduktion. Mäßig, ruhig 1:42 
7.Thema. Molto moderato 1:06 
8.Variation I. Moderato 1:09 
9.Variation II. Langsam 2:03 
10.Variation III. Mäßîg 0:47 
11.Variation IV. Walzertempo 1:13 
12.Variation V. Bewegt 2:08 
13.Variation VI. Andante 1:34 
14.Variation VII. Langsam 2:56 
15.Variation VIII. Sehr rasch 0:35 
16.Variation IX. L'istesso tempo; aber etwas langsamer 0:57 
17.Finale. Mäßig schnell 6:11 


ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 
Berliner Philharmoniker 
指揮: ヘルベルト・フォン・カラヤン 
Dirigent: Herbert von Karajan 


プロデューサー: Dr. ハンス・ヒルシュ 
ディレクター: ハンス・ヴェーバー 
レコーディング・エンジニア: ギュンター・ヘルマンス 
データ: 1973年12月6日(OP.4)、
1974年1月3、5日、2月11-18日(OP.31) ベルリン 
解説書表: ホルガー・マッティース 


◆本CD解説(石田一志)より◆ 

「《浄夜》は、ツェムリンスキーが「私の知る限り室内楽曲で標題をもった最初の曲」とその歴史的意義を述べているように、室内楽には珍しい音詩(トーン・ポエム)で、デーメルの詩が総譜の前に掲げられている。この詩は詩集『女と世界』Weib und Welt(1896年刊)に収められているもので、見も知らぬ男に身をまかせてみごもった女の罪の意識にあふれた告白と、男の力強いゆるしと、浄化されたふたつの魂を歌った物語詩(ロマンツェン)である。」
「曲は、リストやR. シュトラウス交響詩と同様に単一楽章で、それがほぼ5つの部分から構成されている。この5つの部分は、夜の林の情景とそのなかを歩む恋人達を描く3つの短い詩節と、その間に挿入される恋人達の会話による2つの長い詩節で、シンメトリックに構成されたデーメルの詩の構造をそのまま音にうつしたものである。また、冒頭のピアニッシモニ短調のゆるやかなモティーフは、冷たい夜の林のなかを歩いていく恋人達の「歩みのモティーフ」、あるいは女の告白と男の言葉、さらにはフラジオレットの和声に支えられてコン・ソルディーノによる高音のパッセージがきらきらと輝く「光明のモティーフ」など、ワーグナーの楽劇やR. シュトラウス交響詩にみられるようなライト・モティーフのアイディアに富んでいる。
 曲を聴いたデーメルが「おお、輝かしき響き、私の言葉がいまや鳴り響く……」とシェーンベルクに書き送っている程に、その標題性は強いといえよう。」

シェーンベルクがいわゆる12音技法に到達したのは弟子のルーファーの証言によると1921年夏のことであった。彼はこの新しい作曲法を1923年に完成した5つのピアノ曲作品23の終曲とピアノ組曲作品25の全曲にまず適用し、ついで1924年管弦楽曲作品26、26年の七重奏曲作品29、27年の弦楽四重奏曲第3番作品30と発展させていき、器楽曲の頂点としてこの《管弦楽のための変奏曲》作品31を完成した。」
「全体の構成は、序奏と主題、続いて9つの変奏曲、そして長大な終曲という極めて伝統的なもので、個々の変奏曲は、ベートーヴェンブラームスの流れを汲む一種洗練された性格変奏を成している。」


◆本CDについて◆ 

4頁ブックレットにトラックリスト&クレジット、写真図版(モノクロ)1点。
投げ込み(4頁)に石田一志による解説。

インレイには「Manufactured by Polydor K.K., Japan」とありますが、CDレーベル面の記載は「Made in W. Germany by PolyGram」になっています。

CDリリース年の記載はありませんが、1985年くらいだと思います。

★★★★☆ 


Verklärte Nacht, Op.4

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『Shönberg: Verklärte Nacht』  Schönberg Ensemble 

『Shönberg: Verklärte Nacht』 
Streichtrio op.45 
Phantasy für Violine und Klavier op.47 
Schönberg Ensemble 


CD: Philips 
Series: Digital Classics 
416 306-2 
Made in West Germany/CD is manufactured by PolyGram in Hanover, West Germany 

 

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Arnold Schoenberg (1874-1951) 

1. Verklarte Nacht, Op.4  30:07 
"Transfigured Night" 
《La nuit transfigurée》 
(Poem by - Gedicht von - Poème de Richard Dehmel) 
for six string instruments 
für sechs Streichinstrumente 
pour six instruments à cordes 
(Publishers - Verlag - Editions: Universal Edition) 

2. Trio, Op.45  19:34 
for violin, viola, and cello 
für Violine, Viola und Violoncello 
pour violon, alto et violoncelle 

3. Phantasy, Op.47  9:04 
for violin with piano accompaniment 
Fantasie für Violine mit Klavierbegleitung 
Fantasie pour violon avec accompagnement de piano 
(Publishers - Verlag - Editions: Peters Edition Ltd.) 


Schönberg Ensemble 
Janneke van der Meer, violin - Violine - violon 
Wim de Jong, violin - Violine - violon (Op.4) 
Henk Guittart, Viola - alto (Op.4, Op.45) 
Sigiswald Kuyken, Viola - alto (Op.4) 
Hans Woudenberg, Violoncello - violoncelle (Op.4, Op.45) 
Richte van der Meer, Violoncello - violoncelle (Op.4) 
Marja Bon, piano - Klavier (Op.47) 

Recorded - Aufnahme - Enregistrement: Utrecht, 4/1984 

A Harlekijn recording 

This album is dedicated to: 
Nuria Nono-Schoenberg 
Ronald Schoenberg 
Lawrence Schoenberg 

Illustration: Egon Schiele, "Umarmung", 1917 


◆本CDについて◆ 

独フィリップス輸入盤。ブックレット(本文8頁)にElmer Schönbergerによる解説「From the past to the future」(英文/独・仏訳)、Richard Dehmelによる詩「Verklärte Nacht」(独文)。

オランダの「シェーンベルク・アンサンブル」(1974年結成、現在はアスコ・アンサンブルと合併して「Asko|Schönberg」として活動)によるシェーンベルク作品集。シェーンベルクの娘ヌリア・息子ロナルド&ローレンスに捧げられています。

弦楽六重奏版「浄められた夜」(1899年)、弦楽三重奏曲(1946年)、ヴァイオリンのためのピアノ伴奏付き幻想曲(1949年)。

★★★★★ 


Verklärte Nacht, Op.4

youtu.be

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シェーンベルク: 浄められた夜/組曲』  ピエール・ブレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン 

シェーンベルク浄められた夜組曲』 
ピエール・ブレーズ/アンサンブル・アンテルコンタンポラン 


CD: CBS/Sony Inc. (Tokyo Japan) 
32DC 543 (1985年) 
¥3,200 

 

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シェーンベルク 

組曲》 作品29 
Suite, Op.29 
1.第1楽章―序曲、アレグレット 8:32 
Overture. Allegretto 
2.第2楽章―舞踏の歩み、モデラート 7:23 
Tanzschritte. Moderato 
3.第3楽章―変奏曲 6:02 
Thema mit Variationen 
4.第4楽章―ジーグ 7:23 
Gigue 

弦楽六重奏曲 《浄められた夜》 作品4* 29:17 
Verklärte Nacht, Op.4 


ピエール・ブレーズ(指揮/監修*) 
アンサンブル・アンテルコンタンポラン 

Members of the Ensemble Intercontemporain: 
〈Suite, Op.29〉 
Michel Arrignon, Alain Damiens, Clarinets 
Guy Arnaud, bass Clarinet 
Maryvonne Le Dizès-Richard, Violin 
Jean Sulem, Viola 
Pierre Strauch, Cello 
Cristian Petrescu, Piano 
Pierre Boulez, Conductor 
〈Verklarte Nacht, Op.4〉 
Charles-André Linale, Maryvonne Le Dizès-Richard, Violins 
Jean Sulem, Garth Knox, Violas 
Philippe Muller, Pierre Strauch, Cellos 
Musical supervision: Pierre Boulez 

録音データ 
組曲) 1982. 6. 14/(浄められた夜) 1983. 11. 6 
Producer: Georges Kadar 
Engineer: Didier Arditi 
Recorded at Institut de Recherche et de Coordination Acoustique-Musique (IRCAM), Paris. 


◆本CD解説(船山隆)より◆ 

「このアルバムに収められている2つの作品は、(中略)アルノルト・シェーンベルク(1874―1951)の両極端の2つの美学を代表している。1899年の夏に作曲された《浄められた夜》は、R.デーメルの官能的な詩に基づいて作曲された後期ロマン派風の表現主義の音楽であり、1925年の春に作曲された《組曲》(作品29)は、厳格な12音技法によって書かれた新古典派の色彩をもつ音楽なのである。西洋の音楽は、古典主義とロマン主義に最も典型的に見られるように、形式/内容、構成/表現、合理/非合理、客観/主観、アポロ的/ディオニソス的……といった2つの対立項目の複雑な網目のうえに成りたってきたが、この2項目の図式に従っていえば、《浄められた夜》は、内容、表現、非合理、主観、ディオニソス的な側面に光をあてた作品であり、また《組曲》(作品29)は、形式、構成、合理、客観、アポロ的な側面に力点をおいた作品といってよいだろう。
 いわゆる《トリスタン》のスコアをぼかしてにじませたようなロマン的音楽、そして12音技法という合理的かつ数理的な書法で書きあげられた新古典的音楽――ブレーズとアンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーはシェーンベルクのこうした対立的な美学をコントラストさせている。(中略)しかしさらに注意深い聴き手は、各々の作品のなかに、前述の2項目が透し模様のような形で織りこまれていることに気づくはずである。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全12頁)にトラックリスト&クレジット、船山隆による解説「ブレーズとシェーンベルク」、写真図版(モノクロ)1点。

★★★★★ 


Verklärte Nacht

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Suite, Op.29

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『シェーンベルク: 浄められた夜 作品4 / ベルク: 抒情組曲/ヴァイオリン協奏曲「ある天使の想い出に」』  ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)/ピエール・ブレーズ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック/ロンドン交響楽団

シェーンベルク浄められた夜 作品4 / ベルク: 抒情組曲/ヴァイオリン協奏曲「ある天使の想い出に」』 
ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)/ピエール・ブレーズ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニックロンドン交響楽団 


CD: Sony Records/Sony Music Entertainment (Japan) Inc. 
シリーズ: Best Classics 100 
SRCR 9208 (1993年) 
¥2,000(税込)/税抜価格¥1,942  

 

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インレイ文: 

「現代音楽の礎を築いた新ウィーン楽派の作曲家、シェーンベルクと彼の弟子ベルクの代表作を、鬼才ブレーズの名演で味わえる現代音楽入門に最適なアルバム。ここに収録された3つの作品は、いずれも後期ロマン派の残香を湛えた親しみやすい音楽ばかり。奇蹟的といわれるほどシャープな耳の持ち主であるブレーズの精妙そのものの表現が素晴らしく、今日、指揮者としても活躍するズーカーマンが若い頃独奏したベルクのヴァイオリン協奏曲も、この作品のベストを競う名演。」


シェーンベルク (1874-1951) 
Schoenberg 
浄められた夜 作品4* 28:54 
Verklärte Nacht Op.4 
1. Grave 
2. Molto rallentando 
3. Pesante 
4. Adagio 
5. Adagio 

ベルク (1885-1935) 
Berg 
抒情組曲* 
Three Movements from the "Lyric Suite" 
6.第1楽章 アンダンテ・アモローソ 5:37 
I. Andante amoroso 
7.第2楽章 アレグロ・ミステリオーソ; トリオ・エスタティコ 3:30 
II. Allegro misterioso; Trio estatico 
8.第3楽章 アダージョ・アパッショナータ 5:56 
III. Adagio appassionata 

ベルク 
Berg 
ヴァイオリン協奏曲「ある天使の想い出に」** 
Concerto for Violin and Orchestra ("To the Memory of an Angel") 
9.第1楽章 アンダンテ―アレグレット 11:35 
I. Andante - Allegretto 
10.第2楽章 アレグロアダージョ 15:24 
II. Allegro - Adagio 

Total time  71:29 
 

ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)** 
Pinchas Zukerman, Violin 
ニューヨーク・フィルハーモニック* 
New York Philharmonic 
ロンドン交響楽団** 
London Symphony Orchestra 
ピエール・ブレーズ指揮 
Pierre Boulez, Conductor


Producers: Andrew Kazdin*, Steven Epstein** 
Recording: 
September 24, 1973, Manhattan Center, New York City (#1-5) 
March 4 & December 21, 1974, Manhattan Center, New York City (#6-8) 
November 21, 1984, EMI Studio No.1, Abbey Road, London (#9,10) 


◆本CD「作品解説」(長木千鶴子)より◆ 

弦楽合奏版の「浄められた夜」は、弦楽六重奏曲として1899年に作曲されたものにシェーンベルク自身が手を加え、1943年に完成した。「浄められた夜」という標題は、ドイツの詩人リヒャルト・デーメル(1863-1920)の詩集《女と世界》(1896年)の冒頭を飾る官能的な詩のタイトルに依る。詩の大意は次のようである。「月の光が降り注ぐなか、冬の林を2人は歩んでいる。女は語り始める。自分は身籠もっているが、それは母となる喜びのために見も知らぬ男に身を委ねたのであり、一時はそれを祝福さえしたが、今、愛する人を前にその復讐を受けることになった、と。たゆたう光の中、男はその子供を自分の子として生んでほしいと答える。月明かりの夜空に、2人の愛は浄められていく。」」

「1925年、「ヴォツェック」からの断章がツェムリンスキーの指揮によりプラハで演奏された際、ベルクはマーラー未亡人のアルマ・マーラー=ヴェルフェルを介してフックス・ロベッティン一家との知己を得た。この翌年に弦楽四重奏のための「抒情組曲」は完成し、ツェムリンスキーに献呈されたが、実のところ、この作品はこの一家の夫人ハンナへの許されぬ愛を綴ったものであることが、1976年のベルクの未亡人ヘレーネの死後に明らかになった。無調と十二音技法で書かれた6つの楽章から成るこの弦楽四重奏曲には、音名象徴(ハンナ・フックスの頭文字を表わすh音とf音、アルバン・ベルクのa音とb音)や数象徴(2人の運命の数、〔10〕と〔23〕)が全体の音構成や小節数、メトロノーム表示などに緻密に織り込まれている上、〈トリスタン〉の前奏曲の引用を含む第6楽章には本来、ボードレールの詩《奈落よりわれは叫びぬ》による歌詞が添えられていたのである。」
「弦楽オーケストラ版は、弦楽四重奏版のなかの3つの楽章(第2、3、4楽章)を1928年に作曲者自身が編曲したもの。弦楽オーケストラ版の第2楽章は、中央に「恍惚のトリオ」を置くスケルツォ形式であり、無調によるトリオに対して、両端のスケルツォ主部は十二音技法、しかもトリオを挟んでシンメトリーの関係で書かれている。外枠にあたる第1楽章と第3楽章は再び無調で書かれ、しかも中央のアレグロ楽章に対して緩やかなテンポであるから、作品全体もシンメトリーを呈しており、この形式を彼がいかに好んでいたかが窺われる。第3楽章にはツェムリンスキーの「抒情交響曲」(1923年)の中から、「おまえは私のもの」というバリトン独唱部分の音楽が引用されている。(中略)この引用もハンナを想定したものであることは言うまでもない(中略)。」

「1935年2月、十二音技法による大作オペラ「ルル」の仕上げに取りかかっていたベルクは、アメリカのヴァイオリン奏者ルイス・クラスナーからヴァイオリン協奏曲の依頼を受けた。(中略)ベルクを駆り立てたのは、アルマ・マーラー=ヴェルフェルが建築家ヴァルター・グロピウスとの間にもうけた19歳になる娘マノンの死であった。このマノンへのレクイエムとして書かれた協奏曲は、8月中に一息に完成されたが、皮肉なことに、ベルク自身のレクイエムにもなってしまうのである。
 このように副題中の「ある天使」がマノンの代名詞であることは疑いないが、しかし、この曲に秘められた女性が彼女だけではなかったことが近年判明した。1人はハンナ・フックスで、(中略)音名や数の象徴が彼女の名を想起させる。もう1人は、かつて18歳のベルクの子供を生んだ使用人マリー・ショイフルである。この協奏曲にはケルンテン民謡が引用されているが、そのケルンテンこそマリーの故郷であった。」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全12頁)にトラックリスト&クレジット、「作品紹介」「演奏家紹介」(長木千鶴子)、写真図版(モノクロ)1点。

1977年にリリースされたLP(シェーンベルク浄められた夜」&ベルク「抒情組曲」を収録、CBS Masterworks)に、1986年にリリースされたLP(ベルク「ヴァイオリン協奏曲」「3つの管弦楽曲」を収録、CBS Masterworks)から「ヴァイオリン協奏曲」を追加収録して1989年にCD化した廉価盤(Best Classics 100)の再発です。

★★★★★ 

 

Berg: Violin Concerto "To The Memory Of An Angel" - 1. Andante, Allegretto

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『Alban Berg: Lulu』  Teresa Stratas / Orchestre de l'Opera de Paris / Pierre Boulez 

Alban Berg: Lulu』 
Teresa Stratas / Orchestre de l'Opera de Paris / Pierre Boulez 


CD: Deutsche Grammophon/Polydor International GmbH, Hamburg 
415 489-2 [G|H3] [3CD] 
Printed in West Germany/Made in W. Germany by PolyGram 

 

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スリーブケース表。

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ブックレット表。

 

 

Alban Berg (1885-1935) 

Lulu 

Oper in drei Akten 
nach den Tragödien "Erdgeist" und "Büchse der Pandora" von Frank Wedekind 
Opera in three acts 
after the tragedies "Earth Spirit" and "Pandora's Box" by Frank Wedekind 

Orchestrierung des dritten Aktes vervollständigt von
Orchestration of the third act completed by 
Friedrich Cerha 


Compact Disc 1 

1. Prolog 

I. Akt/Act I 
2-3. Erste Szene/Scene 1 
4-9. Zweite Szene/Scene 2 
10-12. Dritte Szene/Scene 3 


Compact Disc

II. Akt/Act II 
1-6. Erste Szene/Scene 1 
7-10. Zweite Szene/Scene 2 


Compact Disc

III. Akt/Act III 
1-8. Erste Szene/Scene 1 
9-14. Zweite Szene/Scene 2 


Lulu: Teresa Stratas 
Gräfin Geschwitz/Countess Geschwitz: Yvonne Minton 
Eine Theater-Garderobiere/A dresser in a theatre, Ein Gymnasiast/A high-school boy, Ein Groom/A groom: Hanna Schwarz 
Der Medizinalrat/The Professor of Medicine, Schigolch (ein Greis/An old man), Der Polizeikommissär/The Police Officer: Toni Blankenheim 
Der Maler/The Painter,  Ein Neger/A Negro: Robert Tear 
Dr. Schön (Chefredakteur/An editor-in-chief), Jack the Ripper: Franz Mazura 
Alwa (Dr. Schöns Sohn, Komponist/Dr. Schön's son, a composer): Kenneth Riegel 
Ein Tierbändiger/An animal-tamer, Rodrigo (ein Athlet/An athlete): Gerd Nienstedt 
Der Prinz/The Prince, Der Kammerdiener/The Manservant, Der Marquis/The Marquis: Helmut Pampuch 
Der Theaterdirektor/The Theatre manager, Der Bankier/The Banker: Jules Bastin 
Eine Fünfzehnjährige/A fifteen-year-old girl: Jane Manning 
Ihre Mutter/Her mother: Ursula Boese 
Eine Kunstgewerblerin/A lady artist: Anna Ringart 
Ein Journalist/A journalist: Claude Meloni 
Ein Diener/A manservant: Pierre-Yves le Maigat 

Orchsetre de l'Opéra de Paris 
Pierre Boulez 

Geroges Pludermacher, Piano 
Pierre Doukan, Violine/violin/violon/violino 


Aufnahme der vervollständigten Oper im Anschluß an die Pariser Uraufführung 1979. In Zusammenarbeit mit dem Théâtre National de l'Opéra de Paris (Generalintendant: Rolf Liebermann). 

Recording made in conjunction with the first performances of the completed opera, produced in 1979 at the Théâtre National de l'Opéra de Paris (General Administrator: Rolf Liebermann). 

Inszenierung/Stage production: Patrice Chéreau 
Bühnenbild/Sets: Richard Peduzzi 
Kostüme/Costumes: Jacques Schmidt 
Dialogbetreuung/Dialogue Coach: Elmar von Ottenthal 


Recording: Paris, IRCAM, 3-6/1979 
Production: Günther Breest, Michael Horwath 
Recording supervision: Dr. Rudolf Werner 
Balance Engineer: Karl-August Naegler 
Editing: Wolf-Dieter Karwatky 
Digital remastering: Hans-Peter Schweigmann 


◆本CD解説(ピエール・ブーレーズ)より(大意)◆ 

『ルル』はまさしく「道徳劇」であって、一種の「放蕩児の遍歴」(Rake's Progress。ストラヴィンスキーのオペラのタイトルですが、ウィリアム・ホガースの銅版画連作によっていて、それ自体はジョン・バニヤンの『天路歴程』The Pilgrim's Progressのパロディです)であり、主人公は人間社会で成り上がっていくものの、裕福なパトロンであるシェーン博士を殺害して、ロンドンの街娼にまで淪落する。

ベルクは登場人物アルヴァに自分自身を重ねていたようで、原作では劇作家だったアルヴァをオペラの作曲家に変更している。


◆台本より、作曲家アルヴァの台詞◆ 

「Über die ließe sich freilich eine interessante Oper schreiben.」
「Couldn't some clever composer take her story and make an opera from it?」
(ルルをオペラにしたらさぞ面白いものができるだろうに)


◆本CDについて◆ 

輸入盤(西独盤)。三方背スリーブケースにCD三枚を収めたジュエルケース(24mm厚)と同サイズのブックレットが入っています。ブックレット(244頁+表紙)にトラックリスト&クレジット、ブーレーズによる解説(仏文/英・独訳)、フリードリヒ・チェルハ「アルバン・ベルク『ルル』第三幕について」(独文/英・仏訳)、あらすじ(独・英・仏)、歌詞(独・英対訳)、写真図版(モノクロ)多数。

アルバン・ベルクの歌劇『ルル』全曲。未完だった第三幕をフリードリヒ・チェルハが残された草稿などに基いて補完、1979年にパリ国立歌劇場(オペラ座)で上演されたのに伴い、その年の3月から6月にかけてレコーディングされたものです。
テレサ・ストラタスの「ルル」、ピエール・ブーレーズ指揮パリ国立歌劇場管弦楽団
台本はヴェーデキントの戯曲『地霊』と『パンドラの箱』をベルクがアレンジしたもので、あらすじはざっくりいうと自由気ままに生きる浮浪児「ルル」が人間関係の渦に巻き込まれて「シェーン博士」を射殺し、刑務所に入るものの伯爵令嬢ゲシュヴィッツの尽力で脱出、しかし最終的には「切り裂きジャック」に殺されてしまうという話ですが、戯曲の初演では作者ヴェーデキントがシェーン博士と切り裂きジャックを演じていたということで、本CDでも両者は同じ歌手によって演じられています。そこにはなにか深い意味があるようですが、しかしそれよりも、自然児ルルに寄り添う伯爵令嬢ゲシュヴィッツ、同性愛者ですが、それ以前に生まれつき人間の共同体に属していない「不自然児」(ヴェーデキントの表現)の存在こそ画竜点睛というべきでしょう。

ところでテレサ・ストラタスは本オペラとほぼ同時期に作られたクルト・ワイルの歌入りバレエ「七つの大罪」(台本はブレヒト)も録音していますが、それは(ヴェーデキントの)ルルのパロディのようになっているので(ルルは孤児ですが「七つの大罪」のアンナは身を売って実家に仕送りします)併せて鑑賞するとよいです。

★★★★★ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ベルク: 室内協奏曲/ピアノ・ソナタ/4つの小品』  バレンボイム(ピアノ)/ブレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン

『ベルク: 室内協奏曲/ピアノ・ソナタ/4つの小品』 
バレンボイム(ピアノ)/ブレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン 


CD: ポリドール株式会社 
シリーズ: 20世紀のクラシック 20th Century Classics 
F28G 50494/423 237-2  
¥2,800  

 

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アルバン・ベルク 
Alban Berg 
(1885-1935) 


ピアノ、ヴァイオリンと13の管楽器のための室内協奏曲 (1923-25) 
Chamber Concerto for Piano and Violin with 13 Wind Instruments 
1.Thema scherzoso con variazioni 7:37 
2.Adagio 12:09 
3.Rondo ritmico con introduzione 10:13 

クラリネットとピアノのための4つの小品 作品5 (1913) 
Four Pieces for Clarinet and Piano, op.5 
4.Mäßig 1:20 
5.Sehr langsam 1:56 
6.Sehr rasch 1:01 
7.Langsam 3:02 

ピアノ・ソナタ 作品1 (1908) 
Sonata for Piano, op.1  
8.Mäßig bewegt 11:30 


ダニエル・バレンボイム(ピアノ) 
Daniel Barenboim, piano 
ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)[#1-3] 
Pinchas Zukerman, violin 
アントニー・ペイ(クラリネット)[#4-7] 
Antony Pay, clarinet 
アンサンブル・アンテルコンタンポラン 
指揮: ピエール・ブレーズ[#1-3] 
Ensemble Intercontemporain 
Pierre Boulez, Conductor 

録音: 1977年6月 パリ 


プロデューサー: ギュンター・ブレースト 
ディレクター: ヴォルフガング・シュテンゲル 
レコーディング・エンジニア: クラウス・シャイベ 
データ: 1977年6月 パリ、サル・ド・ラ・ミュテュアリテ 
解説書表: H. マッティース 


◆本CD解説(ペーター・ペーターゼン/訳: 恩地元子)より◆ 

「1907年から08年にかけて、ピアノ・ソナタ作品1を作曲したとき、アルバン・ベルクはまだアルノルト・シェーンベルクの弟子であった。シェーンベルクは、未来の作曲家たちに「作曲のトレーニング」だけでなく自由に作曲することに努めるよう勧めていた。このように勧められてベルクは、3楽章になるはずであったピアノ・ソナタの第1楽章を作曲した。そののち、「彼の頭になかなか適当なものが思い浮かばない」ときに、シェーンベルクは「ではあなたは、言われるべきであったことはすべて、言ってしまったのでしょう」と言ったのである。この逸話は、20世紀初めの多くの作曲家の考えを特徴的に表している。(中略)作曲家は、ある作品のあらかじめ作られた構想を、空虚な形式と伝統的な語法で実現するよりは、黙っていることを望むのだ。そのようなわけで、ベルクのソナタは、1楽章のみで終わっている。」

「《室内協奏曲》は、作曲者の私的な部分と明らかに関係がある。そのようなことが確認されたからと言って、音楽が事情に通じた幾人かの人々の私的なものだということにはならない。それどころか、ベルクにおいて(そして他の多くの芸術家においても確かに)特徴的なのは、特異な人生が明らかに、時代全体を表す例となることである。この例とは、従うべき模範のようなものではなく、それによって人間全般について理解するためのものである。したがって、一見私的なものが、公的な意味を獲得し、主観的なものが、客観的明白さへと導かれる。」


◆本CD解説(ピエール・ブレーズ/訳: 恩地元子)より◆ 

「ベルクの個性はいろいろな意味で魅力的だ。ただ私に最も印象的に思われるのは、直接的表現の力と、類稀な構造力の強さが混ざり合っていることである。ロマン派的であることについては、ベルクは度を超している。彼が聴き手に伝える感情は、しばしば呪いの感情であり、ノスタルジーの感情であり、激動する感情である。(中略)しかしこのようにあふれ出る感情も、とても綿密に組織されているので、楽譜のあらゆるところに多量に散りばめられ、様々に根を張っている彼の意図をとらえるには、探偵のような作業が必要なのである。彼の意図するものは秘教的とも言えるほどで、そのなかのいくつかは、数の関係のもとに隠されたり、最初に鍵を持っていなければ解読するのが難しい暗号法に姿を変えていたりする。」
「《室内協奏曲》の中には、ベルクが偏執的に好んだもの、つまり回文も見いだされる。たとえば2楽章――ヴァイオリンと管楽器群――は、そのように見ると、2分されて、後半は前半の鏡像となっている。」
「音楽的内容については、それはベルクによくみられるあらゆる幻影を思い出させる。たとえばウィンナ・ワルツ、失われたヴァイオリンの楽園のノスタルジー、中心となるシンメトリーを示す真夜中の象徴、沈黙の中に消えて行く最後の数小節のような劇的な身振りを好むこと、である。(中略)計算にまで至る形式的、構造的、そして秘教的な身振り、これらの身振りは彼にとってはすでに劇的な意図であり、音楽のテクスチュアによって表現されることを要請するのである。」
「ピアノ・ソナタは、《クラリネットとピアノのための小品》や《室内協奏曲》がそうであるようには、ベルクの特異性という問題を提しておらず、作曲の世界にその特異性を適応させることはない。いくつかの非常に特徴的な表現においてはすでに、彼は十分にベルクなのであるが、まだ、少なくとも完璧にベルクであるというのではない。(中略)この作品番号つきの最初の作品のもつノスタルジーは若者特有のものである。ソナタから《室内協奏曲》まで、それは、十分に、完全に、取り返しのつかないほど彼そのものになる前に、通り抜けなければならない幾多の迷路なのである。」


◆本CDについて◆ 

8頁ブックレット(巻き四つ折り)にペーター・ペーターゼン/ピエール・ブレーズ(ブーレーズ)による解説(訳: 恩地元子)、演奏者紹介、クレジット。

インレイには「Made in Japan」とありますが、CDレーベル面の記載は「Made in W.-Germany」、カタログナンバーは「423 237-2」になっています。
オリジナルLPは1978年リリース、「20th Century Classics」版は(本CDには記載がありませんが)1988年頃にリリースされたようです。

★★★★★ 


Chamber Concerto 

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『ベルク: 《ルル》組曲/3つの管弦楽曲/アルテンベルク歌曲集』  マーガレット・プライス/アバド指揮ロンドン交響楽団

ベルク:
《ルル》組曲 
3つの管弦楽曲 
アルテンベルク歌曲集  
マーガレット・プライス(ソプラノ) 
クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団
Berg 
Lulu Suite 
Altenberg Lieder 
Three Pieces for Orchestra 
Margaret Price 
London Symphony Orchestra 
Claudio Abbado  


CD: ポリドール株式会社 
シリーズ: 20世紀のクラシック 20th Century Classics 
POCG-2932 (1993年) 
¥2,200(税込)(税抜価格¥2,136) 

 

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帯裏文: 

「ベルクの作風は新ウィーン楽派の作曲家の中でも特に劇的表現力に優れていたと言われ、また時に過去の音楽伝統への郷愁を残すとも言われる。そうした彼の「オペラ的な」作風は当ディスクに収録した三曲にも示されている。二十世紀最高のオペラと称賛される《ルル》は無論のこと、ベルク唯一の管弦楽作品である作品6や《アルテンベルク歌曲集》においても、その劇的緊張力の強さ、濃密な抒情性は際立っており、ベルク特有の妖しいまでに美しい音楽の源泉となっている。」


アルバン・ベルク 
Alban Berg 
(1855-1935) 


《ルル》組曲 (1929-34) 
―歌劇《ルル》からの交響的小品集 
"Lulu" Suite - Symphonic pieces from the opera "Lulu" 
1.1.ロンド 15:10 
Andante (Introduzione) - Hymne, Sostenuto 
2.2.オスティナート 3:25 
Allegro 
3.3.ルルの歌 2:56 
Comodo 
4.4.変奏曲/主題 3:24 
Moderato (Grandioso - Grazioso - Funèbre - Affettuoso) - Subito a tempo mederato 
5.5.アダージョ 8:55 
Sostenuto - Lento - Grave 

3つの管弦楽曲 作品6 (1914-15)(1929改訂版) 
Three Pieces for Orchestra op.6 (Revised Version of 1929) 
6.1.前奏曲 4:56 
Langsam 
7.2.輪舞 5:48 
Anfangs etwas zögernd - Leicht beschwingt 
8.3.行進曲 9:48 
Massiges Marschtempo 

アルテンベルク歌曲集 作品4 (1912) 
―ペーター・アルテンベルクの絵はがきのテキストによる5つの管弦楽付き歌曲集 
Five Orchestral Songs op.4 to picture-postcard texts by Peter Altenberg 
9.1.心よ、おまえは吹雪のあとではさらに美しく 2:52 
Seele, wie bist du schöner 
10.2.きみは夕立のあとの森を見たか 1:08 
Sahst du nach dem Gewitterregen den Wald 
11.3.きみは宇宙の果てを冥想し 1:37 
Über die Grenzen des All 
12.4.わたしの心に訪れるものはなく 1:32 
Nichts ist gekommen 
13.5.ここには安らぎがある 4:29 
Hier ist Friede 


マーガレット・プライス(ソプラノ) 
Margaret Price, soprano 
ロンドン交響楽団 
London Symphony Orchestra 
指揮: クラウディオ・アバド 
Conductor: Claudio Abbado 

録音: 1970年12月 ロンドン 


プロデューサー: カール・ファウスト 
ディレクター: ライナー・ブロック 
レコーディング・エンジニア: ギュンター・ヘルマンス 
データ: 1970年12月 ロンドン、デンハム 
解説書表: H. マッティース 


◆本CD解説(曽我昭子)より◆ 

「《ルル》組曲は、アルバン・ベルク(1885-1935)の未完のオペラ《ルル》の素材を、ソプラノ・ソロを含む5楽章の交響風小品として抜粋・再構成した作品である。タイトルとしては組曲でとおっているが、いわゆる組曲というより、副題にある「オペラ《ルル》からの交響的小品」あるいはしばしば呼ばれるように「ルル交響曲」が本意であろうと思われる。1928-35年までのベルクの最晩年にとりくまれたオペラ《ルル》は、結局ベルクの死によって第3幕のオーケストレーションが不完全なままに絶筆となった。しかしベルクは、全曲の完成に先立ってオペラの予告版として《ルル》組曲の上演を思いつき、1934年の7月に作曲を完了、演奏時間およそ35分の組曲はその年の11月30日に、ベルリンのウンター・デン・リンデン劇場におけるエーリッヒ・クライバー指揮ベルリン国立管弦楽団の演奏会で初演された。」
「オペラ《ルル》の台本は、劇作家フランク・ヴェーデキント(1864-1918)のふたつの戯曲『地霊』(1893)と『パンドラの箱』(1904)を、ベルク自らが脚色・変質させて1本に縮め、3幕7場に改編したものである。(中略)女主人公ルルは、(中略)本能のおもむくままに生き続け、社会的地位を得る(中略)が、殺人の罪を犯したことから転落の人生が始まり、刑務所を脱獄、最後は場末の街婦となって殺人鬼に殺害されてしまう(中略)。」
「〈オスティナート〉は、『地霊』と『パンドラの箱』の接続部分にあたる箇所で、(中略)ここにはオペラのすべての音列形態が現れ、クライマックスを形成したあとは、中央のピアノの分散和音の上行形後のフェルマータを境に音楽が正確な逆行を始めていく。このシンメトリー(鏡像構造)を楽譜なしで聴きとることはできないが、ルルの運命の上昇(成功)と下降(没落)をこのような形式であらわそうという発想はひじょうに興味深い。
 《ルル》組曲の中心に置かれている〈ルルの歌〉は、自分は思うままに生きてきただけだというルルの根本的信条を歌う技巧的なコロラトゥーラ・アリアである。自由に浮遊するコロラトゥーラ様式が、非現実の夢のような世界を暗示すると同時に、「脈拍のテンポで」という指示のとおり、ルルは「善悪を越えた一片の自然」として生そのものを生きてゆく。」
「終曲の〈アダージョ〉は、(中略)同性愛者ゲシュヴィッツ伯爵令嬢のルルへの哀歌(引用者注:「ルル!――わたしの天使!――もういちど顔を見たい!――すぐそばにいるのよ――いっしょにいてちょうだい――いつまでも!」喜多尾道冬訳)でしめくくられる。」


◆「アルテンベルク歌曲集」歌詞(喜多尾道冬訳)より◆ 

「きみは宇宙の果てを冥想し、見はるかし、
家や雑事を思い煩うことはなかった! 
この世に生きることも、その夢も、すべては不意に意味を失った… 
きみはいまもなお宇宙の果てを冥想し、見はるかしている。」

「わたしの心に訪れるものはなく、これからもないだろう… 
わたしは待ちに待ち、ああ、待ちつづけた! 
日々はひっそりと過ぎ去ってゆくだろう。
 そしてわたしの絹のような灰色がかった金髪は、むなしくわたしの青ざめた顔をなぶっている!」

「ここには安らぎがある。ここでわたしは心ゆくまで泣き明かした! 
ここでわたしの心を焼く、はかり知れぬほど深い苦しみが消える… 
ほら、ここにたたずむものはなく、また訪れるものもない… 
ここに安らぎがある! 雪が音もなく水たまりに 降るここに…」


◆本CDについて◆ 

ブックレット(全12頁)に解説(曽我昭子/橋本久美子)、演奏者紹介、歌詞対訳(訳: 喜多尾道冬)、トラックリスト&クレジット、写真図版(モノクロ)2点。

ペーター・アルテンベルクに関しては、池内紀『道化のような歴史家の肖像』に次のように紹介されています。

「ウィーンの富裕な商人の家に生まれ、大学を中退したあと、のらくら者として親の遺産を食いつぶした。(中略)このペーターは世紀末ウィーンで知られた畸人だった。市中の安ホテルの一室を住居として、『椋鳥通信』(森鴎外)のいうとおり、「夜どほし遊び歩いて、翌日寝て、午後六時に起きて朝食を食べる」。おりおりカフェで文章を書いた。短いが鮮やかな印象で切りとった、とてもすてきな散文だった。」

同じように「善悪を越えた一片の自然」として「思うままに生き」た「妖婦」ルルと「のらくら者」アルテンベルクの人生の明暗を左右したものは「人間社会」に他ならないです。社会の人間関係の濁流に呑み込まれ「成功」し「没落」していったルルと、人間社会など頭から眼中になかったがゆえに「安らぎ」を得ることができたアルテンベルクと。他人事ではないです。

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Lulu Suite - III. Lulu's Song

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